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【cinema】『トワイライト ~初恋~』(試写会)

2009-03-30 00:44:37 | cinema

'09.03.25 『トワイライト ~初恋~』(試写会)@有楽町朝日ホール


yaplogで当選。Showbiz countdownで全米の女子高生に大人気と紹介されてた。女子高生だったのはかなり前だけど、そんな気分になりたい時もある(笑) ってことで見てきた。

 


「母親の再婚で、離れていた父親と暮らすことになったベラ。転校先の高校には美しい容姿で青白い肌の5人組の男女がいた。他の生徒とはほとんどつきあわず、いつも5人だけでいる彼らは、ドクター・カーライルの養子だった。生物の授業で彼らの1人エドワードの隣の席になったベラ。彼は彼女を避けていたかと思えば、逆に近づいてくる。晴れの日には外出しないという彼らは地元に伝わるヴァンパイアなのか…。ベラは疑いながらもエドワードに惹かれていく」という話しで、これは少女マンガの世界。もちろんバカにしていない。少女マンガで育ったのだもの(笑) 原作はアリゾナ州の主婦ステファニー・メイヤーのデビュー作で4200万部を売り上げたベストセラー小説。全然知らなかったけれど、日本でも発売されてて、なんと13巻まであるらしい。4つの章に分かれていて、すでに2章までは文庫化もされていた。この映画が何章までを描いているのかは不明。


基本的には、学園クィーンみたいなタイプではないけれど、それなりにかわいくて、自分の世界を持っているのではしゃいだりしないし、むしろ自分を地味だと思っている主人公が、美しく謎めいていて、みんなが憧れるけれど近寄りがたい雰囲気のある男の子に徹底的に愛されるという、もう少女マンガの王道中の王道のストーリー。エドワードがヴァンパイアであることが障害になることすら王道。地元の伝説である吸血鬼vs狼男みたいのも、特別『アンダーワールド』(これは好き)の例を出さなくても、さんざん描かれてきたと思う。試写会場のスクリーンのせいかもしれないけれど、CGもやや浮いて見えた。でも、やっぱりおもしろい。王道ってやっぱりおもしろいから繰り返し作られるわけだし。見ている側のこうなって欲しいと思うとおりに進んで、望みどおり着地してくれるのは安心感がある(笑) そのかわり驚きもないし、特別心に残ったりもしないのだけど。



誇張もあると思うけれど、理想の彼氏エドワードに全米の女性達が夢中になり、映画化のニュースが流れると誰がこの役を演じるのかという話題で持ち切りとなり、公開されるとエドワードを演じたロバート・パティンソンの人気は社会現象にまでなったのだそう。個人的にはエドワードが理想の彼氏とは思わないけど、映画(少女マンガ)的には間違いなく理想なんだと思う。どうやらベスはエドワード達ヴァンパイアにとっては、特別な存在のよう。ヴァンパイアには人の生き血を吸う種類と、エドワード達のように本来は人間がいいけれど、動物の血を吸い生活し、人の命を奪うことをよしとしない種族がいるらしい。普通の人間には食欲(?)を感じない彼らだけど、ベラはいい香りを発しているようで、猛烈な食欲を感じるらしい。しかも、人の心が読めるエドワードにもベラの心だけが読めない。そんな彼女にどうしようもなく惹かれるエドワードは苦悩する。彼女を殺してしまわないように距離を置こうとするけど、気持ちを抑え切れない。いつも彼女を見守り危険が迫ると、どこからともなく駆けつけて助けてくれる。たしかに理想的(笑) 実際には、つき合っていたとしても、眠っている間に勝手に部屋に入ってきて「寝顔を見るのが好きだから」と言われたらだいぶ怖い。でも、ベラや読者はうれしかったに違いない。たしかに少女マンガに出てくる王道彼氏かもしれない。もちろんバカにしてないです!



2人の恋愛は意外に普通。時々、エドワードのヴァンパイア・パワーを使って普通でない体験をするけれど、律儀にベラの父親に会って交際宣言するし、自宅に招いて家族に紹介したりもする。彼ら家族は固い絆で結ばれ、人には危害を加えず社会の一員として暮らしている。たまには野球もする(笑) そういう、自分達の恋愛や生活パターンからそんなにかけ離れていない彼らが、ヴァンパイアであるというのが親しみやすいのかもしれない。最初は謎めいていて、エドワードと恋に落ちることになるであろうベラに敵意を持っているかのように見せたり、人間を襲う種族なのかどうかも分からない演出だけど、意外に明るく健康的(笑)



その辺りに物語としての深みがない気がするけど、それより見せたいのは2人の高校生の恋愛であって、それは女性の心をとらえるように描かれている。エドワードはあくまでも謎めいて、美しく描かれていて、ベラに見せる本来の姿ですら、拍子抜けしてしまうほど彼を理想的に描くことに徹している。森の中に建つエドワードの家がカッコイイ。ガラス張りで光を多く取り入れて、有名建築家が設計したかのよう。エドワードの部屋もスタイリッシュ。



エドワード役のロバート・パティンソンは正直好みのタイプではないので、理想の彼氏とは思わないけれど、エドワードとしては良かったと思う。こういう役は単純に美しいだけじゃなくナルシストっぽくて、若干キモイ感じの方がいいと思う。キモイって失礼だけど、上手い言葉が見つからない(笑) でも逆に、だからこそ寝ているベラの寝顔をこっそり見ているというストーカー行為すら「素敵」と受け取れるのでしょう。ベラのクリスティン・スチュワートも普通に良かったのではないかと思う。かわいいけれど、美人過ぎないのもいい。自分を持っていて、かなり強情なタイプだけど、それが鼻につく感じになってないのは彼女のおかげかも。



この町に定住しているというドクター・カーライル一家だけれど、不老不死の彼らは1世紀近く生きていることになる。いつから定住してるのか知らないけれどそれは無理だろう(笑) というようなツッコミ所満載なエピソードやシーンも多いけれど、ヴァンパイアの謎をとく映画ではないので、その辺りは見なかったってことで(笑) セリフもCMでも使われているとおり「これ以上愛してしまうと、命を奪ってしまう」「一生君を守る」などウットリするセリフも満載。個人的にはウットリとはならなかったけれど、こんなこと言われたいと思う女性は多いんじゃないかと思う。



少女マンガの世界がそのまま再現されている。女性はきっと好きだと思う。ベラが特別な存在である理由も明らかになっていないし、先住民のベラの幼なじみの祖先の件もそのまま。そして意味ありげなラストはおそらく続編ありかと思われます。





『トワイライト ~初恋~』Official site

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【cinema】『悲夢』

2009-03-27 02:53:02 | cinema
'09.03.18 『悲夢』@シネマート新宿

先週行く予定だった『悲夢』鑑賞。これは気になってた。キム・ギドク監督作品はけっこう好き。といっても『鰐』『悪い女』『悪い男』『サマリア』『春夏秋冬、そして春』しか見ていないけど。題材や性描写、暴力描写の激しさから、何となく手放しで好きと言いにくい雰囲気がある。でも、例えば1番好きな『悪い男』も一目惚れした女性に蔑まれたからといって、策略にはめて借金を負わせて売春街に売り、あげく彼女が客を取る姿を覗き見るという、これだけ読むと変質者としか思えない最悪な男なのだけど、これがキム・ギドクにかかると何とも深く切ない恋愛となる。ラストも「それでいいのか?」という終りだけど、2人にとってはハッピーエンドだったりする。その独特の世界観はスゴイと思う。

前置きが長くなった(笑)「事故を起こす夢を見たジン。翌日、現場に行ってみると、彼が夢で見たとおりに事故を起こしていた女性がいた。夢遊病患者であるランは、ジンが見た夢を無意識下で実行してしまう。2人は夢を共有しないよう交代で眠るなど解決策を探すが、上手くいかず悲劇が起きてしまう・・・」という話。相変わらず有り得ない設定。今までの作品は有り得ないながらも、絶対実行不可能ということはなかった。だけど、今回は夢を共有するという、まさに荒唐無稽な話。「?」となってしまうシーンが満載だけど、先週見た『PLASTIC CITY』より映画として成立しているのは何故なんだろう。

冒頭、居眠りしそうな感じで運転しているジン。けだるい雰囲気から始まる。そして彼は事故を起こす。相手の運転手がケガはしたものの、命に別状はないと見ると、急いで車を発車させる。スピードを上げて逃げる彼の車の前を歩行者が横切る。慌ててブレーキをかけ、ハンドルを切ったところで目が覚める。これはジンが見ていた悪夢。でも、翌日夢で彼が起こしたのと同じ事故を現実に起こした女性の存在が分かる。この辺りの展開は、独特のスピード感と、落ち着かない現実感のない映像のおかげで引き込まれる。戸惑いながらも一人状況を理解し、彼女を救おうと自分の夢と彼女の関係を力説するオダジョーに違和感はない。しかも、オダジョーだけ日本語を話しているけど、登場人物たちは言葉の違いなんてないかのように、自然に会話を続けて行く。その感じにも違和感はない。

ジンは元カノが忘れられず、ランは元カレを憎んでいる。夢の中でジンが元カノと会って、お互い激しく求め合えば、現実のランは憎んでいる男と関係を持ってしまう。しかも無意識に。キム・ギドク映画の女性達は必ずといっていいほど、性的に辱められる。でも、虐待とかではない。無理矢理奪われているけど、レイプとも違う(そういう時もあるけど…)。そんな目にあっている女性は、女性としてかわいそうだし、そんな目には絶対あいたくないけど、映画の中の女性達は痛々しくも魅力的。

彼女達に結果ひどい仕打ちをしてしまう男達も、実は痛々しかったりする。たいていは感情表現が下手で、自分の強すぎる感情を持て余しているようなタイプ。『悪い男』の悪い男がまさにそう。彼女のことを愛しているのに、極端に自分を卑下している彼は、素直に彼女を見つめて、彼女の視線を受け止めることができないから、あんな行動に出てしまう。実際、ひどいし犯罪だけど、何故か男の切なさが伝わる。それは俳優の演技によるところも大きいけれど。今回の男ジンはランを現時点では愛していないし、傷つけようとなんて思っていない。

今までの作品によく見られるヤクザ者で、コミュニケーションを取るのが下手で、相手に対して攻撃的になってしまう男たちに対して、ジンは本当に普通の男性。他の人ともきちんと日本語でコミュニケーション取れてるし(笑) しかも、ランを巻き込んでいることに罪悪感も持っているし、彼女を救いたいと思っている。そこが今までの主人公達と違うかもしれない。監督の中に何か変化があったのだろうか・・・。baruによれば見た人の感想ではキム・ギドクらしくないという意見が多かったのだそう。それはこの辺りの事なのかなと思うけれど、言いたいことの本質的な部分は変わらないんじゃないかと思った。

今までも今回も「愛」について描いていて、相手を思う気持ちがコントロールできなくて、イラ立ったりすることは、別にどんな恋愛だってあること。それが時に相手に対して攻撃的になってしまうこともある。ただ、それを今までは極端にデフォルメして描いてきたんだと思う。例えば『悪い男』(こればっかりですが(笑))で、主人公が好きな女性を閉じ込めて覗き見るのは、相手を独り占めしたいということを描きたいんだと思うし・・・。以前はそういう自分の思いが相手に向かうだけだったけれど、ジンには相手を思いやる気持ちがあり、そのため彼女を苦しめている原因が自分(の夢)にあることで、その攻撃の矛先は自分に向かうことになる。悲劇を起こさせてしまったことで自分を責め、二度と眠るまいと自分を傷つけるシーンは壮絶。他人に向かっていると暴力シーンになるけれど、自傷シーンでこんなにも痛々しいシーンはめったにないと思う。

全くの他人だったけれど夢を共有してしまうことで出会ったジンとラン。そしてジンの夢の中に現れる彼を捨てた元カノ、そして彼女の現在の彼氏でランが憎んで別れた元カレの2組のカップルが登場する。元カノ&元カレは夢の中で登場しているので、実際この2人は本当につきあっているのか良く分からない。しかも、ジンとランが美男美女なのに対して、この2人は・・・ ブサイクとまでは言わないけど、ちょっと夢にまで見てしまうほど愛されている人物としては、見ている側にとってはガッカリ(失礼) でも、絶対狙いだと思うんだけどな。上手く言えないのだけど、夢の中だって決して美しいものではないのだという・・・ っていうのは考えすぎかな? ちょうど中盤辺りで4人は河原のような所で向き合うことになる。車の中で激しく愛し合いながらも、男が女を支配しているかのような言動が繰り広げられるのを、少し離れた場所から見ているジンとラン。これは夢なのか現実なのか・・・。この辺りから混沌としてくる。

この河原のシーンは抽象的で、見ていた時には正直分からなかったけれど、4人は表裏一体であるということなんだと思う。事故の直後、ランが通っていた占い師のようなカウンセラーに「2人は1人なのです」と言われていた。ジンが幸せならランは不幸だという事は、夢の中の出来事を無意識に実行してしまうことで実証済み。元カノ&元カレカップルは俗っぽくてドロドロした感じで、正直うらやましいと思うようなカップルではない。ジンとランは恋人にはなっていないから、2人が並んでいる姿には生々しさはない。だから、この2組はそれぞれ表裏一体なのだと思う。それを現すようにジンとランがお互いを思いやり始めると、元カノ&元カレはどんどんドロドロしてくる。そして河原での場面。カウンセラーは「黒と白は表裏一体である」というようなことも言っていたけれど、4人は気づくと黒と白の衣装を身につけ、それぞれ相手や時には自分の立場も変えながら向き合い、思いのたけをぶつけ合う。つまりジンはジンとしてランに、そして元カノに思いをぶつけ、相手からもぶつけられていたかと思えば、いつの間にかランの元カレの立場になって思いや怒りをぶつけられたり、ぶつけたりする。このシーンは4人がそれぞれ表裏一体であるという事を現しているんだと思う。上手く言えないけれど、美しいものも、そうでないものも、俗っぽいところも、ストイックなところも、ドロドロしている部分も人間は持ってるし、そういうのが愛だろうということなんだろうなと思った。

登場人物はほぼオダジョーとラン役のイ・ナヨンのみという感じ。元カノと元カレは、あくまで夢の中に登場するという感じなので、わりと現実感のないシーンばかり。なので、ほとんど2人芝居のような状態が続く。しかも眠ってしまうとジンの夢どおりランが行動してしまい、辛い思いをするだけでなく、悲劇を起こしかねないので眠ることができない。交代で眠ってみたり、眠らないよう頑張ったりする。それを見せられているのは結構辛いのに、見ていて飽きることはない。それは主役2人のおかげかも。オダジョーはこういうジンみたいな、飄々としたいい人みたいな役あってると思う。この作品は全くコメディー要素はないので、飄々としていることに笑いの要素はないのだけれど、ジンが未練を断ち切れないから悲夢を見てしまうのだし、彼がいい人だから何とかランを救いたいと思うのだし、でも飄々としているから上手く行かず、いろいろ失敗するけどイライラしなくて済む。もちろん演技によるものだと思うけれど、オダジョーの個性のおかげという部分も大きいかも。

イ・ナヨンは『私たちの幸せな時間』でも、辛い過去から自殺未遂を繰り返す感情の起伏の激しい女性を演じていた。そういう狂気みたいな激しい役って、演技的に難しいのか分からないけれど、素人が見ていたら「スゴイ演技だ」と思いがちなのかなとは思う。でも、そこには何か原因があるはずとか、理由もよく分からないのに激しく誰かを攻撃している時ですら、見ている側に共感させることができてこそ、上手い演技と言えるんじゃないかと思う。前半部分の演技はそんな感じで良かったと思う。後半は映画自体が狂気とか精神世界的な方向に向かってしまうので・・・。でも、ランがあの状態でいるのは、それがジンと自分にとって最善の方法だと思っているからなのかもしれない。だから実際は狂気を演じているのかなと思ったのだけれど、本当のところは分からない。

とにかくこういうよく見ると多弁なんだけど、説明過多ではない、むしろ説明不足な映画は見た人の解釈や受け取り方の違いで、全然感想が違うんじゃないかと思う。私は主題は「愛」で、そこにはエゴもあり、傷つけ傷つき、相手を思いやる気持ちを育んでいくということを、分かりやすくするために、人格を4分割したのかなと思った。ジンは夢を見ることでランを傷つけるけど、彼女を傷つけたことで自分も傷ついている。そういう事をいいたいのかなと思った。

相変わらず映像が美しく、幻想的でありながらリアル。凍った川の上に雪が積もり、一面真っ白。そこに落ちてくる黒いシミは、ドサッと音を立てて落ちる。そういう幻想とリアル。撮ってる内容は荒唐無稽なのにリアル。古い家が並ぶ町並みがいい。とってもかわいくて、ちょっと行ってみたい。石の印鑑を彫る仕事をしているジンのアトリエ兼家がいい。古くて暗い部屋の中央に、重厚感のある机がドーンと置いてある。机の上も周りも所狭しといろんな物がおいてある。でも、ごちゃごちゃして汚い印象じゃない。昔の薬屋さんみたいな引き出しがたくさんあるタンスとか、印鑑を彫る道具なんかは見ていて楽しい。薄暗いけれど暖色系の照明もいい。ランは洋服を縫う仕事をしているらしく、よくフレアスカートのようなものを縫っている。オレンジや青などの濃い色の服が多い。多分、それは対比。着ているものも、ジンは黒系、ランは白っぽい感じが多かった印象。そして河原の場面で入れ変わる。そういうのは面白い。

と、長々書いてきたけど、この映画が好きかというと微妙。読売新聞の劇評では前半は単調だけど、後半の混沌こそがこの映画の見せ場だとあった。後半が見せ場であることはそのとおりだと思うけど、ちょっとその世界観について行けず。おいてきぼりとまでいかないのはさすがだと思う。前半はおもしろかったし、後半混沌としても映画としてきちんと成立していると思う。

何がしたくて撮ってる映画なのか分からないみたいなことはないけど、ちょっと好き嫌いが分かれるかもしれないかな。


『悲夢』Official site

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【art】「国宝 三井寺 特別展」鑑賞@サントリー美術館

2009-03-22 04:33:15 | art
'09.03.14 「智証大師帰朝1150年、狩野光信没後400年 国宝 三井寺 特別展」@サントリー美術館

天台寺門宗総本山 三井寺(園城寺)の国宝、秘仏公開の特別展。これまたギリギリ終了前日に行ってきた。先日行った「勝手に観光協会スペシャル!」の時、MJことみうらじゅんも2回行ったし、すごくいいから皆も行った方がいいと薦めていた。なんでも智証大師の頭がにゅーんとなっているのが面白いのだそうだけど、ウクレレさんが「頭がにゅーんってどういうことですか?」と質問したけど無視(笑) ということでとっても気になってた。恒例の砂風呂の前、baruが申し込んでた『PLASTIC CITY』舞台挨拶がハズレてしまったので、行ってみることにした。

東京ミッドタウン内にあるサントリー美術館はそんなに広くない。3F部分がメインで、2Fに少し会場がある。終了前日という事もあり、けっこう混んでる。いきなり智証大師の坐像が。かなり大きい。たしかに頭がにゅーんとなっている。何故にゅーんとなっているのか調べてみたけれど、理由は不明。智証大師こと円珍は空海の姪の息子。第5代比叡山延暦寺の座主。853~858年まで唐で密教を学んだ。今回はその帰朝1150年を記念しての特別展。円珍の像としては三井寺の「御骨坐像」と「中尊坐像」が有名で国宝となっている。どちらも実物大かというくらい大きい。平安時代に掘り出された智証大師は、まるで生きておられるかのよう。穏やかな表情をしておられる。「御骨坐像」は智証大師の遺骨が納められているのだそう。

並んで「不動明王像」がある。ドーンと立っておられる。カッコイイ! 上半身裸で腰から下に衣を巻いているせいもあるけれど、少々足が短いかも(笑) 肩の辺りの肉付きは迫力。肩幅に開いた両足の親指を持ち上げ踏ん張り立っている。首、腕、足首に着けた装身具も素敵。眉間に刻まれた深いシワ、下あごから突き出した2本の牙、鋭い眼光は大迫力。だけど1つ1つがデカイ螺髪のおかげで大きくなった髪は、まるでオバサン・パーマのようで、それが少し親しみやすさとなっている。腰に巻かれた布のドレープの表現も素晴らしい。この不動明王は別名"黄不動尊"といい、この黄不動尊は円珍が入唐する際、船に現れたのだそう。この不動明王を冷泉為恭が写した絵もあって興味深い。

進んで、会場奥にガラスケースで展示(全部ガラスケース入りだったけど・・・)された「不動明王坐像」これはあまり大きくない。不動明王の造形も素晴らしいのだけど、この像で注目なのは光背。迦楼羅焔という炎を現した光背は、よく見ると7羽の鳥が隠れている。この鶏が迦楼羅=ガルーダ。ガルーダとはヴィシュヌ神を乗せて飛ぶヒンドゥーの神で巨鳥。先日、バリ島旅行で乗ったガルーダ・インドネシア航空は実は神様だったんだ(笑)

3Fの奥に「毘沙門立像」三羽烏が! 左2体は平安時代、右1体が鎌倉時代の作。これはカッコイイ! 右の鎌倉像がいい。少し左に腰を曲げ、邪鬼を踏みしめている。毘沙門天は北方世界を守護し、財産を守る神。甲冑を着け、片手に宝塔を捧げ、片手に鉾を持ち、忿怒の表情をしておられるのだそう。この甲冑が素晴らしい。いわゆる日本の甲冑とは違い、中国の三国志とかの時代の甲冑を思わせる。腕には武具を着けているけれど、その上からドレープ上の袖のある衣を着ちゃってるような・・・・。忿怒の表情も激しいものではなく怒りよりも、むしろ厳しさを感じる。ちょっと間抜けな邪鬼もいい。

平安時代に作られた「獅子」がいい。いわゆる唐獅子なのでライオンではなく、緑の体に金色の鬣を持つ。そして4本とも別々の蓮を模した台座の上に乗せている。少し踏み出した足がかわいい。「阿弥陀如来像」はスタイルが良い。今回、わりとスタイルがあまり良いとは言えないお姿の仏様が多かったけれど、これはナイス! 衣のドレープの表現が素晴らしく、立たれている蓮の台座の装飾が細かい。

「軍茶利明王立像」は直径20cmほどの円の中に彫られた懸仏。懸仏とは銅などの円板上に神像、仏像の半肉彫りの鋳像をつけたり、線刻したもの。右足を上げて左足で踏ん張る姿が力強くも色っぽい。懸仏では鎌倉時代と室町時代に作られた「蔵王権現懸仏」2体も素晴らしい。鎌倉が直径30cmくらいとやや大きく、室町が直径15cmくらい。これはカッコイイ! 右足を上げ踊るように体をくねらせる。セクシー

ホントは大きく6章に分け、さらに細かくテーマ分けして展示されているのだけど、私が寝坊してみたり、鉄子のbaruが東京駅でブルートレインにお別れと撮影したり、しかも雨と強風でJRとブルトレが大幅に遅たため押してしまい、見学時間が1時間くらしいしかなくなってしまった。とにかく、どんどん見て行ったため、いつもはblog用に取っているメモも、もう何を書いているのか判読不能(笑) そんなわけで2Fへ階段を下りた所にあった狩野光信の障壁画は、ほとんど通り過ぎただけにような形になってしまったのが残念。今回は狩野光信の没後400年記念でもあるので、もう1人の主役なのに・・・。狩野光信といえば、あの有名な豊臣秀吉の肖像画「豊臣秀吉像」。今回は妻の寧々を描いた「高台院像」と並んで展示。教科書やテレビなどで見ていたあの豊臣秀吉。もちろん本人ではないけど、本人に会っている気分。

狩野光信の障壁画のあった廊下状の所を通り、2Fの展示室へと入ると"本日の一枚"ならぬ"本日の一体"が! ただし、例によってこれはじっくり語りたいので後ほど(笑) 最後の展示コーナーは【フェノロサの愛した三井寺】 フェノロサとはアメリカの哲学者で東洋美術研究家。1878年(明治11年)に来日し、日本美術に魅せられ岡倉天心と共に東京美術学校を創設した人物。実は去年、没後100年であったので、タイトルにはないけれど、これも記念されているらしい。フェノロサと同じく日本美術に見せられたビゲローと共に使っていた机や椅子などが展示されていて興味深い。そして、この特別展ラストを飾るのは円山応挙の「山水図」 4面の作品。やや痛んでいるように見えるけれど、左側に崖を表現し、墨一色で松を描いた筆致はさすが応挙。落款には仏嶺とあり、これは応挙33才の頃の作品なのだそう。なるほど!

そして"本日の一体" 「如意輪観音菩薩坐像」何と神々しく、美しく、そしてなまめかしいのだろう。かなり大きな作品で迫力はスゴイけれど、全く圧迫感はない。右ヒザを立てて座しておられ、右ヒジをつき、優美に少し傾けたお顔をその右手に添わしていらっしゃる。その穏やかで静かな表情。やや変則的な半跏思惟像になるのだろうか。頭上に頂く髪飾りの装飾は細かく、いちいちいい。身に着けられた衣のドレープもいい。髪飾りから伸びた蔓(?)の表現も優美な曲線。この先が少し上がっているのは、如意輪観音菩薩の心の平穏さを表しているのかな? 勝手な想像だけど、そう感じた。お体も肩の辺りや、あらゆる角度に伸ばされたり、曲げたりしている腕も曲線的で柔らかそう。何かを持たれたり、印を結んだりされている手の造形も美しく、一切の無駄がなく、この上なく美しく優美。お背中の丸みも優しい。穏やかな表情、首の傾げ方、手の表現、どれをとっても美しく、なまめかしい。ホントに穏やかなお姿。秘仏国宝である如意輪観音にお会いすることが出来てホントに幸せ!

入っていきなりあった「御骨坐像」「中尊坐像」「不動明王像」も国宝であり秘仏。これらも普段見ることは出来ない。ホントにお会いできて良かった! 素晴らしい特別展だった。もっとじっくり見たかった(涙)


★国宝 三井寺展:2009年2月7日~3月15日

国宝 三井寺展Official site(三井寺HP)

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【cinema】『PLASTIC CITY 』(試写会)

2009-03-21 11:25:48 | cinema
'09.03.11 『PLASTIC CITY』(試写会)@TOKYO FM HALL

ホントは同じくオダジョー主演の『悲夢』を見に行く予定だったけど、オダジョー・ファンのbaruが試写会当選。こちらを見ることに。

「ブラジル・リベルダーデ。両親を亡くし、マフィアのボスであるユダに育てられた日系人キリン。2人は実の親子以上の絆で結ばれていた。しかし、新興勢力がユダに迫っていた…」という話で、クライム・ムービーとのことなんだけど、これはどうだろうか…

やりたいことというよりも、撮りたいシーンがまずあって、それを繋げて行ったという感じ。しかも、その映像とか撮り方に一貫性がなく、しかもどこかで見た印象。オープニングのサンパウロの町並みを空撮して、ビルの上に出演者の名前が出てくる映像は、たしか『パニック・ルーム』だったように思う。キリン達が敵対する組織と対決する場面で、妙にアニメっぽくなってしまうのは『SIN CITY』? 特別"この作品"と思い当たらなくても、どこかで見た印象のシーンが多い。別にパクリというつもりはないけれど、オリジナルを越えられないのであれば、パロディー以外はやめた方がいいし、オマージュなんであれば双方が生きる形で作らなければ意味がない気がする。意図的なのか、自然になのか真意は分からないけれど…

監督が撮りたいシーンを優先しての結果なのか、脚本からしてそうなのか、予算や尺の都合上、編集でズタズタになったのか、多分その全部なんじゃないかと思うけど、とにかく各シーンがぶつ切りで完結しないまま終わる感じなので、全体的に意味は通じるし、やりたかった事も分かるんだけど、とにかく消化不良のまま進んで行く。なので、人物像を紹介したいのであろうシーンや、ストーリーのカギとなる部分もも何だか掴めないまま終わる。だから唐突に起こる出来事や、登場人物たちの感情の爆発みたいなものが、何故なのか理解出来ないで進んでしまう。まぁ、理解は出来るんだけど、もらっていた情報と行動があまりにしっくりこなくて、おいてきぼり感。

オダジョーが何故この作品を選んだのか不明だけど、オダジョーの役は日系ブラジル人。両親を殺されたため、中国系ブラジル人のユダに育てられたため、ポルトガル語と中国語を話す。かなり頑張っているけど、ネイティブとは言い難く… 共演のブラジル人俳優も何となく素人っぽい感じで、親友とか恋人とかの関係がイマヒトツ説得力がない。それも中途半端なままシーンが変わってしまっているように感じる事の一つ。

例えば、キリンは行きつけのストリップ・バー(っていうのかな?)で、お店の女の子から「あなたは愛している人がいるものね」的なことを言われた後、やたらとエロく誘ってくる女が登場するけど、彼女がそうだとしたらなんかなぁと思っていた。だってVIP ROOMなのかもしれなくても、あんな風にその場で行為におよぶよう誘う女を真剣に愛するだろうか? しかも「私あなたの芸者になる」とか「私のサムライ」とか言われるけど、日系ブラジル人だから芸者もサムライも見たことないでしょ。日本にいても見たことありませんが(笑) 海外市場向けにはありなのかも知れないけど、日本人としてはイマドキ「私のサムライ」って言われても… と、結局どうやらこの女性がキリンの彼女のようで、実は小さな息子もいる彼女はいわゆる年季が明けて田舎に帰るけど、これにキリンも同行するという。だけど、2人の感じがとってつけたようで、全然そんな風に見えない。キリンが何に対しても、真剣になれない、生い立ち故に距離を置いてしまうように描きたいのかもしれないけれど、そんな描写もないし… 正直、この女性とのエピソードなんてなくても成立する。別にあってもいいけれど、こんな感じのとってつけたようなエピソードやシーンが多いのが気になる。

そういうとってつけたようなシーンの中に、意外に重要なシーンが挟まれているけれど、そういうシーンも同じトーンでサラリと描かれるので、見ていて気づかない。ユダを呼び出して何かをやろうと持ちかける男が、一体何者なのか何の話しなのかも分からず、当惑していると、実は警察で一斉ガサ入れが行われ、ユダまで逮捕される。前にも書いたけれど、そういう説明不足の上に起きる、重要な出来事とかについて行けずに当惑。

冒頭、アマゾンの森の中をユダと幼いキリン、そしてキリンの両親が逃げ惑うシーンから始まる。キリン達家族とユダの関係はこの後はさっぱり描かれない。ネタバレかもしれないけれど、アマゾンのシーンの直後、ビルの屋上からキリンがお金をバラまく姿が映る。両腕を広げたその姿は、有名なリオ・デ・ジャネイロのコルコバードの丘にあるキリスト像を思わせる。その育ての親のアダ名がユダ。これはキリストとユダのという事をやりたいのかなと思う。全てを失いうちひしがれたユダが、キリスト教に傾倒する姿も描かれていたりもる。キリスト教徒ではないので、2人の関係について詳しく知っているわけではないけど、ユダの裏切りによりキリストは磔になったのだと思う。その辺りはラスト近く再びアマゾンで2人が再会するシーンがそうなのかなと思う。はっきりとは描かず見る側に判断を委ねているので、勝手な解釈だけど、それはユダがキリンの両親の死の原因であるということ。まぁ、それは冒頭のシーンで分かることだけど…。

あまりに酷評し過ぎて心苦しいのだけど、誉める部分が少ない… 主演のオダジョーは頑張っていたけれど、この役合ってないように思う。何事にも真剣にならず、心が満たされることがなく、日々適当に生きているチンピラ。でも、いざとなると自分の身をかえりみず、行動する。危険で、でも魅力的。という人物にしたいのだろうけど、何度も言うように、とってつけたようで、そうは見えない。まぁ、ギリギリそう見せたいんだろうなと思えたのは、オダジョーのおかげかとは思うけれど…

この作品で唯一よかったのはユダ役のアンソニー・ウォン。ユダは裏社会を仕切ってきたけれど、決して無敵の男ではないし、実は弱い部分もある。いつもはわりと静かに自分の存在を消していて、フツーのオッサンのような佇まい。でも、やる時はやる。徹底的にやる。まぁ、映画でよく見かけるタイプだけど、それでもそれがすんなりと受け入れられた。キリスト教にすがってしまう姿にも、人間の弱さが感じられて(※宗教を信仰する事自体を弱さと思っているわけではないです!)よかった。もうホントに何度も書いて申し訳ないけど、行動や背景が説明不足なので、ユダにまつわるシーンでも、「?」となることもあるのだけど、アンソニー・ウォンの全身から漂う人間臭さみたいなもので補われていて、説得力があった。

というわけで、あまりオススメはできないかな。そもそも何故ブラジルなのかも謎。ブラジルの犯罪事情とか、貧しさゆえに裏社会に入ってしまう感じとか、そういう辺りはあまり描かれていないし… その辺りは『シティ・オブ・ゴッド』や『バス174』などを見たら、もうホントにどうにもやるせない気持ちになるくらいリアル。まぁ、それすら本当の姿なのか分からないけれど…

どうにも分からないシーンが2つ。
1)何故ユダは死んだことにしてまで釈放されたのか。
2)再び戻ったアマゾンでユダは何者かに襲われけど、別の人物(この人との関係がサッパリ分からず…)が殺され、今日のところはこいつの死でOK的な事を言われているシーンは丸ごと意味不明。

今書いていて1)については分かった。お金だな(笑)
2)について分かった方、是非教えて下さい!


『PLASTIC CITY』Official site

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【art】「上村松園・松篁・淳之 三代展」鑑賞@日本橋高島屋8階ホール

2009-03-18 01:09:41 | art
'09.03.09 「上村松園・松篁・淳之 三代展」@日本橋高島屋8階ホール

高島屋美術館創設100年記念の展覧会。美人画の巨匠、女性で初めて文化勲章を受賞した上村松園。その息子で花鳥画の大家、文化勲章受章者の上村松篁。そして孫の淳之。親子三代の作品展。上村松園の美人画は大好き。私が世界一好きな絵「娘 深雪」は上村松園の作品。彼女には去年、島根の足立美術館で再会してきた。浄瑠璃『朝顔日記』の主人公深雪を描いたこの絵の、上品で清らかななまめかしさがホントに好き。今回、残念ながらこの作品は来ないけれど、松園の展覧会なのであれば行かなくては! ということで行ってきた。

順番的には松園 ⇒ 松篁 ⇒ 淳之といういう展示。それぞれのコーナーに、モニターが設置してあり、祖母松園・父松篁・そして自らについて上村淳之画伯が語る映像が流されている。ずっと流れているけれど、静かな語り口で語られる映像は鑑賞の邪魔にはならない。今回はパネルのみの展示となった、源氏物語の六条御息所を描いた「焔」が描かれたのは、スランプに陥った松園がもがき苦しみながら描いたものだというエピソードなどは、身近に居た人ならでわで興味深い。少し残業したので高島屋に着いたのは18:15くらい。20:00まで開館。しかし、空いている。大好きな松園をこんなにゆったり見れるなんて幸せ過ぎる。

【上村松篁】順番的には松園からだけど、松園についてはじっくり語りたいので、先に松篁作品から。最初の展示「真鶴」がいい。2枚組みの大きな絵。左に右側を向く鶴と、右に左の鶴に首を向ける鶴を描く。これは美しい。鶴は後に「丹頂」も展示されていて、これも2枚組みのかなり大きな作品。右の丹頂は首をすくめ片足で立つ。左の丹頂はそちらを向いた後姿。右の丹頂もかわいらしく、両足でスックと立つ左の丹頂の姿が美しい。これはつがいを描いているのかもしれない。静かで美しい雪景色の中に佇む丹頂の頭頂部の赤が映えて素晴らしい。

「冬暖」ではめずらしく人物を描いた作品。まだ冬の寒さが残る頃、庭に出ようとする少女達を描いている。これは実の娘を描いたそうで、おかっぱ頭に着物姿、赤い足袋がかわいらしい。廊下でこちらに背を向ける少女の赤いしぼりの着物が美しく、縁側から外に出ようとしている少女の紺地に色鮮やかなグラデーションの羽模様の着物が対比となっている。少女達の赤いほっぺから寒さと子供らしさを感じる。かわいらしい作品で好きだった。「月夜」は月夜のとうもろこし畑に2羽の白兎を描いた幻想的でかわいらしい作品。全体的に、月夜に照らされ青白く描かれた中に、とうもろこしの黄色がボウッと浮かび上がる。兎の親子がかわいらしい。その毛並みのふわふわしたやわらかさが伝わってくる。

「葛」は素晴らしい! プラチナ箔の地に、墨で画面上下に描かれた葛の葉と蔓。3本だけ咲いた赤い花は、先の白が印象的。画面中央やや右寄りに描かれた、橙色の鳥がなんともかわいらしくアクセントとなっている。これはすごく好き。そして「関庭迎秋」の鶏がいい。細部まできちんと描写したこの鶏を描いた時、まだ19歳だったそうで、帝展初出品で初入選した作品だそう。白い羽根の先だけ黒い鶏で、その繊細な描写は美しい。鶏といえば大好きな伊藤若冲だけど、若冲のような迫力と派手さはない。だけど、この絵が静かで、穏やかで本当にいい。19歳でこの境地ってちょっと老成し過ぎじゃないかと思ったりする(笑) 鶏ってけっこう大きくて、顔怖いし、意外にうるさい。でもこの絵には静けさがある。この絵に限らずどの作品からも感じるのは、静かで穏やかであるということ。きっと松篁画伯はそういう人だったのだろう。本当のことは分からないけれど、全ての絵から穏やかな人柄が感じられる。とっても心が落ち着く絵。すごく心地いい時間。

【上村淳之】孫の淳之画伯は現在も活躍されている。お父様の松篁画伯と同じ花鳥画家。「晨」は3羽の黄色い水鳥がかわいい。画面中央に左を向いて水の中の虫をついばむような姿勢の2羽と、顔を上げて鳴いたかのような左の1羽。どこまでが水で、どこからが空なのかその余白がいい。

「雁金」は月をバックに上下に並んで飛ぶ雁。月は満月だけどほぼ霞んでいる。月夜だけど暗くは描いていない。この墨色がいい。一見単一に見えるけれど、良く見るとぼかしで濃淡がつけて雲を表現している。並んで飛ぶ雁はつがいかもしれない。とってもかわいらしい。「水辺Ⅰ・Ⅱ」2枚組みの作品。左右どちらがⅠで、どちらがⅡなのか不明だけど、左が3羽の茶色い鳥が並んで左に向かって飛んでいる。静けさ中に彼らの羽音が聞こえるよう。でも、けっして騒々しいものではない。それは右の画面で2羽の羽根が黒い白の水鳥が、3羽が飛び立つのを眺めているかのように静かに佇んでいる姿からも感じられる。静かな命の営み。これは好き。

「蓮池」緑青色の水面に大きな蓮の葉、画面中央にスクッと立つ白鷺。鋭い目つきだけれど、何かが起こりそうな緊迫感などはない。静かで気高い瞬間。「秋映」蓮の葉が浮かぶ水面は夕日が映っているのか赤く染まっている。画面上から下まで斜め半分に赤や黄色に染まった蓮や水草を配し、右中央からやや上に2羽の水鳥を配した構図がいい。この色合いやグラデーションは西洋画を思わせたりする。全体的に淳之氏の作品からはやはり現代的な、少しくだけた印象を受ける。もちろんいい意味で。

【上村松園】「人生の花」母に添う花嫁。袖から覗く重ねの模様が愛らしい。黒の花嫁衣裳に散らした花が品がいい。髪を結う紐まで細かく描写。しっかりと描き出す筆致が素晴らしい。それに対する表情の上品で儚げな印象がいい。よく分からないけれど前に帯を締める黒留袖の母親がきりりとしていいていい。娘を送り出す母の気丈さが感じられる。

「花がたみ」これは何度か見ている作品。平安時代を思わせる衣装と髪型。十二単ではないけれど、小豆色の長袴をはいている。少し乱れた胸元や、だらしなく重ねた着物、その無表情な顔からは狂女を連想させる。これは恋に狂った照日前が花籠を持って狂人の舞を舞う姿を描いたものだそう。薄い緑の地に白い花模様の着物。白一色と思って良く見ると、花には薄いピンクが塗られている。遠目ではほとんど分からない、そういう細工が絵全体を浮き立たせている。

「楊貴妃」これは大作。そして妖艶。日本の女性達の奥ゆかしい中にあるなまめかしい色香とは違う。ドーンとした大胆な色っぽさ。まさに妖艶。オパーイもドーンと出てるし(笑) スランプに悩んでいた松園が息子松篁の帝展入選に刺激を受けて描いた作品だそう。ドーンと打ち出したのかもしれない。

「娘」これはすごく好き! 少し濃さの違う藤色っぽい着物を着た若い娘2人を、屏風に描く。右の女性は立ち姿で恥ずかしそうに首をかしげている。左に描かれた片膝を立てて座る娘の表情が美しい。2人の左右を大きく膨らませた髪型、嫁入り前の娘がするのだそうで、その清らかな美しさがいい。着物の細かな柄、帯の柄、髪か飾り、全てが美しい。右の女性の帯が赤、左の女性は緑と対比になっているのもいい。どういう情景なのかは分からないけれど、上品で穏やかな時間を感じる。

「虫の音」と「簾のかげ」はどちらも向こうから少し簾を開けて、こちらを覗く女性を描いたもの。どちらも大きさ、構図に大きな違いはないけれど、2人の個性は全く違う。「虫の音」の女性は明るく屈託の無い人柄を思わせるし、「簾のかげ」の女性は奥ゆかしくありながらも、実は大胆そうな印象。まぁ、勝手な印象だけど、そういうのも面白い。そして、どちらも品が良く、なまめかしい。

「京美人図」これも好き。松園の若い娘は品があって、なまめかしいけれど、どこかキリリとした印象があるけれど、これはホントにはんなり。団扇を手に欄干にもたれかかる。帯に押された胸元が色っぽいけれどいやらしくはない。これはなまめかしい。襟元の赤が藤色の着物に映えるし、女性の肌の白さを引き立たせる。ホントになまめかしくて素敵。

「春苑」飛鳥時代の女性のような衣装と髪形。これはまるで観音様のようなお顔。これは中国の梅の精にまつわる故事によるものだそう。なで肩が艶やかでなまめかしい。

「鼓の音」これもいい! 左手で鼓を持ち右肩の上に乗せ、右手はまさに鼓を打とうとしている。ピンと張り詰めた空気。美しくもキリリとした女性の表情。この後のポンっという音まで聞こえてくるかのよう。朱の着物がいい。口紅も同じ色。かんざしの装飾もかわいい。

「春」黒の花嫁衣裳に赤地に金色で大輪の花模様の帯。襟元と袖から覗く藤色と、薄い朱のグラデーションの重ね。白い襟の内から覗く赤と、桃色の揚帽子が女性の肌の白さを際立たせている。わずか3枚の桜の花びら、娘の花嫁姿の美しさで、春を表現しているのはさすが。

「待月」本日の1枚。かなり大きい。髷を結ったうなじが色っぽい。着物はあえて地味。黒の薄衣は裾に僅かな柄があるのみ、でも下の赤い格子模様の重ねがうっすら透けている。こういう心遣いは女性ならでは。少し曲げた腰と覗くように傾げた首のラインが細くなよやか。うぐいす色の地に金糸で兎を織り込んだ帯が素敵。今にもこちらを振り向きそうな迫力。でも、なまめかしく品がある。決してガサッと振り向いたりしないんだろう。そして、きっと「月が出ましたよ」と品良く、優しく思う人に言うのだろう。きっと相手はグッとくるんだろうな(笑) これはホントに素晴らしい。顔や表情が見えないのに、彼女はきっと少し眩しげに、美しい顔で月を待っている感じが分かる。素晴らしい。

とにかく女性が美しく品があってなまめかしい。この"なまめかしい"という表現って日本女性特有のものだと思う。大好きなミュシャの女性も美しく品があって色っぽいけれど、やっぱり"なまめかしい"のとは違う気がする。本人が隠しているのに匂い立つ色香は、日本画に描かれる美人特有のものだと思う。松園の美人画こそまさにそんな感じ。そしてキリリとしていて、でも、どこか儚げ。着物の柄や色、重ねなどが美しい。簪や櫛など装飾品の美しさや、趣味の良さは言うまでも無いけれど、少しだけ見せる髪を結った紐などの、ちょっとした色が何とも品が良く、女性の黒髪や肌の白さを引き立たせるだけでなく、絵全体のアクセントとなり、さらに品良くしている効果がある。ホントに趣味の良い人なのだろう。そして細部まで手を抜いていない。それが張り詰めた空気を生むけれど、圧迫感はない。心地よい緊張。はんなり、そしてふわりとした雰囲気もある。とにかく素晴らしい。本当に松園は大好き。

母、息子、孫と親子三代よくもまぁこれだけの才能に恵まれたものだと感動する。それぞれ日本画を描く。松園のみ美人画で松篁、淳之のお2人は花鳥画だけれど、それぞれ個性が違うのは見ていて面白い。それぞれに素晴らしいけれど、やっぱり松園の美人画が好き!

残念ながらこの展覧会は16日で終了。素晴らしい企画なのでもう少し長くやってほしかった。一般800円でこれらの素晴らしい絵を見る事が出来るなんてお得! でも、空いてたからなぁ・・・ 松園の素晴らしさもっと知って欲しい気がするけれど・・・ まぁ、仕方なし。


★上村松園・松篁・淳之 三代展:2009年3月4~16日 日本橋高島屋8階ホール

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【MJ】「みうらじゅん&安齋肇の勝手に観光協会スペシャル! ~西日本編」

2009-03-14 00:45:56 | MJ
'09.03.06 みうらじゅん&安齋肇の勝手に観光協会スペシャル!
~西日本編@Shibuya-AX

2日目のこの日は西日本編。昨日、北海道からどんどん日本を消していったので、残りは半分になっている。すでに日本ではない(笑) 2DAYS両日とも来ている人も多いと思うけれど、1日しか来ない(来れない)人もいるわけで、この日初めて半分になった日本地図を見た人達は驚いていた。もちろん地図上からこの日初めて消去された都道府県、東京が消えた瞬間は爆笑(笑)

昨日、東日本編に福岡が入っていたのは"日替わりご当地ゲスト"リリー・フランキーの都合だったけれど、何故か東京がまるで離島のように残っていたのは、この日のゲスト山田五郎の都合なのか? というわけで、この日の1曲目は小鹿のような動物キョンをバックに、東京都出身の山田五郎が歌う「すこぶるブルー東京」 ジャンル的にはニューミュージックっぽいのかな。フォークとかニューミュージックとかは詳しくないのでよく分からない。そんな曲調に乗せて歌われるこの曲には、京都から東京に出てきたMJが青春真っ只中でいろんな壁にぶち当たった時に、東京が自分に冷たいからだと、全てを東京のせいにしていた気持ちが込められているのだそう(笑) ちなみにこの日の基本メンバーも前日と同じ。MJことみうらじゅんとAHこと安齋肇の勝手に観光協会と、ウクレレえいじ&NONA REEVES奥田健介のサポート4人。昨日の記事に書き忘れたけど、これはEXILEの人数が倍になったので、KKKも倍にしますということだった(笑) EXILEが倍になった事は全く知らなかったけれど、時事ネタをすぐに取り入れるのはさすがMJ。

基本、進行は東日本編と同じ。数枚のスライドでその県を紹介し、ご当地ソングを披露。紹介し終わった県は地図上から消去していくというシステム。システムと言うけど、まぁ50歳を過ぎたオッサン2人がお金を取って見せる企画として文面だけ読んでみれば、どうかしている企画ではある。イヤ、実際見た感想としても、冷静に考えればどうかしているわけで(笑) でも、このどうかしていることを飄々と、でも真面目にきちんとやっている。それが素晴らしいわけです(笑)

とにかく2日間で47都道府県を全て紹介するにあたり3~5枚のスライドが用意されている。ということは200枚以上のスライドを見ているわけで、もちろん残念ながら全部覚えていられるはずもない。特に印象に残ったスライドは何だろう・・・。お2人のコスプレといえば1日目秋田でのAHのなまはげ写真。「このなまはげのスゴイところはお面をつけていないところ」というMJのコメントが笑える。群馬ではAHが大好きな国定忠治。子分役MJはサングラス着用でやる気なし。白装束だったのは何県だろう・・・。

その他印象に残ったスライドはbaruの出身地茨城の水戸市役所にあるヌー銅(ヌード銅像)と水戸黄門御一行様。神奈川ではテレ東"シンボルず"でおなじみ黒さんこと黒川晃彦氏の裸サックス(裸でサックスを吹く男の人の像)をバックに歌っていた。新潟佐渡のお寺に日本最古の即身仏を見に行った時、自ら案内してくれた住職は、熱心に話すあまり口角に泡がたまってしまい、すごい勢いでツバが飛んできたそうで、写真に写る安齋さんは眉間にシワ! 片岡鶴太郎のようになっている(笑) MJはツバ和尚に気に入られてしまい、その後もずっとツバの洗礼を浴び続けたのだそう(涙) 頭にピシャっと手を当て話すツバ和尚、鶴太郎、2人の間で微笑むMJの3ショットが素晴らしい(笑) でも、この辺りはほとんど東日本編のスライドだ(笑)

西日本編。広島ではゆるキャラ界のアイドル、ブンカッキーとの3ショット。この3ショットは"勝手にじゃらん"でも紹介されているけれど、ブンカッキーとは頭にもみじまんじゅう、体は牡蠣、両手は広島県の「ひ」を表している、けんみん文化祭のキャラクター。なので文化と牡蠣をかけてブンカッキー。このキャラと何かのイベントなのかステージ上でゆるキャラ音頭を踊るKKK。バカです。このスライドをバックに歌われるのは広島県ご当地ソング「しまなみ慕情」 慕情も何も・・・(笑) 滋賀県といえば飛び出し坊や。そもそもは飛び出しに注意という看板なのだけれど、坊やがまさに飛び出している状態なので、ドライバーは逆にビックリしないのかと思ってしまう。板を男の子の形に切り取ってペンキで顔や服などを描かれたコレは、じょじょに進化をとげているけれど、常にどこかが曖昧(笑) MJは新幹線のように0系などと分類しているけれど、スチャダラパーのボウズ似の坊や300系は4,800円であることが判明(笑)

この日最もおもしろかったスライドはラスト沖縄県でのKKKのとっくみ合いのケンカの連写! 居酒屋で向き合い肩を抱き合う2人。一見仲のよい感動シーンに見えるこの写真の後、2人は些細な事で口論となり、激しいバトルを繰り広げる。同席していたカメラマンは止めるよりも写真に収めることを選択。連写! これを一気に見せる。パラパラ漫画のように座ったまま小突きあう2人が、立ち上がってつかみ合い、いつしか店の外で転がりながらとっくみ合い、最後にMJがAHの半ケツを出すシーンまで一気に見せる。これは最高に笑った。動画でももちろん面白いと思うけれど、あえてアナログでやるところが素晴らしい。

この日のもう1人のご当地ゲストは岐阜県出身清水ミチコ。軽いからみの後、ユーミンになりきって「ギフト岐阜」を熱唱。なんだかユーミンの事がよく分からなくなって、途中から似ているのかどうか曖昧になってしまったけれど、何年か前、深夜番組でバナナマン設楽が昔住んでたアパートを見に行く企画で、ナレーションしているのがユーミンで豪華だと思っていたら、実は清水ミチコでビックリした覚えがあるので似てるんだと思う(なんだそりゃ(笑)) この日のご当地ゲストは山田五郎と清水ミチコの2人。アンコールで大物が登場するけれど、本編ではお2人のみと東日本編に比べるとややさびしい(涙)

スライドのことばかり書いてしまって肝心の曲に触れていないので、少し曲の事を・・・。ROCK調から演歌、ムード歌謡まで多彩。もちろん47曲あれば、多少、イヤけっこう似ている曲があったりするけれど、そんな事はいいのです! そしてファンにも関わらずアルバムを持っていないので、曲全部を知っているわけではないし、覚えてもいないのだけど・・・。

好きだったのはフォーク調の「青春リピーター」 演歌調の「なまはげ兄弟」 Pizzicato Five風「ソバユバロマンス」 地元の「バチバチ★チバチバ」 津!でしめる「潜ってエスパーニャ」 漫談調(?)の「野球坊ちゃん」 さわやかな「天国に一番近い県」も好きかも。 「新潟レニーデイ」もかっこいいし、ちょっと切ない「エンプティー・サマー」もいい。でも一番好きなのはthee michelle gun elephantの「CISCO」など、ROCKで多用される王道のリフで始まる「地獄のエステティシャン」が最高! ROCK大好きだからそもそも曲が大好きだけど、歌詞が・・・。エムボマ エムボマ エムボマ! 午前3時のカメルーン だし(笑) これは日韓W杯の時にカメルーン・チームが数日遅れの、しかも午前3時に受け入れ先の村にやって来たエピソードを歌ったもの。ROCKのリフを、この日はNONA REEVESのギターがあったけれど、いつもはギタレレとオカリナで演奏というのがスゴイ(笑) AHが酸欠になりながら叫ぶのが笑える。この日はヤケを起こしたかのようにオカリナを吹き、叫び、楽器を打ち鳴らしていた。素敵です!

さっきも書いたけれど、2日間で47曲、この日はオープニングに「勝手に観光協会のテーマ」も歌ったので48曲。ご当地ゲストが数曲歌ったけれど、ほとんどMJが歌い、AHがコーラスもしくはヴォーカルを取った。2日ともほぼ3時間休みなし。歌っていない間もスライドの説明で話しているから、最後の方はMJの声もかすれてきた。まぁ、2日目があるのに夜中3時まで飲んでしまったせいもあるかもしれないけれど(笑) ちなみにサンボマスターはテンションが上がって楽屋で喋りまくり、気持ちが悪くなって帰ってしまったと、昨日リリーが福岡のご当地ソングを歌いにやって来た時に語っていたので、行っていないはず(笑) とにかく、そんなにムチャしたわりに、残業で19:00ちょっと過ぎに席に着いたと同時にMJが登場したことを考えると、ほとんど時間どおりにスタート。そして3時間ほぼノンストップ。素晴らしい。バカも突きつめれば感動を呼ぶのです! まぁ、時間どおりに始めて、きちんとやるって当たり前のことではあるんだけど(笑)

最後の県、沖縄の大ゲンカのスライドで爆笑した後、しっとりと「エンプティー・サマー」を歌い上げる。バックは「ファイナルシーサー?」Tシャツだけど(笑) ところでアカデミー作品賞『スラムドッグ・ミリオネアー』でも主人公は「ファイナル・アンサー?」って聞かれるのかな? まぁ、それは関係ないけど(笑) そして、地図上から沖縄をなきものにし、見事日本消滅コンプリート。わりとあっさりと本編終了。

そしてすぐに再登場。アンコールに応えるの早ッ。しかし、これにはワケが・・・。アンコールの曲はMJが作詞した「ゆるキャラ音頭」 これを歌うのが橋幸夫! オレンジ色の着流し姿で登場。ゆるキャラ ゆるキャラ ホホイのホイ と軽快に歌う。さすがに上手い。そして余裕。ノッポンやスダチくん、そして郷土ラブちゃんが登場。ノッポンは客席を走り回り盛り上げる。ゆるい歌詞の音頭を、ゆるキャラと共にさすがの貫禄で歌う大御所 橋幸夫 in Shibuya-AX 明らかにどうかしている! もちろん褒めてますぅ! MJ自らタイムキーパーとなり、時間を気にしてやや駆け足気味に進行していたのはこのためだったのかと納得。そんな事情も含めておかしい! そして素晴らしい!

ホントにホントに最高に幸せな2日間だった!


★「ゆるキャラ音頭」 作詞:みうらじゅん 歌:橋幸夫 2009年3月18日 発売

勝手に観光協会Official site
miurajun.net

SET LIST(miurajun.netより)
1 勝手に観光協会のテーマ +矢野博康、千ヶ崎学
2 すこぶるブルー東京(東京都)+山田五郎 with 矢野博康、千ヶ崎学
3 びわ湖一円(滋賀県)
4 おはよう舞妓さん(京都府)
5 大阪ベンチャーズ(大阪府)
6 ジュー10(兵庫県)
7 ブッツ仏像(奈良県)
8 ときめきの紀州路(和歌山県)
9 カニカニラブラブ(鳥取県)
10 恋の安来ブギ(島根県)
11 お供になりたい(岡山県)
12 しまなみ慕情(広島県)
13 山口アンモナイト(山口県)
14 ギフト岐阜(岐阜県)清水ミチコ+ウクレレえいじ
15 Dancing Crazy Son’ Son’ Son’(徳島県)
16 ロンリー・オヘンローラー(香川県)
17 野球坊ちゃん(愛媛県)
18 恋のタイフーン(高知県)
19 ヤイテ、ヤイテ、サガ(佐賀県)
20 転がる坂のように(長崎県)
21 ばってんバテレン(熊本県)
22 地獄のエステティシャン(大分県)
23 天国に一番近い県(宮崎県)
24 ヘルシー音頭(鹿児島県)
25 エンプティー・サマー(沖縄県)
☆アンコール ゆるキャラ音頭 橋幸夫

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【MJ】「みうらじゅん&安齋肇の勝手に観光協会スペシャル! ~東日本編」

2009-03-12 03:14:30 | MJ
'09.03.05 みうらじゅん&安齋肇の勝手に観光協会スペシャル!
~東日本編~@Shibuya-AX

チケットを購入してから数ヶ月。待ちに待ってた(笑) 勝手に観光協会とは・・・ って、つい先日"勝手にじゃらん"の記事でも書いたのだけど、もう一度書かせていただくと、1997年8月に宮城県気仙沼市に「昔、欽ちゃんの番組に出ていた気仙沼ちゃんは元気だろうか?」という疑問を解消すべく会いに行ったのをきっかけに、日本全国47都道府県を視察と称して旅し、勝手に観光ポスターとご当地ソングを作る活動をする、MJことみうらじゅんと空耳スト安齋肇2人のユニット。連載雑誌の休刊など、紆余曲折を乗り越えて2007年12月第48回神奈川県にて、無事全国視察コンプリート。全国のご当地ソングが完成したということは、当然みんなに聴かせなければならないということで、2日にわたり披露するという企画。

1日目の今日は東日本編となっている。Shibuya-AXは何度も来ているけれど、いつもはスタンディング。今回は1Fでも座席指定ということで、どんな感じになるのかと思っていたけれど、車輪の付いた1列20席くらいのイスが運び込まれて並べられていた。横幅は狭いけれど、前後の幅はけっこうある。ちょっとシャレた感じの木製のイスだけれど、約3時間と長時間だったので、かなりお尻が痛かった(涙) 本日はE列、前に数列別枠があったので、10列目くらいの真ん中。なかなか良い位置だったけれど、baruの前には大きなお兄さん(福島出身)が・・・(涙) チビッコは辛い。なんでAXなんだろう・・・。

19:00開演ということで、ほとんど遅れることなく「どうも~」と軽快な感じでMJ登場。ステージ左半分にイスと譜面台3セットとキーボード。右半分にドラムなどのバンドセットが用意されている変則的な配置。とりあえずMJとAHこと安齋さんが軽くトーク。ステージ中央の大きなスクリーンに日本地図が写し出される。「これが現在の日本なので覚えておいてください」という前フリは、このLIVEのコンセプトを語ったものだった。とりあえず、今回の観光協会はウクレレえいじとNONA REEVESの奥田健介を加えての4人編成で行くとの事で配置につく。

まずは北海道から。白地図のスライドでは北海道が黄色く塗りつぶされて点滅している。北海道の事を知ってもらってから曲を披露するとのことで、3枚のスライドが写し出される。1枚目は足寄にある某大物歌手の実家までの地図。2枚目はその大物歌手の若い頃を描いた実家まであと400mと書かれた大きな看板。そして最後が実家の納屋の屋根にある若い頃と、現在の姿の似顔絵看板(笑) そしてこの”千春ビフォーアフター”の写真に1曲目「青春リピーター」のタイトルが! この写真をバックに曲が披露される。青春は今も息づいているか風に問いかけるという、かわいらしいタッチの曲で、風に~の部分はMJ⇒AH⇒NONA REEVES⇒ウクレレさんの順番でコーラスが入ってかわいい。曲が終わり「これで北海道については分かってもらえたと思いますので、北海道には消えてもらいましょう」とMJが言うと、ガーンというピアノの効果音とともに点滅していた北海道が消えた(笑) とういうわけで、このLIVEはこのスタイルで進むらしい。

一応、北から順番に進むらしく、次は青森。青森のスライドは太宰治。太宰をフィーチャリングし過ぎて、おかしな事になっている様子が次々映し出される。太宰味噌とか・・・(笑) しかもポップには「辛くてすみません」と書かれている(笑) やっぱり日本人ってセンスいい! そして最後のスライドは、味とボリュームが自慢らしいPizza DAZAIを前に、青森のご当地ソング「斜陽の恋」を歌うのは、青森出身のバンド人間椅子(笑) 知らなかったけれど、まだ頑張っていたんだね。彼らなりにアレンジされた曲はちょっとハードでカッコイイ(笑) しかし、目を閉じギターソロを奏でていらしたけれど、バックに映っているのはPizza DAZAIだし(笑) この感じがいい。たしかに、バカな写真でバカな曲かもしれないけれど、Pizza DAZAIの人も真面目に働いているし、MJ&AHも真面目に作った。そして人間椅子も大熱唱! でも、おかしい(笑) それがいい。熱唱を聴きながら「でもPizza DAZAIだから(クスッ)」という感じ。その一生懸命やる事に言い訳の余地を残すシャイな感じと、ぬけ感がMJでありサブカルなのかもと思ったりする。

曲は全て視察後の夜、宿泊先の旅館で作り録音されている。迷惑にならぬよう角部屋を取り、隣室も借り切ってのこの作業を"リョカ録"という。その日、見聞した事や食したものなどを歌詞に盛り込み、ROCK調、演歌調、ムード歌謡など様々なジャンルの曲を、第1回気仙沼視察時に、好きな物を買っていいとスタッフから渡された1万円で購入したギタレレ(9,500円)とオカリナ(500円)で作っていく。

どんどん披露される曲の中には、ちょっと聞いたことのある旋律なんかも出てきたりする。MJ自身聴いたことはないけれど、あえてこんな感じなんではと作った「ソバユバロマンス」は栃木県のご当地ソング。Pizzicatofive風。まぁ言いたい事は分かる(笑) 歌詞に盛り込むフレーズも勝手な解釈で書いているため、岩手の人は~ガスと言うと思って作った「岩手でガスガスガス」だけれど、そんな事は言わないと指摘されてしまう事もある。でも勝手にやっているからいいのだと言い張る姿勢が素晴しい!

この日のその他のゲストは山形県出身、銀杏BOYZの峯田和伸が山形県の奇祭かせどりをバックに「ガッタ山形」を、福島県出身のサンボマスター山口隆が高村光太郎の菊人形をバックに「あぁ、もっともだ」を熱唱しましたが、2人の不思議なテンションについて行けず(笑) Come on! と言われても、イヤだよ(笑) そんな感じもまた良しではあるけれど。わたくしのご当地、千葉県にもゲスト出演。千葉といえば船橋在住(?)のジャガー。でもジャガーはジャガー星出身のハズだけど・・・ 蛍光きみどりの細身のパンツと黄色のマントに身を包んだジャガーは、すでに録音してあったご当地ソング「バチバチ★チバチバ」を口パクで歌うというステージングを披露。まぁ、気持ちは分かる(笑) 最初はジャガー語で始まり、この先どうなる事かと思っていたら、きちんと歌詞に戻っていたのは笑えた。

何故か東日本編のハズなのに急に福岡に飛んだと思ったら、これは福岡出身のリリー・フランキーが登場したから。詳しい説明も無く「リリーさん5日と6日どっちがいい?」とMJから聞かれたリリーは、何のことか分からないまま「じゃぁ5日がいいかなぁ」と答えたところ、こんなことになっていたのだそう(笑) ゲストが歌う時には紹介だけしてハケていた4人だけど、リリーの時はMJと少し喋る。AHも気を使ったのか戻ってきたけれど、気づかず喋り続ける2人。とまどうAH・・・。ちょっと切ない。でも、おかしい(笑) ひとしきり話してMJもハケ、大宰府のお寺にある地獄絵図をバックに福岡のご当地ソング「恋のどんたくエブリデイ」をギターを弾きながら歌うリリー。意外にかわいらしい声だった(笑)

ラストは三重県出身のウクレレさんがヴォーカルを取る。ウクレレさんが汁がないと店員さんに文句を言ってしまったという三重県名物伊勢うどんをバックに、三重県ご当地ソング「潜ってエスパーニャ」を熱唱。松坂うし! 三重! 津! としめて終了。

1曲1曲はそんなに長くないけれど、こんな感じで各県のスライドを3~5枚紹介し、エピソードを語りつつ、しかも曲の後には紹介済みの県を毎回地図から消去したりしているので、47曲の半分24曲としてもかなりの時間がかかる。見ている間は楽しくて全く飽きないし、もっと見てたいと思うけれど、かなりお尻は痛い(笑) 明日はクッション的なものを持ってこよう。終わってみれば何と3時間近く。しかし楽しい!

勝手に観光協会、通称KKK 素敵です!


勝手に観光協会Official site
miurajun.net

SET LIST(miurajun.netより)
1 青春リピーター(北海道)
2 斜陽の恋(青森県)人間椅子
3 岩手でガスガスガス(岩手県)
4 哀愁ちゃナイト(宮城県)
5 なまはげ兄弟(秋田県)
6 ガッタ山形(山形県)峯田和伸
7 あぁ、もっともだ(福島県)+山口隆
8 涙の印籠(茨城県)
9 ソバユバロマンス(栃木県)
10 上州の風(群馬県)
11 やるねさいたま(埼玉県)
12 バチバチ☆チバチバ(千葉県)JAGUAR
13 恋のスイッチバック!(三度まで)(神奈川県)
14 新潟レイニーデイ(新潟県)
15 そっとして富山(富山県)
16 リメンバーNOTO(石川県)
17 アドベンチャー越前(福井県)
18 恋はGO! GO! ME!!(山梨県)
19 恋のどんたくエブリデイ(福岡県)リリー・フランキー with 富村唯
20 愛の双体道祖神(長野県)
21 静岡ロンリーナイト(静岡県)
22 センチメンタルNAGOYA(愛知県)
23 潜ってエスパーニャ(三重県)

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【cinema / DVD】『キッチン・ストーリー』

2009-03-06 02:19:37 | cinema / DVD
公認ブロガーをさせていただいているシネトレさんから出版された"Cinema Table"で紹介されていた映画。映画に登場した料理のレシピ本で、映画をイメージした写真も素敵で、ストーリーも紹介されているかわいらしい本。この中で、Birthday Cakeのコーナーで取り上げられていたのが、この映画のマジパンのケーキ。直径20cmくらいのホールケーキにたくさんのロウソク。とっても気になっていた。TSUTAYAでDVDを発見したので借りてみた。

「1950年代スウェーデンのある会社が主婦のキッチンでの導線を調査。さらに統計を取ろうと、独身男性の導線調査に乗り出す。隣国ノルウェーの静かな農村に1人で住む老人イザックのもとには、堅物そうな調査員フォルケがやって来る。フォルケもまた独身男性。初めは観察されることに反発するイザックだったが…」という話のノルウェー映画。ノルウェーの映画って見たことあっただろうか… あるかもしれないけど、咄嗟には出てこない。

調査自体は実際に行われたそうだけど、これはおもしろい。調査員達は被験者宅の庭に止めたトレーラーハウスで寝起きして、キッチンに運び込んだプールの監視台みたいなイスに座って、1日中被験者のキッチンでの行動を記録する。被験者とは話したり、交流したりしてはいけないというルール。人ごとだと面白いけど、実際にはイヤだな(笑) どんな人が来ても最初は戸惑うとは思うけれど、フォルケはホントにつまらなそうなオジサンだし(笑) だけど、このキャスティングは絶妙。この人と1日中キッチンに居るのは辛いかも。

一応、この調査の被験者は応募者から選ばれている。最初は嫌がって姿を現さなかったイザックも、自ら応募した。応募しておいて嫌がるとは何だと思うけれど、馬をくれると言われたからなのだそう。それなのに、もらったのは木製の小さな馬のオモチャ。このオモチャ自体はかわいいけれど、独身男性にそれはないだろうと(笑) まぁ、頭にくる気持ちは分かる。だけどイザックが隠れたのは、頭にきたからだけでないと思う。田舎で1人暮らしをしている老人にありがちなシャイで頑固、そして少々偏屈な感じがして、すごく面白い。嫌な態度に見えるようには描いていない。フォルケと上司が困ってイザックの寝室の窓にハシゴをかけて説得するシーンなどは、イザックに翻弄されているオジサン2人の姿がかわいらしくて、クスッと笑ってしまう。

この映画のトーンは全体的にこんな感じで、大事件が起こるわけでもなく、セリフとかもあまりなく、沈黙とか気まずい間みたいなところをクスッと笑ったり、そこから口には出さない気持ちを感じたりするような映画。『オーストラリア』みたいないわゆる大作映画も好きだけれど、私はこんな感じの映画の方が好きなんだと思う。セリフや映像からの情報は表面的にはむしろ少ない。でも、よく見ると役者の表情や、例えばセットの微妙な変化などで、主人公達の心の動きが分かる。そして、伝えたいことは、その声高でない語り口から、直ぐにはハッキリと言葉にはならないけれど、心の中にほっこりと伝わってくるような。そういう映画が好きなんだと思う。まぁ、私のことはいいか(笑)

話を戻して(笑) 被験者イザックも、調査員フォルケも独身男性。そして、若くはない。2人の過去や個人的な事はほとんど語られない。もちろんフォルケはイザックのデータを持っているとは思うけれど、こちら側にはほとんど紹介されない。現在、独身だけど以前は結婚していたのか。それともずっと独身なのか。日本人の感覚では1人で住むには広い家や、そこそこ片付いているキッチン。壁に作りつけられた棚にきれいに並べられたお皿を見れば、なんとなく以前は奥さんがいたような気がしないでもないけれど、今現在の住まいには女性らしさが全く感じられないので、少なくとも10年くらいは1人で暮らしているように思う。もちろんこれは私の勝手な解釈だけど、多く語られないからこそ、想像が膨らむ。そうゆうのがいい。

フォルケについてはもっと謎。大好物のスウェーデン名物ニシンの漬物を送ってくれる叔母がいるけれど、家族はいない。人は良いけど、真面目で社交的なタイプではなさそう。堅物そうに見える彼が、狭いトレーラーハウスの中で、ウキウキとニシンを食べるシーンがいい。この人にも楽しい瞬間はあるんだと思ったりする。って失礼か(笑) とにかくイザックもフォルケも少しとっつきにくい感じはするけれど、実はフツーのおジイちゃんとオジサン。そんな2人がキッチンで観察し、観察される。そこに気まずい空気が流れる。人って多分、自分のテリトリー内に見ず知らずの人が入ってきたら、それを承知していたとしても戸惑うと思う。まして、交流してはいけないというルール。人はコミュニケーションをとって生きていく動物。それは相手を思いやるというよりも、むしろ自分の居場所を心地よくするための手段なのじゃないかと思う。だから、結局2人は交流してしまう。きっかけはほんの小さなこと。双方からの一方通行だった2人の間に接点が生まれる。ぎこちなく始まったそれは、堰を切ったようにどんどん大きく深くなっていく。その感じが微笑ましい。特にイザックのフォルケに対する気持ちがかわいい。

イザックは外見もあまり気にせず、友人も電話を5コール鳴らした後コーヒーを飲みにやってくるグラントぐらいしかいないようだ。外出もほとんどしない。一見すると偏屈な老人という印象だけど、病気の飼い馬に愛情を注ぐ姿からは、本当は情が深いのにシャイで不器用な人なんだということが伝わってくる。フォルケと友達になると、彼の事が気になって仕方がない。まるで恋する少女のよう(笑) でも、その姿が見ていてかわいくて、そして切ない。

そのかわいくて切ない感じは、フォルケに嫉妬してしまう友人グラントにも言えること。フォルケにあげるんだと、嫌いだったスウェーデンのタバコをうれしそうに買うイザックを見送る姿や、誕生日ケーキのシーンは切ない(涙) そして彼はとんでもない行動に出る。この行動自体は犯罪。もし、そのまま実行されたら大惨事だった。普通に考えて、いい年をした大人が、友人を取られたからといって起こした事件だと報道されていたら、大人になりきれていない何とバカな人物かと思うと思う。でも、あの切ない表情を見てしまうと、この行動も切なく、そしてどこか滑稽に感じる。えぇっと思いながらも、クスッと笑ってしまうのは、彼を見守る監督の目線が温かいこともあるけれど、これは良く出来たブラック・ユーモアでもあるんだと思う。ゴトゴト揺れるトレーラーハウスで何も知らずに眠るフォルケ。よく考えるとこのシーン、最初の方で伏線がはってあった。

そして、イザックはフォルケを救う。その事もフォルケは知らないのもいい。その救出シーンは本当に切なくてかわいらしくて泣ける。そして、その事がさらに切ないシーンの伏線になっている。大切な者のために、大切なモノを犠牲にする。愛情ってそういうことなんだと思ったりする。そして、フォルケも大切だったかは分からないけれど、代償を払うことになる。それはイザックの願いを叶えるためだけじゃない。それは自分のためでもある。イザックがフォルケを救うのも究極を言えば自分のためでもある。情けは人のためならずというのとはちょっと違うし、自分達の中にはその気持ちは明確にはなっていないと思うけれど。ラストも切ない。切なくてそして、本当のラストに少しホッとする。

役者さんたちは良かった。自身の出世と保身のため、規則にしばられている上司役とか、キャラの立った脇役の人達も面白かったけれど、友人グラント役の人と、イザック役のヨアキム・カルメイヤー、フォルケ役のトーマス・ノールストロームの3人は本当に良かった。とにかく3人とも本当に普通のオジサン。特に、グラントとイザックは田舎の素朴なオジサンという感じがかわいらしかった。そして、そのシャイで素朴なかわいらしさが、とってもとっても切ない。それがすごくいい。

フォルケのトーマス・ノールストロームの配役は絶妙。フォルケは独身のサラリーマン(調査員だけど・・・)で、たぶんスウェーデンというか、本来の自分の居場所に帰ったら、サエない普通のオジサンなのだろう。まぁ、別にここにいてもサエてはいないのだけど(笑) 中年独身男性の彼は、味気ない生活を送っているのだろう。だけど、田舎で1人で暮らすイザックにとっては、調査員という彼の姿に少し憧れの対象でもある気がする。都会から来たエリート調査員というような・・・ ホントはそんなでもないと思うけど(笑) それくらい、フォルケの事を見守っちゃっている(笑) 後に、実はイザックが覗き穴からフォルケを観察していたというオチ(※ストーリーの主旨としては、それがオチという話ではない)出てくる。そいう事がお互いの理解を深めたのだと思うけれど、その対象がフォルケというのが面白い。そして、トーマス・ノールストロームの腕カバーをして市役所で働いてるような風貌が、フォルケにとっても合っている。

イザックの田舎風のキッチンがいい。結構広くて、真ん中にドーンと大きなテーブルがある。手前右側にフォルケの監視台があって、そこを視点とすると、左側に流しとかキッチン設備がある。ここは実はほとんど使われない。だからどんな設備なのか実はあまり印象に残らない、それよりも突き当たりにある洗面台とか、右側の壁に作りつけられたお皿の飾り棚とか、そういうものが素朴でかわいい。でも、かわいすぎなくて絶妙。イザックがだんだんフォルケに近づいてくるのもいい。徐々にテリトリーに入ってくる感じ。フォルケのトレーラーハウスがいい! 少し丸みがある黄緑色の外観がいい。'50~60年代のミッドセンチュリー・モダン的な、でもどこか北欧的なデザイン。内装はむしろ古い感じでいい。狭いながらも結構快適そうなのがいい。

そして、この映画を見るきっかけとなったマジパンのケーキのシーン! もう素敵だった。フォルケの狭いトレーラーハウスのソファーに並んで座って、素朴なケーキにたくさんのロウソクを立ててイザックの誕生日を祝う。初めてイザックがフォルケのテリトリーに入った瞬間。きっと誕生日を祝ってくれたことよりも、そのことの方がうれしかったんだと思う。そんなに細かく自分の気持ちをいちいち分析してはいないと思うけれど(笑) 自分を受入れてくれた事、それがうれしい。このシーンはホント好き。それは、フォルケが1人でニシンを食べるシーンや、上司と2人並んで協力的ではなかった頃のイザックの事を報告するシーンとの対比となっていていい。かわいくて切ない。

95分と短いけれど、どのシーンも好き。とにかく切なくてかわいい。キッチン・ストーリーというけれど、食事のシーンや料理をするシーンはほとんど出てこない。イザックは観察されるのを嫌って寝室で調理してたし(笑) でも"Cinema Table”にこのマジパンのケーキが選ばれた理由はとっても良く分かる。かわいらしくて切ない。いい映画だった。


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