プーチン首相は4月30日、ペンザ州で地元の物理学研究所職員らと会談した。当然の如く福島第一原発事故に言及したが、福島の事後はそもそも津波の危険性が高い所への立地や発生直後の日本政府、東京電力の対応の問題など、天災と人災が幾つも重なったケースであり、ロシアの原発では同種の事故は起こらないと述べた。
またプーチン首相は「ロシアの原発は最新型であり、3日間は外部電源が喪失しても原子炉が正常に機能し続ける性能を有しており、世界一安全」であると強調した。しかし、プーチンが何と言おうと、ロシアの原発の信頼性・安全性には問題が山積し、今後も核事故が起こる可能性が高い事は、桜井淳氏の著書『原発のどこが危険か』からも明らかである。
ところでロシアの電力需要に占める原発の割合は現在16%程度であるが、これを25%に引き上げる方針には変更がないともプーチンは述べている。
現在、ロシアに10か所、合計32基の原子炉が存在し、その発電能力は合計24.2ギガ・ワット。これはロシア全土の総発電量の16%を占める。
懸念されるシベリアや極東地域には原子力発電所は存在しない。但し、軍事用途&研究用途は除く。
1986年のチェルノブイリ事故以降、最初に建設されたのは、高速実証炉「ベロヤルスク-4」(1999年)で、これを皮切りに3基が稼働中で、さらに12基が建設途上にある。この中で注目されるのは、ロシア原子力公社(ロスアトム)が計画している海上係留型原子力発電プラントで、これを7~8基建設するとしている。この発電プラントは700万kWの出力で、その1号機は2012年にカムチャツカ半島・ヴィリュチンスクで稼働予定である。シベリア・極東地域で初めての商用炉となる。海上発電プラントが何故最初にシベリア・極東地域なのか? 実は世界最大級の水力発電所が事故を起こして稼動停止状態が続いており、深刻な電力不足に陥っているという背景がある。
原子力産業は、ロシアにとっては、福島原発事故後も重要な輸出産業であり続けるのは確実。ロシアは、世界の原子力発電プラント市場におけるシェア16%、核燃料市場17%、ウラン濃縮の実に40%を占めており、過度に天然資源輸出に依存する国内経済からの転換する為、原子力、軍事産業など先端産業の育成を進めており、この方針は当面ぶれる事はない。
ロシアで全ての原子力を統括するロサトム(ROSATOM)傘下の原子力発電プラント輸出公社「アトムストロイエクスポルト」は、中国、インド、それと最近サイバー攻撃を受けたイラン、さらに今後はヴェトナム、イエメン、ブルガリア、ベラルーシ等で原発の新規建設を行なう。やはり新興途上国では安定した大容量の電力が経済発展に欠かせないだけに、他の代替手段がない現状では仕方がないだろう。
それとあまり表には出ないが、3月17日から29日、ロシア空軍の放射能塵収集装置を搭載した偵察機が日本領空に接近し、放射能の影響調査を実施している。航空自衛隊は、スクランブルをかけその対応した。偏西風からしてロシアに影響はないのだが、偵察機を飛ばす気持ちは理解できる。何せ4基同時の原発事故なのだから。
お隣中国では、2007年策定の「原子力発電中長期発展計画」(対象期間は2005~2020年)によれば2020年までに全中国の総発電設備容量を10億kWとし、そのうちの4%を原発としている。設備容量は4000万kW。その後、今後の経済発展を維持継続する為に、更に目標値が上乗せされ、最終的には総設備容量を14~15億kWとし、原発についても上方修正され、2011年1月の全国エネルギー業務会議において8600万kWとされた。また、今年から始動する「第12次5か年計画」(2011~2015年)では、原子力発電を2015年までに総設備容量4000万kWを目標としている。
現在中国における原子力発電所は沿海部に6か所、合計13基の原子炉が稼働中で、中国の発電設備容量の総量9億6000万kWのうち1.12%を占める1080万kWである。(2010年統計)また現在建設中の原発は28基で、総設備容量は3097万kWに達する。
福島第1原発事故発生後、中国政府は原子力政策に変更はないとしていたが、中国人民の原発不安・不信が高まりを受け、3月16日開催の国務院常務会議においては一転「原発の建設は安全を最優先させる」とし、次の4つの大方針を示している。
① 原子力施設に対し直ちに全面的な安全検査を実施する。
全面的で緻密な安全評価、潜在的な危険を網羅的に調査することを通じて、絶対的な安全を確保する。
② 稼働中の原子力施設の安全管理を強化する。
原子力施設を保有する組織・機構は制度を整え、厳格に規則を適用し、運行管理を強化する。監督部門は、監督検査を強化し、企業が潜在的な危険を遅滞なく発見し除去できるように指導する。
③ 建設中の原発を全面的に審査する。
最新の技術基準により、すべての建設中の原発に対し安全評価を実施し、潜在的な危険が存在する場合には改善し、安全基準に合致しない場合には直ちに建設を停止する。
④ 新設の原発プロジェクトは厳しく審査する。
原子力安全計画を急ぎ策定し、中長期計画を調整し完全なものとする。原子力安全計画を承認するまでは原発プロジェクトの審査・承認を一時停止する。
国務院常務会議の決定を受け、海洋局は新規原発の審査を当面受理しないと発表し、新たな原子力安全計画について国家能源局が起案作業を開始し、パブリックコメントの一歩手前まで来ている段階。中国においてはパブコメから法律制定~公布まで通常1~2年はかかるので、この間は原子力発電所の新設の審査・承認は行われないため遅滞する。これで当初掲げていた「原子力発電中長期発展計画」の目標値は下方修正されると予想される。
ロシアはともかく中国の原発事故は、偏西風の関係からその影響を受けるのは日本であり、国内でも徐々に黄砂など中国大陸からの空気伝播による環境被害が顕在化しつつある中、当地の原子力の安全確保は我が国においても最重要事項である。
以上