テオドール・シュトルム
初恋とか初めて憧れた人のことって、男性の方が後生大事にしていそうな気が
前々からしていました。
一概には言えませんけど、女性の方が一時の嘆きは激しくても
「過去は過去よね~」という割り切りは意外に早いように思います。
(でも24年ぶりの復縁とかあるからなぁ…
あのふたりの場合どちらの想いが強かったのかしら? )
この本の中に登場する男性たちは、たいしたセンチメンタリストです。
『大学時代(Auf der Universitat)/1862年』
語り手が少年時代に心を寄せた仕立て屋の娘ローレと
一途な職人クリストフの恋と破滅を見守った大学時代を綴った物語。
お金持ちの子供たちが、軽い気持ちでローレをダンス教室に誘ったことが
彼女の人生を変えてしまったのかもしれません。
最初は語り手とローレの悲恋もの? それとも身分違いを越えて愛が実るのかしら?
などと思いつつ読んでいましたが、途中から語り手はその役割に徹するようになり
クリストフとローレの物語になっていました。
話しの展開がフラフラしているという印象は否めませんが
職人クリストフの一途な男心に免じて 3つにしてあげましょう。
『レナ・ヴィース(Lena Wies)/1870年』
少年時代のかけがえのない友人、パン屋の娘レナ・ヴィース。
彼女は病気で醜い顔になってしまった30代の未婚女性でしたが
シェヘラザードのように話しの尽きない陽気で素敵な人でした。
そんなレナの半生は、愛に包まれた幸せなものでした。
この短篇集の中で唯一恋愛を題材にしていない物語ですが
レナというひとりの女性を尊び、慕い、見守っているひとりの男性の
素敵なエピソードだと思います。
『広場のほとり(Druben am Markt)/1860年』
老境の入口にたつドクトルは、ある晩姪と暮らす家の開かずの間にひとり佇み
過去のできごとに思いを巡らせます。
広場の向かいの家に暮らす娘とは、なぜ愛を実らせることができなかったのか?
彼女のために調度を揃えた部屋からドクトルは向いの窓に灯が点るを見つめます。
うぅぅむ… 私の印象としては、少しシリアスすぎるのよね、このドクトル。
でも相談にのってもらっていた友人と恋しい人が結婚しちゃったというのも
ショックだというのは分かります。 そういうことって、よくあるんですよね。
現代なら会わずに生きていくことも、そんなに難しいことじゃないけれども。
シュトルムという人は、働きながら創作活動を続けていたそうです。
それも判事とか州知事とか…63歳まで兼業作家だったんですって!
お固い仕事の反動なのでしょうか?
作品は、特にドラマティックではないけれど穏やかで優しい感じがします。
それとも、判事という仕事柄事件の嫌な面ばかりをみたせいで
純粋な恋心という理想の世界に逃避していたのでしょうか?
シュトルム自身もとても献身的な人でしたが、その反面嫉妬深かったらしく
作品にもちょこちょこっとそういう部分が顔をだします。
もし、作者が石原慎太郎ばりのお役所的&強権的ルックスだったら
物語とのギャップにびっくりするだろうな、きっと。
大学時代,広場のほとり 他四篇 岩波書店 このアイテムの詳細を見る |