ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

ふさわしい新しい学び

2020-11-01 08:23:13 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「イメージが浮かばない」10月27日
 『菅首相所信表明演説全文』が掲載されました。その中にほんのわずかですが学校教育に触れた記述がありました。『教育は国の礎です。全ての小中学生に対して、1人1台のIT端末の導入を進め、あらゆる子どもたちに、オンライン教育を拡大し、デジタル社会にふさわしい新しい学びを実現します』というものです。
 学校教育にはあまり関心がないのだと思っていましたので、この少ない言及にも驚きはありません。1人1台の端末導入も、すでに着手していることですから、そうなんだという程度の受け止めです。しかし、次に続く記述には驚きと疑問がありました。
 まず、オンライン教育を拡大するという点です。これは、コロナ禍などの異常事態時における教育の保証という趣旨ではなく、恒常的にオンライン授業を行う体制を目指すということです。他の項目と異なり、期限を明示してはいませんが、少なくとも将来的には、子供は自宅等で授業を受け、登校するのは何らかの実体験が必要なときだけという形が学校教育の基本形になるという宣言です。随分大胆なことをサラッと言ったものだと驚かされました。
 今国会では、学術会議問題についての追及がメインになるという予想ですが、それだけでなく将来の学校教育の姿についても論争してほしいものです。菅氏独特の、ちゃんと所信表明演説で言っておいたのに反対しなかったじゃないかという論理で強権的に進められては困るからです。
 次は疑問に思ったことです。デジタル社会にふさわしい新しい学びとは何なのか、という疑問です。賛成反対以前に、まったくイメージが浮かばないのです。前後の文脈からすると、オンラインという方法で授業を受けること=デジタル社会にふさわしい新しい学びと読み取れます。でも、まさかそれだけのこと?と思ってしまいます。
 「学び」について語るのであれば、その内容と目指す能力について触れることは絶対に必要であるというのが、私の感覚です。そしてそれは多くの教育関係者に共通する感覚であると考えます。方法や手段だけを提示して新しい学びというのはあまりにも空疎な提言だと言わざるを得ません。
 学校教育は、今までもいくつもの教育機器の改善を経てきました。スライドで写真を拡大して見せることができるようになり、OHPで図表やグラフを手軽に操作できるようになってきました。ビデオの普及で動きのある動作、例えば体育における望ましい動きを提示することができるようになってきました。実物投影機は、細かい作業を拡大して見せ、教員が理科の実験や家庭科の調理などにおいて実技の手本を簡単に見せることを可能にしました。
  機器の進歩が授業を変えていきました。しかしそのことをもって新しい学びとは言いませんでした。当然のことです。そして同じように、ITを使い、家庭のパソコンの画面を見つめるように授業の形が変わっても、それだけで新しい学びとは言わないのです。
 今、学校教育は自ら問題を発見し、課題を設定し、自ら考えて解決して行動するという能力の育成を目指しています。その目的までもが変わるのか、菅首相にはどこかでビジョンを語ってほしいものです。

 

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