(前回からの続き)
前述のとおり、深刻な資本不足に陥っているイタリアの大手銀行モンテ・ディ・パスキ・ディ・シエナ(モンテ・パスキ)の再建策(50億ユーロの資本注入、92億ユーロの不良債権の証券化)は実現の可能性がほとんどないもの。その後も下落・低迷を続ける同行の株価がそれを物語っています(9/16の株価はさらに下がって0.20ユーロ!)。となると、この再建策は絵に描いた餅に終わりそうですが・・・
・・・ちなみにモンテ・パスキはイタリア第3位の総資産を持つほどの銀行ではありますが、同国1位のウニクレディトとは違って世界の金融システムに大きな影響を与える銀行(global systemically important banks)に分類されているわけではありません。なので、伊当局が腹をくくればその破綻を容認することも可能なはず・・・
・・・と簡単にはいかないのがイタリアのややこしいところです。ようするにモンテ・パスキの処理等に当たっては「ベイルイン」ができそうもないということ。ベイルイン(bail-in)とは、銀行の内部者に損失を求める方法で、具体的には株主、債権者、預金者の順にその負担を強いるものです。つまり破綻銀の株価はゼロに、債権者は債権放棄を強制され、預金者は預金保険で保証された額(イタリアは一預金者あたり約10万ユーロまで)以上の預金を失う、といったあたりになるわけです。ところがイタリアの場合、2015年に地方金融機関が経営危機に直面した際の再建策で損失を被った債権者が自殺したことが社会問題に発展したため、政治がこの実行に及び腰になってしまいました。
ベイルインが難しい、となると伊当局は必然的に「ベイルアウト」(bail-out)を模索することになります。これはベイルインとは逆の、政府などの銀行の外部者におカネを出してもらおうという手です・・・が、これは経営の失敗で危機に陥った一民間銀の株主や債権者らを税金で救うことになるため、国民の反発は必至でしょう・・・
さらにいうと、安易なベイルアウトにはEU圏の盟主ドイツが猛反対しそうなことも事態を複雑にしています。かりにモンテ・パスキに公的資金を注入することになった場合、伊政府はEU加盟国共通の金融支援スキームである欧州安定メカニズム(ESM)に支援申請をすることになるのでしょうが、それが認められるためにはイタリアが応分の負担をすべきというのがEU圏、とくにドイツの主張。つまりドイツには、ESMがイタリアに財政融資をするのは、イタリアがモンテ・パスキの利害関係者に対して厳しいベイルインを実行した後だ、という強い思いがあるということです。まあ当然でしょう、ESM最大の出資者はドイツ・・・国民なのだから。
となってしまうとモンテ・パスキへの出資に当たってイタリアは、ベイルアウトも、そしてベイルインも困難ということになります。だからこそ、民間の銀行や投資家のマネーを当てにした前回ご紹介のスキームをひねり出したのでしょうが、これまた書いたように、いまの同行に投資しようという人なんて、いるわけがない・・・(?)
・・・こうして万策尽き、資金繰りに窮する(?)モンテ・パスキの破綻は、もはや時間の問題ということに・・・(?)