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🎬映画 🎨美術展 ⛸フィギュアスケート 🎵ミュージカル 🐈猫

【cinema】『グーグーだって猫である』

2008-09-30 21:45:23 | cinema
'08.09.24 『グーグーだって猫である』@シネカノン有楽町2丁目

これは見たかった。猫が大好きだから。試写会応募しまくったけど惨敗(涙) シネカノン有楽町2丁目の小さい方で上映。ほんとに小さい。19:55開演の回のチケを18:00ちょい過ぎに買いに行ったら、あと4席! しかも、並びで取れるのは最前の2席のみ。危なかった・・・。

「独特の画風で人気の漫画家小島麻子。40歳超、独身、彼氏なし。13年と5ヶ月と1日一緒に暮らした愛猫サバ(Ca va? 元気?)を亡くし、気力を失ってしまう。数ヵ月後、運命的にグーグーと出会った麻子は再びマンガを描き始めるが、体調に異変を感じて・・・」という話。正直、見ている間はそんなにグッとこなかったけれど、ガツンとやられたシーンがあった。そのシーンのおかげで、この映画がとても好きになった。

「綿の国星」などの漫画家、大島弓子の実体験をもとにした作品の映画化。大島弓子のマンガはきちんと読んだ事はない。絵がふわふわとやわらかい印象なのに、セリフなどが哲学的だった印象。子供の頃には難しくて理解できなかった気がする。だから、この映画の雰囲気が大島弓子の世界観によるものなのか、映画独特のものなのか分からない。犬童一心監督の作品は『メゾン・ド・ヒミコ』しか見ていない。あの映画の時にも感じたけれど、ちょっと設定やセリフや演技やそういう全てが少々あざといくらいに作り物っぽい。日常の中にありそうで絶対にないシーンが多い。ストーリーとは関係ないそれが、実は重いテーマを緩和している。例えば散歩途中でいつの間にか殺陣の練習に加わっていたりする。見ていた時には正直、不自然に感じていた。麻子を応援するチアリーダーとか、老人疑似体験とかも、あざとさギリギリ。でも、不思議とイヤではない。多分、そんな全て作り物である感じを楽しむ映画なのかも。

吉祥寺が舞台。吉祥寺では近隣在住のbaruとたまに遊ぶ。結構好きな街。混んでいるけど渋谷や新宿ほどじゃない。CAFEとかお店とかもかわいいけど、どこかちょっとだけヤボったい感じも好き。もちろん褒めてます(笑) 井の頭公園内のpepacafe FORESTは行ったことがあるので、登場してうれしかった。ハッキリ2回出てきたけれど、それ以外にも映っていたような・・・。2回目のシーンは感動! 井の頭公園や武蔵野の自然の感じも美しく撮れていたと思う。

冒頭いきなりサバが死んでしまう。13年と5ヶ月と1日一緒だったサバ・・・。麻子が落ち込んでしまう気持ちはよく分かる。たかが猫じゃないかと思う人もいるかもしれないけれど、人見知りで好きな相手に自分の気持ちを上手く伝えられないような不器用な麻子にとって、一番身近にいたのは多分サバ。しかも13年も一緒に暮らしたのであれば、猫とはいえ立派な家族。そしてサバは麻子の生活の一部。先日鑑賞した『マルタのやさしい刺繍』の記事にも書いたけれど、愛している対象を失うことって、自分の一部を失うこと。それは日々の生活の中に深く入り込んでいるから。自分の日常に自然に溶け込んでいた存在を失うのは、自分を失うことだと思う。簡単には立ち直れない。その人(猫)だけがいなくなった日常を続けないといけないのだから・・・。サバとのお別れのシーンが美しく切ない。涙があふれた。そして、このシーンは後のシーンの伏線となっている。

サバを亡くして半年以上マンガを描くことができなかった麻子。ある日、グーグーと運命の出会いをする。このシーンはいい。恋愛と似ている(笑) イヤ恋に不器用な麻子はこの"運命"というものに心を動かされるのを待っているんだなと思う。"運命"というと大袈裟だけど、要するに自分の心に入り込んでくる感じ。そういのってある。人でも動物でも、映画でも、絵でも・・・。運命的に出会ったアメリカン・ショートヘアの男の子はグーグーと名付けられる。再びパートナーを得た麻子はアシスタント達を招集(@pepacafe)し、新作の構想を発表する。突然、人の何倍もの速度で老化していく少女の話。この時点では構想だけで全体は見えてこない。実際、この難病は存在し、今現在闘っている患者さんもいるのだけれど、おそらくこの作品は猫が人の4倍の早さで年を取っていく、ということに着想していんだと思う。だから、この時点ではやっぱりちょっと不思議な作品を描く人なんだなと思う。それは麻子の佇まいとも共通する印象。そして、それは麻子の恋愛でも感じること。感受性が豊か過ぎるがゆえに、感情を表現することが下手。相手の事を思いすぎて一歩も踏み込まない。一歩踏み込めないのじゃなく"一歩も"(笑) きっと傷つくのが怖いから・・・。

麻子は倒れてしまい、手術を受けることになる。死を意識した麻子は恋する相手、青自に2つ話をしようとする。1つ目はグーグーの事、2つ目は・・・。1つ目は条件付で受入れられる。でも、その条件が2つ目を話すことを躊躇させる。2つ目は語られず、見ている側に委ねられる。その感じはすごく良かったと思う。繊細でありながら男っぽい青自は、麻子にとっても合っていると思うけれど、この時点では2人の関係は曖昧なままでいい気がする。上手く言えないけれどその方がこの映画に合っている。麻子の病気は女性特有のもの。手術が成功しても辛い。麻子はひどく落ち込んでしまう。そんな彼女を救うのは・・・。これはネタバレにならないように注意しないと! ずっと狂言回しとして冒頭から登場していたマーティー・フリードマンがここで意外な役として初めて麻子の前に現れる。ここからのシーンは感動。ボロボロ泣いてしまった。全体的にちょっとあざといくらい作り物っぽかったのは、このシーンのためだったのかと思う。このシーンは麻子の夢ともとれるけれど、現実にあったのだと思いたい。そういう風に見ている側に思わせないといけない。となると、この映画自体が自然体という作り物っぽさであることが生きてくる。って、犬童監督の作品がそういう作風なのかもしれないけれど(笑)

小泉今日子が良かった。麻子はいつも自分の感情や気持ちを抑えているような気がする。だけど、人を寄せつけないわけではない。だから、みんな麻子のことが気になる。でも、麻子はある程度の距離から踏み込んでは来ない。こちらが踏み込む事を拒否はしないまでも、踏み込めない雰囲気がある。そんな女性をホントに自然に演じていた。この自然って素のまま演じるってことじゃない。実はきちんと役作りをして計算してると思う。でも、それを感じさせちゃいけない。ナチュラル・メイクと同じ(笑) ずっと気持ちを抑えてばかりいる麻子に、もどかしさは感じてもイライラしなかったのはキョンキョンのおかげ。麻子の葛藤も伝わってきた。そして、常に気持ちを抑えていた麻子が夢(?)のシーンで、気持ちを表すのがいい。ちょっと理解されにくい麻子という人を、だからこそ魅力的な人物にしていたと思う。

青自役は加瀬亮。加瀬亮は好きな役者。飄々とした役はピッタリだけど・・・。この役期待していたより良くなかった。悪くはないんだけど。正直、青自という人物にあまり魅力を感じなかった。繊細でありながら男っぽいというのは、とっても魅力的だと思うんだけど、何となく謎の男っぽい描き方がわざとらしかった。1人だけ浮いている感じ。彼が麻子をホントはどう思っているのか、彼女を尊重して踏み込まないのか、実は彼にも自信がなくて踏み込めないのかイマヒトツ分からない。それが狙いなのかもしれないけれど・・・。

麻子のアシスタント、ナオミ役は上野樹里。上野樹里の出演作はドラマも含めほとんど見た事がないけど、何となくわざとらしい自然体が気になっていた。上手く言えないけど・・・。老人疑似体験シーンでも、あんな風に歩いたりしないだろうというくらいやり過ぎ。結構そいういう鼻につくシーンがあるのが気になる。だけど、時々すごくいい演技をする。彼氏に嘘をつくシーンとか、絵に対する気持ちを語るシーンとか。これからいい女優さんになるかも。森三中が意外にいい。正直、上手くはないけど思ったよりやり過ぎていなくて良かった。病院での大島とサラリーマンとの掛け合いはおかしい。あと、やたらと出てくる村上のあまり美しくない側転とか(笑)

カメオ出演(?)もなかなかおもしろい。楳図かずおは笑えた(笑) もちろん楳図役で登場。棒読みだけどセリフもあり。あとはチラチラ出てくる。元カレ(?)役の田中哲司は好き。そして冒頭から登場のマーティー・フリードマン! マーティーはほとんど英語で喋っているのでかっこいい。重要な役でもある。しかも、あのイデタチで(笑)

麻子はマンガを完成させる。ほんの少し紹介されるその作品が素晴らしい。生きること、死ぬこと、そして再生することが描かれている。絶望し、葛藤を超えた時、人は新しい感覚や境地を手に入れる。そういう事を麻子は自ら体験したからこそ描けたのだと思う。そしてその事がこの映画の描きたい事なんだと思う。そして、このマンガ読んでみたいと思った。

そして何より猫がかわいい! 紙袋に入るグーグー。お風呂の蓋の上で眠るグーグー。迎えに来るグーグー。猫を飼っている人ならグッと来るシーン満載。そして夢のシーンは猫好きならきっと泣いちゃうハズ! 「この地球で、みんな対等に生きている」ホントにそうだと思う。


『グーグーだって猫である』Official site

コメント (7)
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【cinema】『マルタのやさしい刺繍』(試写会)

2008-09-27 02:51:47 | cinema
'08.09.22 『マルタのやさしい刺繍』(試写会)@サイエンスホール

これは気になってた。シネトレさんで試写会当選。スイスで大ヒットした映画。この試写会なんとファッションショー付きだった。あまりよく分からないまま行ってしまったけれど、これは映画にちなんで花の刺繍の作品を募集。応募条件は65歳以上であること。中にはホームに入居されている方々(平均年齢82歳)の作品コーナーもあった。ショーのモデルさんたちも平均年齢70歳! 正直ポージングなどは・・・だけど、それがまた微笑ましい。年齢を重ねて何かを始めようという気持ちを持っていることは素晴らしいと思う。後ろの方に座ってしまったので、肝心の刺繍がほとんど見えなかったのが残念。

では、本題へ。「80歳のマルタは9ヶ月前に最愛の夫を亡くし生きる希望を失っていた。彼女を心配した友人リージ、フリーダ、ハンニ達の励ましも効果がない。ある日、結婚前に作った下着を見つけたマルタは、ランジェリー・ショップを開くという若い頃の夢を思い出す・・・」という話。これはなかなか良かった。老女とランジェリーという響きから、かなり濃いキャラのおばあサマを想像していたけれど違った。品が良くてかわいらしい作品だった。

正直、主役4人が高齢の女性であるという点を除けば、主題もストーリー展開もありがちではある。でも、多分これが若い女性の話だったとしても楽しめたと思う。要するに王道(笑) だけど高齢者の抱える問題を絡めてあって結構身につまされた。マルタ達が暮らすのは、穴あきチーズで有名なスイス・エメンタール地方のトループ村。この村が美しくてかわいい。だけど、ここで暮らすのは少々やっかい。田舎にありがちな保守的な村。保守的であるということは新しいものや変化を受入れないということ。そんな村にマルタがランジェリー・ショップをオープンする。正直、日本のしかも首都圏で暮らしている身としては、ランジェリー・ショップの何がそんなに問題なのか、今ひとつピンと来ない。まぁ、確かにあまりに大胆な下着が、人目も憚らず売られているのはどうかと思うけれど・・・。でも、この村では大問題。果たして、どちらの感覚が変なのか・・・。正直、分からなくなった(笑)

マルタが生きる気力を失くしてしまった原因は、もちろん愛する夫を失った悲しみだけれど、本当に辛いのは喪失感。その喪失感は単にその人がいないという事だけじゃなくて、自分の生活そのものが失われてしまった事にもある。マルタにとって朝起きて朝食を用意して、掃除をして、洗濯をしてという行為自体が変わるわけではない。でも、そこには"夫のために"という側面があった。長年のことで習慣化してしまっているから、いちいち意識はしていなかったと思うけれど、だからこそ失った喪失感が大きいんだと思う。当たり前になっていた事や、生活のほとんどを占めていた事が失われてしまった悲しみ。愛する人を失うのって、実は自分の一部を失うことだったりする。それは何も死別じゃなくても、辛い別れを経験した事がある人ならきっと分かるはず。その喪失感を埋めるには、何かに夢中になってしまえばいい。ということでマルタが夢中になったのはランジェリーを作ること。すごくいい事だと思うんだけどな(笑)

マルタの友人ハンニの息子で保守党員のフリッツが悪役(笑) 党での自分の地位ばかりに熱心で、大切な事を見失っている俗物。この人物に保守的であることの意義や信念なんかを持たせれば、話に深みが増したかもしれないけれど、どのみち悪役になるなら分かりやすい方がいいかも(笑) まぁ、小さな村の中だけの世界とはいえ、出世したい気持ちは理解できるし、車椅子の父親を毎日のように車で往復3時間かけて病院に連れて行くのは大変だとは思うけど・・・。でも、彼を悪役にしつつハンニ夫妻との親子関係で高齢者問題や介護問題を描いているから、保守的で小さな村でマルタ達がどんな風に生きてきたのか分かる。そして同時に身近な問題としても感じられる。となると、やっぱりフリッツを自己中心的な俗物としたから、マルタ達の行動に素直に感情移入できたのかもしれない。

マルタ達もそれぞれ問題や悩みを抱えている。アメリカ帰りの明るく開放的なリージの秘密は悲しい。そして、その秘密が実は秘密じゃなかった事も・・・。彼女はハデな服装や言動で村の中では少し浮き気味だったのかもしれない。だけど、彼女は誰よりもマルタを気遣っていた。心に傷を負った人は人に優しくなれるのかも。彼女にはさらに悲劇が待っているけれど、マルタとお店の準備をしている時や、村人達に冷たくされて落ち込むマルタを励ます姿はいい。「諦めないで」という言葉の裏にある気持ちを思うと切ない。人とは違う価値観を持っているのは素敵だけど、身勝手な価値観だと迷惑。マルタの息子は彼女を蔑んでいるけれど、リージは決して身勝手ではない。むしろ世間体ばかりを気にして、母親を「自分勝手」と叱りつけ、横暴な振る舞いをする彼の方が身勝手。まぁ、牧師という職業柄しかたのない部分もあるけれど。でも、後に彼とフリッツは予想通りマルタの反撃にあうのでお楽しみに(笑)

ハンニとフリーダも良かった。彼女達は古い価値観が捨てられずにいたけれど、それぞれの理由でマルタに賛同していく。2人が抱えている問題も高齢者問題だけど、実はハンニには専業主婦の、フリーダには独身女性の不安や悩みが投影されているように思う。フリーダは結婚していたと思われるし、働いていたという描写はないけれど・・・。女性の人生を皆同じと言うつもりはないし、男性の人生ならもれなく世界が広いというわけでもない。でも、やっぱり普通に生活していると、生活リズムや世界が固定されてしまう部分はある。その生活に不安や虚しさを感じてしまったとしたら、それはやっぱり自分で変えなきゃいけない。2人が変わったきっかけはマルタの影響が大きい。もちろんそれだけではないけれど。車の免許やインターネットに挑戦するのは高齢ということを考えなければ、別にそんなに大きな変化じゃない。でも、新しい事にチャレンジしているだけでワクワクするし、そんな自分を好きになれたりする。

やっぱりマルタがいい。演じているのはシュテファニー・グラーザー、88歳。スイスでは知らない人はいないと言われる人気女優さんだそうだけど、意外にもこれが映画初主演。マルタは結婚前に裁縫の仕事をしていたようで、その中にはランジェリーを縫う仕事もあった。リージが偶然見つけた何十年も前にマルタが作ったキャミソールが素敵! 金糸で品のいい刺繍が見事。ベルンで入ったランジェリー・ショップで大量生産の下着を見たマルタが次々ダメ出しをする気持ちがすごく分かる。そして布やレースを見て生き生きしている姿がいい。あの姿を見て「いい年をして」と言う人はほっといたらいいと思う(笑) マルタがくじけそうになりながら夢を実現させていくのは見ていて楽しい。何より新しいことを始めるのに年は関係ないんだという勇気をもらえる。20~30代くらいが人生で一番楽しいんだと思ってた。これから先はこんなにキラキラしないんだろうなぁと・・・。でも、そうじゃないのかもしれない。要するに自分次第ということ。まぁ、映画なのでちょっとお伽話的な部分は差し引いて考えるとして(笑)

知らなかったのだけど、スイスというのは公用語の種類が多く、映画がヒットしにくいのだそう。映画はドイツ語だった。この映画の舞台エメンタール地方の公用語はドイツ語なのかな? ベティナ・オベルリ監督のお祖母様がこの地方の方だそうで、とても美しく撮っている。なんでも監督はあのスティーブ・ブシェミに撮影技術を学んだとの事だけど、ブシェミはそんな仕事も? しかも役者以外にそちらの方面も? まぁ、直接習ったわけではないだろうけれど。ブシェミは好きな俳優さんだけど全く知らなかった。だからというわけではないけど、こういう日常の何気ない事から話が発展したり、ほんとに細かな人の心の動きを、鋭くも優しい目線で描いているのは女性監督ならでわという感じ。

とにかく村が美しい。そしてかわいい。暮らしぶりもつつましやかで、かわいらしい。ほんの少しだけ登場するベルンの街並みも素敵。そして、おばあちゃん達がかわいい。実は、上映前のファッション・ショーは楽しく見つつも、早く映画が見たいなと思ってしまった。映画の中で、息子達のマルタ達に対する態度や扱い方に怒りを感じて気づいた。何故、自分の国のおばあちゃん達に優しい気持ちを持てなかったのだろう。ステージ上でのモデルも、そのモデルさんたちが身に着けた衣装も、おばあちゃん達が生きがいを感じて頑張ったのに・・・。反省。そして、それは多分甘え。自分も息子達も甘えているんだと思った。そういう事に気づかせてくれた映画だった。

『マルタのやさしい刺繍』というほど刺繍はメインではない。原題Die Herbstzeitlosenというのはコルチカムという花のことなのだそう。どんな花なのか分からないけれど、確かに野の花のような素朴でかわいらしい映画だった。アップル・パイが食べたくなった(笑)


『マルタのやさしい刺繍』Official site


映画の中でマルタが縫った村の旗

★いろいろ頂いた

まずはLindtからチョコレート1粒(完食)とキーホルダー
AQUATIQUE MDのボタニカル・モイスチュアライジングゲル


DMCからシクラメン柄の刺繍キット
その他、刺繍系のパンフレット多数


コメント (4)
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【cinema】『ダークナイト』

2008-09-21 22:42:08 | cinema
'08.09.14 『ダークナイト』@サロンパスルーブル丸の内

これは気になった。ヒース・レジャーがジョーカーを演じて、その演技が絶賛されていること、そして本作が彼の遺作になってしまったことが理由。特別ファンではなかったけれど、演技派俳優の最期の演技を劇場で見ておきたかった。

「バットマンの活躍により犯罪率は減少したが、より凶悪な犯罪が増加してしまったゴッサムシティー。マフィアが街を支配し、警官の汚職も横行していた。新任検事ハービー・デントは不正を一掃しようと立ち上がるが、新たな犯罪者ジョーカーが現れる。」という話。これは面白かった! 前作『バットマン ビギンズ』は未見だったのでレンタル。TUTAYAのお兄さんが「このシリーズ面白いっすよ!」と言っていたとおり面白かった(笑) クリストファー・ノーラン作品は前作と『プレステージ』、そして『インソムニア』しか見ていないけど、バットマンってこんなだったっけというくらい全体的にダーク。映画全体、画面全体からただよう倦怠感のような暗さはクリストファー・ノーラン独特の世界観なのかな? それがとってもいい。

現代なのか近未来なのか不思議な雰囲気。場面によっては'50~60年代のように見えたりもする。この感じはいい。マネーロンダリングとか、企業の合併とかこれは大人向け。アメコミ原作のヒーロー物とはいえ、子供が見てもあまり面白くないかも。そもそもヒーローがあんまりヒーローっぽくない(笑) 真っ黒な衣装で口数も少なく低い声で難しい事を言う。ヒーローらしい分かりやすい明るさはない。表の顔ブルース・ウェインである時も、正体を隠すため性格の悪い金持ちを演じているし、バットマンもあえて汚名を着る。実はバットマンは絶対に殺さないし、汚名を着るのは自己犠牲。でも、それが理解できないと面白くない。バットマンという名前はもちろん、アメコミ原作のヒーローでアニメや映画になった事も知ってる。"Batman"が入ったTHE JAMのアルバム「IN THE CITY」 も持ってる(笑) でも、内容についてはあまり知らない。こんなに孤高のヒーローなのだろうか。たしかロビン少年とかバットガールという仲間がいたような? 世界観を変えたのだとしたら成功だと思う。

ゴッサムシティーのデザインがいい。ウェイン・タワーのある中心地は、前作より近未来的になった。郊外の少しレトロな街並みの中、前作で父が寄贈したモノレールの高架下をバットマンカー(?)で走る感じがいい。バットマンのデザインもいい。面白かったのは前作で着用したバットマンスーツ(?)が改良されるのだけれど、重いとかバックする時に首が回るようにしたいとか、けっこう庶民的でグチっぽい。まぁ、たしかに切実(笑) そういうやり取りを真面目にクリスチャン・ベイルがマイケル・ケインやモーガン・フリーマン相手にするのはおかしい。バットマンカーも装甲車だし(笑) もうカッコイイとかいうんじゃなくてバカ! しかも今回バイク状になる。これはもう素晴らしいバカデザイン! これは感動。もちろんホメてます! でも、この映画がアメコミっぽいのは、バットマンの超人的パワーとコスチューム、あとは武器やバットマンカーくらい。そしてトゥーフェイスが文字通りトゥーフェイスになってしまう辺りくらい。だからバットマンがありえない衣装を着て、超人的パワーで敵と闘っているにも関わらずとってもリアル。

ジョーカーを怪人とはせず異常犯罪者として描いたのがいい。現代には幽霊や怪人などより、よっぽど理解不能な怪物がいる。普通の人間の仮面を被って。だからジョーカーの行動や犯行は常軌を逸してはいるけれど、超人パワーを使ったものではない。これはバットマン vs ジョーカーの対決ではなくて異常犯罪者との闘いの物語としても十分おもしろい。多分その辺りを描きたいんだと思う。あとは善 vs 悪。悪であるジョーカーに対し、ハービー・デントやゴードン警部など正義が立ち向かうけれど、正義は実はもろい。トゥー・フェイスのように。善には自己犠牲がともなう。その象徴はバットマンだけど、船の乗客と囚人達の行動も同じ。罪なき人と罪人が同じ選択をしたことがそれを表している。このシーンは感動。

豪華キャスト達の演技が素晴らしい。この映画のもう1人のヒーロー、ハービー・デントはアーロン・エッカート。この人物が一番アニメ・キャラっぽい。後半は完全にアニメなので、ちょっと大味に見えてしまうけど、前半の熱血検事ぶりはいい。絵に描いたようなヒーローを演じても嫌味がないのは演技の上手さと、本人の個性によるものかも。いい意味で隙があって、キャラによってはそれが大人の余裕に見える。後半の姿はジョーカーの望んだ人間の脆さを表しているれど、そうなってしまう危険性は後から考えると前半の姿にも潜んでいる。彼もまた自らを犠牲にして人々を救おうとするけれど、それはブルース・ウェインのそれとは違う。あまり書いてしまうと面白くないけど、彼のは実はヒロイズム。自分では気づいてないと思うけれど自己陶酔。もちろんそれだけではないけれど。その自己陶酔と高潔な男のバランスが絶妙。だから後半やはりと思える。

バットマンが思いを寄せるレイチェルはマギー・ギレンホール。正直、アメコミのヒロインとしては手放しで美女とは言いがたいけれど、演技が上手いのでよし。レイチェルは強い信念を持って行動する女性。時にはその正義感から危険な目にあったりもする。でも、ひるまない強い女性。マギー・ギレンホールの少々オバさんっぽい容姿(失礼(笑))と抑えた演技のおかげで、ムチャをして主人公に迷惑をかけるウザイ女にはなっていない。今回、レイチェルはブルースとハービー・デントの間でゆれる。『スパイダーマン』のMJよりも大人で自己確立できている彼女の選択は納得できる。嫌な女になっていないのはマギー・ギレンホールのおかげ。前作ではケイティー・ホームズが演じていた。変更になった理由は不明だけど正解だと思う。このキャスト達の中でケイティー・ホームズでは役不足だったと思う。

ベテラン俳優達が素晴らしい。前作に引き続きルーシャス・フォックスを演じるモーガン・フリーマンはさすがの存在感。前作ラスト副社長になったので、今回はその立場を利用していろいろ活躍するけれど、役の感じとしては前作のスゴイ人なだけに閑職みたいな方がおもしろかったかも。でも彼がゆすり男リースに言う一言はカッコイイ。ゴードン警部役のゲイリー・オールドマンもいい。この役、意外に難しいと思う。フォックス、ゴードンと執事のアルフレッドはバットマンの協力者であり、心の支えとなる人物達。でも、ゴードンは利害関係がある。その辺、バットマンを利用するようにも描けるし、逆に崇拝してしまうようにも描ける。後者の要素が強いけれど、そうなり過ぎていないのはゲイリー・オールドマンの演技によるもの。バットマンを理解したうえで尊重している。そして、彼のことを気遣ってもいる。だからラストのセリフが生きる。

そして、アルフレッド役のマイケル・ケインが素晴らしい。いかにも英国の執事という佇まい。主人を守るということに徹底する。でも職務に忠実な機械のような人物ではない。そこには主人に対する愛がある。いつも執事服に身を包み姿勢正しく威厳に満ちているけれど、その表情や身のこなし、そして態度は品が良く柔らか。いろいろ、ホントにいろいろ多忙な主人ブルース・ウェインを優しく包み込む。この人はホントにアルフレッドなんじゃないかと思わせてしまう。とにかく素晴らしい。彼が「見捨てないのか?」と聞くブルースに「NEVER!」と答えるシーンがいい。この言い方が絶妙。気負いもないし、過剰すぎもせず、少しおどけた感じですらある「NEVER!」は主人公を救い、そしてプレッシャーにならない。それがスゴイ。多分、アルフレッドはこの状況を楽しんでると思う(笑) そういう雰囲気すら感じさせる。マイケル・ケインのアルフレッドに救われているのはバットマンだけではなく、この映画自体も大いに助けられていると思う。

そして主役2人。まずはバットマン=ブルース・ウェインを演じたクリスチャン・ベイル。神経質そうな感じがちょっと苦手。出演作は『ベルベット・ゴールド・マイン』『マシニスト』『プレステージ』しか見ていないと思っていたけど、『コレリ大尉のマンドリン』と『ある貴婦人の肖像』も見ていたようだ。でも、出演シーンを覚えていないので、あくまで3作品に限るけれど、どれもクセのある役ばかり。私生活でも暴力問題を起こしたりと、どうもあまり良いイメージがない。でも、いつもわりと無表情で淡々と演じている気がするのに、どの役もリアリティーがあるのは彼の演技が上手いからだと思う。バットマンがここまでリアルに感じられるのは彼のおかげ。実は大富豪ブルース・ウェインという人物も、そして彼が作り上げたバットマンも現実離れしたキャラ。でも、リアル。大袈裟に感情表現することはないのにブルースの苦しみが伝わる。それはスゴイ。彼が本当に存在しているかのような気になってくる。多分、前作の時点ではバットマンをずっと続けるつもりはなかった。でも、今作で彼は続けるために自分を犠牲にすることを決心する。それがタイトルである『ダークナイト』に繋がるのだけど、その辺りが多弁でないのにきちんと伝わってくる。プレーボーイを装う時ちとキモイのもいいと思う(笑) バットマンの時の声をすごく作ってるのが妙にリアルで笑える。もちろん褒めている。このシリーズのダークで大人な感じって、主人公が明るい人物ではないことと、苦悩しつつもかなり自分をコントロールできているということが大きいと思うけど、それはクリスチャン・ベイルの個性によるところが大きいと思う。この配役は素晴らしい。

そしてジョーカー役のヒース・レジャーがスゴイ! 狂気というけれどジョーカーは狂っているわけではない。イヤもちろん狂っているんだけど、絶対に彼の頭の中は冷静なんだと思う。そしてきちんと自分のしていることと、するべきことが見えているんだと思う。でも、その全部が狂っている。だから罪悪感はない。でも「神の声が聞こえた」とか言う狂気とは違う。彼は彼なりの信念に従って行動していて完全に正気。でも狂っている。だから怖い。理解できないものは怖い。でも、得体が知れないから逆に魅力的。圧倒的な悪って実は魅力的だったりする。ジョーカーはその1歩手前みたいな感じ。その感じも絶妙。魅力的であってもいいのだけれど、皆が魅了されてしまうほど魅力的じゃいけない。見る側に気になるけどやっぱり狂ってるという視点を持たせないといけない。見ている側は何とか理解しようとするから、何が彼をこうしてしまったのか原因を知りたいと思う。口から頬にかけての傷は父親の虐待によるものだと聞けば、やっぱりそうかと思う。でもその後、彼はいとも簡単にこれを覆す。その演技がスゴイ。父親の話を真実のように語った後、レイチェルに別の理由を語るけれど、その言い方には何の思い入れもないし、悪びれた様子もない。彼が語ることのいくつかは真実かもしれないし、どれも嘘かもしれない。理解できずに不安な気持ちがずっと続く。そして明確な答えは得られない。sex pistolsのジョニー・ロットンをイメージしたという衣装と、シロウトがしたとしか思えないメイク、そしていつもウェットなウェーブ・ヘア。喋る時にベチャベチャ舌を鳴らす感じが全て悪趣味で印象的。だけど大味じゃないのがスゴイ。メイクが時々はげたりしてリアル。彼が人間なのだと実感させられる。ジョーカーの狙いは結局よく分からないけれど、無理やり理由をつけるとすれば自己証明とかいう事になるのかな。間違った自己実現とか・・・。とにかくジョーカーを理解不能な人物として描きながら、理解したいと思わせる。適度に魅力的だけど共感は全くできない。正気でありながら狂気という感じが素晴らしい。このダーク感はいい。ヒース・レジャーは前から演技が上手いと思っていたけれど、これはスゴイ! 本当に惜しい才能(涙) ご冥福をお祈りします。

バットマンはマスクで、ジョーカーはメイクで素顔を隠しているけれど、多分2人にとって本当の自分はマスクもしくはメイクをしている時なんだと思う。少なくともバットマンではないブルース・ウェインの公の顔は本当の彼ではない。でも、多かれ少なかれ人は自分を守るため仮面を被っているところはある。主題はそこにあるのかなと思う。2人の真実の顔が正反対で、実は表裏一体なのもいい。どちらも異端であり孤独。だからこそ『ダークナイト』なんだと思う。そしてこの映画が最も言いたかったことは人間の本質は"善"であるということ。これは様々な人物達が見せる自己犠牲に象徴されている。それをこんなダークな感じで見せるのがいい。

戦闘シーンなどいくつかのシーンはIMAXで撮影されたとのことで、その映像はスゴイ迫力。そしてスピード感がスゴイ。これIMAXシアターで見たらすごいと思う。とにかく、独特のダークな世界観が好き。おもしろかった!


『ダークナイト』Official site

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【cinema】『おくりびと』

2008-09-15 03:39:28 | cinema
'08.09.08 『おくりびと』(試写会)@シビックホール

これは見たかった! さんざん試写会応募してハズレまくった(涙) やっとyaplogで当選!

「チェロ奏者の大悟は楽団の解散で失業。妻の美香と共に故郷の山形に帰ってくる。求人広告で見つけた会社に就職が決まるが、それは亡くなった人を棺に納める納棺師という仕事だった・・・」という話。これは良かった。

冒頭、どうやら大悟が初めて1人で納棺を行うと思われるシーンから始まり、回想でオーケストラ演奏シーンへ。そして解散。山形へ戻って就職し初仕事までは割りとコメディータッチ。大悟のキャラも意外に軽い感じで、予告などで感じていたのとは違う印象に少し戸惑った。でも、決して嫌なわけではないし、これは1人の男性の成長物語でもあるので、初めはこんな感じでもいいのかもしれない。

納棺師という仕事の事は全く知らなかった。最近おくった伯父のお通夜やお葬式でもすでに棺に納められていたので、毎回こんな風に儀式的に納棺しているものなのか分からない。映画では大悟と社長は遺族の見守る中、粛々と儀式を進めていく。その様式化された動作の全てが美しい。あんまり詳しく書いてしまうといけないのだけれど、ただ納めるだけでなく身を清めたり、生前の姿に近づけるため化粧を施したりする。それらが流れるように進み、故人がまるで眠っているかのように棺に横たわる。もちろん遺体も役者さんが演じているわけで、実際とは違っているだろうけれど、優しく丁寧な仕事はすごくいいものだと思った。

『おくりびと』というタイトルやその仕事から人の死についての話のように思うけれど、これは人が「生きてゆく」ことを描いた映画。そして、その先にあるものが「死」であるということ。生きるということは誰にとってもなかなか大変なこと。楽しいことだけで生きてはいけない。生きるためにはやりたくない事もしなくてはならない。主人公の大悟はチェロが好きで、チェロ奏者として楽団で演奏する事が夢だと思ってきた。だからそれが実現して思い描いた人生を生きているんだと思っていた。それがあまりにあっけなく失業。音楽家としては凡庸な彼の音楽人生は終わる。でも、人生は続く。だから生きていかなくてはならない。好きな事だけしていればいい時期は終わった。納棺師というのは少し唐突な気はするけれど、誰もが希望の仕事に就けているわけではない。その辺りの夢と現実の間で葛藤はあったと思うけれど、そこはそんなに強調されてはいない。それは良かったと思う。30代半ばくらいと思われる大悟が、夢に固執するよりは、自分の限界を知っている方が見ていて好感が持てる。それは自分の身の丈を知るということで決して敗北ではない。でも、大悟は結局別の夢と現実で悩むことになる。それは等身大の悩みだし、それを乗り越えて大きくなる姿がきちんと描かれている。

登場人物たちが魅力的。とぼけた感じの社長にも、サラリとかっこいい事務員の女性にも、幼なじみの母親で鶴乃湯のおかみにも、銭湯の常連客にも心に秘めた思いや気持ちがある。そのそれぞれに「生きていく」ということの切なさが感じられる。生きるということは記憶や経験の積み重ね。楽しい記憶もあれば、辛い記憶もある。それら全てを飲み込んで生きているんだなぁと思わせる。もちろん社長達だって人生の途中ではある。でも言い方は悪いけれど死をゴールとするならば、大悟や美香よりはややゴールに近い。実際ゴールを迎える人もいる。社長達が大悟達より葛藤していないわけでも、楽しんでいないわけでもないけれど、その振り幅が小さくなっていくんだと思うし、それも経験によるものなんだと思う。

そういう自分より人生経験をつんだ人達に触れる事で、大悟も様々な葛藤を乗り越えていく。30代といえば立派な大人。でも実際自分が30代になってみても全く大人になれていないことに気づく(涙) 単純に年を取っただけでは大人になんかなれないとは思うけれど、もう少し大人になっててもいいんじゃないかと我ながら思う。多分、実年齢-10歳くらいが精神年齢なんじゃないかと自分も含めて思う。となるとこの年齢設定はいいと思う。そもそもこの映画は納棺師の仕事に感銘を受けたモックンが映画化を希望したのだそう。モックンは今年43歳だけれど、その辺りも自身の経験も反映されているのかもしれない。

社長と大悟の関係がいい。幼い頃生き別れた父の顔を大悟は覚えていない。さすがに30代で社長の中に父を求めたりはしないと思うけれど、やっぱり無意識に自分の中の父親像を見てしまうことはあるんじゃないかと思う。それは社長にとっても同じなのかもしれない。大悟が仕事に対しても家庭の面でも悩んで壁にぶつかっていた時、2人でフグの白子を食べるシーンがいい。「ウマイんだよな、困ったことに・・・」というセリフが生きるという事を表している気がする。心が折れてもうダメだと思って食事もノドを通らない時期を過ぎて、何かを食べておいしいと思う。その時、自分を動物的に感じて複雑な気持ちになった事を思い出す。でも、悲しみも喜びもいろいろ抱えて人は生きていく。その糧は食べ物をおいしいと感じるとかそんな些細なことだったりもする。

社長の山﨑努がいい。『クライマーズ・ハイ』の時には少し作りすぎな気がしたけど、これは抑えた演技で良かった。初めは少しコミカルでいい加減な人に見えた社長が行う納棺の所作に心がこもっている。その姿が遺族だけでなく大悟の心も動かしていく。その感じに説得力がある。そして、大悟の父親的な存在でありながら、そうであろうとはしない感じもいい。鶴乃湯のおかみ役吉行和子も良かった。夫亡き後、1人で銭湯をきりもりしてきたきっぷの良さもそうだけれど、あとから分かる弱い部分に感動できるのも、そういう部分をも感じさせているから。そしておかみが「人に気を使い過ぎて、自分の気持ちを押し殺してしまうところがある」と大悟の事を美香に語るセリフがいい。ここの吉行和子の演技が素晴らしい。このセリフで流されているだけに見える大悟の本当の気持ちに思い至る。

銭湯の常連客の笹野高史も良かった。笹野さんは好きな役者さん。初めは毎日鶴乃湯に通うトボけたオジさんに見える彼にも口にはしない思いがある。それが分かるシーンはそのシーン全体が切ないので涙が止まらなかった。NKエージェントの事務員役の余貴美子がいい。雰囲気があって好きな女優さん。こちらも初めは少しコメディータッチで登場。不思議な感じの事務員さんだけど、やっぱりワケあり。後に大悟の背中を押すことになるその過去はありがちではあるし、罪にはならないながらも人としては許しがたい行為だと思う。でも、そうしか生きられないなら、仕方がなかったんじゃないかと思わせてしまう。だからこそ大悟も決心できたのだと思う。

美香役の広末涼子は悪くはないけど・・・。正直、自然体の演技と言われる彼女の演技を自然と思ったことはない。何歳の設定なのか分からないけれど幼い印象。夫の仕事に拒否反応を示す気持ちは分かるので、その描写があるのはいいと思うけど、ダダをこねているようにしか見えない。下手だとは思わないし、後に「夫は納棺師です」というセリフは良かった。でも、もう少し大人の女性を感じる女優さんの方が良かったように思う。しっかり支えた上で癒してあげられる女性はいるし、そういう風に演じられる女優さんもいると思う。モックンと夫婦という設定に違和感があって、それが最後までぬぐえなかったのが残念。まぁ、あくまで個人的な感想だけれど。

何といってもモックンの演技が素晴らしい。初めはチャラッとして頼りないと思っていたけれど、大悟が悩みながら一人前の納棺師になっていく姿を見ているうちに、その人柄が分かってくる。軽い感じに見えたのは不安な気持ちを隠すためだったんだと気づいたりする。感情を表さないわけではないけれど、肝心なことを言ってくれないのはやっぱり不安。でも何か悩んでいることは伝わるから余計に辛い。いつか話してくれるだろう、言えない方も辛いのだろうと思って我慢するけど、信頼してもらえていないのかと悲しくなったりする。男女間の悩みの多くは考え方の違いにあるのだと思うけど、大悟の葛藤がすんなり入ってきてイラッとすることがなかったのは、決してハデではないけれどきちんと気持ちが伝わっているから。言ってしまえばいいのにという心に秘めた思いを、相手を気遣って言えない姿は切ないし、こういう思いもあったのかと自分では分かってあげられなかった人の思いに気づく。言葉に出来なかったり、整理のつかない気持ちをチェロを弾くことではき出すのがいい。チェロは心の支えになった。チェロの音自体は分からないけれど、演奏シーンはモックンが弾いている。これはスゴイ。

普段は意識しないけれど人間がこの世に生を受けることは奇跡。誰かに取り上げられて生まれてきて、両親や様々な人に関わって見守られて成長し、そして死を迎えて誰かにおくられる。人は1人で生きていけるわけではない。大悟は自分にとって重要な人をおくることになる。それはとても苦しい葛藤だったけれど、そこでもまた人の気持ちの奥深さや複雑さを知ることになる。そしてそれは自分を救うことでもある。赦しは自分を赦すことなのだとあらためて気づいた。

庄内の風景が美しい。夢破れて故郷に帰るというと、あまりいいイメージではないけれど、傷ついた心を癒してくれるのは、やっぱり生まれ育った土地なんだと思わせてくれる、包み込むような景色。吹雪の映像でさえ美しい。夫婦が暮らす家は少し作り過ぎな気もするけれど、鶴乃湯やNKエージェントの建物や内装がいい。そういう自然や古い街並みが、自宅での葬儀や遺族が見守る前での納棺など、都市部ではめったに見られない光景も受入れられる。

とにかく納棺の所作が美しい。家族が見守る中、巧みに隠しながら衣服を脱がせ、体を拭き死に装束に着替えさせる作業は見事。自分がそうして欲しいかは、まだ死が身近ではない身としては微妙。でも、自分の親をおくる時、こんな風におくりだしてあげたいと思ったりする。そして、どんな仕事でも心を込めて取り組めば、人の心を打つし、自分も充実するのだと思った。エンドロールでモックンが1人粛々と納棺を行う映像は必見。

生きるとは、死とは、という重いテーマを扱っているけれど、時にコミカルに押し付けがましくなく描いている。良い映画だった。


『おくりびと』Official site

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【cinema / DVD】『アヒルと鴨のコインロッカー』

2008-09-07 23:52:29 | cinema / DVD
これは前から気になっていた作品。WOWOWで放送されたとき見逃してしまったのでDVDにて鑑賞。瑛太くんは好き(笑)

「大学に進学する為、仙台で1人暮らしを始めた椎名。隣室の河崎に声をかけられ親しくなる。河崎は何故かペットショップのオーナーは信用するなと言う。ある日、河崎は同じアパートに住む留学生ドルジが失恋で悩んでいるのを慰めるため本屋を襲撃しようと椎名を誘うが・・・」という話。あらすじだけ読むと荒唐無稽な映画のように見えるけれど、これはなかなか良かった。

主人公の椎名は普通の少年。特別裕福ではないけれど貧しくもない家庭に育った。両親とも健在でおそらく多少の反発はあったにしても、愛されて育ってきた。その彼が出会った河崎という謎の男。主人公のような純朴な青年が惹かれるタイプかもしれない。自分にはないものを持っている。初めはその2人のデコボココンビ的な友情物語なのかと思っていた。でも、違った。実はかなり重く切ない話だった。

河崎に強引に誘われるままに書店強盗に付き合わされる椎名。その後、河崎は不思議な距離感で椎名に関わってくる。時に突き放すようでもあり、椎名を必要としているかのようでもある。なので椎名だけではなく見ている側も河崎が気になって仕方ない。ひょんなことからペットショップのオーナーと知り合うことになる椎名。初めに「ペットショップのオーナーは信用するな」と言われている上でのこの出会いはなかなか面白い。ほとんどが若い登場人物達の中で、このオーナーのみが大人の女性。その感じもいい。

そして、河崎とオーナーから少しずつ語られていく河崎とドルジ、そしてドルジの彼女でペットショップ店員だった琴美の物語。女好きでいいかげんな感じの河崎、真面目で純情なドルジ、そして気の強い琴美のやや複雑ではあるけど、普通の恋愛話に見える。でも、2人はあまり深く話をしたがらない。特別踏み込むつもりもないけれど、何となく河崎が気になる椎名。その椎名の感じもいい。そして、とうとうある日椎名は決意する。オーナーと2人で河崎を尾行する。そして河崎の秘密を発見する。このシーンは衝撃的。そして語られる真実。これは悲しく切ない。

正直、どんでん返し自体は目新しくないし、河崎に関してはある程度予測はついた。でも、最初に見せられていた場面と、本当のその場面と対比すると、すべて真実味があって切なく感じる。そして椎名が今まで見てきたこと、体験したことの本当の意味が明らかになると、河崎の悲しさが伝わる。伏線が明らかになる感じは、だからなのかといちいち納得。この見せ方はいいと思う。どうしてそんな事にと思うけれど、実際こんな事件は起きている。椎名とオーナーが辿り着いた河崎の秘密は、許されないことだとは思うけれど、正直当然の報いなんじゃないかと思ってしまう。やったことの責任は取れよ!と思うから。もちろん頭では正しくないことは分かっているけれど、気持ちの上では同じ思い。そしてきっと誰もがその間で葛藤して苦しむんだと思う。それが辛い。

椎名役の濱田岳は普通の青年役を好演していたと思う。ちょっと気が弱くて少し要領の悪い感じは、その小柄な外見とも合っている。河崎を素直に受入れる感じもいい。警戒はしているけれど、拒否はしない。それは憧れもあると思うし、好奇心もあるかと思うけれど、心配している感じも伝わる。その感じが嫌味なく、少し気の弱い感じをイラッとさせることもなくて良かったと思う。琴美役の関めぐみはイマドキの勝気な女性を演じる際の、若手女優さんにありがちな大袈裟演技が気になるけれど、車の前に立ちはだかるシーンは良かったし、それに続くシーンで結果を見届けたあと微笑みながら目を閉じる演技は良かったと思う。オーナー役の大塚寧々はいつも滑舌の悪さが気になって集中できなくなってしまうのだけど、この役は良かったと思う。彼女も悲しい思いをしているし、悔しい思いもしている。でも、だからこそ助けたいと思っている感じも伝わる。

謎の男役の松田龍平が良かった。ちょっと個性的過ぎるタイプだけれど、その個性が役に合っている。途中から本来の姿として登場する彼は、それまで見る側が信じていた役以上にその役として存在しないといけない。それはきちんと出来ていたと思う。同時に、きっとその感じに憧れていた部分もあるんだろうと思わせる。間違いなく、コチラが本物だと思わせるくらいしっくりとくる。その感じは良かった。そして河崎役の瑛太が良かった。河崎役には少し違和感があったけれど、後にその違和感の意味も分かる。瑛太くんには切なさとか哀しさが似合う気がする。それが彼の演技によるものなのか個性なのか良く分からないけれど・・・。それがこの役にはとっても合っていると思う。若いのにそういう雰囲気を出せるのはなかなか貴重だと思うので、是非このまま頑張って欲しいと思う。ってエラそうだけど(笑)

世の中理不尽なことはいくらもある。事の大小はあっても理不尽な目に一度もあったことのない人はいないと思う。自分自身が理不尽なのでさえなければ。だから、こういう理不尽な事に怒りを感じるのだと思う。怒りを感じている自分は正常なのだろうとも思う。変な言い方だけど・・・。だけど、その理不尽な事が人の命を奪い、1人の人間の考え方や生き方、そして人生までも変えてしまうのは悲しい。

ずっと誰かを待ってた河崎と椎名を結びつけるのがボブ・ディラン。この使い方はいい。ディランを神様に見立てるラジカセのシーンもいい。タイトルのアヒルと鴨は会話に出てきたけれど、コインロッカーはと思っていたら、そんな使い方・・・。それも良かった。原作は未読なのでどこまで忠実なのか分からないけれど、タイトルにあるからにはこれはそのままなのかな? でも、映像で見ると切なくていい。

映画の後半、真実が分かると同時に今まで見ていたものがひっくり返る。そこが重要で、そのこと自体が映画の言いたいこと。だからネタバレは極力避けたつもりだけど、勘のいい人は分かっちゃうかも。青春映画というのでもないし、悲しい物語ではある。ラストも多分悲劇。でも、悲しいだけではなかったと思う。そういう感じは良かったと思う。正義って何?と思ったりもした。感動! という感じではないけれど、なかなかいい映画だったと思う。


『アヒルと鴨のコインロッカー』Official site

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