礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

ジョン少年と柱の釘

2016-02-10 07:22:15 | コラムと名言

◎ジョン少年と柱の釘
 
 本日も、木戸麟編『小学修身書 四』(金港堂、一九八一)の紹介。
 この修身教科書は、どういうわけか、素材の多くが、「洋モノ」である。ジョージ・ワシントン少年の逸話の前にも、ジョンという少年の逸話が置かれている。同じような話題で恐縮だが、今日は、このジョン少年の話を紹介してみよう。

○ある農家尓「ジヨン」といへる童
子あり、阿る時、其の父「ジヨン」を呼
びて、汝常尓、吾教へを、まもらざ
る尓よ里、阿しき婦るまひ、甚だ於
ほし、今より、悪き事、有るごと尓、此
の柱尓、釘一本ゝを、打ちこみ、善   【一ウラ】

きこと、有るごと尓、之をぬきとる
べしと、さだめた里し、阿るハ・一
日尓、数十本も、打ちこむこと、有里
て、之を、ぬきとるは、甚だ・まれ奈り
き、かくて、「ジヨン」盤、其の柱乃、まつ
たく、・釘尓て、おほ者れたるを見て、
大尓奈げき、善童子と奈りて、其の     【二オモテ】

恥をきよめ
んと、憤激し
善き事を、つ
とめ於こ奈
ひた連バ、日
ならして、
柱上尓、たゞ、      【二ウラ】

一本の釘を、あま春尓いた連り、其
の時、父ハ、「ジヨン」を呼びて我れ・い
ままさ尓、此のくぎをもぬき春て
んと春、さらバ、柱上尓ハ、一本の釘
だ尓も奈しと、いひ希る尓「ジヨン」
盤、涙をおとして、更尓、よろこぶい
ろ、奈可り希れば、父盤之を、いぶか       【三オモテ】

り希る尓「ジヨン」は柱を、阿ふぎみ
て、釘盤、ぬきつくしたるも、其の瘢
痕のきえざる事の、奈かはしき
なりと、いひ希るとぞ、人いやしくも、
「ジヨン」の如く、心をもちひ奈バ、善人
たらん事、うたひなし             【三ウラ】

 この文章で使われている「変体仮名」は、一昨日と昨日に挙げたもの以外のものはない。
 次に「変体仮名」を、一般的な仮名に直して、書き直したものを示す。

○ある農家に「ジヨン」といへる童子あり、ある時、其の父「ジヨン」を呼びて、汝常に、吾が教へを、まもらざるにより、あしきふるまひ、甚だおほし、今より、悪き〈アシキ〉事、有るごとに、此の柱に、釘一本づつを、打ちこみ、善きこと、有るごとに、之をぬきとるべしと、さだめたりしが、あるは・一日に、数十本も、打ちこむこと、有りて、之を、ぬきとるは、甚だ・まれなりき、かくて、「ジヨン」は、其の柱の、まつたく、・釘にて、おほはれたるを見て、大になげき、善童子となりて、其の恥をきよめんと、憤激し善き事を、つとめおこなひたれば、日ならずして、柱上に、たゞ、一本の釘を、あますにいたれり、其の時、父ハ、「ジヨン」を呼びて我れ・いままさに、此のくぎをもぬきすてんとす、さらば、柱上には、一本の釘だにもなしと、いひけるに「ジヨン」は、涙をおとして、更に、よろこぶいろ、なかりければ、父は之を、いぶかりけるに「ジヨン」は柱を、あふぎ〔仰ぎ〕みて、釘は、ぬきつくしたるも、其の瘢痕のきえざる事の、なげかはしきなりと、いひけるとぞ、人いやしくも、「ジヨン」の如く、心をもちひなば、善人たらん事、うたがひなし

※この話については、2021年4月5日のコラム〝『修身教訓』(1877)に載っていた「柱の釘」の話〟を、併せて参照いただければ幸いである。2023・9・15追記。

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