阿部ブログ

日々思うこと

GPSを活用した送電システム革命の可能性

2016年05月18日 | 雑感
最近、電力システムを根本から変えてしまう可能性のある技術が開発された。この技術は電力をインターネットのようにパケット(小包)にして送電し、GPSの信号を利用して電力システム全体を制御する技術である。
インターネット登場以前の通信システムは、アナログ通信と呼ばれる方式で、音声やデータを電気的な波形に変換して送信していた。インターネットは、これを様々な通信ルートを経由して通信できるように柔軟性を持たせる為、送信データを細切れにして送る技術を確立した。これが前述のパケットである。パケットには、送り先が分かるように「荷札」(送り先の住所が書かれている)に相当する情報を付けて送信され、様々な経路を通って確実に送り先に送り届けられる。今の電力システムも交流と言う連続した「波」で送電しており、アナログ通信と考え方は同じである。これをインターネットと同様に電力をパケット化して送電する技術開発が1990年代から行われてきた。しかし、送電ネットワークの中継装置などにおいて電力パケット同士が衝突する可能性がある。インターネットにおいては、衝突して失われたパケットは再送信するだけで良いが、電力パケットの場合は、中継装置などが破損し停電となる。この問題を解決する為の研究が日本や欧米で行われて来たが抜本的な解決には至っていなかった。
この電力パケット衝突問題を抜本的に解決する技術が、大阪市立大学において開発された。これは、電力システムに接続されている電力ルーター、中継装置などの機器をGPS信号により時刻同期させ、かつパケットを制御するアルゴリズムにより、パケット衝突を回避する技術である。(※GPS信号には原子時計の時刻情報(3000万年に誤差1秒)が含まれる)
このように電力をパケット化して送電・制御できるようになると、風力や太陽光発電の導入で問題となる周波数変動問題を回避することができることから、 今まで以上の再生可能エネルギー導入が可能となる。また電力小売自由化により、希望する電力会社が発電する電力(電力パケット)を選択して購入出来るようになる等、電力システム全体の効率化と最適化が可能となる。将来的にこの技術が導入されると電気エネルギーに大きく依存する現在の社会システムのあり姿を変貌させる可能性が高いことから、今後の技術動向には十分な注意が必要である。

凝縮系核反応の研究開発動向に注目~次世代のエネルギー源

2016年05月18日 | 雑感
今年4月、東北大学の電子光理学研究センターに「凝縮系核反応共同研究部門」が設立された。この研究部門設立の背景には、内閣府の「革新的研究開発推進プログラム」(ImPACT)のプログラムである「核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化」のフィージビリティ・スタディの一つに選定された事がある。高レベル放射性廃棄物は、10万年以上、生物界から隔離する必要があり、原子力の負の遺産であるが、凝縮核反応がこれを低減化する可能性があるとして期待されている。
凝縮系核反応とは、固体のように原子や電子が多数集積した状態で元素が別の元素に変換する現象を言う。凝縮系と言う言葉は「固体」を意味し凝縮系核反応は別名「固体内核反応」とも言われている。通常、元素変換を行うには、原子炉や加速器が必要だが、凝縮系核反応の研究開発は、比較的簡単な装置で行える利点がある。元素変換は、太陽内部において水素同士が融合してヘリウムに変換しており身近な物理現象である。この元素転換の際には莫大なエネルギーを生んでいるのはよく知られているが、この凝縮系核反応においても、過剰な熱エネルギーの発生が観測されており、新たなエネルギー源として研究が行われている。2009年には米海軍(Space and Naval Warfare Systems Command:SPAWAR)やNASAが研究を始め、2012年にはミズーリー大学、2015年にはテキサス工科大学が凝縮系核反応の研究センターを開設している。既に欧米ではベンチャー企業が試作品の開発に着手している。
しかし、凝縮系核反応の研究を現在まで主導してきたのは日本である。特に三菱重工の「パラジウム多層膜による核変換」現象の発見は、世界の注目を集めた。東北大学の凝縮系核反応共同研究部門には三菱重工で核変換技術の研究に携わってきた岩村康弘氏が特任教授で参画し、凝縮系核反応のメカニズムと熱利用、放射性廃棄物の低減化についての研究を開始した。凝縮系核反応は「試験管の中の太陽」とも言われ核変換によって生じる熱を利用した次世代クリーンエネルギーとして期待され豊田中央研究所など民間での研究も行われてはいる。しかし、日本は基礎研究では世界最高レベルにあると評価されることが多いが、研究成果の商業化には失敗する確率が高いと指摘されている。だが、凝縮系核反応のエネルギー利用については、確実にビジネスとして成功させる為、産官学の緊密な連携のもと、継続的かつ長期的な投資を可能とするオールジャパン体制での取組が重要である。