京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

神は心の治療者ならんや?

2020年12月07日 | 環境と健康

 

                (ミケランジェロのピエタ)

 

  アーチボルト・コクラン (Archiebald Cochrane, 1909~1988)はコクラン計画の創始者として有名な医者である。コクラン計画のおかげで施薬や医療の効果について科学的で客観的な基準が確率した。

 コクランは1936年に、ユニヅァーシティー・カレッジ・ロンドン病院を止めて野戦救急部隊としてスペイン内戦に従軍した。その後、第二次世界大戦では、英国陸軍衛生隊の大尉としてエジプトに向かったが、1941年に捕虜になり、戦争が終わるまで、仲間の捕虜たちの治療に当たることになった。彼が《科学的根拠にもとづく医療》の重要性に気づいたのは、このときの事である。

コクランは科学的方法と臨床試験の重要性を説くが、それと同時に、人間的な思いやりが医療においてどれほど大切かを知り抜いていた。彼の生涯を通じてそれを示す例は多いが、とくに胸を打つのは、戦争捕虜としてドイツのエルステルホルストにいたときのエピソードだ。

 このとき彼は、「瀕死の状態で泣き叫んでいた」ひとりのソヴィエト兵士を治療するという絶望的な立場に立だされていた。コクランにできたのは、アスピリンを与えることぐらいだった。のちに彼はこのときを振り返って、次のように述べている。

『とうとう私はたまらなくなってベッドに腰を下ろすと、両腕でその男を抱きしめた。そのとたん、叫び声がぴたりと止んだ。それから数時間ほどして、彼は私の腕のなかで静かに息をひきとった。彼が泣き叫んでいたのは胸膜炎のせいではなく、孤独のせいだったのである。私はこのとき、死にゆく人の看護について、かけがえのない勉強をさせてもらった』

  人は、だれもがいずれ死に行く病におかされている。どんなに健康にみえる若者でも潜在的にその病気が進行している。人が医者に求めるものは、実はコクランが演じた役割なのである。しかし、大抵の医者は薬はくれても、死の不安を取り除いてはくれない。自分自身も死の病に冒されているかだ。そこで人は神にそれを求めた。キリストの職業は医者だったにちがいない。

 

参考図書

『代替医療解剖』サイモン・ シン、エツアルト・エルンスト(青木薫訳)新潮文庫


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