時々新聞社

慌ただしい日々の合い間を縫って、感じたことを時々報告したいと思います

「蟹工船」悲しき再脚光、売り上げ5倍

2008年05月16日 | 社会問題
プロレタリア文学を代表する小林多喜二(1903~1933)の「蟹工船・党生活者」(新潮文庫)が、今年に入って“古典”としては異例の2万7000部を増刷、例年の5倍の勢いで売れている。
過酷な労働の現場を描く昭和初期の名作が、「ワーキングプア」が社会問題となる平成の若者を中心に読まれていると報じられた。
「蟹工船」は世界大恐慌のきっかけとなったニューヨーク株式市場の大暴落「暗黒の木曜日」が起きた1929年(昭和4年)に発表された小説である。オホーツク海でカニをとり、缶詰に加工する船を舞台に、非人間的な労働を強いられる人々の暗たんたる生活と闘争をリアルに描いている。
文庫は1953年に初版が刊行され、今年に入って110万部を突破。丸善丸の内本店など大手書店では「現代の『ワーキングプア』にも重なる過酷な労働環境を描いた名作が平成の『格差社会』に大復活!!」などと書かれた店頭広告を立て、平積みしている。
多喜二没後75年の今年は、多喜二の母校・小樽商科大学などが主催した「蟹工船」読書エッセーコンテストが開催され、若者からの応募も多かったという。
この小説の特徴は、特別な主人公がなく、しいて言えば、労働者集団を主人公に描いていることである。この点、異質な小説である。
私の記憶が正しければ、「地獄さ行くんだで。」で始まる小説である。
過酷な蟹工船での労働条件の中で、労働者はついに蜂起するが、味方だと信じた駆逐艦から派遣される兵士によって最終的には弾圧されてしまう。資本家階級と当時の軍部の癒着、あるいは、軍隊という「権力」が所詮は資本家という支配階級のためにのみ機能していることも巧みに描き出している。最終的には弾圧される労働者であるが、この事件が労働者たちを新たな闘争への決意に駆り立てていくという形で結ばれている。
当時の状況を労働者の立場からリアルに描き出した名作である。
新潮文庫には「党生活者」も収められているようだが、こちらも非合法下で共産党員として地下活動を行う多喜二自身の姿が描かれている。母親とのわずかな出会いの場面が印象に残っている。癖のある多喜二の背に向かって、母親が「すぐにわかる」という言葉を繰り返す場面が妙に記憶に生々しい。これが多喜二と母親の今生の別れとなったであろう。
さて、読売新聞は、「悲しき」?再脚光と報じているが、ワーキングプアなど、現代の若者の働き方(正確には、企業による若者の働かせ方)と相まって、共感が広がっているものであり、この小説が極めて現代的な意味を持つとの評価を受けている証左であろう。
芥川賞や直木賞などの受賞作とは根本を異にする内容に新鮮さを覚えるのかもしれないが、編集長は、最近の作家の中に、現代のワーキングプアや格差の拡大などをテーマにその本質を鋭く抉り出した小説があまり存在しないことを大変残念に思っている。
だからこそ、小林多喜二への回帰となって現われているのではないかと思われる。
若い作家(若くなくても良いが、)が、現在の労働現場の問題、たとえば男女差別、リストラや過密労働、派遣社員や契約社員、非正規雇用や偽装請負、サービス残業や企業による給料のピンハネ、・・・などをテーマにした小説に挑戦されることを切望している。

最新の画像もっと見る