米中経済・安全保障評議会(U.S.-China Economic and Security Review Commissionが年次報告書(2014)を発表。611ページあるので読むのは大変だ。
この報告書のための調査は、公開/非公開資料の分析だけでなく、米国連邦議員、大学やシンクタンクなど60人以上にヒアリングを実施している。また調査員を韓国やオーストラリアに派遣し、意見聴取している。
報告書の構成は、下記の通り。
Executive Summary
Comprehensive List of Recommendations
Chapters:
Chapter 1 U.S.-China Economic and Trade Relations
Chapter 1; Section 1 Year in Review - Economics and Trade
Chapter 1; Section 2 U.S.-China Bilateral Trade and Economic Challenges
Chapter 1; Section 3 China's Health Care Industry, Drug Safety, and Market Access for U.S. Medical Goods and Services
Chapter 1 Section 4 U.S.-China Clean Energy Cooperation
Chapter 2 Military and Security Issues Involving China
Chapter 2; Section 1 Year in Review Security and Foreign Affairs
Chapter 2; Section 2 China’s Military Modernization
Chapter 2; Section 3 China’s Domestic Stability
Chapter 3 China and the World
Chapter 3; Section 1 China and Asia’s Evolving Security Architecture
Chapter 3; Section 2 Recent Developments in China’s Relationship with North Korea
Chapter 3; Section 3 Taiwan
Chapter 3; Section 4 Hong Kong
この報告書で注目すべきは、中国の核戦力の脅威が増大するとの指摘だ。特に日本に対する核抑止、所謂「核の傘」が脆弱性を増すとのコメントには留意が必要。国内にある米軍基地が第二列島線以東に戦力を移す可能性がある。報告書は、今後10年以内に西太平洋地域の米軍基地が脅威を受けるとし、今後5年間に中国は、地上発射、海上・海中からの核投射能力を多角し、更なる多様な軍事及び外交オプションを手にする。これは、米軍の核抑止能力を弱め、特に日本に関して影響を与える可能性がある、と書いている。
中国の戦略原子力潜水艦(SSBN)の能力も強化される。現在Jin級SSBNが3隻就役しているが、2020年までに2隻のJin級SSBNが加わり5隻体制となる。このJin級にはSLBM JL-2×12基(8200km)が搭載される。ハワイ西部海域から発射すると米国本土が射程内におさまる。報告書にはロサンゼルスが攻撃された際の図が掲載されているが、Jin級が米潜水艦や海上自衛隊の潜水艦隊の追跡・監視から逃れられるとは、現状では考えにくい。
中国共産党海軍は、勢力伸張中なれど今だ3流海軍だ。しかし、中国本土の核戦力は大きな懸念材料だ。DF-31は、DF-31Aとなって射程距離が12500kmとなり、既に米国本土を射程内に収めている。また2015年に配備が予期されるとされるDF-41は、更に1000km射程距離が伸び13400kmとなり完全に米本土を被覆する。しかもMIRVで弾頭が10発なので、前述したロサンゼルスを攻撃した際に、市内全域での生存率はゼロであるとしているのはある種当然だ。複数のMIRVをBMDで防ぐのは不可能。
一番の懸念材料は、サイバー戦と情報/監視/偵察(intelligence, surveillance, reconnaissance)能力の強化かもしれない。中国は、軌道上にある衛星を破壊できる能力を獲得している。米軍の軍事行動は、全て通信衛星と31基のGPS衛星に完全に頼っている。米空軍はGPSジャマーにかなり敏感になっている。GPSの電波は典型的な微弱電波で、妨害したり、欺瞞するのは赤子の手をひねるのも同じ。中国は、この宇宙インフラを先制攻撃で破壊することを目論んでいると考えられている。また着々と中国版GPSである「北斗」システムを構築中で、既に北東アジアは北斗によってカバーされており、日本は中国の巡航ミサイルによる精密攻撃を受ける脅威下にある。例えば、日本の海上戦力を無力化するには海上自衛隊の基地を多数の巡航ミサイルで攻撃すればよい。佐世保、呉、横須賀。特に呉の潜水艦基地が破壊されると魚雷の補給もままならなくなる。自衛隊で一番重要な攻撃戦力は潜水艦だろう。
日本は防衛戦略から国防戦略に転換し、韓国の戦術ミサイル、中国の核戦力と莫大な数の巡航ミサイルから防御する戦略に転換する必要がある。中国の巡航ミサイルの弾頭の一部は通常型ではない。
2002年から2014年まで報告書を出し続けている米中経済・安全保障評議会だが、これら報告書の分析内容の推移を見てみるのも面白いかもしれない。