阿部ブログ

日々思うこと

サイバー戦争とスマートグリッド

2011年05月11日 | 日記
福島第一原発の事故を受け、関東圏に住む我々は極めて精緻に構築された電力システムから多大なる恩恵を日々受けている事を、身を持って知る事となったが、日本では今いち盛り上がりに欠けていた「スマートグリッド」が、これを契機に息を吹き返そうとしている。但し注意するする必要があるのは、スマートグリッドを語る識者には「国家安全保障」と言う観点が欠落している点。

電力システムは国家安全保障上、最重要なインフラであり、軽々に同システムを元々セキュリティなど考慮されず構築されているインターネットなどに接続させビジネスの場に解放するなど、後世からの愚行の謗りを免れ得ない。

2003年、米国において「SQL Slammer(別名W32.SQLExp.Worm)」と呼ばれるワーム(Worm:ネットワークを介して自己増殖してCPUやネットワークの負荷を増大させる不正ソフトウェア)が電力供給網の制御システムに侵入し、制御処理速度を著しく低下させ、更に「監視制御データ収集システム(SCADA)」のソフトウェア欠陥もあいまってリアルタイムのシステム制御が実質不可となった、将にこの時、オハイオ州の送電線が倒木によって電圧変動を引き起こし、SCADAが適正な制御を行なえないまま、この電圧変動のドミノ倒しがニュージャージー州の停電につながり、最終的にはアメリカ8州とカナダの一部で大規模停電する結果となった。所謂「北米大停電」である。この大停電の直接の原因は倒木や脆弱な配電網にあると語られる事が多いが、電力システムに侵入したワームがそもそもの原因であった事は知られていない。

自衛隊もサイバー空間防衛隊を創設しているが、各国サイバー部隊は、主たる攻撃目標の一つに電力システムを上げており、米軍のサイバー部隊指揮官は、敵の電力網を破壊、若しくは不能にする事により統合的な敵の反撃を断固阻止すると明確に語っている。この為、サイバー戦士は、仮想敵国の電力システムのネットワークに孔を開け潜入し、SCADAなどに論理爆弾などを事前に仕掛けておくなど、サイバー戦争に備えた活動を行なっているとされる。

国家安全保障と言う意識が極めて希薄な日本が、オバマ政権のスマートグリッド構想に乗せられて、電力システムを各国のサイバー部隊が蠢くサイバースペースに裸のまま晒す事は絶対に避けなければならない。

311以降、配電自動化や極めて安定した電力供給など世界に冠たる電力システムを構築・運用してきた日本ではあるが、地震に脆弱な発電設備や周波数問題など我が国が抱える欠陥も明らかになった今、日本に相応しい次世代の電力システムを構想し、そのあり姿を国民と共有しながら、後世に恥じない戦略的取組みを行うが必要とされている。