◎教室を飛び出した少年時代のワシントン
昨年、たしか五反田の古書展で、木戸麟編『小学修身書 四』（金港堂）という冊子を買い求めた。奥付には、「明治十四年六月廿二日版権免許／同 十七年十一月十七日十四版御届」、「金六銭五厘」とあった。古書価一〇〇円。ただし、虫喰いがひどい。
「緒言」には、「此ノ巻ハ。初等科第二学年后期生徒ノ為ニ編シタルモノナリ」とある。
冒頭近くに、ジョージ・ワシントンの少年時代の逸話が載っている。
本日は、これを紹介してみよう。改ページ、改行を、そのまま示している。のちに言う「変体仮名」が多用されているが、これを、相当する漢字によって表記してみた（濁点つきの「変体仮名」は、下線によって区別しておいた）。
○「アメリカ」合衆国尓名高き「ジヨ
ルシ、ワシントン」幼稚尓して、学校
尓かよひし時、一日、教師の非礼を、
いきどほ里、於の可帽子を、地尓奈
希すて、たゞち尓、門がい尓はせさ里、
池のほと里尓、いたり、身体を和風 【五ウラ】
尓さらして、怒里をゆるめ、家尓か
へらんとせし可、罪を謝春るに志
かじと、於もひ奈ほして、婦たゝび、
学校にむ可ひて歩せ里、おりふし
放課の時尓して、於ほくの童子は、
堂をくだらんとせし可、「ワイント
ン」のいそぎて門に入里くるを見 【六オモテ】
て、さて盤、教
師と、争論春
るならんと
於もひしに
「ワシントン」
ハ、恥入りた
るおもゝち 【六ウラ】
尓て、教師の前尓いたり、辞をひく
うし礼をあつうして、婦可く其の
罪を謝せしとぞ 【七オモテ】
この文章で使われている「変体仮名」は次のとおり。
尓 に
里 り
於 お
可 が、か
希 げ
春 す
志 し
奈 な
婦 ふ
盤 は
なお、これらは、その当時においては、普通に使用されている仮名の一種であり、「変体仮名」と位置づけられていたわけではない。
次に「変体仮名」を、一般的な仮名に直して、書き直したものを示す。
○「アメリカ」合衆国に名高き「ジヨルシ、ワシントン」幼稚にして、学校にかよひし時、一日〈イチジツ〉、教師の非礼を、いきどほり、おのが帽子を、地になげすて、たゞちに、門がいにはせさり、池のほとりに、いたり、身体を和風にさらして、怒りをゆるめ、家にかへらんとせしが、罪を謝するにしかじと、おもひなほして、ふたゝび、学校にむかひて歩せり〈ホセリ〉、おりふし放課の時にして、おほくの童子は、堂をくだらんとせしが、「ワイントン」のいそぎて門に入り〈イリ〉くるを見て、さては、教師と、争論するならんとおもひしに「ワシントン」は、恥入りたるおもゝちにて、教師の前にいたり、辞をひくうし礼をあつうして、ふかく其の罪を謝せしとぞ
