赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

日本のノーベル賞授賞を妨げた事業仕分け  コラム(57)  

2015-10-09 00:00:00 | 政治見解



コラム(57):日本のノーベル賞授賞を妨げた事業仕分け


ノーベル賞ラッシュ

二日連続で日本の科学者がノーベル賞を受賞することが発表され、国民に勇気と感動を与えています。

10月5日には、大村智・北里大学特別栄誉教授の生理学・医学賞に受賞が決定しました。「世の中に役立ちたい」との思いが、アフリカなどの毎年約3億人にのぼる感染症の危機を救っているという事実に、改めて深い感動を覚えました。

続いて6日には東京大学宇宙線研究所所長の梶田隆章教授がニュートリノに質量があることを発見した功績により物理学賞の受賞が決定しました。これまでの素粒子物理学の常識を覆し、宇宙や物質の誕生の解明に迫る業績が評価されたものでした。


民主党の見識不足

これまでの科学分野のノーベル賞は、人類の発展に大きく貢献した発見に贈られています。しかし、そこに至るには膨大な時間と労力、そして資金が必要とされており、基礎研究の分野における苦労は並大抵ではありません。その意味で、日本の国家的な財政支援は極めて重要な要素だと思います。

ところが、民主党政権下における行政刷新会議では、こうした基礎研究の重要性を理解せず、無用の長物扱いをして予算削減措置をとりました。「ニュートリノ」の実験施設である「スーパーカミオカンデ」もその対象になっていたのです。


関係者の悲痛な叫び

2009年11月25日に、事業仕分け作業が「国立大学運営費交付金(2)特別教育研究経費」に対して行われた際には、「廃止6名、縮減6名、要求どおり2名」との結果となり、仕分け作業グループ【※1】の見解として「予算の縮減」ということが示されたのです。

【※1】第三ワーキング・グループ(文部科学省、農林水産省、防衛省担当)メンバー:田嶋要(衆議院議員)、蓮舫(参議院議員)、赤井伸郎、新井英明、小幡純子、伊永隆史、高橋進、中村桂子、永久寿夫、西寺雅也、原田泰、速水亨、藤原和博、星野朝子、松井孝典、南学、山内敬、吉田誠、渡辺和幸の各氏。



このとき、スーパーカミオカンデ実験代表者の鈴木洋一郎氏は次のような悲痛な声明を出しています。

この「特別教育研究経費」の中には、我々が、神岡の地下において推進している「スーパーカミオカンデ」や、国立天文台の「すばる望遠鏡」、高エネルギー加速器研究機構の「JPARC」「B―factory」など、日本を代表する基礎科学研究が含まれています。しかし、研究の意義などは一切議論がなされぬまま、予算全体を一括して縮減しなさい、ということになりました。

スーパーカミオカンデは、ニュートリノ振動の発見により、世界で初めてニュートリノに質量があることを示し、新たな素粒子標準理論構築への突破口を与えています。現在、未発見の最後のニュートリノ振動ともいうべき現象の発見をめざし、東海村のJPARCで作られたニュートリノを、295km離れたスーパーカミオカンデで検出するという壮大な実験が始まっています。この観測に成功すれば、宇宙には、何故反物質がなく物質しかないのかという、物質生成の謎に迫るステップを築くことができます。また、スーパーカミオカンデは、明日にも起こるかもしれない星の最後の爆発である超新星からのニュートリノの飛来に備え、24時間365日、年末年始も休みなく観測を継続しています。このように、これまでのニュートリノ質量の発見という大きな成果のみにとどまらず、今後もいくつかの重要な成果が期待されています。

予算の縮減により、観測が短期間でも止まるようなことになれば、10年から20年に一度しかない超新星からのニュートリノの検出を逃してしまう可能性もあります。また、予算の縮減により、測定器の質を維持することができなくなる可能性もあります。これまで、10年以上かかって、世界のトップになった日本のニュートリノ研究は止まってしまい、継続する研究者も絶えてしまうことでしょう。落ちるのは、早く、瞬く間に科学の2流国、3流国になってしまうでしょう。一度そのようになれば、世界のトップレベルにもどるには、さらに10年、20年とかかることになります。

基礎科学は短期的には、何も役に立たないものと思われるかもしれません。基礎科学は「分からないこと、不思議なことを探索して、真実を知る」ということが本質ですが、何十年か経った後に、思わぬところで役に立つこともあります。80年ほど前に、原子核のふるまいを研究して生まれた量子力学は、今では、半導体の原理を理解するにはなくてはならないものです。アインシュタインの作った一般相対性理論は、90年経って、カーナビゲーションシステムでお馴染みのGPSの基礎を支えています。

スーパーカミオカンデで行っているニュートリノ研究も、今は、物質の成り立ち(素粒子)と宇宙の謎に挑戦していますが、100年後には全く考えもつかなかったものに応用されているかもしれません。皆様の基礎科学研究に対するご理解とご支援を、強くお願いいたします。



民主党はiPS細胞の山中教授の予算も削減していた

2012年にiPS細胞の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授も、民主党政権下で研究費を削減された一人です。

2008年の麻生政権では総額2700億円の研究費を30人の研究者に配分する「最先端研究開発支援プログラム」に認定されていましたが、2009年の民主党政権の事業仕分けで1000億円に減額されています。

当時のインタビューで山中教授は「iPS研究は国際競争を勝ち抜く重要な時期。せめて10年、資金繰りと雇用を心配せず、研究に没頭させてほしい。成果が出なければ10年後にクビにしてもらってもいい」(2010年1月3日付朝日新聞)と述べていました。

山中教授と同様の研究をしていた北海道大学の白土博樹教授も、「減額幅が3分の1と、あまりにも大きかったので、研究そのものを諦めようかという状況にもなりました」と言うほど、研究者の落胆は大きいものでした。


民主党政権が続いていたら・・・

三年三ヶ月にわたる民主党政権の不見識さにより日本の科学者の士気を著しく下げました。さらに民主党は、人類向上のための研究を妨害したに等しい重大な失策をしたのです。

私たちが選択する政党によっては、今回のノーベル賞の受賞は無かったかもしれませんし、地球や人類の起源に関する研究も大幅に遅れ、人類にとっての大きな損失を招くことになっていたかもしれません。

ノーベル賞受賞のニュースは、国民による政権選択の重みを再認識する機会になったと思います。




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