はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

やすたけまりさんの受賞

2009年08月21日 19時51分40秒 | たんたか雑記
 当ブログにも度々お越しいただいている、やすたけまり(おとくにすぎな)さんが、「第52回短歌研究新人賞」を受賞されました。

 おめでとうございます!

 すぎなさんとは短歌を始めた時期も近く、当初から刺激を受け、やる気をいただいていたので、今回の受賞は本当に嬉しいです。

 客観的に言っても、今のインターネット歌人に多いであろう境遇(無所属、浅い歌歴、ミドルエイジ、等)の人たちにとって(僕もその一人です)、まさに朗報であり、この上なくやる気を起こさせてくれる出来事です。

 受賞作『ナガミヒナゲシ』は「短歌研究 9月号」でご覧になれますので、ぜひお手に取ってみてください。
 「すぎなワールド」(と中村が勝手に呼んでいる)が十二分に堪能できます(保証)。

『Cradle hollow』について

2009年08月21日 19時12分44秒 | 日詠短歌
 下に挙げたのは、「第52回短歌研究新人賞」に応募した連作です。
 予選落ちしてしまいましたが、僕にとっては初めての30連作だったので、記念に並べてみました。

 読んでおわかりのように、かなり空想の世界に入っています。
 実はこの歌たちは、『Fate/hollow ataraxia』(フェイト/ホロウ アタラクシア)というコンピューターゲームに触発されて出来たものなんです。
 ゲームの感想はこのブログにも書いたのですが、その熱冷めやらず、なんと3時間足らずで特に苦労もなく詠み上げてしまいました。人間、ハイテンションの時には意外な力が出るようです。
 その後の推敲には3ヶ月かかりましたが。

 もともと僕は、好きな音楽や小説、映画などを題材にして短歌を作ることをよくやります。
 この歌たちもその延長、という感じだったのですが、振り返ってみると、どうやら今までとは少し違った方法で作っていたようです。
 つまり、今までは題材が持つ物語を自分なりにアレンジして作歌をしていました。
 しかし今回のこれは、『Fate~』というストーリーが触媒になって僕の中に小世界が出来上がり、僕はその世界を色々な角度から見て歌を作った。そんな風に感じています。
 ですからこの歌たちは『Fate~』そのものでなく、あくまで僕の内面風景です。インスパイアされて出来上がったインナーワールドです。ほとんど固有結界です(意味不明)。

 読み返してみると、かなり荒いところが目立ちます。
 というか、そもそもこれって短歌か?という気すらします。
 しかし僕としては、(自分にとって)新しい短歌の作り方に出会えたという点で、この歌たちに感謝しています。
 つまり、「自分の内面に小さくても明確な世界を作り出し、その世界を様々な角度から眺めて形にしてゆく」という歌作りです(このことについては、いずれ自分の中で整理してみたいと思います)。

 えーとそして、そういった意味でなくても、僕はこの歌たちをけっこう気に入っちゃったりしていて、自分の作品の中では、なかなかいい歌なんじゃないかな、とか思っているのですが。うーむ、親バカ?

Cradle hollow

2009年08月21日 19時08分50秒 | 日詠短歌
 Cradle hollow


姿見の罅に寄り添い満月は三つにずれて光を放つ
(罅=ひび)

見上げれば人の数ほど星がある右回転をする一枚絵

この影は僕じゃない気がなぜかした人指し爪で掻く磨り硝子

銀紙にくるんだとたん僕の物ではなくなった夢の噛み滓
(滓=かす)

平穏が罪で平和が罰なのか地下へ伸びゆく螺旋階段

しらじらと錐を鏡に突き立てる(私の胸はまだ痛まない)

地に灼ける月の光の断片がステンドグラスの骸を嬲る
(骸=むくろ)(嬲る=なぶる)

立ち尽くし漂う僕をきみは見る絵だったものに腰をおろして

名前とはすべての記憶君の名は きみの名は キミノナハ

虚ろなる子を慈しむ母の絵にきみはうつむき指を這わせる

天蓋の曇りひろがる中庭に枯れ揺れる花 北の匂いす

掌の皺から熱を奪いゆく君の左の四指すきとおり
(皺=しわ)

鈍色の壁つぎつぎと突き抜けて蝸牛ふるわす君の歌声
(鈍色=にびいろ)

人々が嘘埋めにくる祭壇に変わらず錆びる椅子の留め金

噛みしめるたびに歯ぐきは声を出す塗る蜜も無き堅き現実

錆窓の取手が付けた君の手のかぎ裂きの傷くちびるに当て
(取手=とって)

氷原に刺さる剣の白銀を月光で模すひび割れた窓
(剣=つるぎ)(白銀=しろがね)

長椅子の上にふるえる賛美歌の書の裏表紙濡らしゆく風

幾重もの雲の隙から漏れわたる青は祖国の湖に似て

微睡みを残す瞳で指を組むシスターの手に光る包帯
(微睡み=まどろみ)

黴臭き伽藍は埋まる色硝子から天空のかげ降り積もり

泣くための理由があったはずなのに そら 瞬きを繰り返す空

両脇の花壇に誘導灯のごと砕けた杯のひかる参道

唇に手を当ててみる今飲んだあなたの味を思い出せない

脇道に聳える墓碑の欠落にきみがなにかを埋めるのを見た
(聳える=そびえる)

弾け散るまだらの雹を縦糸に千日積んだゆめ横糸に
(雹=ひょう)

やはりこれは間違っている幻に血肉を被せ育てた日々

思い出す(願いと誓い)坂のうえ街を見ていた君の横顔

ああこれでもう怖くない 終わりとは別れではない おもいだした

雹の中熱を産み続ける我のなかでほほえむ安らぎ(きみ)よ


(第52回短歌研究新人賞応募作品)