フクロウは夕暮れに

接触場面研究の個人備忘録です

ハワイ・クリオールと場面

2008-05-20 23:47:45 | today's seminar
今日の大学院では引き続いてウォードハフの教科書を読んでいました。リンガフランカ、ピジン、クリオールの章でしたが、ここには伝統的な言語接触論が扱われています。あまりうまく言えなかったので、少々補足します。

本章の紹介では多くの接触言語の話が出てくるとともに、多くのピジン・クリールの起源説が扱われています。たとえば、フォリナートーク説、アフリカ下層言語説、多起源説、などなどで、最後は古典的なBickertonのバイオプログラム仮説、つまり人間の普遍的な言語習得能力の現れであって、クリオールはピジンを話す両親のインプットをもとに子供がクリオールをつくるというわけです。

別な本でハワイ・クリオールについて、当時の人口統計、新聞記事や学者の日記などをもとに1900年前後のサトウキビ・プランテーションの労働者として集まってきた中国人、ポルトガル人、そして何よりも日本人の子供の言語生活を跡づけようとした論文があったので、それを参考にしていました。そこではBickertonの説が否定されているのがわかります。つまり、両親はピジン英語を話すと言っても母語を忘れるはずもなく、子供に対しては母語で話すし、子供も両親や同胞とのコミュニケーションには母語を必要とするのであって、決して両親が子供にピジンを話すことからクリオールが出来るわけではないのだと言います。そして、年長の子供が学校で学んだ英語を自分たちの英語に変えて年少の子供に伝えることから、クリオール英語が拡がっていくとも論じています(クリオールが安定するのは第3世代だそうです)。詳細は、S.J.Roberts (2000) "Nativization and the genesis of Hawaiian Creole," J. McWhorter (ed.) Language and Language Contact in Pidgins and Creoles, John Benjamins Publushing Company, pp.257-300)です。

ここでは、マクロな考察に過ぎなかった言語接触論のピジン、クリオール研究が、インターアクションの場面研究に置き換わろうとする萌芽が見られます。さらに面白いことには、上位語である英語話者人口と下位語である移民労働者の人口のどちらが多いか、あるいは現地生まれの人口と英語話者の人口とは拮抗しているか否か、といった言語コミュニティのマクロな性格によって、ミクロな個人個人の使用の傾向がかわり、クリオールの安定化の程度も決まってくるという、ミクロ・マクロの考察も行われているのですね。

このへん、接触場面研究にも参考にしたい部分なのだと思います。
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