フレッド・ホイルなどが唱えた定常宇宙論は否定され、宇宙には始まりがあり、その年齢は約138億年と言われている。そうすれば宇宙の誕生以来の歴史に沿って宇宙的な時間が流れているはずであり、哲学者が身の回りの事からコセコセと思案した主観的な「時間」なんぞ必要ないではないかと思えてくる。宇宙がある法則にしたがって生成、進化、変転する容態こそが時間の流れと考えられる。まず宇宙と時間の始まりから考えて行こう。
現在の宇宙はエネルギーを生成したり消滅させたりするダイナミックな真空から生じたという仮説がある。イギリスのホーキングやペンローズによる「無境界仮説」によると宇宙はある時、はずみで「ポン」と生まれたとされている。それが生まれた途中で流れる時間(相転移に要した)が虚数時間であるとする。世界は実数でできているはずなので虚数時間など冗談ではないかと思うが、物理学者は数学的に整合性があれば虚数を使うのをいとわなかった。電磁気学の波動関数などには昔から複素関数を持ちいてきた。我々の宇宙になってから実時間となり10-44秒(プランク時間という)で、ある大きさ (10-33cm)の宇宙ができた。重力はその頃形成された。そこから爆発的なインフレーション膨張が10-36秒ほど続き、強い力が分かれた。
さらに、その後ビッグバン膨張が起こった。10-10秒に電磁力と弱い力が分かれた。そして38万年後に宇宙の晴れ上がりが起こった。 宇宙は1億光年の大きさとなり、陽子と電子が結合して水素原子ができた。さらに2億年後、最初の天体ができ、30億年後には銀河系ができ、90億年後には太陽と地球が形成され、それから48億年が経つ。どれも計算上の数値であるが、ビッグバンが起こった証拠は、宇宙膨張の発見、宇宙マイクロ放射の発見、He、重水素の存在比などがあり、単なる仮説を抜け出して「真実」に近づきつつある。インフレーション宇宙モデルは佐藤勝彦東大名誉教授とアラン・グースが最初に提案したものであるが、CMB (宇宙背景放射)に現れる温度揺らぎの観察などにより証明されつつある。
量子論の世界では時間とエネルギーの間に不確定性原理が成立しており、それぞれの存在領域をΔt、ΔEとするとΔt x ΔE ≒(\approx) h/2π が成り立つ。hはプランク定数(h=6.6260755×10-34J・s)である。これからΔE ≒ h/(Δt・2π)となる。Δtが0に近いと、巨大なエネルギー領域が生成する。エネルギー保存の法則に反しているが、0に近い短い時間であれば、エネルギーの渦巻く真空世界からはずみで巨大なエネルギーが取り出せるという理屈である。
さらにΔt ≒ h/(ΔE・2π)となる。時間は実体のあるプランク定数と実存としてのエネルギーの関わるものとしてあるので、物理的実存である。創生された時間が後の宇宙の膨張に付随する時間とどう関わるかはよく分からないが、たとえ一瞬であつても時間が実存してこの世にあったということは重要である。すべての時間はヒトの脳が生み出した主観的時間に属するという多くの哲学者の仮説に抵触するからである。
参考図書
郡 和範『宇宙はどのような時空でできているのか』ベレ出版 2016
真貝寿明 『現代物理学が描く宇宙論』共立出版 2018
都筑卓司 『時間の不思議;タイムマシンからホーキングまで』講談社ブルーバック8873 1993
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