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【cinema】『マルタのやさしい刺繍』(試写会)

2008-09-27 02:51:47 | cinema
'08.09.22 『マルタのやさしい刺繍』(試写会)@サイエンスホール

これは気になってた。シネトレさんで試写会当選。スイスで大ヒットした映画。この試写会なんとファッションショー付きだった。あまりよく分からないまま行ってしまったけれど、これは映画にちなんで花の刺繍の作品を募集。応募条件は65歳以上であること。中にはホームに入居されている方々(平均年齢82歳)の作品コーナーもあった。ショーのモデルさんたちも平均年齢70歳! 正直ポージングなどは・・・だけど、それがまた微笑ましい。年齢を重ねて何かを始めようという気持ちを持っていることは素晴らしいと思う。後ろの方に座ってしまったので、肝心の刺繍がほとんど見えなかったのが残念。

では、本題へ。「80歳のマルタは9ヶ月前に最愛の夫を亡くし生きる希望を失っていた。彼女を心配した友人リージ、フリーダ、ハンニ達の励ましも効果がない。ある日、結婚前に作った下着を見つけたマルタは、ランジェリー・ショップを開くという若い頃の夢を思い出す・・・」という話。これはなかなか良かった。老女とランジェリーという響きから、かなり濃いキャラのおばあサマを想像していたけれど違った。品が良くてかわいらしい作品だった。

正直、主役4人が高齢の女性であるという点を除けば、主題もストーリー展開もありがちではある。でも、多分これが若い女性の話だったとしても楽しめたと思う。要するに王道(笑) だけど高齢者の抱える問題を絡めてあって結構身につまされた。マルタ達が暮らすのは、穴あきチーズで有名なスイス・エメンタール地方のトループ村。この村が美しくてかわいい。だけど、ここで暮らすのは少々やっかい。田舎にありがちな保守的な村。保守的であるということは新しいものや変化を受入れないということ。そんな村にマルタがランジェリー・ショップをオープンする。正直、日本のしかも首都圏で暮らしている身としては、ランジェリー・ショップの何がそんなに問題なのか、今ひとつピンと来ない。まぁ、確かにあまりに大胆な下着が、人目も憚らず売られているのはどうかと思うけれど・・・。でも、この村では大問題。果たして、どちらの感覚が変なのか・・・。正直、分からなくなった(笑)

マルタが生きる気力を失くしてしまった原因は、もちろん愛する夫を失った悲しみだけれど、本当に辛いのは喪失感。その喪失感は単にその人がいないという事だけじゃなくて、自分の生活そのものが失われてしまった事にもある。マルタにとって朝起きて朝食を用意して、掃除をして、洗濯をしてという行為自体が変わるわけではない。でも、そこには"夫のために"という側面があった。長年のことで習慣化してしまっているから、いちいち意識はしていなかったと思うけれど、だからこそ失った喪失感が大きいんだと思う。当たり前になっていた事や、生活のほとんどを占めていた事が失われてしまった悲しみ。愛する人を失うのって、実は自分の一部を失うことだったりする。それは何も死別じゃなくても、辛い別れを経験した事がある人ならきっと分かるはず。その喪失感を埋めるには、何かに夢中になってしまえばいい。ということでマルタが夢中になったのはランジェリーを作ること。すごくいい事だと思うんだけどな(笑)

マルタの友人ハンニの息子で保守党員のフリッツが悪役(笑) 党での自分の地位ばかりに熱心で、大切な事を見失っている俗物。この人物に保守的であることの意義や信念なんかを持たせれば、話に深みが増したかもしれないけれど、どのみち悪役になるなら分かりやすい方がいいかも(笑) まぁ、小さな村の中だけの世界とはいえ、出世したい気持ちは理解できるし、車椅子の父親を毎日のように車で往復3時間かけて病院に連れて行くのは大変だとは思うけど・・・。でも、彼を悪役にしつつハンニ夫妻との親子関係で高齢者問題や介護問題を描いているから、保守的で小さな村でマルタ達がどんな風に生きてきたのか分かる。そして同時に身近な問題としても感じられる。となると、やっぱりフリッツを自己中心的な俗物としたから、マルタ達の行動に素直に感情移入できたのかもしれない。

マルタ達もそれぞれ問題や悩みを抱えている。アメリカ帰りの明るく開放的なリージの秘密は悲しい。そして、その秘密が実は秘密じゃなかった事も・・・。彼女はハデな服装や言動で村の中では少し浮き気味だったのかもしれない。だけど、彼女は誰よりもマルタを気遣っていた。心に傷を負った人は人に優しくなれるのかも。彼女にはさらに悲劇が待っているけれど、マルタとお店の準備をしている時や、村人達に冷たくされて落ち込むマルタを励ます姿はいい。「諦めないで」という言葉の裏にある気持ちを思うと切ない。人とは違う価値観を持っているのは素敵だけど、身勝手な価値観だと迷惑。マルタの息子は彼女を蔑んでいるけれど、リージは決して身勝手ではない。むしろ世間体ばかりを気にして、母親を「自分勝手」と叱りつけ、横暴な振る舞いをする彼の方が身勝手。まぁ、牧師という職業柄しかたのない部分もあるけれど。でも、後に彼とフリッツは予想通りマルタの反撃にあうのでお楽しみに(笑)

ハンニとフリーダも良かった。彼女達は古い価値観が捨てられずにいたけれど、それぞれの理由でマルタに賛同していく。2人が抱えている問題も高齢者問題だけど、実はハンニには専業主婦の、フリーダには独身女性の不安や悩みが投影されているように思う。フリーダは結婚していたと思われるし、働いていたという描写はないけれど・・・。女性の人生を皆同じと言うつもりはないし、男性の人生ならもれなく世界が広いというわけでもない。でも、やっぱり普通に生活していると、生活リズムや世界が固定されてしまう部分はある。その生活に不安や虚しさを感じてしまったとしたら、それはやっぱり自分で変えなきゃいけない。2人が変わったきっかけはマルタの影響が大きい。もちろんそれだけではないけれど。車の免許やインターネットに挑戦するのは高齢ということを考えなければ、別にそんなに大きな変化じゃない。でも、新しい事にチャレンジしているだけでワクワクするし、そんな自分を好きになれたりする。

やっぱりマルタがいい。演じているのはシュテファニー・グラーザー、88歳。スイスでは知らない人はいないと言われる人気女優さんだそうだけど、意外にもこれが映画初主演。マルタは結婚前に裁縫の仕事をしていたようで、その中にはランジェリーを縫う仕事もあった。リージが偶然見つけた何十年も前にマルタが作ったキャミソールが素敵! 金糸で品のいい刺繍が見事。ベルンで入ったランジェリー・ショップで大量生産の下着を見たマルタが次々ダメ出しをする気持ちがすごく分かる。そして布やレースを見て生き生きしている姿がいい。あの姿を見て「いい年をして」と言う人はほっといたらいいと思う(笑) マルタがくじけそうになりながら夢を実現させていくのは見ていて楽しい。何より新しいことを始めるのに年は関係ないんだという勇気をもらえる。20~30代くらいが人生で一番楽しいんだと思ってた。これから先はこんなにキラキラしないんだろうなぁと・・・。でも、そうじゃないのかもしれない。要するに自分次第ということ。まぁ、映画なのでちょっとお伽話的な部分は差し引いて考えるとして(笑)

知らなかったのだけど、スイスというのは公用語の種類が多く、映画がヒットしにくいのだそう。映画はドイツ語だった。この映画の舞台エメンタール地方の公用語はドイツ語なのかな? ベティナ・オベルリ監督のお祖母様がこの地方の方だそうで、とても美しく撮っている。なんでも監督はあのスティーブ・ブシェミに撮影技術を学んだとの事だけど、ブシェミはそんな仕事も? しかも役者以外にそちらの方面も? まぁ、直接習ったわけではないだろうけれど。ブシェミは好きな俳優さんだけど全く知らなかった。だからというわけではないけど、こういう日常の何気ない事から話が発展したり、ほんとに細かな人の心の動きを、鋭くも優しい目線で描いているのは女性監督ならでわという感じ。

とにかく村が美しい。そしてかわいい。暮らしぶりもつつましやかで、かわいらしい。ほんの少しだけ登場するベルンの街並みも素敵。そして、おばあちゃん達がかわいい。実は、上映前のファッション・ショーは楽しく見つつも、早く映画が見たいなと思ってしまった。映画の中で、息子達のマルタ達に対する態度や扱い方に怒りを感じて気づいた。何故、自分の国のおばあちゃん達に優しい気持ちを持てなかったのだろう。ステージ上でのモデルも、そのモデルさんたちが身に着けた衣装も、おばあちゃん達が生きがいを感じて頑張ったのに・・・。反省。そして、それは多分甘え。自分も息子達も甘えているんだと思った。そういう事に気づかせてくれた映画だった。

『マルタのやさしい刺繍』というほど刺繍はメインではない。原題Die Herbstzeitlosenというのはコルチカムという花のことなのだそう。どんな花なのか分からないけれど、確かに野の花のような素朴でかわいらしい映画だった。アップル・パイが食べたくなった(笑)


『マルタのやさしい刺繍』Official site


映画の中でマルタが縫った村の旗

★いろいろ頂いた

まずはLindtからチョコレート1粒(完食)とキーホルダー
AQUATIQUE MDのボタニカル・モイスチュアライジングゲル


DMCからシクラメン柄の刺繍キット
その他、刺繍系のパンフレット多数


コメント (4)
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