まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

JUDI通信に庄内での都市デザイン活動を報告しました

2019-04-06 00:54:16 | 建築・都市・あれこれ  Essay

JUDI通信の2019年春季号に、庄内における都市デザイン活動にについての私の思いをつづった小文を掲載していただきました。

JUDI Report, a periodical magagine of Japan Urban Design Institute, published my short essay on what I think urban design in Shonai Region is and some architectural works in Tsuruoka City and Sakata city.

Urban design is not a way of designing a big architectural complex or urban area, but a way of realizing a hidden desire of the living people or incorporating their or regional tradition and history in our designing process.

 

山形県鶴岡市にある東北公益文科大学大学院に研究室を持ち、学生や市民とまちづくり活動を始めたのが2005年。気がつくと、庄内地域が、私の主要フィールドとなっている。

静かなたたずまいと地域社会に根差した人々の暮らしが途切れることなく続くこの地で「都市をデザインする」とは、歴史や風土との連続性の中で「今あるもの」をうまくいかしながら、これからの暮らしに必要なものを豊かな構想力と繊細なディテールで、丹念につくり込んでいくことである。それは地域固有の風景にさらなる深みと「らしさ」を与えることでもあるだろう。

鶴岡まちなかキネマでは築80年を超えた木造絹織物工場を4つのホールを持つ映画館にリノベーションした。まちの中心部に映画館を含む文化拠点を作るという荘内銀行頭取(当時)の革新的なアイデアは、まちの中の産業文化遺産で多くの人々が映画を楽しむ風景となってたち表れた。

 

                      写真‐賑わうまちなかキネマエントランスホール Tsuruoka Town Cinema

港町酒田で取り組んでいるのは、映画「おくりびと」で廃墟的な魅力が描かれた旧割烹小幡の再生である。大正期に名物女将が増築した洋館は、映画に描かれた現在の姿とは全く違い、当時流行したセセッション風のしゃれた外観を持ち、内装には輸出品であった和製マジョリカタイルが使用されていた。築地精養軒で修行したシェフたちにより本格的なフランス料理がふるまわれ、今に名高い「酒田フレンチ」の元祖ともいえる店であった。

 朽ちた廃墟の味わいも悪くはないが、次の時代につながる生き生きとした風景を作りたい。私たちは「市民の記憶としての外観保存」という定石にとらわれることなく、映画ロケに使われた外観を一掃し女将の思いのこもった大正建築を復活させることを提案した。現在実施設計中である。

城下町鶴岡の城址公園に建つ藤沢周平記念館では雪国の風土が生んだ「さや堂」形式をとりいれた。また主要な空間軸や共用空間の配置を、内部からの論理ではなく歴史的なまち割りなど周辺環境条件との応答で決定するという設計方法を試み

た。

庄内町ギャラリー温泉町湯では、この地域に多く見られる土縁をもつ町家の形式を採用し、奥に細長く延びるギャラリーを作ることで、狭い敷地という不利な条件を逆手にとった。

 しかし、遣り残したこともある。鶴岡では町人地のまち割りを活かした街区内部の空地を共同使用する集住形式を提案したい。歴史的な空間構造と個々の更新力をデザインの力で統合する試みである。一つの手がかりは1934年築のRC建築が木造町家と同じように表通りから奥の空地に抜ける通り庭を内包しているというところにある(私たちはこの建築を登録文化財に推薦した)。空き地や空き家の目立つ中心部に人々が都市生活をゆったりと愉しむ風景をつくりだしたい。

海に向かって下っていく港町特有の酒田のまち割りにも大きな可能性を感じる。ここには酒田大火のあとの復興RC住宅(なんとPC造)がある。このストックをいかしながら若い人たちが競って出店を望み、住みたがる都市的な風景に変えていきたい。

私たち人間は環境や風景との応答の中で自己形成を行う生物であり、環境や風景が安定した姿を保てないときに、よりどころを失ってしまう。しかしその安定は不断の代謝、更新から成り立っていることも忘れてはならない。地域の文化や風景にしっかりアンカーされることを心掛けながら、時代の新しい課題に答える自由な構想力を表現したいというのが私の思いである。都市をデザインする専門家としての、責任とやりがいはここにある。

高谷時彦

東北公益文科大学大学院/設計計画高谷時彦事務所

Tokihiko Takatani

Architect/Professor

Graduate School of Tohoku Koeki University, Tsuruoka City Yamagata

Takatani Tokihiko Studio architecture/urban design  Tokyo

 

 

 

 

 

 


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