夢と希望と

そして力と意志と覚悟があるなら、きっと何でも出来る。

聖と燦の泣いた赤おに四方山噺

2008-06-19 | 企画
どこかの高原


雷皇燦>>わぁっ!久しぶりだね聖っ。元気にしてた?(柔らかな日差しの降り注ぐ緑の高原に親友の姿を確認した少女は、喜色満面で鉄砲玉の如く一直線に勢いよく空を駆け、そのまま体当たり同然に抱きつこうと突進。)ってゆーか、なんかまたあちこち育ったねぇ。こんなペースで育ったら、あっという間に身長57メートル体重550トンとかになっちゃうよ、きっと。

詩保志聖>>燦…?燦だっ!(親友の顔を見つけるなり、どんぐり眼は常以上にまん丸に。喜色満面、駆け寄ろうとするものの、黄金の矢のように此方に向かってくる燦の姿に、咄嗟に片足を後ろに退いて迎撃体制準備OK!)元気元気、元気だよー!(ドンッという衝撃とともに受け止める。小柄で羽のように軽い身体も、手加減無しのスピードが乗ったならその威力は馬鹿に出来たものではない。後ろ足をほんの少し踏ん張ったことはオクビにも出さないのは、聖の意地だったり、するのだけれど)燦も、変わらないね…って、え??私、そんなに太ったかな!?(慌てて身体のあちこちを見回すお年頃。言うほどの変化は無いハズだが、小さな変化をも見逃さない燦の眼力こそ褒めるべきか)

雷皇燦>>体重も少しは増えてるでしょ。でもボクだって負けないからねっ!そりゃあ今はコレだケド、うん、ボクは天才で、更に大器晩成タイプでもあるんだから。(出逢った頃から全く成長していないようにさえ見える華奢な身体を若草色のチュニックに包み、悲しいほどに平べったい胸を堂々と張って見せる。)そんでね、なんか今回は時雨に頼まれて、この本について聖とお話して欲しいってコトなんだケド……どうしよっか。こんなの放り出して、どっか遊びに行く?(「泣いた赤おに」と題された絵本をひらひらと振りつつ事情を説明するが、それには全く頓着していない様子で爛々と瞳を輝かせながら。)

詩保志聖>>うぅ…で、でも身長も伸びてるから、いいんだよー!燦は…うん、見事に変わってないなぁ…(自分の身体チェックはとりあえず及第点。張った親友の胸をしげしげと眺めつつ、天才や大器晩成のあたりは相変わらず無意識のスルー。)ん…時雨さんに頼まれた…?(幾度かニアミスしかけながら、決して言葉を交わしたことの無い女性-その見かけに関わらず、聖にとって「その人」は女性、というべき存在であるわけなのだが-を思い浮かべ、少し不思議な気分になる。)時雨さんから、頼まれた…。(もう一度復唱してから、燦の瞳を覗き込み)なんだかとっても気になる!どうして頼まれたのか、よくわからないけれど、せっかくだから読んでみたいな♪(絵本と燦の顔を交互に見やりながら、小首を傾げた。)

雷皇燦>>えっとね、いきなりボクの巣にやって来て「密かに息の根を止めよという事ならばいざ知らず、正面より言葉を用いて彼奴と相対せよ等とは悪しき夢。勝てぬ戦に臨むは愚か者、三十六計逃ぐるに如かずじゃ」とか言ってたよ。相変わらず臆病だなぁって思うケド、傭忍ってのはそーゆーモノっぽいね。で、そんならボクがやったげるって引き受けたワケ。聖と何かするってコトなら、ボクの右に出るヤツなんて存在しないしっ!(スルーされても一切気にせず、ふふんと得意気に若干顎を上げて笑う。親友が興味を示したなら、自分は既に目を通した絵本を手渡して、ごろりと大地に寝転がり空を見上げた。)とりあえずボクはもう読んでみたよ。聖は、そーゆーのどう思うのかなって興味はあるね。

詩保志聖>>ふーむむ…。(燦の語る経緯は、おそらくありのままを伝えてくれているだろうが、それ故にか聖にはよく分からないところが残る。が、分からないものを「分からないもの」として記憶に留めておくのが、この少女の「らしいところ」。それに、何といっても今は燦が目の前にいるのだから。)うん、じゃあ早速読んで見るね!(柔らかな若草の茂る大地に転がった親友の隣に腰を下ろし、受け取った本の表紙を眺める。)…泣いた赤おに…日本の絵本なんだね。(背負っていたリュックを下ろし、ゆっくりとページをめくりはじめた聖の横顔は真剣そのもの。あっという間に物語の世界に没頭していく。)

雷皇燦>>うん、そーらしいね。アホが判断を間違えて友達を失う話みたい。(相手がまだ読んでいる最中なのに、ネタバレとか先入観を与えてはいけないとか、そういった配慮を全くしない一言を。自分の相棒たる存在が、そんな事で己の判断を狂わされたりしない筈だという信頼が根底にあればこそだが……この少女の場合、どうでも良い相手にも全く配慮気遣いを行わないので、表面上の判別は至難を極めるだろう。その内にあるものが対極であろうと、表面に現れるものが等しいのだから。)

詩保志聖>>(燦の言葉は、草原を渡る風に乗って耳には届いていた。それは、燦の意見を運んできたものであり、それ以上でもそれ以下でもない、それだけのものだ。そして、それに返事をするには、まずは自分がこの絵本を読み終わってからだろう。そうして数分の間、真剣な眼差しでページをめくっていた少女は、ついに最後のページを読み終わり、ゆっくりと本を閉じた。)なるほど、泣いた赤おに、かぁ…。(閉じた絵本の表紙を再び見るとも無しに眺め、小首を傾げながら、色々と思案している様子。)…でも、本当に赤鬼は、友達を失ったのかなぁ?(隣で青空を見上げている燦に目線を移して、おっとりとした気質をそのまま現したような声で疑問を投げかける。)

雷皇燦>>失ったんだと、感じたよ。ボクに言わせれば、この赤鬼は認識が甘すぎて本当にどーしよーもないと思う。特定の誰かぢゃなくて「人間」ってゆー曖昧なカテゴリと仲良くなりたいってのも頭悪いし、その為の手段としてちょお胡散臭い立て札なんて作るのも頭おかしいし、当然の結果として人間が信用しないからって暴れて叩き割って憂さ晴らしってのも頭湧いてる。その上、猿芝居でコロリと態度変えるゴミみたいな人間と薄っぺらい接待ごっこする為に大切な友達の青鬼を犠牲にするなんて、このボクが百回くらい八つ裂きにしてやりたいよっ!(怒りを露わに顔を真っ赤にして、寝転がったまま左の拳で大地を打つ。青い空と白い雲、黄金の太陽を映したエメラルド色の瞳は、今にも火を噴かんばかりに燃えていた。)でもね、青鬼にしたって本当に赤鬼の友達なら、赤鬼をぶん殴ってでも目ぇ醒まさせてやらなきゃ。この物語の人間達なんてのは、よーするに役に立つから赤鬼と仲良くなっただけで、つまり利用価値がなくなればポイっと捨てて追い払おうとするんだよ。そんなゴミ相手に擦り寄りたがる赤鬼は確かにアレだケド、それでも友達だって思うなら、猿芝居を持ちかけるより他に幾らでもやるコトがあるだろって感じ。まぁ青鬼は赤鬼を試して、そして試した結果として斬ったんだろーとは思うよ。青鬼の中では、猿芝居を持ちかけて赤鬼が断固として拒否しない時点で自分と人間のどっちを赤鬼が重視してるのか判っちゃっただろーし、そんでもって赤鬼は人間と仲良しごっこするのに浮かれて何日も青鬼のコト忘れてたんだし。そんだけバカなら見捨てられたって文句言えないだろーケドさ、でもでもボクなら、もしも聖がそんなコト言い出したりしたら、まずぶん殴ると思うんだっ。「本当にあんなヤツらと仲良くしたいなら、ボクを倒してから行けっ!」って。もちろん殴り合って解り合えなかった時は、そりゃあ絶交するしか無いよ。でも一方的に試すようなコトは、ボクは絶対したくないっ。(上半身を起こして、親友を見つめる。どうしてこんなに簡単な事が、赤鬼と青鬼はできないのか。そんな苛立ちとやりきれなさが充満した面持ちで。)

詩保志聖>>(激昂という言葉がまさに相応しいかのように怒りの感情を露にした親友を、多少の驚きと共に見つめていたが、共感を覚える部分ではぶんぶんと、大きく頭を上下に振って)うん、そうだね。私も、大切な相手を試すようなことはしたくない。それに私なら、燦が「不特定」で「不定数」の何者かと仲良くなりたいとしたら、私だったら応援するかな。その対象を、自分では量れないかもしれないから。そして、もし自分で量ったときに「これは違うんじゃないかな」って思ったら、そうしたら燦と闘うよ。だって、なあなあに燦を失うことは嫌だから、ね。(それは自然なことであり、当然のことであるように少女には感じられる。今は同じ目線にある親友の瞳をまっすぐに見つめながら)でも、ね。青鬼は、「試した」のじゃないかもしれないよ。青鬼にとって、赤鬼が大切な友達だったら…私は、青鬼がそう思っていることを疑わないのだけれど、青鬼は、友達が「してみたい」と思ったことに、出来る限りの力を貸してあげたかったわけだよね?その方法は、あまり賢い方法じゃなかったのかもしれない。だけど、青鬼に出来ることを考え、そしてそれを行った。そこには、相当の意志と覚悟があったと思うんだ。だからこそ、私は、思う。赤鬼が泣くのは、赤鬼に覚悟が足りなかったのなら仕方の無いことかもしれないけれど、泣いて終わりじゃ駄目だよね?って。泣いて終わりにしたら…青鬼は、赤鬼に喪失感だけを与えた存在になってしまうもの。そして、そのときこそ本当に青鬼を失ってしまうことになるのではないかな、って思うんだ。(おっとりとした気質をそのままに表したような声で、少女はゆっくりと言葉を紡ぐ。自分の考えを、音にすることで纏めようとしているかのように。)

雷皇燦>>……むぅ。(荒れ狂う嵐のように逆巻いていた心が、親友の言葉で幾分か落ち着きを取り戻す。全てを鵜呑みにはしないけれど、そこには確かに共感できるものが存在したから。)青鬼が赤鬼を大切に思ってた、そこはボクだって疑ってない。そうぢゃないのなら、誰があんな面倒なコトするもんかって思うし。赤鬼に覚悟が足りなかったってゆーのも同感。だって青鬼は、「なにか、一つの、めぼしいことをやり遂げるには、きっとどこかで痛い思いか、そんをしなくちゃならないさ。誰かが、犠牲に 身代わりに、なるのでなくちゃ できないさ」って事前に言ってるもんね。つまり赤鬼の願いを叶える代償として自分を使う、って。その時点で赤鬼はよく考えて、どっちかを選ばなくちゃいけなかった。選んだならその決断に覚悟を伴わせなくちゃいけなかった。それを怠ったんだから、報いを受けるのは当然なんだ。でも、ボクが言いたいのは……っ!友達なら、二人で幸せになる方法考えなくちゃ駄目ぢゃんってコトっ。聖が青鬼みたいなコトしよーとしたら、ボクはスゴく悲しい。赤鬼みたいなコトしよーとしても、スゴく悲しい。相手の願いを叶えるだけなんて、そーゆーのは神サマにでも任せとけば良いんだよ。友達ってのはさ、自分と相手が一緒に歩きながら、どっちも幸せになれる道を斬り拓いていけるよーな関係だと思うんだ。(一気にまくし立て、己の短い黄金の髪をくしゃりと掻き上げ頬を膨らませる。一呼吸おいて、ふぅっと息を吐き出すと、今度はゆっくりと言葉を紡いだ。)青鬼は赤鬼のコト、ちょお好きだった。でも赤鬼はどーなのかな。青鬼が去った直後は確かに悲しんでるよ。だってコイツは、そーゆー感傷に身を任せるタイプっぽいし。でも、一週間後はどーだろう。一年後、十年後は?コイツは青鬼を忘れて、村人に掌返されるその時まで、その場しのぎの馴れ合いを続ける気がするんだよね。そんでもって全てを失った時に、青鬼に縋る気がするの。こーゆーのって、疑いすぎかなぁ。

詩保志聖>>うん、確かに青鬼は言ってるね。「誰かが、犠牲に、身代わりになるのでなくちゃ、できないさ」って。そして、青鬼はなおも考え込んでいる赤鬼に言ってる。「ねえ、そうしよう」って。考えてるばかりじゃダメだからって「さあ、いこう。さっさとやろう」って言ってるね。もし、試そうとしてるって考えたなら、ここで赤鬼に「やっぱりだめだよ、それはダメだよ」って言ってもらいたいっていうことになるのかな。(自問するような言葉の後、小さく頭を振って)…違うと思うんだ。青鬼は、何としても赤鬼の「人間と友達になりたい」っていう願いを叶えてあげたいから、もしここで赤鬼に「やっぱりだめだ!」って言われたら、ものすごく困ったのかもしれないよ。…穿ちすぎかもしれないけど、「人間と仲良くしてみたい」っていうのは、青鬼もどこかで考えていたのかもしれない。そう考えるとね、燦。(聖は何かに思い至ったかのように、その髪と同じ亜麻色の瞳を静かに揺らめかせて口にする)この絵本に出てくる人は、みんな、弱い。赤鬼も、青鬼も。人間たちも。みんな、小さな間違いを…ううん、大きな間違いもだけれど、みんなが重ねてるような気がする。燦が言うように、本当は、大切な存在と自分の両方が幸せになる方法を選ぶことが出来たら、それが一番素敵なことだと思う。でもね。(きゅ、と唇の端を一度引き結んでから、峻厳さすら伺える表情と共に聖が口に乗せた言葉は、それは普遍的な…)「弱い」から、「間違える」ことだってあるんだ。でも、弱さを知り、間違いに気づいた時こそ昨日より一段と強くなれる。そうだよね?だから…物語としては、この絵本は「これから」だと思う。燦の言うように、赤鬼は何度も同じ間違いを繰り返すかもしれないし、そうじゃないかもしれない。村人にすべてを話して、青鬼を探す旅に出るかもしれないし、なあなあで終わらせるかもしれない。青鬼は、そんな赤鬼に愛想を尽かすかもしれないし、甘やかすだけ甘やかして、鬱陶しくなったら斬り捨てて何処かへ姿を消すかもしれないし、可能性は無限だよね。…でも、無限だからこそ、1つには決められない。

雷皇燦>>ボクが青鬼の立場なら人間と仲良くなった赤鬼を見て、こー考える。「ほらね、赤鬼。人間が仲良くする相手ってのは基本的に、外見が好みか役に立つかなんだ。キミの心を込めた立て札なんて役には立たず、自分たちを護る武力や鬼の持つ優れた技術を求められてるだけなんだよ」って。「そんなモノをキミは望んでいたの?」って。そして、「そーだとしたら、仕方がない。キミが望んだ楽園は手に入ったんだし、ソレで良い。でも、その楽園へのチケットは、消費されるんだよ」って。だから、こーなる前に何とかしなくちゃいけない。そう思ってた。(「思ってる」ではなく「思ってた」。僅かに、しかし確かに言葉を変化させ、穏やかな風を身に浴びながら、自らの掌をパートナーの掌へと重ねる。)でも、そーだね。手遅れなんて、無いのかも知れない。あるのかも知れないケド、可能性がゼロぢゃ無いなら……うぅん、たとえゼロだってぶち破るだけの力を持たなくちゃダメだよねっ!過去を礎に今を生きて未来を掴もうとするなら、昨日よりも今日、今日よりも明日はより強くなろうとするなら、破れる壁、斬り拓ける道はどんどん増えてくワケだし。確かに聖の言うよーに、こいつらはみんな弱い。反吐が出る程弱いヤツばっかり。でも弱さを弱さのまま終わらせない決意と覚悟さえあれば、人は竜を伝説の片隅に追いやるコトだって出来るんだもん。ここから歩き出す者達の物語ってコトなら、うん、良いのかも。終わりぢゃなくて、始まりなら。そして終わりか始まりかを決めるのは、他の誰でもない、自分自身だもん。弱さを拒絶して絶望するんぢゃなくて、弱さを認めて糧にして進めるかどうかってトコに、人の強さってモノの本質はあるのかも。(朗々と告げて、手を握ったまま相手へと顔を近づけた。鼻と鼻が触れあう程の距離にまで接近し、そして翳りのない太陽のような笑顔を。)そんでもって。ボクはやっぱり、聖が大好きだよ。ボク達の可能性が無限だろーと何だろーと、必ず聖とボクが幸せになる未来を掴んでみせるっ!なんたってボクはほら、天才だからねっ。

詩保志聖>>うん!私も!私も燦が大好き!!(燦の手をしっかりと握った聖の手は、よく見ればあちこちに無数の傷跡が走っている。それは聖の勲章であり、己を鍛錬し続けている証でもある。その傷の1つ1つはかつての聖の弱さの対価であり、現在へと続く糧なのだから、恥ずかしさなど微塵も無い。その己の手より大きさも厚みも一回り小さく感じられる燦の手を、包み込むのではなく握り合うように指を絡めて、花が咲いたような笑顔を。)私は、絶対に諦めたりしない。泣いたら、泣いた分だけパワーアップするよ。そして、燦と一緒にたくさん、たくさん笑うの。(間近に迫る親友の鼻に、自分の鼻をチョン、と触れさせてから、どんぐり眼にキラキラとした光を宿らせて)よぉし、せっかくだから一緒に修行しようか!燦と会ってない間に、私も色々修行続けてたんだよ♪(親友の手を離すと、絵本を拾い上げて)これは汚れないように、とりあえずリュックに仕舞っておこうかな。時雨さんに返却しなきゃいけないんでしょう?

雷皇燦>>それでこそボクの相棒、それでこそ聖だねっ♪ボクだって何度でも立ち上がって空を翔けて、聖とちょお幸せになるんだっ!(絡めた指から互いに伝わる体温、それが途轍もないエネルギーとなって体内を駆けめぐる。たとえ一人でも、どんな相手とでも闘い打ち勝ってみせると自負する燦だけれど、聖と共にあるならば世界そのものを噛み砕く事さえ容易いと思える程に肉体と精神が高揚する。それは、他に比べられる物のない至福の奔流だった。)ふふん、聖もむちゃくちゃ腕を上げたみたいだケド、ボクだってスゴいよぉ?雷皇闘技の奥義の数々、ばっちり見せたげるっ!で、その本?適当に捨てちゃっても良い気がするケド、聖はそーゆーの嫌いっぽいし……特訓が終わったら二人で返しに行こーか。(にぃっと笑って鋭い犬歯を陽に輝かせ、虚空を蹴って宙に舞う。相手の拾った本については既に興味を失っていたのだけれど、しかし二人で何かをする為の要素になるのなら話は別。結果的に禍津時雨に対してとんでもない嫌がらせになる事は自覚せず、今はただパートナーとの切磋琢磨に全てを注ぐべく、懐から取り出した輝く石を天へと掲げた。)

詩保志聖>>わぁ!時雨さんとお話ししてみたかったんだ!行くいく♪一緒に行くよ(未知の出会いを想像して、わくわくが止まらない。でもそれ以上に心が躍るのは、目の前の少女の持つ太陽のような煌めき。しなやかでありながら強さを備えた、当たり前ではあるのだが人間業を大きく逸脱していると思われる動きを前に、身体中から喜びが湧き上がる。)もちろん、たっぷり訓練した後に、ね♪(布製のリュックの中から愛用の盾を取り出すと、その代わりに絵本を。最後にもう一度表紙をチラ、と眺めた後、小さな唇から洩れた言葉…)私が赤鬼だったら、絶対に青鬼に助力なんて頼まない。私の戦いは私だけのものだもの。でも、もし間違いを起してしまったら…そうしたら、そこから這い上がる。立ち上がる。…大切なものが分かっていれば、泣いている暇なんて、無い!(決意というよりは、少女にとって当たり前すぎるその感覚。その言葉を最後に、絵本は大切にリュックの中に仕舞い込まれた。)…よぉし、いくよっ燦!(高らかに声をあげるが早いか、瞬時に盾を装着した亜麻色の髪の少女は、黄金の気を纏うパートナーに向かって宣言して大地を蹴った。)



参考
http://www.hpmix.com/home/confeitos/A15_1.htm

万里と時雨のコーラス四方山噺 その2

2008-03-22 | 企画
禍津時雨>>成る程、斯様な解釈も可能ではあろう。民間人への対応についてはヨーン・バインツェルが同様の事を行いかけし折りにはエストに固く制止されており、またあの時点に於いてミッション・ルースは明確に名乗りを上げてはおらず局面は極めて微妙と言わざるを得ぬが、状況に応じ法よりも重んじる物があると判断し己の責任において法を超えて進む事も確かに王たる者には必要であろう。バストーニュにおける民間人殺害とレディオス・ソープ及びラキシス逃走幇助がその決断を下すべき局面であったとは思わぬが、そもそも儂が遵法精神について語るも烏滸がましき事よな。更に言うならば、この一件によりコーラス3世はアマテラスに恩を売り後のハグーダ戦への協力を取り付け、ミラージュ騎士団という絶大な戦力を提供された訳じゃ。政は結果が全て、故に此の振る舞いについても儂は大きくは騒ぐまい。騎士としての腕前の件は、一度目は騎士と気付かれる事も無い体たらく、二度目は王太子たる身でありながら不意討ち紛いと、どちらも褒められたものではあるまいと考えるが、些細と言えば些細な事よ。そなたの言う通りコーラス3世が騎士として有能であった、という事にしても構わぬ。儂があの男を使い物にならぬ暗君と評せし理由の最たる物は、別に存在するが故にのう。其の理由とは、マイトでも無き身でありながらモーターヘッドの建造なんぞを試み、三十年という歳月と膨大な国費を投入し、未完成であると知りながら実戦に投入した挙げ句に大破させ、国王たる身が殺害或いは捕虜となりかねぬ窮地を招き、あまつさえ他国の者に救われ、更にそれでも懲りる事なく専用モーターヘッドに国力を注ぎ、ファティマを欠き戦闘不可能であるにも関わらず戦場に赴き殺されるという一連の愚行じゃ。ウリクルが死んだ?未完成のモーターヘッドで戦場に連れ出したコーラス3世にこそ元凶があろう。ファティマの悲しみ?愚かな主を持つ事こそが悲しみよな。自分のベルリンをトリオに回せる?乗りこなせぬので無い限り、ハリコンの神機とやら謳われたエンゲージを使えば良かろう。先天的素質が無ければ不可能とされるモーターヘッドの設計に手を出し、ランドブースターなる無用の長物を背負わせた挙げ句に墜落とは笑い話にもならぬ。そんな物が無くともエンゲージもA・トールも空は飛んでおるわ。コーラス3世が自己満足の為にのみ建造せしモーターヘッドに、ジュノーンなんぞと星の名を与える事がそもそも噴飯物よ。レディオス・ソープは「装甲の合いが線を引いたようだ」等と宣うておったが、要するに装甲の合い程度しか褒める所の無い機体という事じゃ。改修後のジュノーンがランドブースターを取り払われ、外観も全く変わり果てておるのが証であろう。風祭万里、そなたの言う通りコーラス3世という男は人間的であるのやも知れぬ。大きく譲歩しコーラス3世を一介の騎士としては一流としても良い。されどコーラス3世は王じゃ。王たる者が政を他人に任せ、素人芸のモーターヘッドなんぞという役にも立たぬガラクタの製作に没頭するとは何事か。儂には到底、コーラス3世は王たる器とは思えぬ。

風祭万里>>・・・ですからね、後付け設定が出てくる度にコーラス陛下って立場を失うんですよ。その連続があまりにも続くので、あたしは永野護というのは構想力が決定的に欠落しているだけでなく、コーラス3世が嫌いで嫌いで仕方がないのではないか、と思う程で。まず、エンゲージなんてものはあのお話が書かれた時点では存在してませんし、空飛ぶモーターヘッドなんて無いことになってたんです。マグロウが「空を飛んだ?」とか言って驚いてますよね。で、マイトでもないのにとか言われますけど、「コーラス3世はマイトではない」と明言されたのって大分後の話です。しかも、同じ後付け設定で、コーラス王って代々趣味だかなんだかでモーターヘッドの設計やってることになってるんですよね。エンゲージシリーズって、全部そうですから。恐らく、最大限整合性を付けて解釈するなら、コーラス王家にとってモーターヘッドの設計って家業というか、先祖代々習うことなんでしょう。正式な資格は無いけど、子供の頃から叩き込まれる家芸のような。そして、あの出撃ですけど、あたしは自ら陣頭に立とうとしたコーラス3世を賞賛しこそすれ批判しようとは思いません。事実、結構な数のマグロウを潰しているんですし。むしろ批判されるべきは、国王が出陣しているにも関わらずブーレイとミミバに侵入を許した軍首脳部でしょう。一体、彼らは何をやっていたんでしょうね。そもそも、コーラス3世って当時のコーラス王朝首脳部の中では際だって若いんです。政治と戦争の采配は、自分より遙かに経験豊富なルーパス・バランカとリザート・マイスナーがやっている。そういう状況下で若い王が何をすべきかと言えば、敗戦続きで沈んだ士気を何とかすることでしょう。若い王が最新鋭機を駆って敵モーターヘッドを狩る、というのは、恐らくその為にやったことだったと思います。お話の中ではあまり描かれていませんけど、国王自らが陣頭に立ってファティマを失い重傷を負うまで戦ったこと、そして再び立ち上がって反攻を呼びかけたこと、これらはさぞ国民を鼓舞しただろうと思いますよ。彼は彼に出来る最大限のことをしたんだと思います。彼は唯一絶対の支配者でもなければ神様でもないし、政戦両略の天才でもなかったんですから。だいたいあのお話、そんな化け物ばっかりじゃないですか。やれ神様だ、なんとかの血統の純血の騎士だ魔法使いだ、剣聖だなんだって・・・後から後から化け物が続々と追加されていけば、そりゃ物語の当初からいたキャラクターは霞んでしまいますよ。でもあたしがコーラス3世というキャラクターが今でも最も好きだと思うのは、彼がそういう人外の化け物でもなんでもない、欠点もある普通の若い王様だからなんですよ。彼に魅力を感じる人は、多かれ少なかれそう思っているんではないでしょうか。・・・正直、こうした物語外部、作者を視野に入れたメタな視座からの反論ってあまりしたくないんです。でも、コーラス3世をこきおろす意見のほとんどが、そういった建て増しの歪みに直結している理由から来ているように思うんですよ・・・。

禍津時雨>>後付け云々についてはコーラス3世に同情せぬでも無し。なれど総体的に観た場合、その行動が愚かに映るも事実であろう。なおエンゲージはコーラス1世の依頼を受けマール・クルップが設計し、製作をルミラン・クロスビンが引き継いだという設定になっておるのう。無論此も後付け故に詮無き事なれど、コーラス3世の長女たるセイレイ・コーラスもそうしたように専門家に依頼する事が賢い行いじゃ。父親の遺作をそのまま複製するのではなく当代随一と目されるマイト、ダイアモンド・ニュートラルの元に持ち込む辺りセイレイが父親程に夢想家では無いと観る事が出来、興味深くはあるのう。話を戻してウリクルを伴い出撃した際の事に言及するならば、陣頭に立つ事自体を責めてはおらぬ。単騎にて隠密裏にゲリラ戦を仕掛ける事が武帝と称される者の行いとは思えぬが、卓越した技量を持ち信頼性の高いモーターヘッドを用いるならば有効であろう。問題は、規定出力の1/3も出ない欠陥機を用いた事にあると言うておる。まともな運用試験を行わず、勢いに任せて飛び出した挙げ句にあの体たらくでは話にならぬわ。討たれて果てるならばまだ救いもあろうが、あの状況ではコーラス3世が捕縛され、極めて不利な条件で講和条約が締結された可能性すら低くは無し。エンゲージが後付けとしても、そなたの言うようにコーラス3世が真に高い技量を備えていたならばベルリンにて出撃しても事は足りよう。更に少々話の筋は逸れる事なれど、軍首脳部の失態の最たる物は、この時の教訓を全く活かさずアトキにおけるハグーダとの決戦においてミミバ族の接近を許し、事もあろうに本陣の位置を知られたという点であろうな。あれは恣意的にコーラス3世の殺害を目論んだと言われて然るべき行為じゃ。そして欠点を含めた人間性が魅力と言われたならば、此はぐうの音も出ぬ。儂が指摘したコーラス3世の王としての欠陥が、そのまま魅力に他ならぬという事であればのう。しかし風祭万里、そなたの言う建て増しの歪みを差し引いて観ても儂にはやはりコーラス3世という男は王の器とは思えぬのじゃ。ファティマさえ居なければ良き夫にもなろう、良き友でもあろう、良き隣人であり、良き恋人であるやも知れぬ。されど王としてはあまりに認識が甘い男じゃ。

風祭万里>>・・・ええ。そこについては、実は時雨さん、貴女の意見に賛同したいんです。コーラス3世という人物の最大の不幸は、王家に生まれてしまったことなんだろう、と。多分、王位を継ぐべき立場でなかったら、ウリクルと二人で星団中渡り歩いて高名な騎士として楽しい人生を過ごすことができた人だと思うんです。王家に生まれてしまったばっかりに、いろんなものを背負わされ、大してしたくもない結婚までさせられて・・・。エンゲージについてはあたしが読んだ資料では、コーラス1世が開発したとあるんで、コンセプトというか基礎設計をコーラスがやって仕上げは専門家がやった、という感じなのかも知れませんね。で、ジュノーンはその集大成のつもりだったのかも知れません。・・・で、結果としてジュノーンがまともに動かずウリクルが死に自分が重傷を負ったことは事実でしょうが、マグロウは相手になってなかった訳ですし(マグロウって雑魚でもなんでもない、ちゃんとした機体なんですから)、サイレンなんていうものが出てこなければ問題は無かったはずです。あの時点でハグーダにあんなものが荷担しているとは判明していなかったんですから、ある程度は仕方無いところでしょう。

禍津時雨>>それよ。知らなんだが故に仕方が無い、此が王には許されぬ。王たる者の双肩は己のみならず国家の存亡、ひいては国土と国民の命運を担うておるが故に。尤も、これはコーラス3世のみならず、トリオ・コーラス王朝自体の情報収集システムに問題があったという見方も出来ような。そして王家に生まれなんだらという仮定には同感じゃ。単身ではデコース・ワイズメルあたりに斬られる気がせぬでも無いが、ロードス・ドラグーンの後をついて回り見聞を広め、騎士としての腕を磨き、気ままに生きたならば当人は幸福な命を全う出来たやも知れぬ。身の丈に合わぬ王という地位に生まれついたがコーラス3世の不運であろう。ただ、それは不適格な王を迎えし国家にしても不運であったという事。一枚の硬貨を表裏どちらから眺めるかの違いに過ぎぬ。

風祭万里>>・・・ええ。マグロウ相手なら問題なかろう、と思って出て行ったら何故かサイレンが出てきた、というので見通しの甘さを責めるなら、それは甘んじて受けなければならないでしょう。でも、それならルーパスとリザード以下の王朝首脳部って、阿呆と愚者と痴呆症患者の集団なのではないかと思うほどに、見事に無能揃いだと言えるはずです。王という地位が身の丈に合わないとは思いませんし、立派な王様だったとも思うんですよ、あたしは。ただ、本人はあまり幸せではなかったろう、と。もしもコーラス3世がおらず、ルーパスとリザードが王朝の最高権力者だったとしたら、下手したらあの戦争負けてたとさえ思います。遙かに国力で劣り伝統的に敵対している隣国から奇襲されるという間抜けさ、その隣国に他の列強が荷担しているという外交的稚拙さ、それに気づかないという情報能力の欠落・・・これはもう、国王云々ではなく国家そのものが腐っていたのではないか、と。ああ、だから焦っていたのかも知れませんね、コーラス陛下は。何とかして鼓舞しないと国が滅ぶ、と。身も蓋も無い話ですけども、ルース大統領とアマテラスがコーラス陛下の友達でなかったら、恐らく戦争は負けだったんじゃないでしょうか。

禍津時雨>>トリオ・コーラス王朝の首脳部が首脳と称するに値せぬ白痴の集まりである事は全く異存の無い所じゃな。一方コーラス3世は結果のみを見たならば立派な王であるとも言えよう。泥沼のハグーダ戦にA.K.D.を引き込む事で勝利を収め、国難を排した英雄である事を否定もせぬ。あのような性格は国民に好かれる事も事実であろう。そなたの指摘通り、コーラス3世が居なければ負けぬまでも国土を大きく削られていた事は間違いあるまい。ただ、コーラス3世はあまりにも危険な賭けを好み過ぎるのじゃ。そなたはあの男を不幸と言うが、実際には運だけは持ち合わせておる。コーラス3世は人生の難局を全て運だけで乗り切ったと言うても過言では無いとさえ儂は思うておる程じゃ。王たる者、無論運は不可欠であろう。如何なる名君も流れ矢に当たり命を落としては仕舞い故に。されど運だけに頼り無謀な振る舞いを繰り返す者に、己以外の者を背負う資格は無し。儂はそう考えておる。

風祭万里>>ええ、だからあたしも別に彼が完璧な英主だったと強弁する気はありませんし、欠点が無いと言うつもりも無いんです。ただ、やれるだけのことはやったし、運にも味方されて結果も残した、後で振り返ってみたら良い王様だったのだろう、と。レーダー8世が「死して歴史に名を残したか」とか言って褒めてましたけど・・・ただ、それが本人にとって幸福かどうかは全く別問題ですけど。・・・何も考えていない阿呆のような王様だったら他にもいくらでもいますし、あの世界には。

禍津時雨>>何も考えぬ阿呆が王でも滞り無く政が働くシステムを構築してあるならば国家としては優れているとも言えようが、此はまた別の話となろうな。さて、そなたも儂も言いたい事の骨子は喚き散らしたかのう風祭万里。元より人物評に絶対なんぞがある道理は無く、物語を楽しむ上での一要素として思考し遊ぶ事こそが目的じゃ。どちらに理があるか、或いは双方ともに理が無いかは此を読む者が各個に判断すれば済む事であり……そして誰にどのように判断されようと、そなたも儂も自己の楽しみを損なわれる訳でも無し。名実ともに益体の無い四方山噺じゃ。

風祭万里>>ええ。だいたい言い尽くしたような気はしますし・・・思ったほど無茶苦茶は言われなかったので正直ほっとしています。貴女のことですから、完全に人格まで否定するような事をいいだすんじゃないだろうかって結構怖かったんですけど・・・それなりに話も通じたみたいですし、楽しかったですよ。

禍津時雨>>儂を何だと思うておるのじゃ風祭万里、此までも物の道理に反した無茶苦茶なんぞを言うた覚えは無いのじゃが。しかし兎にも角にも大儀であった、そなたの力添えの甲斐あって、此度の仕事は実に簡単に片付く仕儀と相成りそうじゃ。当家の内証で慢性的に回り続けておる火の車の勢いも、若干ながら治まろう。ゆるりと寛ぎ、物のついでに法王庁の所有戦力の詳細についてでも語って帰ると尚良かろうて。

風祭万里>>・・・ふふ、貴女は結構あたしの話を聞いてくれるから好きですよ?あたしの周りって、人の話聞かない子ばっかりですし・・・はっきり反応が返ってくるあたり、静流よりも話がしやすいのかも知れませんね。あくまでもある意味においては、ですけど・・・。で?法王庁の?ああ、あたしは半分引退の身ですから。今の猊下に変わってからどうなったのかは良く知りませんよ?もうあたしみたいな年寄りはお呼びでないでしょうし・・・いつまでも古い人に頼っているようじゃ、独り立ちなんでできないんですよ、あはっ。

禍津時雨>>ち。儂も「知らなんだが故に仕方が無い」では済まされぬ立場故、裏付けは多いに越した事は無いのじゃが、無理強いはせぬ。事を構えるにせよ構えぬにせよ情報は多ければ多い程に良し、されど幾千幾万の情報に勝りしは時として……ふむ、詮無き事よな。ならば暫し庭にて遊んで行くが良かろう。幾つになろうと時には童心に返るも悪くは無い物じゃ。(そんな宣言を勝手に行い、湯飲みを手にしたまま縁側から庭へと向かう。素足で降り立った玉砂利の上で、唇の端を微かに吊り上げ、軽く手招き等を。)

風祭万里>>・・・驚きました。貴女に、普通の意味での「遊び」に誘われるなんて(一瞬目を丸くしたあと、嬉しそうに微笑んで。こちらも立ち上がると、後に続くように縁側から降りて。素足に伝わる感触は、どこか懐かしかった)



 完

万里と時雨のコーラス四方山噺 その1

2008-03-22 | 企画
都内某所 血華別邸


禍津時雨>>さて久しいのう風祭万里、儂の呼び出しを拒む事なく此処まで足を運びし件、まずは礼の一つも述べておくとしようかの。

風祭万里>>・・・あたしはこれでも友誼には篤いつもりでいますので、友の招きとあればどこへなりとも出向きますよ。例えそれが謀殺用のからくり屋敷だったとしても・・・まあ、冗談ですけども。

禍津時雨>>御挨拶な事よな。そなたを葬り去るなんぞという面倒極まる仕事には、可能な限り関わりたくはない物じゃ。(大袈裟に溜息を吐いて見せてから、本題を切り出す事に。)儂は現在さる筋より四方山噺を書き連ねる仕事を請け負うているのじゃが、此度の肴がコーラス3世でのう。儂が一方的に書き散らすも面白味に欠け、また後日そなたが異議を申し立ておる事も火を見るより明らか。ならばいっその事、そなたを同席させ論を交えるも一興かと考えたという寸法よ。無論、無償で等とは言わぬ。(タダより高い物は無しと言うからのう、と喉の奥で笑いながら……放り投げたのは一冊のアルバム。)あやつがかつて当家に逗留せし折りに儂の母親が撮影しておいた物じゃ。ネガも添えてあるが故、好きにすると良かろう。(その内容は、二人が良く知る娘の写真集。色素が欠乏した少女の、6歳から13歳までの成長記録のようなもの。白襦袢での寝姿から沐浴、割烹着での調理姿まで各種取り揃えた代物だったりする。)

風祭万里>>・・・(無造作に放り出されたアルバムを何の気無しに拾い上げ、開いてみて・・・ページを繰る指が止まる。数十秒間硬直しているようだったが、ややあって顔を上げ)・・・こ、こ・・・この、このようなもので、あ、あたしがその、つ・・・釣れるとでも?み、見損なわないでくださいっ、あたしは、あたしは別にっ、そんなふしだらな目で彼女を見ているのではっつぁああ!(あまりの事に舌を噛んだらしい。顔を真っ赤にしながらぶんぶんと首を振って)・・・し、しかしこのような危険極まる代物を貴女に持たせておくのは、もはや世界の平和にとって害悪としか言い様がありませんっ。今回の件はともかく、あたしが預かりますっ、預かった上で厳重に管理しますっ!(そう宣言するとアルバムを胸に抱くようにぎゅっと両腕で庇い・・・そして、恐る恐る自分の後ろに置いた)・・・で。コーラス陛下ですか。なるほど(とりあえず態勢を立て直そうと。眼鏡のずれを直して)

禍津時雨>>何を慌てておるのじゃ風祭万里、小児性愛嗜好でも持ち合わせておるならばいざ知らず、健全な人間が劣情を催す筈も無い実に無害な写真ばかりであろう。そなたが激昂しかねぬ危険な代物なんぞ既に抜き取り廃棄しておるわ。事に当たるに際して賄賂進物は常套手段じゃが、そなたに対して逆効果である事は承知しておる。それはあくまでも足代よ。(小さな肩を竦めつつ言葉を綴り、手元の急須から二つの湯飲みに緑茶を注いで一つを相手へと差し出しつつ。)コーラス3世、これはジュノー星トリオ・コーラス王朝23代国王であり星団歴2875年に生まれ2989年に死亡しておる事は周知の事実。問題は此の人物に対する評価なれど、世間一般に於いては概ね好評のようじゃな。儂に言わせるならばコーラス3世なんぞは暗君中の暗君、国家元首としては言うに及ばす一介の騎士としてさえも使い物にならぬ男に過ぎぬが、そなたはどう見る。

風祭万里>>・・・れ、れ・・・劣情っ、ですって?あ、あたしがそんな、そんなことっ(思わず声をあげ、そしてがっくりと項垂れて)・・・いえ、もういいです。まずは一本取られたと言っておきましょう。あたしの冷静さを奪う用は十分に果たしたと言うべきでしょうから(はあ、と溜息をつくと、後は幼女の声に耳を傾け)・・・そうですね。コーラス3世陛下・・・一言で言えば不幸な人だと思います。物語の中においてもそうですし、メタ的な意味でも歪みを一身に背負わされた可哀想な方だと・・・それはともかくとして、ええ、まずは物語の中での評価からになるでしょうか。そうですね、あの世界にはどうやらまともな国家元首や為政者は存在しないみたいですが、その中では随分まともな方だと思いますよ。人格も歪みまくった人が多い中で高潔にして高邁、しかも騎士としての腕も水準以上ですし。

禍津時雨>>(慌てる様子を堪能し、実に愉快そうに喉を鳴らす。一頻り楽しんだ後、茶を一口啜ってから唇を開いた。)不幸、成る程不幸と言えば不幸な男には違いあるまい。妻とは不仲、愛するファティマは殺され、心血を注いで建造せしモーターヘッドは大破、国土は大きく蹂躙され、他国への多大な借りを拵え、子供の教育も侭ならず犬死にとあらば不幸よな。されど言うてしまえば此等は全て身から出し錆に他ならぬ。では時事系列に従い検証を始めるとしようかのう。時は星団歴2957年、モラード・カーバイトを訪問すべく単身徒歩にてカラミティ星マルタラの山中を進むコーラス3世。この時点で此奴は文字通りの青二才、箸にも棒にもかからぬ未熟者よ。されど王宮にて余程取り巻き連中に持ち上げられていたと見え、根拠の無い自信だけは一人前。己を尾行する者の存在を感じ取りし折りの言葉が此じゃ。「ふふ…ボクと鬼ごっこするのは疲れるよ。それともここで相手になるかい?ケガをしたくなかったら早く帰ってくださいよね」……これをどう見る風祭万里。仮にも一国の王太子として浅はかにも程があろう。天位も持たぬ身で何をのぼせ上ごうておるのか。

風祭万里>>まずですよ。騎士ってそんなにごろごろしてるものではありませんよね。しかもこの時、彼を追尾していたのは当時のモラードファティマの最高傑作であるウリクルだったはずです。彼女の戦闘能力は、並の騎士より数段上ですから、彼女の気配を察知しただけでも既にコーラス王子の能力は普通では無いと見ていいかと。しかも、あまり言いたくはないですが「天位」ってかなり作者の都合で恣意的にばらまかれてますよね?こういうところでも、コーラス3世って非常に割を喰ってると思うんですよ。

禍津時雨>>ごろごろ存在せぬからと警戒を怠り増長するとは、将来国家を背負う者としての自覚が足りぬと儂は見るがのう。更にコーラス3世を尾行しておった相手は、そなたの指摘通りモラード・カーバイトの製作せしファティマ、ウリクルじゃ。ファティマは戦闘用の道具、故にその能力は明確に定められパワーゲージとクリアランスという形で公表されておる。ウリクルのスペックは戦闘能力A・MH制御能力2A・演算性能B1・肉体耐久値B1・精神安定性A・クリアランスVVS1・成長タイプSの少女型。さて此処で問題となるは戦闘能力の項目よな。戦闘能力Aと記されておるのう、此の項目は2Aで標準的な騎士に並ぶという代物の筈であろう。コーラス3世はウリクルに追跡され野山を駆け、「いる!こいつ…ヘッドライナーだ」やら手裏剣を投擲し回避された挙げ句、更に追い回され「まだいる!このボクについてくるなんて!」等と宣うておるが、いやはや身の程を知らぬとは恐ろしい事じゃて。天位についてはそなたの言い分も尤もと認めもしよう、天位騎士の実力を証明する物ではあるやも知れぬが持たざる者の非力の証では無し。されど戦闘能力Aのファティマに追い回されるという醜態は如何ともし難い物じゃ。

風祭万里>>まず、コーラス王子は当時まだ修行中の身ですよね?それからウリクルの戦闘能力というかその訳の分からないパワーゲージ設定なんですが、そのあたりの設定にも矛盾があるように思うんですよ。後に彼女はコーラス3世を庇ってミミバ族の集団及びノイエ・シルチスの正騎士と戦う事になりますけど、ミミバは文字通り鎧袖一触、全く相手にしてないんですよね。設定によるとミミバというのは騎士級の戦闘能力を持つ少数民族ということですから、一対多数で彼らを相手にしなかったウリクルの戦闘能力が並みの騎士より低いというのはおかしいんですよ。そして、まだ少年だったコーラス王子が軽はずみだったのは仕方の無い所です。修行中であるのも仕方のない所ですが、それを捕まえて彼を糾弾するのはそもそもおかしいんです。しかも、短期間黒騎士の指導を受けた後、大騎士団の団長相手に抜く手も見せず仕返しをしてみせた訳ですし。やはりその力量は非凡なんですよ。

禍津時雨>>若き日のコーラス3世の醜態は此に留まらぬ。国境を越えた事にも気付かず這々の体にてウリクルより逃げ切りし後、モーターヘッドの匂いを嗅ぎ取りながら構わず進む迂闊さは何とした事か。また、モーターヘッドが存在するならば其処には騎士が居る事も明々白々、にも関わらず木偶の坊の如く呆け、ラルゴ・ケンタウリに騎士と気付かれもせず斬り伏せられる脆弱さは擁護の余地はあるまいて。ましてや王太子の身でありながら他国のテリトリーに勝手に侵入し、その当然の報いとして排除されておきながら、逆恨み以外の何物でもない自身の感情の発露を抑えもせず空港にて再会せしラルゴ・ケンタウリに報復の為斬りかかる等という軽率な行動には呆れて口が塞がらぬわ。設定上の矛盾については儂とて承知しておる、修行の身の上たるコーラス3世が未熟である事もまた同様じゃ。なれど未熟ならば未熟なりの、身の程の弁え方があろう。此奴の行動が軽率であったが故にこそ後のハグーダとの戦における禍根は撒かれたと儂は見るがのう。

風祭万里>>・・・なんであそこにサイレンがいたのかは良く分かりませんが、「遙か遠方のフィルモアのサイレンが何で」みたいな事は言っていた筈ですので、おおかた秘密裏に演習でもしていたんでしょう。モーターヘッドがいるなら見に行こうと思うのは、迂闊ではありますけど若者らしい好奇心というものでしょうし、いきなり斬りつけられると思ってはいなかったのもまあ、後で自戒しているように甘い話ではありますよね。ただ、ラルゴ・ケンタウリはあの時点で相手がコーラスの王子だと知っていましたし、それを面と向かって言ってしまっているんですよ。だとしたら、コーラス王子としても相応の返礼はしておかねばならないですし、ラルゴというのも頭は破滅的に悪いですが腕はいいはずなので、その彼から一本取り返したことは賞賛すべきではあっても批判する理由にはならないと思いますけど。それに、もっと簡単に言うなら、少年にはあのくらいの向こうっ気がなくては駄目でしょう。軽率軽率と言いますけど、あそこですごすご引き下がるような気概のない少年が将来大を為すとは思えません。無論、甘い坊やだったことは否定しませんよ。でも死にかけた体ながら気合で立ち上がって見せたり、短期間の修行でめきめき腕を上げてラルゴへの返礼までやってのけたり、彼の魅力っていうのはそういう「成長する少年」の横顔をあのお話の中では珍しく見ることができたことにあるんだと思うんです。だって他のキャラクターって、みんな神様か化け物か完璧超人ばっかりじゃないですか。後付け設定でどんどんパワーインフレ起こしてますし。

禍津時雨>>この時コーラス3世はモラード・カーバイトよりファティマ・ウリクルを貰い受けておる。この歳までファティマを得ておらぬとは「コーラスの風の3ファティマ」と称する王家秘蔵のファティマ達に見向きもされなんだという証であろうが、結果的により優れたファティマを得た事でもあるからして五月蠅くは言及せぬ。此処までの行いもそなたの言う通り、若さ故の未熟と無鉄砲と捉える事も出来よう。トリオ・コーラス王朝を背負う者としての自覚が足りぬ事も、幼さ故と見逃しても良し。ただし此の男コーラス3世の問題は、成人し王となりし後も根本的な性質に変化が無いという点にこそあるのじゃ。星団歴2988年、バストーニュにおけるファティマの御披露目の際、コーラス3世は路地裏にて民間人の首を刎ねておる。此の民間人は主を持たぬファティマであるクローソーを性欲の捌け口として使おうとしたに過ぎず、星団法に照らしたならば全く問題は無い行為じゃ。にも関わらずコーラス3世は「なんだこの野郎!お前の知ったこっちゃねーよ」等という取るに足らぬ言葉に対して剣を以て応じ、結果的にその場に居合わせた民間人は皆殺しよ。騎士が一般人に手を挙げてはならぬという星団法の大原則は何処に消えたのかのう、一国の王ならばこそ法は遵守せねば示しがつくまいに。大きく譲歩し、此の場に於いては目撃者が居らなんだが故に問題は無しとしても、御披露目当日における「みなさん!この二人を通してやってください!道をあけて!」は公衆の面前にて法を犯す者を幇助しておる。相も変わらず自信過剰でもあり、王たる者の行動として如何な物かのう。あれは下手をすれば他国から糾弾される口実ともなろうが。

風祭万里>>・・・風のファティマに関してはですね、あれは、その・・・ほら、後から付け足された話ですので、まあ横に置いておきましょう。それで、民間人皆殺しの件ですが、あれは恐らく、騎士の不文律のようなものが別に存在するんだと思います。ファティマは人間に反抗できないので、その彼女たちが毒牙に掛かりそうになった場合は実力行使に出ても良い、と。だからルースやソープも、この件についてはさも当然のような顔をしていて、言及もしなかったんだと思います。それから、御披露目の後で二人を逃がしていたのは、あれはもう正当な権力者つまりルース大統領が現場におり、ユーバー一味の逮捕が始まっていて御披露目そのものが一種の違法行為扱いとなっていたからでしょう。あそこでユーバー一味に味方することは、現職の大統領の法執行を妨害することになってしまいますから。ついでに、恐らく貴女が言い出すでしょうから先回りしますけど、コーラス陛下の腕前について。彼、本当に強いはずです。順を追って説明しますけど、まず少年時代、態勢十分のラルゴが不意を衝いて真っ二つにするつもりで斬りかかったにも関わらず両断されることは避けました。その後空港では、ラルゴが抜刀する隙も与えずにウォータークラウンを叩き落としています。ラルゴは星団最大の国家の騎士団長で居合の名手とされてますけど、その彼の居合を二度とも封殺してるんです。生半可な腕ではないですよね。更に、バストーニュでの発言、「私より早くスパッドを投げられる人はそうはいないと思うよ」(確か連載の初出では、「私より早くスパッドを投げられる人は二人しか知らないよ、そしてあの場所には二人ともいらっしゃったんだ」となっていたはずですが)です。これ、自信過剰扱いされてますけど、初出の台詞を取るなら、彼はソープとログナーが自分を上回る使い手だと見抜いてるんですよね。二人とも正体見せてないのに。見抜けるだけ、やはり並の騎士ではないと取るべきです。後付け設定持ってくるなら、コーラス王は代々ブレイクダウン・タイフォーンを家芸にしているそうですから。あれ使えるってだけで、本来天位以上の能力は持っているんだと思いますよ。