まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

庄内で建築を作るということ

2020-02-21 23:53:54 | 建築・都市・あれこれ  Essay

この3月で、東北公益文科大学を定年退職します。最終講義や懇親会を開くにあたり皆さんに庄内で作ってきた建築を紹介してはどうかという声があり、簡単な冊子にまとめてみました。

折り畳みでA4サイズになります。例のごとく池田さんに作ってもらいました。

 庄内で建築をつくること

静かなたたずまいと地域社会に根差した人々の暮らしが、途切れることなく続くこの地で建築を作るということは、歴史や 風土との連続性の中で今あるものを尊重しながら、これからの暮らしに必要なものを豊かな構想力と繊細なディテールで丹念につくり込んでいくことに尽きます。それは地域固有の風景にさらなる深みと「らしさ」を与えることにつながるはずです。

城下町鶴岡の城址公園に建つ藤沢周平記念館では雪国の風土が生んだ「さや堂」形式をとりいれました。また主要な空間軸や共用空間の配置を、内部からの論理ではなく歴史的なまち割りなど周辺環境条件との応答で決定するという設計方法を試みました。歴史の風景にうまくなじんでくれることを願っています。

鶴岡まちなかキネマでは築80年を超えた木造絹織物工場を4つのホールを持つ映画館にリノベーションしました。まちの中心部に映画館を含む文化拠点を作るという荘内銀行頭取(当時)の革新的なアイデアは、まちの中の産業文化遺産で多くの人々が映画を楽しむ風景となってたち表れています。

庄内町ギャラリー温泉町湯では、この地域に多く見られる土縁をもつ町家の形式を採用し、奥に細長く延びるギャラリーを作ることで、狭い敷地という不利な条件を逆手にとりました。

吹浦防災センターでは、仙台高専小地沢先生(当時)の指導の下で徹底的に地元の方々が何を望んでいるのかを考えました。それは同時に吹浦の人々のくらしかた、考え方を学ぶプロセスでもありました。楽しく使われているのを見ることは設計者にとっての喜びに他なりません。

鶴岡商工会議所会館では、内川に対しては開放的な階段、羽黒街道に面しては動きのある表層ゾーンを作ることで、歴史的な街角に歴史を尊重しながらも新しい表情を持つランドマークを作りました。あわせて隣接する天然記念物のタブノキの周りを人が利用することのできる街角の広場として再生しました。

風間家旧別邸無量光苑釈迦堂に付け加えた小さなお休みどころがティーハウスです。既存の朽ちかけていた四畳半の座敷を移設(新築)して茶室とし、そこに至る回廊に木の仕上げの小さなギャラリー的なお茶のみスペースを作りました。風間家の杉をふんだんに使いました。

日本遺産の松ケ岡開墾場では、入り口広場の整備、開墾士住宅のインフォメーションセンターへの改修を行うとともに、既存の公衆便所のコンクリートブロック壁体を残したまま、屋根の方向を90度回転して、木造の小屋組みの下の公共空間を作り出しました。

港町酒田で取り組んでいるのは、映画「おくりびと」で廃墟的な魅力が描かれた旧割烹小幡の再生です。大正期に名物女将が増築した洋館は、映画の背景となった現在の姿とは全く違い、当時流行したセセッション風のしゃれた外観を持ち、内装には輸出品であった和製マジョリカタイルが使用されていました。築地精養軒で修行したシェフたちにより本格的なフランス料理がふるまわれ、今に名高い「酒田フレンチ」の元祖ともいえる店であったのです。そのまま朽ちた廃墟の味わいを残すのが定石でしょうが、私は次の時代につながる生き生きとした風景を作りたいと考えました。私たちは「市民の記憶としての外観保存」という定型にとらわれることなく、映画ロケに使われた外観を一掃し女将の思いのこもった大正建築をテーマにデザインしました。まもなく工事が始まります。

鶴岡市中央児童館は、第二小学校の跡地に、かつての校舎の記憶をなんとなく感じてもらえるようなヒューマンスケールの木造平屋建てで設計しました。大断面構造と在来軸組を組み合わせた、私にとっては初めての木造公共建築で、建築の持っている可能性についてもいろいろ考えるきっかけとなりました。

荘内銀行の一連の支店は、國井頭取の「支店をいくつかのタイプに分類してそれぞれに特徴的な基本形を与えたい」というお考えに呼応したものです。私たちの基本設計を受けて、地元の設計事務所の皆さんの創意工夫でそれぞれ地域に親しまれる建築になっています。

この他、吹浦防災センターの第一次案や、庄内町のコンペ落選案など若干未練の残る計画案もありますが、今振り返ってみると、これだけ多くの設計に携われたことを本当にありがたく思うばかりです。

私たち人間は環境や風景との応答の中で自己形成を行う生物であり、環境や風景が安定した姿を保てないときに、よりどころを失ってしまいます。しかしその安定は不断の代謝、更新から成り立っていることも忘れてはなりません。環境を構成する一つ一つの建築が、地域の文化や風景にしっかりアンカーされることを心掛けながら、時代の新しい課題に答える自由な構想力を表現したいというのが私のかわらぬ思いです。

I have reached retirement age of our university! I was asked to show my works in Shonai region in the farewell party. You might see what I designed in this region by pictures above and my statement.

高谷時彦

東北公益文科大学大学院/鶴岡

設計計画高谷時彦事務所/東京

Takatani Tokihiko  architect/professor

Graduate School of Tohoku Koeki University/ Tsuruoka Japan

Takatani Tokihiko architect studio/ Tokyo