alternativemedicine

Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

朱氏頭皮鍼の論文

2012-04-17 | 頭皮鍼
 朱氏頭皮鍼について、『東洋医学とペインクリニック』に良質の論文があった。脳血管障害48例について、朱氏頭皮鍼+理学療法+低周波通電で治療し、一次合併症の痙性固縮に著明な効果があったというもの。この論文は読み応えがあった。

1993年
朱氏頭皮鍼の脳血管障害による片麻痺に対する効果
永野剛造; 国安則光; 梶間育郎; 他
『東洋医学とペインクリニック』 23(3) 127ー135

 患者は38歳から81歳までの男性35例、女性13例の合計48例。痙性固縮が77.1%、弛緩性麻痺が25%
 12段階片麻痺機能テスト(Recovery Grades in Hemiplegia:RGIH)を用い、約三ヶ月間の1クール終了時を比較検討した。
 一次合併症として痙性固縮、弛緩性麻痺、知覚障害、視野障害、構音障害、運動性失語、基底核障害。
 二次合併症として亜脱臼、肩手症候群(Shoulder Hand Syndrome:SHS),シビレ、関節周囲炎、疼痛、関節痛の13症状の有無をチェックし、その変化を検討した。

【治療】朱氏頭皮針理学療法低周波通電療法の組み合わせ

額頂帯(がくちょうたい)》神庭から百会
前4分の1:頸部顔面・咽喉・舌の病証に対応:寧神定驚・利咽開竅
後4分の1:下腹部(膀胱・尿道・会陰部・生殖器)の病証:益腎利尿・調経・昇陽固渋

頂顳帯(ちょうしょうたい)》前頂から頭維
運動障害・知覚障害:疏通経絡・強筋止痛
リレー透刺

《合併症対応》
肩関節症状:頂結後帯(ちょうけつごたい) :絡却から百会の幅0.5寸の帯:肩関節と頚部。
頸部腰背部症状:頂枕帯(ちょうちんたい):百会から脳戸
言語障害:顳前帯(しょうぜんたい):頷厭から懸り:片頭痛、失語症、顔面神経麻痺。
排泄障害:頂枕帯(ちょうちんたい)下4分の1:頂枕帯は、百会から脳戸で4分の1は仙骨部および会陰部に対応する。


理学療法は、ボバース法、PNFなどのファシリテーションテクニックを併用し、一部の頭鍼はパルス通電、筋運動を目的とした低周波通電を1週間に1-2回施行した。

【結果】
12段階片麻痺機能テスト(Recovery Grades in Hemiplegia:RGIH)で、上肢は6ヶ月以内、5年以上に2以上の変化があったが、下肢では2以上の著明な変化は見られなかった。
一次合併症、二次合併症は痙性固縮に86.5%と著明な効果が見られた。視野異常以外の一次合併症では42-66%の改善が見られた。
二次合併症においては、シビレに44%、関節周囲炎、疼痛、関節痛には70%以上の改善が見られた。

【ケーススタディ】
73歳男性
脳血栓後遺症による右片麻痺
すでに7年8ヶ月経過しており、理学検査法は行っていなかった。

初診時は右上肢挙上が乳頭位以下。肘関節・手関節の固縮は軽度。手指屈曲は可能、伸展は不能で共同運動が著しかった。
膝伸展は可能、屈曲は不十分、足関節の背屈は不能、下腿後側に拘縮が認められ、下腿後側に拘縮が認められ、立位・歩行時に痙性が強まった。立位膝上げは不十分、内反尖足となり、歩行時に短下肢装具と杖を使用し、装具なしの独立歩行は不能であった。ぶん回し歩行や上下肢の連合反応が見られ、患側上下肢筋には軽度の廃用性萎縮が見られた。12段階片麻痺機能テスト(Recovery Grades in Hemiplegia:RGIH)では上肢は4下肢は6であった。

治療経過は、初回治療後より上肢筋の反応が改善され、坐位での膝屈曲が良くなった
患者は治療に意欲的であったが、遠方のため、週2回の通院は無理で1週間1回の治療を継続した。
5回目で手指が鼻尖に触れられるようになり、室内では装具なしで歩行可能となった。
そこで、筋反応の強化と共同運動軽減を目的にファシリテーションテクニックを開始した。
第8回目で足関節の背屈が可能となり、第22回(初診より4ヶ月目23日目)では上肢は頭部まで上がり、歩行は装具・杖が不要となった。
12段階片麻痺機能テスト(Recovery Grades in Hemiplegia:RGIH)は上肢9、下肢8と改善された。

※故・梶間育郎先生は、他にも朱氏頭皮針の論文を書かれています。
2002年
「朱氏頭皮鍼の刺鍼部位と治療」
梶間育郎『鍼灸OSAKA』 VOL18(3): 81ー83、2002

2004年
「朱氏頭皮針療法の応用と実際」
梶間育郎『鍼灸OSAKA』VOL20(4).NO.1、55-59

YNSAの基本E点

2012-04-16 | 頭皮鍼
 基本E点は胸椎・肋骨(肺および心臓)に対応している。

基本E点(陰)は、眉の上方に位置し、正中線の約1cm側方から左右対称に、約15°の角度で外側に延びる。左右とも長さ2cmである。E点は12の細別点を持つ。E1が最も上部で、第1胸椎に対応する。E1-E12は胸椎、肋骨、胸腔、胸部神経が伸びる内臓に対応する。基本E点(陽)は後頭部の陽区域にも存在する」『山元式新頭鍼療法YNSA』54ページより引用。

以下は、E点を用いた症例です。

「SK 51歳男性
15年前急性肺炎後に気管支喘息の発作をみるようになり、多種多様な治療を試みたが、軽快を見ずに来院して来た。胸部X線にて両肺野に中等度の肺気腫を認める以外に、血液検査でも異常を認めず。患者は長期間の副腎皮質ステロイドホルモン治療のため、幾分満月様顔貌であった。両側E点に圧痛点を求め置鍼することにより、漸時呼吸が軽快しになり、呼吸が消失して1ヶ月の入院治療で、通算20回の針治療によって、殆ど喘息は消失、感冒を併発した時のみ軽度の発作が現れ、全く日常生活には支障をきたさないようになった」
「新しい頭針療法」
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL35.NO9.221-222

『山元式新頭鍼療法YNSAー改訂第2版』の144ページに基本E点への治療を行った最初の患者さんの写真があります。

朱氏頭皮鍼の文献(追加)

2012-04-16 | 頭皮鍼
1989年
「朱明清教授の『頭皮針療法』」
小出建一、東洋医学研究所
『中医臨床』 10(2): 170-176, 1989

1989年
「『朱氏頭皮針』療法について 」
萬暢、中国中医研究院, 北京針灸骨傷学院
『中医臨床』 10(2): 166-169, 1989.

1989年
「朱氏頭皮針療法の臨床応用」
萬暢、中国中医研究院, 北京針灸骨傷学院
『中医臨床』 10(3): 300-304, 1989.

1989年
.朱氏頭皮鍼翻訳グループ
朱明清著『朱氏頭皮鍼』
東洋学術出版社

1989年
「朱明清先生の『朱氏頭皮針』講演とデモンストレーション ―大阪講演会の報告―」
森俊豪、大阪針灸専門学校
『中医臨床』 10(4): 404-407, 1989

1989年
「カラーグラフ/朱氏頭皮針」
森俊豪、大阪針灸専門学校
『鍼灸OSAKA』5(4)、30ー31


1990年
「腰痛に対する治療帯の選び方」
朱明清、北京針灸骨傷学院
『中医臨床』 11(1): 76-80, 1990.

1990年
「朱明清教授の『頭皮針』の手法 」
孔尭其, 浙江省東陽県巍山医院、生田智恵子、編集部
『中医臨床』 11(4): 416-419, 1990.

1991年
「肩関節周囲炎に対する朱氏頭皮針の治療経験」
浮田恒夫、武蔵野赤十字病院内科
『中医臨床』 13(2): 217-218, 1992.

「朱氏頭皮鍼が著効を示した脳血管障害の1例」
永野剛造、国安則光、森和、矢野幸彦、永井聡
『東方医学』VOL.9 NO.3 1993年

1993年
「朱氏頭皮鍼の脳血管障害による片麻痺に対する効果」
永野剛造; 国安則光; 梶間育郎; 他
『東洋医学とペインクリニック』 23(3) 127ー135

「頭皮鍼が著効を示したくも膜下出血後遺症の1例」
永野剛造、矢野幸彦、永井聡、末永和栄、国安則光、森和、
『東方医学』VOL.10 NO.1 1994年

「頭皮針により書字機能に改善が見られた右片麻痺の2例」
永野剛造、佐藤謙介、森和、朱明清
『東方医学』VOL.11 NO.1 1995年


「脳波解析(自己回帰要素波解析)から見た頭皮針の脳血管障害後遺症に対する効果」
永野剛造、佐藤謙介、末永和栄
『東方医学』VOL.12 NO.2 1996年

2000年
「劉赫先生の中風後遺症治療の特徴」
白川徳仁、針灸治療院呼泉堂
『中医臨床』 21(4): 486-487, 2000.

2000年
「朱氏頭皮鍼を応用した花粉症治療」
森幸二; 臨床研究グループ
『医道の日本』 59 10 54 5

2002年
「朱氏頭皮鍼の刺鍼部位と治療」
梶間育郎
『鍼灸OSAKA』 VOL18(3): 81ー83、2002

2004年
「朱氏頭皮針療法の応用と実際」
梶間育郎、梶間鍼灸治療室、行岡鍼灸専門学校講師
『鍼灸OSAKA』VOL20(4).NO.1、55-59

2004年
「15年, あれから『朱氏頭皮針』は変わったか 」
高橋正夫、仏眼鍼灸理学校
『中医臨床』 25(4): 546-550, 2004.

2005年
「 『朱氏頭皮針』療法 」
高橋正夫, 仏眼鍼灸理療学校
『医道の日本』 64(4): 200-203, 2005.

2005年
「『朱氏頭皮針』アメリカ研修会訪問記」
高橋正夫、仏鍼灸理療学校
『中医臨床』 26(3): 444-445, 2005.

2005年
「『新』朱氏頭皮針による顔面神経麻痺の治療例」
高橋正夫、仏眼鍼灸理療学校, 高橋針灸マッサージ院
『中医臨床』 26(1): 144-146, 2005.

2008年
「膝痛と物忘れ(軽度認知症の疑い)のある患者に対する朱氏頭皮針治療の一例」
加藤豊広, 藤井知彦, 下村太郎, 伊林克彦, 山村千絵, 的場巳知子、新潟リハビリテーション大学院大学
『中医臨床』 29(1): 139-142, 2008

2010年
「顔面痛に対する朱氏頭皮針治療からのアプローチ」
高橋正夫、高橋針灸マッサージ
『中医臨床』 31(2): 277-280, 2010

2011年
「頭針療法, 頭皮針に改良を加えた治療法」
白川徳仁、針灸治療院呼泉堂, 東京医療福祉専門学校教員養成科
『中医臨床』 32(1): 147-151, 201

朱氏頭皮鍼の簡単なまとめ

2012-04-14 | 頭皮鍼
 朱氏頭皮鍼朱明清先生が開発した鍼灸治療法。朱明清先生は、1940年生まれ。1964年上海中医学院第一期卒業生。1987年北京鍼灸骨傷学院在籍当時に、1987年11月24日北京中日友好医院で開催された「第1回世界鍼灸連合会成立学術交流大会」で鍼灸の実演を行い、中風患者が治療後、即座に立ち上がり、歩き始めたことで有名になる。

 初期は8つの治療帯を用いていた。

額頂帯(がくちょうたい):神庭から百会の間の1寸の帯

額傍帯(がくぼうたい)
(1)額傍1帯頭臨泣を中心に、上下0.5寸、左右0.25寸:中焦
(2)額傍2帯本神穴を中心に、頭維の方向へ幅0.25寸、上下0.5寸:下焦

頂顳帯(ちょうしょうたい):前頂から頭維に至る幅1寸の帯:運動障害・知覚障害

頂枕帯(ちょうちんたい):百会から脳戸に至る幅1寸の帯

頂結前帯(ちょうけつぜんたい):通天から百会の幅0.5寸の帯:股関節と臀部。

頂結後帯(ちょうけつごたい) :絡却から百会の幅0.5寸の帯:肩関節と頚部。

顳前帯(しょうぜんたい):頷厭から懸りに至る幅1寸の帯:片頭痛、失語症、顔面神経麻痺。

顳後帯(しょうごたい) :耳尖の直上、天衝穴から角孫穴に至る幅1寸の帯:片頭痛、めまい、耳鳴り。

 1989年に東洋学術出版社から浅川要先生など翻訳グループが『朱氏頭皮鍼』を出版される。

 2004年12月と2005年4月に高橋正夫先生が、「15年、あれから朱氏頭皮鍼は変わったか」という論文を『中医臨床』と『医道の日本』に発表され、朱氏頭皮鍼の8つの治療帯が、19の治療区に発展したことを報告されている。

 現在、朱明清先生は、アメリカに在住である。高橋正夫先生が、2005年9月の『中医臨床』で「朱氏頭皮針アメリカ研修会訪問記」を発表されている。

アメリカの朱氏頭皮鍼のホームページ
Zhu's Scalp Acupuncture

YNSAの基本D点

2012-04-12 | 頭皮鍼
 基本D点は、腰椎・下肢に対応している。

 個人的感想だが、取穴法として「側頭筋内で眉の末端より耳に平行に髪際に点を取る」(山元敏勝「中国訪問学術交流」『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL26.NO11: 269)がわかりやすい。

以下はD点を用いた症例。

「患者T.F.女性。32歳。主婦
既往症:10年前椎間板ヘルニアの手術を受けた。
現症:術後3ヶ月間は順調に経過した。術後4ヶ月目より腰部と両下肢の痛みと、しびれに悩まされ、種々な治療を施したが、特に効果が得られるまま、致し方なく、自宅で病臥し、痛みのため、歩行不能となった。昭和53年7月10日、かつがれて来院。激痛のため歩行不能と、遠隔地のため、即時入院させた。患者は腹臥位不能のため、両側D点を圧迫すると強い痛みと硬結があった。圧痛点内に置鍼2時間、置鍼中に痛みが軽くなり、2日目より独りで便所まで歩けるようになり、毎日2時間の置鍼で、30日目に普通生活が可能となり、退院、遠方のため週1回の治療で6ヵ月後には殆ど治癒した」
山元敏勝「中国訪問学術交流」『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL26.NO11: 269より引用

※正式には
 「『基本D点(陰)』は側頭部に位置する。すなわち、頬骨弓の約1cm上、耳の前方2cmの側頭筋の部位の髪際に位置する。D点は両側性である。D点は細別点をもつが、これらの点はA点やC点のように連続していない。5つの腰椎点が発見され、それらがD点と同一の治療区域(下半身と四肢)を持つことから、利便性を考え、D点の細別点としてまとめたためである。最初に発見された主要D点は、腰椎および両下肢を含む下半身全体に対応する。D点の細別点D1D6(腰椎・仙骨・尾骨)は長さ約1cmで縦に並ぶ数珠のような形となり、D点の後方、耳のすぐ前方で、側頭骨と顎骨の関節領域の上方に位置する」
基本D点(陽)は、D点(陰)と対称的に、側頭骨の端のほうの、蝶形骨の上に位置する。D1D6(陽)細別点は、(陰)細別点の鏡像的対称となっていない。D1-D6(陽)の細別点は、耳介のすぐ裏側の少し高い位置に、水平方向にややカーブをしながら1-1.5cmの長さで存在する」
『山元式新頭鍼療法YNSA』50ページより引用。

2012年4月12日木曜日メモ

2012-04-12 | 頭皮鍼
 おそらく日本語インターネット上で、鍼灸に関するブログのクオリティNO1の似田敦先生の「現代医学的鍼灸治療」のブログに「頭針法なるもの(2006年6月10日)」と「焦氏頭針法と朱氏頭皮針法(2012年3月10日)」、「山元式新頭針セミナーに参加して(2012年3月12日)」という記事がありました。

 また、愛知県の田中法一(たなか・のりかず)先生が代表をつとめられる「頭鍼療法研究会」のホームページをみつけました。

 田中法一先生の名前で、以下の論文を発見しました。
頭鍼療法によるノイロメトリーを追って
『日本鍼灸良導絡医学会誌』VOL.7 NO.4 1978年(昭和53年)4月

 これは、「焦氏頭皮鍼」を脳血管障害の半身不随に用いて、治療前と治療後の良導絡のグラフを比較するというものです。

「症例48歳女性
現症:脳血管障害後の左半身不随
3年前に脳卒中発作を起こし、3日間意識不明で回復後、左半身不随を後遺症として苦しんでいた48歳の女性。昭和52年9月29日に来院。所見は左上肢運動不能と内側筋群の拘縮があり、左肩関節亜脱臼、左上肢皮膚感覚特に痛覚異常、左下肢は歩行不良で、つえを利用した歩行が精一杯で運動不良。血圧は210-120.
治療:右運動区感覚区上5分の1中5分の2で15分間の置鍼通電。
3回の治療で左上肢の痛覚異常は消え、上肢運動は床の上で動くようになり、つえは不用となっている。血圧は150-90」
以上は、「頭鍼療法によるノイロメトリーを追って」『日本鍼灸良導絡医学会誌』VOL.7 NO.4 1978年(昭和53年)4月より要約。


 小林実弥「頭鍼療法の紹介と若干の追試」『医道の日本』昭和49年(1974年)5月号にも、焦氏頭皮鍼が紹介されています。

東洋医学とペインクリニック』1978年1月号では「頭針療法」の特集が組まれています。

1973年   「頭針療法」関西中医研翻訳委員会による焦順発氏の翻訳。
1976年10月 「頭針療法の検討(その1)
1977年01月 「頭針療法の検討(その2)47例の成績と疼痛域値から見た治療経過
1977年04月 「頭針療法の検討(その3)低周波置鍼療法による片麻痺などの有効症例報告
1977年11月 「頭針療法の検討(その4)脳血管障害後遺症の頭針療法と一般ハリ治療の比較
1977年10月 「頭針療法の検討(その5)疼痛域値におよぼす影響
1978年07月 「頭針療法の検討(その6)脳血管障害後遺症を主として

 この「頭針療法」については、成書が少なく、歴史をきちんと系統的に書かれた本が無いため、ドロナワ式に文献調査を進めています。1972年9月に日中国交正常化という歴史的事件が起こり、この頃の『医道の日本』を見ても、ハリ麻酔など中国から新しく入ってきた技術を日本人鍼灸師は貪欲に吸収しようとしています。1973年には、早くも焦氏頭皮鍼の翻訳があり、この時期に、山元敏勝先生、和田清吉先生、吉田一次先生、田中法一先生、小林実弥先生など、多くの先生方が全国でその追試を行ったようです。

  大阪医大ペインクリニックの「頭針療法の検討(その1)」では、中国と比較して、期待したほどの成果は挙がっていないと分析していますが、同時に、手法は中国の1分間200回転の捻鍼を用いずに、低周波鍼通電を用いたことが書かれています。「頭針療法の検討(その2)47例の成績と疼痛域値から見た治療経過」では、有効例は55%程度でした。 「頭針療法の検討(その6)脳血管障害後遺症を主として」では、「中国の頭針療法はプラシーボ頭針と比較して、確かに効果がある」、しかし、「その効果は50%程度に改善率を得るにとどまる」、「体鍼を併用することが大切(体鍼を併用すれば、有効率70%)」であると結論しています。追試した結果、効果はあったけれども、期待したほどの効果がなかったと失望した様子が伝わってきます。山元敏勝先生、和田清吉先生、吉田一次先生、田中法一先生が「焦氏頭皮針」以外の、頭皮鍼を採用されているのも同じ理由になります。
 以上が、頭皮鍼に関する文献調査を行った際のメモです。

頭皮鍼の考察(吉田一次先生)

2012-04-11 | 頭皮鍼
 1978年12月の『日本東洋医学会誌』に頭皮鍼に関する非常に面白い論文を見つけた。

吉田一次著「頭針療法への考察
『日本東洋医学会誌』 29(3), p115-123, 1978-12

 吉田一次先生(医師)は、1973年に中国、山西省の焦順発先生が発表された「焦氏頭皮鍼」を追試したが、考えたほどの効果が得られなかった。そこで、再吟味を行った。

「頭針の図式は大脳皮質の機能局在によるものであるが、脳外科ー開頭術を経験された医師なら理解されると思われるが、脳病変によって、ブロードマン大脳皮質地図はそのままのものでない
 ましてや人それぞれによって異なる病態(脳出血、脳浮腫、ヘルニア、細胞変性、奇形など)を示すもので、中国式頭針図式そのままのものでないことが解る。中国式のものをそのまま、うのみにするわけにはいかないと思われた。そこで、筆者はノイロメーターを使用し、反応良導点を求め、刺鍼通電(低周波置針法)療法を試みた。その方法によって、いくらかなりとも効果があるものが現れたので、筆者の経験と私見考察を加え、諸賢のご批判を乞うものである」

「反応良導点検索を行ったところ、病巣が脳半球に存在すると思われたものでも、反応良導点は両半球に大半は求められた。すなわち、病巣部一側のみでなく、健康側と思われた半球にも良導点が出現することである。この事実によって筆者は刺鍼通電は両側に行うべきであることを識った」

症例:67歳、男性。
脳梗塞(脳軟化症)による左片麻痺(言語障害)
「運動区」「血管攣縮区」ない反応良導点が出現したので、その部で脳波検査したところ、両側に徐波傾向であり、この部位に低周波針通電療法を行った(体針も行う)、約1年後には脳波所見も改善され、歩行も杖なしでかなりスムーズに歩行でき、言語発声も明瞭になり喜ばれた。
治療:ノイロメーターで良導点を検出し、1寸6分の針を横刺で2-3cm刺入する。クリップで挟み、3ヘルツ、15-20分通電する。頭針だけでなく、耳針、体針を併用し、針治療後、運動療法を加えた。耳針は脳幹、皮質下。体針は足三里、陽陵泉、三陰交、上下肢の場合は手三里、合谷などに低周波置鍼療法。

 上記の吉田一次先生の症例は非常に興味深い。まず、焦氏頭皮鍼の追試をしたが、あまり効果がなかったことをおっしゃっている。これは、1973-1975年頃に、同じように焦氏頭皮鍼の追試をされた、和田清吉先生や山元敏勝先生も同じことをおっしゃっている。そして、和田清吉先生も山元敏勝先生も吉田一次先生も、「中国の頭針図ではなく」、ノイロメーターで良導点を探索することで、臨床的効果を挙げて、和田清吉先生は「頭髪際鍼」を、山元敏勝先生は「YNSA」を発展させていく。吉田一次先生も、1978年の論文の中で「焦氏頭皮鍼」を論文中で紹介しながら、「眉毛中央上4センチ・正中線に向かって1-3センチ」に「胸上肢穴(吉田)」という胸部疾患に効果がある新穴を紹介している。これはYNSAのE点(胸部)に非常に似た位置にあるが、山元先生と吉田先生が全く別々に発見されたとしても驚かない。

 上記の論文の第2報である「頭針療法への考察-2-前頭後頭項部への試み」(1980)では、和田清吉著『新しい鍼灸臨床入門』(自費出版、1977)と山元敏勝著『頭針療法』(山元良導絡研究所、自費出版、1974年)が参考文献として挙げられ、論文中でも言及している。おそらく、焦氏頭皮鍼について、追試して、同じことが日本全国で起こっていたのではないか? 
 そして、木村律先生が『鍼灸臨床治療法集』で言及されているように、焦氏頭皮鍼のポイントは、太い鍼で1分間200回以上の刺激を長時間、毎日行うという手法の部分に秘密があったのではないか?

 ともかく吉田論文の「頭針の図式は大脳皮質の機能局在によるものであるが、脳外科ー開頭術を経験された医師なら理解されると思われるが、脳病変によって、ブロードマン大脳皮質地図はそのままのものでない。 ましてや人それぞれによって異なる病態(脳出血、脳浮腫、ヘルニア、細胞変性、奇形など)を示すもので、中国式頭針図式そのままのものでないことが解る。中国式のものをそのまま、うのみにするわけにはいかない」という部分は非常に印象的だった。

YNSAの基本点ABC

2012-04-11 | 頭皮鍼
 youtubeのYNSAの「A点(A-PUNKT、A point)」の動画はイメージしやすい。

 基本A点は、頭部・頸椎・肩に対応している。

 「基本A点は、前髪際の位置で、正中線の約1cm両側の前頭筋の上、頭蓋骨の縫合部前方約5cmに位置する。A点は顔面の前方から後方の垂線に沿って細別点A1-A7に分かれる。髪際にA3が位置し、A1は髪際の上方(後方)約1cm、A7は髪際の下方(前方)約1cmの位置にある。すなわちA点は全体としておよそ2cmの長さを持つことになる。髪際の位置を特定するのが困難な場合、前頭部によるシワの一番上のものを目安とする。この線の約1cm上方にA点がある。」
『山元式新頭鍼療法YNSA』45ページより引用。

 4月9日メモの動画には、まさに「アー・プンクト(A-PUNKT)」つまり「A点」が山元敏勝先生の手で、解説されている。ドイツ語の「サバイカル・スパイン」は英語のcervical spine(頸椎)で、「アー・アイン」は「A1」、「アー・ジーベン」は「A7」。
 最初、ツボでいうと眉衝あたりかと思っていたが、山元先生の動画を見たら、全然違うやん!見て良かった~。

 基本B点は、頸椎・肩・肩関節・肩甲関節部に対応している。

 「基本B点は基本A点の側方約1cm、すなわち正中線の両側2cmの髪際に存在する」『山元式新頭鍼療法YNSA』47ページより引用。

 A点とB点を使った症例を山元敏勝先生は、「中国訪問 学術交流」『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL26.NO11: 268-277で発表されている。

「患者HY男性35歳タクシー運転手
既往歴:特になし
現症:約3日前より頚部痛で、僧帽筋に沿って強い痛みがあり、運転不能のため来院。理学的所見で異常を認めず、患側のA点B点の圧痛点を求めて置鍼20分間、2日目の治療で治癒した。」前掲書269-271ページより引用

 基本C点は、肩甲関節部・肩関節・手指に対応している。

 「基本C点はB点の側方約2.5cm、すなわち正中線の両側4.5-5cmのところに存在する」『山元式新頭鍼療法YNSA』47ページより引用。

以下はC点を使った症例。

「患者KI男性43歳会社役員
既往歴:特になし
現症:4日前より突然左肩甲関節痛のため、左上肢の運動不能で来院。即ち肩甲関節周囲炎で局所の腫張があり、三角筋ならびに上腕三頭筋の圧痛があった。
検査:尿糖(++)、空腹時血糖130mg/dlで、肩甲関節部X線で異常を認めず。左側C点に圧痛点を求めて、両側C点にSSP電極通電、通電方法は5ヘルツで20分間通電。通電中に痛みが軽快し、左上肢の軽い運動が出来るようになり、4日目の治療にて治癒した(写真あり)」
山元敏勝「中国訪問 学術交流」
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL26.NO11: 268-277より引用。

2012年4月09日月曜日メモ

2012-04-09 | 頭皮鍼
 youtubeでの「YNSA 山元式新頭鍼療法 山元リハビリテーションクリニック 26/11/2009 」は非常に良い番組で、短時間でYNSAの概要がよく分かる。

 この動画も、とても良い。「アー・プンクト(A-PUNKT)」は‘A点’だろう。大学でドイツ語をやっていたので、「A点」程度は聞き取れる(笑)。HWS症候群というのは、ドイツ語の頸肩腕症候群のようだ。合谷で左右差を見て、首診するのが直接見ることができて、初心者にとって、YNSAのイメージができやすい

2012年4月7日土曜日メモ

2012-04-07 | 頭皮鍼
 1990年から1995年の山元敏勝先生の論文を精査する。一番面白かったのは、1995年2月のドイツ、ハルムート・ハイネ氏との共著の「刺鍼術経穴の機能解剖学」。西洋医学の立場から、「皮下組織の結合織のプロテオグリカンなどのコラーゲン網状組織が西洋医学的には経穴の本態である」というのが、わたしの長年の持論だが、顕微鏡による組織写真も含めて、ようやく説得できる科学的根拠のある日本語に訳された論文にたどりついた。英語論文では、ずいぶん前から読んで納得し、5年以上前に、「科学派」の日本人鍼灸師の先生方や中医師の先生方に、少し話したが、全く相手にされなかった。「ボンハン小体」のような屈辱的な扱いを受けて、憤慨していたのを覚えている。なんだ!日本語訳された論文があったじゃん!これは「科学派」の先生方だけでなく、私も不明というか、努力不足・勉強不足だった。山元敏勝先生の日本語論文の精読はこれにて、一区切り。すごく勉強になり、ふだんの何倍も自分の成長を実感できた。

1994年12月
新しい頭針療法
『日本良導絡自律神経学会雑誌』 39(12): 353-360, 1994
・1973年の中国の頭皮鍼療法(焦氏頭皮鍼)の追試をおこなったが、期待した効果を出せなかった。しかし、督脈の神庭を頭部と考え、人体各部が投射されていることに気づいた。1973年にA・B・C・D・E点。F点は乳様突起上にあり、坐骨神経と関係がある。G点は乳様突起下で膝関節と関係があり、肺経にも関係がある。目、鼻、口、耳に対応している点。Y点と12経絡。腹診(Abdominal Examination)とY点の関係。坐位で脱衣せずに診断できる方法として1987年の首診(Neck Diagnostin)の発見。

1994年12月
刺鍼術経穴の機能解剖学
ハルムート・ハイネ,  ドイツ・ヴィッテン大学解剖学臨床形態学研究所, 山元敏勝
『日本良導絡自律神経学会雑誌』 39(12): 343-346, 1994.
・結合組織のプロテオグリカンやグルコースアミノグリカンなどのコラーゲン、バイオポリマーがバイオセンサーとして大きな働きをしている。皮膚上の電気抵抗が変化する部分である。

「経穴の部分では、この筋膜は疎性結合組織で覆われた『神経血管束』によって急角度で貫通されており、そこでは円形ないし細長い孔が形成されている。この孔はまた経穴部位における電気抵抗の中断の原因であり、これはコラーゲンの網状組織が高い電気抵抗を示すためである。全ての古典的経穴361ヶ所のうち80%以上は、筋膜を貫通する神経血管束として形成されている」

1995年2月
新しい頭針療法
『日本鍼灸良導絡医学会誌』 23(2): 27-34, 1995
・特別講演であり、学会掲載論文は、1994年12月と全く同じ内容。

1995年2月
刺鍼術経穴の機能解剖学
ハルムート・ハイネ, ドイツ・ヴィッテン大学解剖学臨床形態学研究所, 山元敏勝
『日本鍼灸良導絡医学会誌』 23(2): 15-20, 1995.