ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

悪い報告の受け止め方

2020-11-10 08:21:44 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「末端の悲劇」11月6日
 『教員の勤務記録 土日は削除指示』という見出しの記事が掲載されました。『滋賀県日野町の教育委員会が町立小中学校に対し、教員が土日祝日に出勤した際の勤務記録を削除して町教委に提出するよう求めていた』ことを報じる記事です。つまり公文書改竄指示です。
 記事でも触れていますが、背景には、『4月に施行された改正教職員給与特別措置法は残業時間の上限を月45時間、年間360時間と指針で定めている』ことがありそうです。同町教委教育次長は、『教員の残業時間を県教委に報告しており、上限超過を避けるため安易な指示をしてしまった』と言っているのですから。
 記事には詳細な指示の様子が書かれていますが、読んでいて胸が痛みます。この記事には、国会、文科省、都道府県教委、区市町村教委、校長、教頭という教育行政の流れの最末端に位置する教頭の悲哀が表れていると思うからです。
 学校教育に関心のある政治家の皆さんは、多忙化の果てに教員が疲弊しきってしまう状況を避けなければならないという「善意」で、法改正に取り組まれたのでしょう。文科省も同じ思いを共有し、法の実施主体となる都道府県教委に通達し、都道府県教委は自らが所管する高等学校や特別支援学校の校長に指示するとともに、管下の区市町村教委に通知し、きちんと取り組まれているかを把握するために現状報告を求めたのです。そして、区市町村教委は各小中学校の校長に、教員の働きすぎを防ぐべく努力するよう指示し、結果をまとめて都道府県教委に報告することを告げたのです。
 現状報告ですから、学校現場の実態からして無理があるのであれば、そのまま報告すればよいのです。報告は学校から区市町村教委へ、そして、都道府県教委へ。都道府県教委は上がってきた報告をまとめて文科省へ報告、文科省は報告を精査し、現状では法改正の趣旨を徹底することは難しいと判断し、新たに状況整備を考え、必要な予算措置をし、国会に働きかける、というのが正しい教育行政の在り方です。
 しかし実際には、そうはなりません。上限を超えて教員が超過勤務をした学校は、校長の管理能力が問われますし、区市町村教委は都道府県教委から責められます。都道府県教委は文科省に追及されてしまうのです。もちろん、区市町村、都道府県それぞれの議会でも教委と首長は追及されますし、教委は首長からも叱責されます。
 そこで、表面上つじつまを合わせるため、改竄に手を染めてしまうのです。おそらく、文科省の担当者も、都道府県教委の担当者も、区市町村教委の担当者も、そして校長も、現状を知っている者はみんな、「全ての学校でこの上限に収めるのは無理だな」ということを法改正時に知っているはずです。しかし、そのことを大きな声では言いません。過去の経験から、そうした声をあげることは法改正に反対する行為とみなされてしまうことを知っているからです。行き着く先は、法が改正され調査が入ったとき、何らかの虚偽記載をしてその場をごまかすことになると察してしまうのです。
 そして実際に改竄をするのは、最末端にいる教頭であり、改ざんを指示するのは区市町村教委の担当課長なのです。私もそのポストにいたことがあります。私もこうした状況下では、嘘も方便と改竄を指示していたかもしれません。都教委から「23区、26市の中であなたの市だけが~」と言われるのは辛いですから。自分はともかく、教育長や市長の顔が浮かんでしまいます。それが組織の一員の悲しき性というものです。
 ここにも忖度があるのです。実態調査は、「上」が、悪い結果を制度への忠告、注意喚起として受け取るくらいの姿勢を示して行うことが必要です。

 

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