京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

病原体に感染しても必ずしも発症しないという事

2020年06月15日 | 環境と健康

19世紀の終わりまで、病気の原因は人とその環境の間の調和が欠ける為と考えられていた。古代ギリシャのヒポクラテスによると四つの体液間のバランスの崩れが病気をおこすと唱えた。中国では陰と陽の組み合わせがその原因であるとした。

 

ヒポクラテス

しかし近代になって、ルイ・パスツールローベルト・コッホおよびその後継者達は、唯一特別な微生物によって病気が生ずるとした。この特異的病因論が、その後の医学の理論的支柱となり治療の実践の要諦となった。

ところが病原体を摂取したり、感染しても発病しない例がたくさん見つかった。

1900年ごろドイツのベツテンコーファーやフランスのメチニコフはコレラ菌をたっぷり飲んだが、発症しなかった。コレラ菌がまず腸管に定着し、発症するために幾つかの条件が必要と思われる。感染症の発病には、まず必要条件としてウィルスや細菌のような微生物が要求され、さらにそれが体で増殖、発病するための十分条件が整わなければならない。必要条件での研究はやりやすいので進んでいるが、十分条件の生理的研究はあまり進んでいない。

Covid-19についても原因ウィルスのSARS-Cov-2の分析はさかんになされているが、発症のメカニズムはよくわかっていない。ウィルス感染者の8割が無自覚ないし軽症なのに、2割が重症になる理由は、体質的なものか患者の内部環境の問題かは、大いなる研究課題である。最近、こういった視点からやっと患者のゲノム解析が始まった。

 

参考図書

ルネ・デュボス 『健康という幻想-医学の生物的変化』田多井吉之介訳、紀伊国屋書店

1983

 

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