前回の超お宝画像を見て、伝統大工の魂と、仕事の質の高さ・丁寧さがご理解頂けたでしょうか?
とはいえ、一番恥じた(開き直った!?)のは、平均寿命26年住宅を ”好むと好まざるとに関わらず” 施工なさっている大工の方ではないでしょうか。
また、一番の問題は、その平均寿命26年住宅を設計されている設計士の方が、前回画像を見てさえも、それが何が何だかさっぱりご理解不可能だということ。
”設計士”といったって、もう、一般の素人の方と或る意味、同じレベルなのですから。
【間取りの現実-構造計画から①、②】を見れば明らかでしょ (^‐^)凸
ということで、今回はいろいろな渡腮をご覧あれ。
まずは、梁に磨き丸太を使っての、平角(ひらがく・正長方形断面の構造材のこと)材との渡腮。
平角材は実際は4メートル位はあるので、サンプルピースを作製して、接合が確実になされているかをこうしてチェックします。上段右の画像は、理解し易いように、天地を逆にして撮影してありますが、あれっ!? サンプルピースが落下していないぞ!? (^‐^)凸
これ、手品じゃありませんよ。墨付け・刻みをしっかり行っていることの証明です。見え掛かりにかみそりの刃一枚の隙間が生じることも無く、しかも見えない内部では独特な細工を施すことで(それを、”効かす”と言うのですが、企業秘密?なので、今回画像は内部をお見せしません♪)、こうした質の高い接合部を人間の手仕事で作り出しているのです。
現在主流の平均寿命26年住宅の接合部の考え方はネ、構造接合部をピン接合のみとして捉えているので、『接合部がユルユルのガタガタでも、金物さえ施工して外れないようにしておけば良し』とするような、乱暴なものなのですよ。
ただそれじゃぁ、腕の悪い大工と同じレベルなものだから、ハウスメーカーをはじめとして、『コンピューター制御のCAD・CAMによる全自動プレカット構造材加工』といった、『腕の悪い大工とは比較にもならない高精度の構造材加工を採用』だとか『大工による技量に左右されない高品質・高精度の構造材加工を採用』といった営業トークで、各社自社物件が極めて高品質であることをアピールしているのですね。
ただ全自動といったって、加工出来るのは、ラインに乗せられる迄の寸法の正四角形断面材による【蟻】【鎌】【大入れ】だけなんですよね~。よっぽど最先端の設備投資をしているプレカット工場ですら、【寄せ蟻】【乗せ継ぎ】【略鎌継ぎ】【かぶと蟻】【茶臼蟻】【二段二重胴差し】(※私の知る限りによる。接合名称はいずれも加工機メーカーによる呼称)程度です。柱の木口立てに必要な【落とし蟻】なんて、もってのほか!
全自動加工機ではダボすら出来ないし、前々回の【完全基本形渡腮】すら出来ないのに、建築主である素人が知らないからといって、言いたい放題・やりたい放題の平均寿命26年住宅なんですよね。渡腮の簡単な歴史ぐらい、木造技術者なら知っているべきこと!
ですからね、住宅の品質の向上については、住宅が経済政策オンリーであり続ける限りは、そこに錬金術師がいつまでも群がり続けて甘い蜜を吸い続けるのだから、”ホンモノ”は虐げられ続けるのでしょうねぇ。『悪貨良貨を駆逐する』なんていいますものね。私は頑張るけど、お金を出して下さる建築主の方、早く気づいて!(笑)
さて、次の画像。梁に両方松丸太を使っての渡腮。
上段右の画像がまだ組む前の丸太どうし、それ以外が完成形です。丸太どうしだってこうして渡腮を組んじゃいます。
墨付け・工作の難易度は上の画像の”丸太+平角”によるものよりもはるかに高く、大変手間がかかります。この場合も、可能な限り見え掛かりに隙間を作らないように努めましたが、よ~っく見て(◎_◎)下さいね。接合面に直線状の下ごしらえをせずにほぼ丸のままこうして組むのは、大変なのですよ。
さて、この松梁にはもう一箇所渡腮があるのですが、それが次の画像です。
上段右の画像がまだ組む前の丸太どうし、ただし『スカーフ』の工作後。それ以外が完成形です。
一見、上の画像と同じように見えますけど、全然違った渡腮なんですよ。こちらの方は、カナディアン・ログハウスを組む時の技術からアプローチしたもの。ログビルダーの技術で、『ロック・ノッチ』という木組みです。ログハウスでは最もポピュラーとされる『サドル・ノッチ』を更に堅固に木組みする技法で、内部にこれまた細工を施しています。
上の木組みと見た目に異なるのは、こちらは『スカーフ』と呼ばれる直線状の下ごしらえを下木側に工作していること。同じ丸太を組むのに別々の木組みを採用して、私自身も楽しんで(^‐^)v仕事をしている訳です。お客さんも楽しんで、喜んで貰えるとありがたいです。
私は常に構造のことを第一義に考えて、私自身の頭の引き出しから最も適した木組みを採用しています。ご心配は本当に無用です。私は”何とかの一つ覚えの一級建築士”ではありません。
また、全自動プレカットのように、”生産ラインで出来ることだけに全てを当てはめる”→”大量生産を前提とした住まいづくり” なのではなく、常に、より多くの頭の引き出しの中から最適と思われる技術を選択して、住まいづくりに活かすというアプローチを採っています。手間はかかりますが、良いモノ・ホンモノはそうしなければ出来ないと考えているからです。
さて、話をこの松梁に戻すと、依頼者の意向で、築100年を超える古民家のようにしたいとのことでした。木組みを見る限り、いい感じでしょ?煤で黒くなった古民家のような梁に見せるために、建前後・竣工前に黒く塗って仕上げるそうです。構造材は私が責任を持って担当しました。後は、次工程の方に引き継ぎです。
大工の手仕事によってのみ可能になる、構造と意匠です。素晴らしいでしょう(^‐^)凸
さて、もう一つご紹介しましょうネ。
唐招提寺・宝蔵の木組み(上段の2画像)と唐招提寺・宝蔵(下段の画像)です。唐招提寺・宝蔵の画像はHP【morisawa.org】内の【列島宝物館】内の【奈良県の国宝と重要文化財の建造物・建築物の一覧】の【唐招提寺宝蔵の写真】からお借りいたしました。凄いパワーのサイトですね。脱帽です。
この国宝建築の構造木組みも実は渡腮なのですよ(^‐^)凸 私の【釘を使わない大工さんの木組み展・伊豆高原】と【釘を使わない大工さんの木組み展・東京】では直接手にとって自由に組んだり解いたりしてもらいましたが、今回は内部構造の紹介はなしネ♪ いつかまた木組み展を開催出来る時がありましたら、その時に体験して下さいねp(^‐^)q
さて、こうして見ると、渡腮といっても実にたくさんの応用例があることに何となくお気づきになったことだろうと思います。木組みで構成される木造伝統構法は奥が深いでしょう!? 私自身ただただ勉強させて頂くことことばかりですが、一日でも早く、伝統構法の素晴らしさ・伝統大工の技術の確かさを1人でも多くの方に知って頂き、木造住宅を建てる際に選んで頂きたく存じます。
たかが木組み、されど木組み。渡腮仕口ひとつでも、伝統大工は魂を込めています。