001:呼
まどろみの尻尾を掴む
呼び水としての呼吸の
リズムの浅さ
002:急
左とはどちらのことか
急な段らせん階段
膝が暴れる
003:要
ふかぶかと打たれた要
狂い無くそろう扇骨
ゆるやかに薙げ
004:栄
一閃に陽はさざめいて
渡りゆく虚栄の海を
凪も終わろう
005:中心
湖に中心ふたつ
岸辺より産まれる靄に
波紋は届く
006:婦
婦随の音葦に響かず
沼を発つ片おしどりの
腹の柔毛は
007:度
波のまま凍りゆく海
北天の星の深さで
緯度を測ろう
008:ジャム
あかねさすジャムの大瓶
倒れても漏れることなく
上澄みのみが
009:異
皹走る第二関節
冬の夜の異形の指に
ぼうぼうと熱
010:玉
宝玉を草に敷き詰め
存分に宴を成そう
風が止むまで
011:怪
愛しさは募る感情
怪しさは積もる感情
指が食い込む
012:おろか
魔女メディアおろかな雌獅子
愛ゆえに屠りつづけて
腕に抱くは
013:刊
浮き沈み毎度のあがき
棚に差す隔月刊の
まだ硬い角
014:込
セルビンに封じ込めたら
こするまで出られないよう
知られないよう
015:衛
半眼の衛士は若く
槍の噴く錆じりじりと
篝を弾く
016:荒
鮭の身を荒くほぐして
和えまわすパスタとサルサ
無言のうちに
017:画面
街頭の画面右下
ありえない色を見つけた
遠い土漠の
018:救
茨でも蜘蛛の糸でも
縋るのが救いとなれば
自分の指で
019:靴
スキー靴ネイビーブルー
足首を固められたら
揺れる上体
020:亜
薄雲の広がる西に
亜麻色の空の夕刻
瞳がひらく
021:小
飴色の小ぶりの太鼓
てっててこ叩くのは指
人をさすゆび
022:砕
山の端は星に斬られて
ぐずぐずと木だったものが
燠火を砕く
023:柱
円柱はメソポタミアの
ふくらみの千年の旅
木があたたかい
024:真
ティンパニの震えを帯びて
微粒子は真剣を成し
また崩れゆく
025:さらさら
杉の葉はさらさら燃えて
君たちはなぜそんなにも
世を溯る
026:湿
全身の湿りいとしく
咽せえづく花粉の舞よ
鴨の波紋よ
027:ダウン
ヘイ ウエィト ミスター・ダウン
濃密な靄の吸い取る
暖明色を
028:改
改元の湿りと光
その果てが何処へ続く
列であろうと
029:尺
戦前の長尺物の
雨の降るフィルムのなかに
河を見つけた
030:物
物乞いが罪というなら
花よ陽よ早う降れよと
踊るも咎か
031:認
目を閉じる署名の前に
うち伏した夢の襤褸の
認知のために
032:昏
日輪は垂直に落ち
昏れなずむなどという語を
海が蔑む
033:逸
夕光が炎に逸れて
湾岸の煙突群の
にじむ焦点
034:前
重心が前へと沈む
コンデンスミルクのような
沼地の靄に
035:液
液漏れの電池を腹に
ひきがえる這いずり出れば
濡れてゆく土
036:バス
ターミナル町はずれから
バンパーのぶらぶら揺れる
バスが闇へと
037:療
看板に偽りよあれ
騙されるため扉をひらく
心療内科
(扉=と)
038:読
日だまりに読みさしを置く
くしゃみさえなければ多分
幸せだろう
039:せっかく
ちいせぇなあ頬杖ついて
せっかくの小一時間が
湯気に冷えゆく
040:清
真裸の清さのために
五月田の泥を掬って
胸に擦ろう
(擦ろう=なすろう)
041:扇
もろ脱ぎの大胸筋が
海原に扇を射てば
翼とひらく
042:特
泥葬の場所を探して
特別な傷の見えない
沼をさがして
043:旧
たゆたいは行きつ戻りつ
旧かなのゐの字ゑの字の
うずを巻くさま
044:らくだ
てんでんならくだの歩幅
乗る人はぎっこんばったん
白茶けた月
045:売
身のものを一つずつ売る
少年が最後に投げた
ピアスの温み
046:貨
花の中レールの隙を
貨物車は律儀に拾う
あお向けの空
047:四国
目覚めれば四国の寒さ
駅前に歌う少女の
前のCD
048:負
頻繁に鼓動が狂う
ひさかたの負債整理の
光の中に
049:尼
中年の尼僧の窓辺
するすると刺繍の針の
描く光は
050:答
文書にて返答しよう
紅玉の酸味を好む
わけを綴ろう
051:緯
陽とともに高まる鼓動
歳月の運ぶ経緯を
見たくはないか
052:サイト
右の目を布で覆えば
日曜の銭湯までの
サイトシーイング
053:腐
大山の蕾は硬く
腐れ雪踏み分けるたび
濡れてゆく膝
054:踵
踵より降り立つ土漠
ぬばたまの静の海を
塵は動かず
055:夫
画板とは筆あってこそ
夫とは妻のいてこそ
風の日曜
056:リボン
引き出しにもう使えない
数本のインクリボンの
刻まれた穴
057:析
ウロボロス円環を成し
果てしない解析の果て
塵は芽吹いた
058:士
黎明の行政書士の
手にめくる戸籍謄本
生から死まで
059:税
あしひきの課税証明
期限切れ意味を無くした
数字の痒さ
060:孔雀
凛と立つ雌の孔雀の
深青のあるか無きかの
鶏冠ふるえ
061:宗
両の掌の回りきらずに
ひややかな孟宗竹の
空洞震う
062:万年
鉢植えの鉢が割れれば
鉢植えの形どおりの
万年青の根群
(万年青=おもと)
063:丁
窓際に並べ置かれる
林檎へと丁字を刺せば
外灯に雪
064:裕
また増えるベルトの余裕
森の中どんな色素を
吸い取られたか
065:スロー
あのときもアンダースロー
対岸の繁みの人に
放った缶の
066:缶
コーラ缶受け損なった
最上川曲の淵は
今も濁るか
067:府
光源は五日の月に
都府楼のいしずえ遙か
揺るぐことなし
068:煌
刃の欠けた剃刀を埋め
梅雨なかの八つ手の青の
煌めく窓辺
069:銅
ゼラニウム深紅の房を
銅のバケツに収め
さあ、夏よ来い
(銅=あかがね)
070:本
この生を本と変えれば
誤字脱字ときおり逆字
まあ読めはする
071:粉
両の手は肘まで白く
粉を練る少女の朝よ
酵母のにおい
072:諸
某曰く諸行無常と
そういえば今年は桃を
まだ喰ってない
073:会場
会場は不意にしずまり
演台の縁を掴んだ
雄指の太さ
074:唾
向日葵は真宵もひらき
ぬばたまの普段と違う
唾液の味を
075:短
短夜と誰が決めたか
まあいずれ眠りの幅に
変わりは無いが
076:舎
延々とかまぼこ営舎
金網に錠を掛ければ
鍵はどちらに
077:等
平野部に降りしきる陽よ
等しさは不公平さの
象徴として
078:ソース
血のソースあかねさす鴨
人体に近いものほど
染み込む美味さ
079:筆
紺碧の梅雨明け十日
筆岩に寄せ来る波も
穗は濡らせずに
080:標
白霜を道標として
今代は仕舞いと羽根を
しずめる蝶よ
081:付
付属物として生きよう
その幹へ加えることが
出来るのならば
082:佳
佳歌はそうガードレールに
月光の映るがごとく
冷めるがごとく
083:憎
黒揚羽背後をよぎり
憎しみは微風に気付く
腋の汗沁み
084:錦
目つむれば錦の翳り
息吐けば波音のまた
重なる島よ
085:化石
堆積の果ての化石よ
抉られた森の青丹に
降る蝉時雨
086:珠
カフェラテの渋みを前に
珠として凝る笑顔の
深さをおもう
(凝る=こごる)
087:当
当てるため射るのではない
射るときは中るのだから
凪は無くとも
(中る=あたる)
088:炭
燃やしたら炭となるから
コンビニのこのビニールも
生きていたのだ
089:マーク
濁り眼のマーク・スペース
バドワイザーは瓶でなくちゃあ
口呑みにして
090:山
標高の基点は海よ
その山の尾根がどれだけ
鋭かろうと
091:略
ぼろぼろの十八史略
書き込みの煩さこれは
先々代か
092:徴
徴候即微動と君は
決めつけているのだろうが
治らない傷
093:わざわざ
その傷もわざわざならば
もう手には切るカードなど
無いのだろうさ
094:腹
本当に会えるだろうか
脇腹の部分を削いで
炙れば月夜
095:申
さるすべり細かな花に
気怠さを申し立てれば
帰路に夕立
096:賢
ふと土の香りのすれば
腎臓のソテーは音を
漏らさず切れる
097:騙
一瞬に鼻は騙され
六歳の角の空き地に
いた雨上がり
098:独
年老いた独角獣の
秋口のふるえのように
蔦の影絵は
099:聴
冷房を切れば窓から
隣室の歌が聴こえて
雨二三滴
100:願
願いとは誓いではなく
降りしきる塵に石碑の
溝埋まりゆく
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