ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

悪しき伝統

2020-11-03 07:21:18 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「悪しき伝統」10月30日
 川柳欄に、福岡の小把瑠都氏の『先輩の議員がヤジの指導する』という句が掲載されていました。国会か地方議会かは分かりませんが、議員は議場でヤジを飛ばすものです。しかし、誰でもヤジを飛ばせるかというと、そんなに簡単なものではありません。私も勤務していた市で本会議や文教委員会に出席していたからよく分かります。
 ヤジの種類によっては、かえって同僚議員の足を引っ張ってしまうことになりますし、度を越せば、自身が懲罰の対象や謝罪に追い込まれることにもなりかねません。また、その問題についての過去の議論についての知識がなければ、的外れとして、軽侮の対象にされてしまいます。
 とはいえ、新人議員はなかなか質問の場を与えられないという実態もあり、ヤジでも飛ばさなければ、存在を示せないというのも事実です。それに、議場で声を出すことすら、慣れないと緊張してしまうもので、ヤジは声を出すことに慣れるという側面もあるのです。
 そこで、先輩議員がヤジの指導をする、という情景が出現するという訳です。確かにヤジは不規則発言であり、そんなものは議員の資質とも仕事とも関係はないはずですし、議員になった当初は、ヤジなどせず、議論の内容で勝負したいという高い志をもっていた人も多いはずですが、実際にはヤジを飛ばすことで議員という立場に慣れていくのです。
 私はこの句から、教員の世界を連想してしまいました。私の指導主事時代の後輩は、中学校に勤務するようになってしばらくすると先輩から、「おい、もう一発やったか」と言われたそうです。つまり、体罰の勧めです。生徒に舐められないように、強面の教員であることを示すことが必要だと言われるのです。そして、体罰のコツを伝授されるのです。
 相手に選ぶべきなのは、殴っても大騒ぎしない生徒、保護者が煩くない生徒、かといって従順で弱すぎる生徒では他の生徒に対する示威効果がないので、そこそこの悪と思われている生徒、そして絶対に反撃して来ない生徒、反撃して教員側がやられたのでは逆効果ですから。
 殴る場面は、誰が見てもこれだけ悪いことをしたら殴られて当然、というときではなく、「えっ、こんなことでも殴られるの?」というような場面で殴ってこそ効果的だ、などと指導を受けるわけです。
 私の後輩はこんな指導には従わず、体罰をすることはありませんでした。もっとも、空手有段者で、ボクシングジムに通っていた彼は、短髪に細い眼鏡という風貌から、十分強面でしたが。
 後輩の新卒時代は今から40年以上も昔です。もちろん、今ではこんな悪習はありません。しかし、こうした悪習が消えるまで数十年かかったのも事実です。どこの世界にも、何らかの悪しき伝統や文化、雰囲気といったものがあるものではないでしょうか。そして、そうした悪しき伝統が解消されていく一方で、新しい悪しき伝統や慣習が生み出されていくことにも留意する必要があります。
 自分が自覚しないまま、悪しき伝統の創始者、継承者になっていないか、全ての教員は、ときどきは自省してみることが必要です。

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