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世界共同体憲章試案(連載第1回)

2020-07-18 | 〆世界共同体憲章試案

 世界共同体(世共)は、現在世界の主権国家の連合体として機能している国際連合(国連)に代えて、主権国家体制によらない世界諸民族の共産主義的な統合体として筆者が年来提唱している未来的な枠組みである。  
 世界共同体自体は国家ではないが―従って、いわゆる「世界連邦」論とは全く異なる―、地球全域を包摂する単一の統治機構として、基本法を擁する。これが「世界共同体憲章」である。世界共同体憲章は、国際連合憲章に相当するような基本法であると言える。  
 しかし、あくまでも国連の設立根拠と組織編制を定めた条約法にとどまる国連憲章とは異なり、世共憲章は、世界共同体を構成する各領域圏の憲法に相当する領域圏憲章の統一的な法源を成すものであり、構成領域圏は世共憲章に反する領域圏憲章を制定することはできない。そのような強い規範的拘束力を持つことが、世共憲章の性質である。  
 もっとも、世共憲章も世界共同体の設立根拠法にして、その組織編制を定めた組織法としての性質も有するが、それに加えて、基本的人権に関する諸規定を包含する点も、現行国連憲章との相違点である。その点、現行国連憲章は基本的人権に関する規定を包含せず、規範性の弱い世界人権宣言と二本の国際人権規約が国連憲章とは別立てで散在していることに脆弱さが見られる。  
 これに対して、世共憲章はその中に直接に基本的人権条項を包含し、従ってそれが各構成領域圏の憲章を拘束するという形で、基本的人権の民際的な保障が確保されることとなる。そのため、各領域圏民は、基本的人権を侵害された場合、世界共同体の人権査察機関に対して直接に救済を求めることも可能となるのである。  
 このように、国連憲章と世共憲章には重要な相違点もあるが、世界共同体自体、国際連合を否定するのではなく、国際連合の歴史的な意義を踏まえつつ、その限界性を脱構築的に克服して創出されるものであるからして、世共憲章も国連憲章の構成や内容を吸収・継受したものとなるであろう。  
 本連載では、世界共同体憲章を概説するにとどめず、逐条的に試案を示す形で提示するが、もとより私案としての試案であるので、最終的には、世界共同体の創出主体となる世界民衆会議内部の集団的討議を経て正式な草案が策定されることを予定している。  
 以下、憲章の全体構成を目次的に示すが、具体的な章立てや章の表題は、行論中の再考の結果、修正または変更される場合があり得ることを予めお断りしておきたい。※再考・修正の結果、現在、条文番号にずれが生じているため、補正中です。

前文  ページ1
第1章 目的  ページ2
第2章 世界共同体の構制
第3章 原則及び構成領域圏等の地位 ページ3
第4章 機関 ページ4
第5章 総会 ページ5 ページ6
第6章 汎域圏全権代表者会議  ページ7
第7章 持続可能性理事会 ページ8 ページ9
第8章 世界経済計画 ページ10 ページ11
第8章a 持続可能なエネルギー開発 ページ11a
第9章 天然資源の民際管理 ページ12 ページ13
第10章 恒久平和 ページ14
第11章 平和理事会 ページ15 ページ16
第12章 紛争の平和的解決 ページ17 ページ18
第13章 平和維持及び航空宇宙警戒 ページ19 ページ20
第14章 基本的人権 ページ21 ページ22 ページ23 ページ24 ページ25
第15章 人権査察院  ページ26
第16章 特別人道法廷 ページ27
第17章 民際捜査機関  ページ28
第18章 社会文化理事会 ページ29 ページ30
第19章 憲章理事会 ページ31
第20章 地球環境観測 ページ32
第21章 宇宙探査 ページ33
第22章 信託代行統治 ページ34
第23章 独立宗教自治圏域 ページ35
第24章 事務局及び人事評議会 ページ36
第25章 独立調査及び弾劾 ページ37
第26章 雑則 ページ38
第27章 世界公用語に関する経過規定 
第28章 世界共同体暦
第29章 改正 ページ39
第30章 署名及び批准

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世界共同体憲章試案(連載最終回)

2020-07-18 | 〆世界共同体憲章試案

第29章 改正

【第148条】

この憲章の改正は、総会の代議員総数(特別代議員を除く。以下、本章において同じ)の三分の二の投票による発議に基づき、世界共同体の全構成主体から成る全体会議の三分の二の多数で採択され、それらの構成主体の五分の四によって各自の憲章上の手続に従って批准された時に、すべての世界共同体構成主体に対して効力を生ずる。

[注釈]
 憲章の改正に関する要件である。流れとしては、総会の発議→全体会議での採択→各構成主体による批准である。発議・採択・批准ともに厳格な要件に基づく硬性の規範である。

【第149条】

前条の全体会議は、総会の代議員総数の三分の二の投票で決定される日時に、世界共同体本部で開催される。世界共同体構成主体は、この会議に各一名の代表者を選出し、各一票の投票権を有する。

[注釈]
 憲章改正のための全体会議の開催及び投票に関する規定である。おおむね総会に準じるが、全体会議では合同領域圏に属する領域圏も、独立して投票することができる。

第30章 署名及び批准

【第150条】

1.この憲章は、署名した各領域圏または加入を希望する領域統治団体(以下、本条では「署名当事者」という)の正規の手続きに従って批准しなければならない。

2.批准書は、世界民衆会議に寄託される。同会議は、すべての署名当事者に対して、および、この機構の事務局長が任命された場合には、事務局長に対して各寄託を通告する。

3.この憲章は、署名当事者の過半数が批准書を寄託した時に効力を生ずる。批准書寄託調書は、その時に世界民衆会議が作成し、その謄本をすべての署名当事者に送付する。

4.この憲章の署名当事者で憲章が効力を生じた後に批准するものは、各自の批准書の寄託の日に世界共同体の構成主体となる。

[注釈]
 本憲章の署名と批准に関する形式的な規定である。第2項で批准書の受託者となる世界民衆会議は世界共同体総会の前身たる世界革命遂行組織であると同時に、世界共同体発足後には総会を兼ねる主要機関となる。

【第151条】

この憲章を批准した領域圏が国際連合加盟国である場合は、批准書を寄託した時点で、国際連合を脱退したものとみなす。

[注釈]
 世界共同体は現行国際連合に取って代わるべき新たな民際機構であるから、両機構が併存している状況下でも、両機構に同時加盟することはできず、国連加盟国が世共憲章を批准した場合は批准書の寄託をもって国連を脱退したものとみなす。ただし、実際の脱退に当たっては、改めて国連側の手続きを踏む必要がある。

【第152条】

1.この憲章は、英語及びエスペラント語の本文を正文とする。

2.前項の正文は、世界民衆会議の記録に寄託しておく。この憲章の認証謄本は、同会議が署名当事者の民衆会議に送付する。

[注釈]
 第146条で見たように、世界共同体の公用語はエスペラント語であるが、当分は英語も併用公用語とするため、エスペラント語正文と英語正文を併存させる。

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世界共同体憲章試案(連載第39回)

2020-07-17 | 〆世界共同体憲章試案

第26章 雑則

【第143条】

1.この憲章が効力を生じた後に世界共同体構成主体が締結するすべての条約及びすべての民際協定は、すみやかに事務局に登録され、かつ、事務局によって公示されなければならない。

2.前項の条約または協定で同項の規定に従って登録されていないものの当事者たる構成主体は、世界共同体のいかなる機関に対しても当該条約または協定を援用することができない。

[注釈]
 世界共同体構成主体が締結する諸条約及び協定に関する登録・公示に関する規定である。本条を含む本章各条は現行国連憲章第16章「雑則」からの実質的な継承規定である。

【第144条】

世界共同体構成主体のこの憲章に基づく義務と他のいずれかの民際協定に基づく義務とが抵触するときは、この憲章に基づく義務が優先する。

[注釈]
 世界共同体憲章の最高規範性を示す規定である。

【第145条】

1.この機構は、その任務の遂行及びその目的の達成のために必要な法律上の能力を各構成主体の領域において亨有する。

2.この機構は、その目的の達成に必要な特権及び免除を各構成主体の領域において亨有する。

3.汎域圏全権代表者及び世界共同体総会代議員並びにこの機構の職員は、この機構に関連する自己の任務を独立に遂行するために必要な特権及び免除を亨有する。

4.総会は、本条第2項及び第3項の適用に関する細目を決定するために勧告をし、またはそのために汎域圏全権代表者会議もしくは世界共同体構成主体に条約を提案することができる。

[注釈]
 世界共同体とそれに関連する関係者の各構成主体の領域圏における権能及び特権に関する規定である。国連憲章にも同様の規定があるが、国家主権概念が揚棄される世界共同体機構においては、当然の注意的規定となる。

第27章 世界公用語に関する経過規定

【第146条】

1.世界共同体は、エスペラント語をもって公用語とする。ただし、エスペラント語が普及するまでの間は、暫定的に英語を併用公用語とする。

2.前項本文の目的を達成するため、世界共同体構成主体は、エスペラント語を教育における必修言語として普及に努めなければならない。

3.本条の規定は、世界公用語たり得るより中立的かつ実用的な新たな計画言語を開発することを妨げるものではない。

4.世界教育科学文化機関は、エスペラント語の普及のための計画及び前項の開発に関するプロジェクトを支援するものとする。

[注釈]
 世界共同体は、現行国際連合のように、既存の自然言語を公用語とせず、計画言語の中でも最も話者・学習者が多いエスペラント語を公用語とする。しかし、エスペラント語が普及するまでは事実の世界語として普及率の高い英語との併用を認め、かつエスペラント語に代わる新たな計画言語の開発も支援するという三段構えの言語政策を採る。

第28章 世界共同体暦

【第147条】

1.世界共同体は、この憲章が発効した年度を第一年として起算する世界共同体暦に則って運営される。

2.前項の規定は、世界共同体構成主体が独自の暦法を採用することを妨げるものではない。

[注釈]
 世界共同体の創設は人類史にとっての一大転機となることを銘記して、従来事実上の世界共通歴となってきた西暦(グレゴリオ暦)に代わり、世界共同体憲章発効年度を第一年とする新たな暦法により運営される。ただし、西暦を含め、独自の暦法を各国構成主体が採用することは自由である。

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世界共同体憲章試案(連載第38回)

2020-07-11 | 〆世界共同体憲章試案

第25章 独立調査及び弾劾

〈独立調査〉

【第136条】

世界共同体総会は、その機構に属する諸機関または諸機関の構成員が関わるあらゆる不正もしくは非違行為を調査するため、独立調査委員会を設置することができる。

[注釈]
 世界共同体内部の不正・非違行為を調査する独立調査の制度である。調査対象となる非違行為には、各種のハラスメント行為のような個人的な非違も含まれる。

【第137条】

1.独立調査委員会は、その任務の遂行に当って、いかなる世界共同体構成主体からも、またはこの機構外のいかなる他の当局からも指示を求め、または受けてはならない。

2.各世界共同体構成主体は、独立調査委員会が責任を果たすに当たってその判断を左右しようとしてはならない。

[注釈]
 特記なし。

【第138条】
独立調査委員会は、調査のため必要と認めるときは、人権査察院の発付する令状に基づき、関係者を召喚し、または文書等の記録の提出を求め、もしくは立ち入り調査をすることができる。

[注釈]
 独立調査委員会は捜査機関ではないが、令状に基づき、一定の強制調査をすることができる。

【第139条】

1.独立調査委員会は、調査を終了した後、すみやかに特別報告書を総会に提出しなければならない。

2.独立調査委員会は、前条の報告に際して、不正行為等に関与した総会代議員、汎域圏全権代表者及び総会が任命する役職者並びに規則で別に定めるこの機構の幹部職員が弾劾に相当する場合は、その旨を勧告しなければならない。

[注釈]
 独立調査委員会自体は弾劾機関ではないが、第2項掲記の者が弾劾に相当する場合は、総会に勧告する。
 
〈弾劾〉

【第140条】

1.総会は、前条によって弾劾を勧告された者について、弾劾に相当する事由があると認めるときは、弾劾委員会を設置し、該当者を弾劾審査に付さなければならない。

2.弾劾委員会の委員は、問題となっている案件に関わる世界共同体構成主体または弾劾された者が属する世界共同体構成主体以外の構成主体から選任されなければならない。

[注釈]
 弾劾委員会は、問題のつど設置される非常置の審査機関である。

【第141条】

第137条の規定は、弾劾委員会にも準用する。

[注釈]
 中立性及び独立性に関わる規定の準用である。

【第142条】

1.弾劾委員会は、審査の結果、弾劾に相当する事実があると認めたときは、該当者を世界共同体公職からの永久または無期限の追放処分に付する。

2.前項の処分に不服のある者は、一回に限り、総会に対して、不服審査を請求することができる。

3.総会は、前項の不服を相当と認めるときは、決議に基づき弾劾の処分を取り消し、または減軽することができる。

4.総会は、無期限の追放処分に付せられた者が、追放処分の解除を申し立てた場合において、その申し立てに理由があると認めるときは、決議に基づき処分を解除することができる。

[注釈]
 弾劾審査とその処分をめぐる規定である。弾劾処分は、永久の公職追放または将来の解除可能性を残す無期限の公職追放の二種である。

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世界共同体憲章試案(連載第37回)

2020-07-10 | 〆世界共同体憲章試案

第24章 事務局及び人事評議会

〈事務局〉

【第130条】

事務局は、1人の事務局長及びこの機構が必要とする職員から成る。事務局長は、世界共同体総会が任命する。事務局長は、この機構の行政職員の統括者である。

[注釈]
 世界共同体の事務局は主要機関ではなく、文字通りの事務処理機関である。その点で、事務局自体が主要機関の位置づけを持ち、官僚主義に陥っている現行国際連合とは異なる。

【第131条】

事務局長は、事務局の活動について、総会及び汎域圏全権代表者会議に対して、年次報告を行う。

[注釈]
 特記なし。

【第132条】

1.事務局長及び職員は、その任務の遂行に当って、いかなる世界共同体構成主体からも、またはこの機構外のいかなる他の当局からも指示を求め、または受けてはならない。事務局長及び職員は、この機構に対してのみ責任を負う民際的職員としての地位を損なうおそれのあるいかなる行動も慎まなければならない。

2.各世界共同体構成主体は、事務局長及び職員の責任のもっぱら民際的な性質を尊重しなければならず、またこれらの者が責任を果たすに当たってこれらの者を左右しようとしてはならない。

[注釈]
 事務局長及び職員の民際的中立性に関わる担保規定である。

〈人事評議会〉

【第133条】

1.人事評議会は、事務局長を除く全事務局職員の人事及び懲戒を司る。

2.人事評議会の評議員は、総会がこれを選任する。

[注釈]
官僚主義に陥らないため、世界共同体事務局職員の人事及び懲戒については、事務局から切り離し、総会の補助機関である人事評議会が一元的に管掌する。

【第134条】

1.人事評議会は、その任務の遂行に当って、いかなる世界共同体構成主体からも、またはこの機構外のいかなる他の当局からも指示を求め、または受けてはならない。

2.各世界共同体構成主体は、人事評議会が責任を果たすに当たってその判断を左右しようとしてはならない。

[注釈]
 人事評議会の中立性に関する規定である。

【第135条】

1.職員は、人事評議会の指名に基づき、事務局長が任命する。

2.人事評議会が職員の雇用及び所属並びに勤務条件の決定に当たって最も考慮すべきことは、民際公務員としての最高水準の見識及び誠実を確保しなければならないことである。職員をなるべく広い地理的基礎に基いて公平に採用することの重要性については、十分な考慮を払わなければならない。

[注釈]
 事務局人事は、新規採用から転属、昇進に至るまで、人事評議会が管轄し、事務局長の任命権は形式的なものにとどまる。

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世界共同体憲章試案(連載第36回)

2020-06-27 | 〆世界共同体憲章試案

第23章 独立宗教自治圏域

【第124条】

1.世界共同体は、協約に基づき、特定の宗教組織または宗教的権威者が独立的に自治を行う圏域を認証することができる。

2.前項の認証は、各圏域が、その宗教上の教義に反しない限り、この憲章を尊重することを条件とする。

3.第1項の協約は、世界共同体総会で承認された後に、発効する。

[注釈]
 世界共同体による統治は最終的に地球の全域に及ぶが、一定の条件の下、例外として、宗教上の理由から世界共同体の外にあって独立して自治を行う圏域の存在が認められる。こうした独立宗教自治圏域は、都市の場合と一定の地域の場合とがある(そのモデル例として、拙稿参照)。

【第125条】

前条の協約が発効した後、世界共同体は、独立宗教自治圏域に特別駐在代表を置く。

[注釈]
 独立宗教自治圏域は、独立域とはいえ、世共との間に一定の外交関係を樹立するため、一種の大使として、特別駐在代表を派遣する。

【第126条】

1.独立宗教自治圏域は、世界共同体総会に一人のオブザーバーを派遣することができる。

2.前項のオブザーバーは、総会の審議に参加し、意見を述べることができる

[注釈]
 独立宗教自治圏域は世共の構成主体ではないが、総会にオブザーバーを派遣し、審議に参加する権利を認められる。

【第127条】

 独立宗教自治圏域は、この憲章を除き、世界共同体が締結した各種の条約に参加することができる。

[注釈]
独立宗教自治圏域は世共憲章が適用されない独立域ではあるが、憲章以外の各種条約の任意な締約主体となることはできるという趣旨である。

【第128条】

独立宗教自治圏域は、近隣の世界共同体構成主体との間で、共通経済協定を締結することができる。

[注釈]
 独立宗教自治圏域は通常、小都市または狭小な地域であり、自給的な経済活動を営むことは困難であるため、近隣の世共構成主体との間に共通経済協定を締結し、共通の経済計画の適用を受けることができる。

【第129条】

1.独立宗教自治圏域は、協約に基づき、その地位を放棄することができる。この場合には、第124条第2項の規定を準用する。

2.前項の協約に基づき、独立自治圏域の地位を放棄した都市は、近隣の世界共同体構成主体に編入されるか、世界共同体直轄自治圏となるかを任意に選択することができる。

[注釈]
 独立宗教自治圏域の放棄に関する規定である。放棄後の地位については、近隣構成主体への編入または直轄自治圏化のいずれかを選択する。

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世界共同体憲章試案(連載第35回)

2020-06-26 | 〆世界共同体憲章試案

第22章 信託代行統治

〈信託代行統治の要件及び期間〉

【第120条】

1.世界共同体は、戦乱、災害その他の重大な事変のために自治が不可能となった世界共同体構成主体の信託に基づき、五年を超えない期間で、その構成主体に代わり、直接に統治することができる。

2.前条の信託は、その構成主体の民衆会議の決議による。
 
3.信託代行統治の期間は、信託代行統治域圏の現地代表機関の要請及び世界共同体総会の決議に基づき、二年間に限り、これを延長することができる。

[注釈]
 世界共同体構成主体は、直轄自治圏を含め、各々の民衆会議を通じた自治権を有するが、自治が不可能となる一定の場合に、自治を停止し、世界共同体が代行統治することができる。これが、信託代行統治制度である。現行国際連合の信託統治制度とは異なり、最長でも七年間に限定された暫定統治制度である。

〈信託代行統治機構〉

【第121条】

1.信託代行統治は、総会が設置する信託代行統治機構を通じてこれを行う。

2.前項の機構は、世界共同体事務局長が選任する三人の執政で構成される施政評議会がこれを統括しつつ、機関事務局を通じて、民衆会議と同等の権限を行使する。

[注釈]
 信託代行統治は直接統治であるが、現地に設置される信託代行統治機構が民衆会議を代行する形で、実施する。

〈現地代表機関〉

【第122条】

1.信託統治域圏の民衆会議は、信託代行統治が継続する間、現地代表機関として存続する。ただし、民衆会議の存続が困難な場合は、民衆会議に代わる代表機関を設置することができる。

2.信託代行統治域圏の民衆会議または前項但し書きの代表機関は、信託代行統治が継続する間、信託代行統治機構との連絡調整機関として活動する。

[注釈]
 信託代行統治域圏の民衆会議は完全に停止するのではなく、信託統治が継続する間、現地代表機関及び連絡調整機関として活動する。

〈信託統治終了後の平和監視〉

【第123条】

1.世界共同体事務局長は、信託代行統治が終了した後、現地の情勢に関して、平和理事会に速やかに報告しなければならない。

2.平和理事会は、信託統治が終了した後、必要と認めるときは、旧信託代行統治域圏に平和監視団を派遣することができる。

[注釈]
 特記なし。

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世界共同体憲章試案(連載第34回)

2020-06-20 | 〆世界共同体憲章試案

第21章 宇宙探査

〈基本理念〉

【第117条】

1.天体を含む宇宙空間の探査及び利用は、全人類の利益のため、世界共同体を通じて行われる全人類的な活動である。

2.前項の規定は、世界共同体構成主体または民間探査組織が、いかなる種類の差別もなく、平等の基礎に立ち、かつこの憲章及びその他の関連条約に従って、天体を含む宇宙空間を自由に探査する権利を妨げるものではない。

3.天体を含む宇宙空間は、何人にも属さない。それゆえに、主権または所有権の主張、使用もしくは占拠またはその他のいかなる手段によっても、何人の独占的取得の対象ともならない。

4.天体を含む宇宙空間は、もっぱら平和的目的のために、すべての世界共同体構成主体によって利用されるものとする。天体上においては、軍事基地、軍事施設及び防備施設の設置、あらゆる型の兵器の実験並びに軍事演習の実施は、禁止する。天体の平和的探査のために必要なすべての装備または施設を使用することは、禁止しない。

5.天体を含む宇宙空間の探査及び利用に関する細目は、この憲章に基づき、条約によってのみこれを定める。

[注釈]
 宇宙探査に関する五つの基本理念である。すなわち、全人類利益の原則、平等の原則、独占取得禁止の原則、平和利用の原則、法定主義である。その土台は国連時代の1967年に締結された宇宙条約の内容にあるが、世共の理念に合わせて修正されている。

〈世界共同体宇宙機関〉

【第118条】

1.世界共同体は、宇宙探査を統括するため、世界共同体宇宙機関を設置する。

2.前項の機関は、総会の共同管理機関とする。

[注釈]
 世界共同体を通じた宇宙探査を統括するのは、世界共同体宇宙機関である。

【第119条】

1.前条の機関は、次の任務を有する。

① 世界宇宙探査計画を策定し、世界共同体構成主体または民間探査組織と連携しつつ、これを実行すること。 
② 世界共同体宇宙ステーションを運営すること。
③ 世界共同体構成主体または民間探査組織による宇宙探査を技術的に支援すること。
④ 天体を含む宇宙空間に関して、独自に研究すること。

2.機関は、前項の各任務を遂行するのに必要な場合、世界共同体航空宇宙警備隊の支援を求めることができる。

[注釈]
 世界共同体宇宙機関は、宇宙探査の独占機関ではなく、構成領域圏やその他の民間宇宙探査組織と連携し、人類の宇宙探査を束ねる役割を果たす。
 第2項は世共宇宙機関の任務及び任務遂行に当たっての航空宇宙警備隊の支援要請に関する規定である。宇宙探査は平和的な活動であるが、危険性を伴うため、世共共同武力の一つである航空宇宙警備隊の支援を受けることは否定されない。

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世界共同体憲章試案(連載第33回)

2020-06-19 | 〆世界共同体憲章試案

第20章 地球環境観測

【第114条】

1.世界共同体は、地球環境を恒常的に観測するため、南極大陸及び北極圏を含む主要な地点に、世界共同体総会の補助機関として、地球環境観測センターを設置する。

2.前項のセンターは、毎年一回、観測結果を総会に報告しなければならない。ただし、地球環境上緊急の事象が生じたときは、直ちに報告しなければならない。

3.センターは、世界環境計画の連携機関として、必要に応じていつでも情報またはデータを提供しなければならない。

4.センターは、世界共同体の主要機関及びその他の諸機関から要請があれば、いつでも必要な情報またはデータを提供しなければならない。

[注釈]
 世界共同体の設立趣旨でもある地球環境の生態学的な持続可能性を保証するために、恒常的かつ定点的な地球環境観測を行うための機関が設立される。その性格は、総会補助機関にして、世共の環境政策の実務機関である世界環境計画の連携機関である。

【第115条】

センターは、観測結果の分析及び結論に関して、世界共同体諸機関またはその他のいかなる部外者からも、干渉されない。

[注釈]
 地球環境観測センターは、世共総会の補助機関ではあるが、分析及び結論という学術的な側面に関しては、独立性を有し、外部からの干渉を受けないことが保障される。

【第116条】

センターは、世界の学術研究機関と連携しつつ、その観測結果について情報を交換し、または意見を照会することができる。

[注釈]
 地球環境観測センターは独立性を有するが、独善に陥らないよう、外部の学術研究機関と連携しつつ、情報交換や意見照会をすることが認められる。

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世界共同体憲章試案(連載第32回)

2020-05-31 | 〆世界共同体憲章試案

第19章 憲章理事会

【第110条】

1.憲章理事会は、総会で抽選された15の世界共同体構成領域圏で構成する。

2.理事会の理事領域圏は、五年の任期で抽選される。退任する理事領域圏は、引き続いて抽選される資格はない。

3.理事会は、各理事領域圏の民衆会議が任命した法律家の資格を有する特別代表によって構成される。

4.特別代表の中から、抽選により、議長及び議長代理を各一年の任期で選任する。

[注釈]
 憲章理事会は、世界共同体憲章の終局的な有権解釈を中心的な任務とする司法機関としての性格を有する特別な理事会である。よって、その構成も他の各理事会とは大きく異なり、各理事領域圏が任命した法律家資格を有する特別代表で構成される。その結果、憲章理事会特別代表は、判事としての任務を遂行することになる。

【第111条】

1.理事会は、世界共同体構成主体における終局的な司法機関の下した司法的決定が世界共同体憲章に違反している場合、紛争当事者の審査請求に基づき、憲章の正当な解釈を通じて、当該司法的決定を是正する権限を有する。

2.理事会は、世界共同体構成主体における終局的な司法機関が世界共同体法の解釈を誤っている場合、紛争当事者の審査請求に基づき、法の正当な解釈を通じて、当該司法的決定を是正する権限を有する。

[注釈]
 本条に示されるように、憲章理事会の任務は、世界共同体憲章及び世界共同体法(条約)の最終的な有権解釈を示すことにある。
 いずれにせよ、憲章理事会が判断を下せるのは、世界共同体構成領域圏をはじめとする各構成主体の終局的な司法機関の司法的決定に瑕疵が認められる場合だけである。逆言すれば、紛争当事者が世界共同体構成主体内の司法機関による終局的な審査を経ずして、跳躍的に理事会に提訴するようなことはできない。

【第112条】

1.理事会特別代表は、自身が属する世界共同体構成主体の市民が当事者である案件の審議及び評決に参加することはできない。

2.理事会の評決は、15人の特別代表の多数決でこれを行う。ただし、多数意見に反対する特別代表は、個別に少数意見を示すことができる。

3.第1項が適用されたことにより、評決が可否同数となったときは、議長が、議長が参加しない場合は議長代理が裁定する。

[注釈]
 憲章理事会は司法機関としての性格を持つ関係上、中立性の観点から、特別代表は自身が属する構成主体が関わる案件の審議・評決からは外れる。

【第113条】

理事会の決定は終局性を有し、評決に反する世界共同体構成主体の司法的決定は効力を失う。

[注釈]
 憲章理事会の決定は、それ自体が司法的な決定の性格を持つ。なおかつ、終局性があるため、これを覆すことはできず、理事会決定に反する世界共同体構成主体の司法的決定は無効とされる。

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世界共同体憲章試案(連載第31回)

2020-03-15 | 〆世界共同体憲章試案

〈表決〉

【第105条】

1.社会文化理事会の各理事領域圏は、一個の投票権を有する。

2.経済社会理事会の決定は、出席しかつ投票する理事領域圏の過半数によって行われる。

[注釈]
 特記なし。

〈手続〉

【第106条】

社会文化理事会は、社会的分野における常設または臨時の委員会、人権の伸張に関する委員会並びに自己の任務の遂行に必要なその他の委員会を設ける。

[注釈]
 社会文化理事会の任務は多岐にわたるため、問題ごとに種々の委員会を設置する必要性が高い。

【第107条】

社会文化理事会は、理事領域圏を除くいずれの世界共同体構成主体に対しても、その構成主体に特に関係のある事項についての審議に投票権なしで参加するように勧誘しなければならない。また理事領域圏を除くいずれの世界共同体構成主体も、自己に特に関係のある事項についての審議に投票権なしで参加させるよう求めることができる。

[注釈]
 利害関係を持つ構成主体のオブザーバー参加に関する規定である。

【第108条】

1.社会文化理事会は、必要と認めるときは、専門機関の代表者を理事会の審議及び理事会の設ける委員会の審議に投票権なしで参加させることができる。また、理事会の代表者は、必要と認めるときは、専門機関の審議に参加することができる。

2.社会文化理事会は、その権限内にある事項に関係のある民間団体と協議するために、適切な取極を行うことができる。この取極は、国際団体との間に、また、適切な場合には、関係のある世界共同体構成主体と協議した後にその構成主体域内の団体との間に行うことができる。

[注釈]
 社会文化理事会の扱う事項は専門技術性が高く、専門機関または関係民間団体との密接な連携を必要とするため、その相互関係を規定したものである。

【第109条】

1.社会文化理事会は、議長を選定する方法を含むその手続規則を採択する。

2.社会文化理事会は、その規則に従って必要があるときに会合する。この規則は、理事領域圏の過半数の要請による会議招集の規定を含まなければならない。

[注釈]
 特記なし。

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世界共同体憲章試案(連載第30回)

2020-03-14 | 〆世界共同体憲章試案

第18章 社会文化理事会

〈構成〉

【第100条】

1.社会文化理事会は、総会で抽選された30の世界共同体構成領域圏及び直轄自治圏で構成する。

2.理事会の理事領域圏は、三年の任期で抽選される。退任する理事領域圏は、引き続いて抽選される資格はない。

3.理事会の各理事領域圏は、総会代議員をもってその代表者とする。総会代議員に支障があるときは、その代理者をもって代表させることができる。

4.直轄自治圏は、直轄自治圏特別代表またはその代理者をもって理事会の代表者とする。この場合、第2項の規定は適用しない。

5.理事でない世界共同体構成領域圏は、理事会に各一名のオブザーバーを送ることができる。

[注釈]
 社会文化理事会は、人権保障、社会サービスや文化事業に関する世界共同体の任務を統括する主要機関である。その構成は、基本的に持続可能性理事会に準じている。

【第101条】

社会文化理事会は、社会的、文化的、教育的及び保健的分野並びに関係分野において専門的な見地から所要の任務を遂行する専門機関を設置することができる。

[注釈]
 こうした専門機関の代表例として、世界保健機関や世界教育科学文化機関がある。いずれも、現行国際連合体制下では、国連と連携する専門機関という曖昧な位置付けであるが、世界共同体体制下では、社会文化理事会に直属する専門機関となる。

【第102条】

1.理事会は、社会的、文化的、教育的及び保健的事項並びにその関係事項に関する研究及び報告を行い、または発議し、並びにこれらの事項に関して総会、世界共同体構成主体及び関係専門機関に勧告をすることができる。

2.理事会は、すべての者のための人権及び基本的自由の尊重及び遵守を助長するために、勧告をすることができる。

3.理事会は、その権限に属する事項について、総会に提出するための世界法案を作成することができる。

4.理事会は、世界共同体の定める規則に従って、その権限に属する事項について専門家及び実務者会議を招集することができる。

[注釈]
 社会文化理事会は、現行国連社会経済理事会の社会的側面の機能を継承する機関でもあるから、その権限はほぼ同様である。

【第103条】

社会文化理事会は、平和理事会に情報を提供することができる。社会文化理事会は、また、平和理事会の要請があったときは、これを援助しなければならない。

[注釈]
 社会文化理事会は、平和理事会による紛争解決等に際し、社会的、文化的、教育的及び保健的事項並びにその関係事項に関して、必要な情報提供と援助を行う任務を持つ。

【第104条】

1.社会文化理事会は、総会の勧告の履行に関して、自己の権限に属する任務を遂行しなければならない。

2.理事会は、世界共同体構成主体の要請があったとき、または専門機関の要請があったときは、総会の承認を得て役務を提供することができる。

3.理事会は、この憲章の他の箇所に定められ、または総会によって自己に与えられるその他の任務を遂行しなければならない。

[注釈] 
 特記なし。

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世界共同体憲章試案(連載第29回)

2020-03-12 | 〆世界共同体憲章試案

第17章 民際捜査機関

【第97条】

1.世界共同体総会は、領域圏または直轄自治圏の境界を越えた捜査活動または人道に反する罪に該当する事案の捜査活動を展開するために、民際捜査機関を設置する。

2.民際捜査機関の運営は執行委員会が統括し、各領域圏または直轄自治圏に常設される事務局が運営を補完する。

3.民際捜査機関は、毎年定期に、または必要に応じて、その活動を総会に報告しなければならない。

4.民際捜査機関に関する細目は、本憲章に定めるもののほかは、別に定める規程による。

[注釈]
 世界共同体民際捜査機関(正式機関名称は未定)は、現行の国際刑事警察機構(インターポール)の任務を継承しつつ、独自の捜査権限を加味して再編される総会下部機関である。
 インターポールとの最大の相違点は、世界共同体総会に付属すること、及び国家主権を前提としない世界共同体のシステム内で、独自の捜査活動を全世界で展開できることである。複数の領域圏または直轄自治圏にまたがる事案や反人道犯罪など、領域圏単位では捜査し切れない事案を担当する。

【第98条】

1.民際捜査機関は、捜査のために必要と認めるときは、人権査察院の判事が発付する令状に基づき、被疑者を逮捕することができる。

2.世界共同体を構成する領域圏または直轄自治圏は、民際捜査機関の捜査に対して、被疑者の身柄の管理その他あらゆる必要な協力をしなければならない。

3.民際捜査機関が世界共同体の域外で捜査活動をする場合は、予め当該地域の権限ある機関の許可を受けなければならない。

[注釈]
 民際捜査機関は、世界共同体域外でも捜査活動を展開できるが、その場合は当該地域の権限ある機関の許可を要する。民際捜査機関は、あくまでも世界共同体の機関だからである。

【第99条】

民際捜査機関の捜査結果に基づき、被疑者の司法処理を行う場所は、人道に反する罪の場合を除き、民際捜査機関執行委員会がこれを決定する

[注釈]
 民際捜査機関が捜査する事案を審理する場所(複数も可)は、世界共同体特別人道法廷で審理される反人道犯罪の場合を除き、いずれかの領域圏または直轄自治圏となる。それを決するのは、執行委員会である。

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世界共同体憲章試案(連載第28回)

2020-02-15 | 〆世界共同体憲章試案

第16章 特別人道法廷

〈意義〉

【第92条】

1.特別人道法廷は、人権査察院の決定に基づき、人道に反する罪に関与した個人及び団体の責任を追及するために特設される弾劾法廷である。特別人道法廷は、この憲章に定めがあるもののほかは、付属の規程に従って任務を行う。

2.特別人道法廷の設置場所は、中立性や地理的条件その他の事情を考慮しつつ、人権査察院の決定でこれを定める。

[注釈]
 特別人道法廷は、人権査察院とは異なり、個別事案ごとに設置される非常置型の司法機関である。この法廷が扱う人道に反する罪とは、既存の国際法におけるジェノサイド(大虐殺)とそれ以外の人道に対する罪を包括した犯罪概念であり、その定義規定は別途制定される特別人道法廷規程で定められる。

〈構成等〉

【第93条】

1.特別人道法廷の判事は、審理対象となる当事者が属する世界共同体構成主体を除く構成主体の中から抽選された構成主体が各1人ずつ選任する9人の判事及び補欠判事によって構成される。

2.判事及び補欠判事は、原則として、判決まで専従する。

3.特別人道法廷には、予審部及び検事局を置く。その詳細は、付属の規程でこれを定める。

[注釈]
 特記なし。

〈審理の対象〉

【第94条】

1.特別人道法廷における審理の対象となるのは、次の各号に該当する当事者である。

① 人道に反する罪に関与した者のうち、主唱者、計画者、実行指揮者、実行管理者及び末端実行者
② 人道に反する罪に主導的に関与した政党その他の集団

2.第1項に定める各関与形態に該当しない関与者は、その者が属する世界共同体構成主体の司法機関に送致する。

[注釈]
 人道に反する罪は大規模な集団犯罪であるから、全関与者を特別人道法廷で審理することはできず、第1項に掲げるような中核的な関与者及び関与集団にしぼって審理対象とするものである。

〈身柄の拘束〉

【第95条】

1.特別人道法廷の予審判事は、被疑者の身柄を勾留するため、世界共通令状を発付することができる。

2.前項の令状を執行された被疑者は、平和維持巡視隊が管理する拘置所に勾留される。

3.被拘留者の保釈は認めない。ただし、傷病のため入院加療を要するときは、勾留は停止される。

[注釈]
 特記なし。

〈判決及び執行〉

【第96条】

1.特別人道法廷の審理の結果、有罪と認定された者は、次の区別に従って処分される。

① 主唱者、計画者及び実行指揮者並びに実行管理者は、致死的処分に付する。ただし、改悛の状が著しい実行管理者は、次号本文の例による。
② 末端実行者は、終身間の僻地労役処分に付する。ただし、改悛の状が認められない者は、前号本文の例による。
③ 人道に反する罪に主導的に関与した政党その他の団体は、強制解散及び資産没収並びに再建禁止の処分に付する。
④ 公的機関が人道に反する罪を主導した場合、特別人道法廷は、再建禁止処分に代えて、適格な勧告を伴う再建命令を発することができる。

2.第1項第1号の処分は、狙撃によって執行する。狙撃は、規則に従い、平和維持巡視隊の要員がこれを行う。

3.第1項第2号の処分は、予め協定を締結した世界共同体構成主体の僻地において、当該構成主体の適切な管理機関に委託して執行される。

[注釈]
 特別人道法廷は単なる刑事法廷ではなく、個人的犯行を超えた集団的反人道犯罪の根絶を目指すある種の保安法廷であるから、その判決も制裁としての刑罰ではなく、再発阻止を徹底する根絶処分として言い渡される。

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世界共同体憲章試案(連載第27回)

2020-02-14 | 〆世界共同体憲章試案

第15章 人権査察院

〈意義〉

【第89条】

人権査察院は、世界共同体憲章に定められた基本的人権を侵害された当事者を法的に救済する世界共同体の主要な常設司法機関である。人権査察院は、この憲章に定めがあるもののほか、付属の規程に従って任務を行う。

[注釈]
 現存国際連合では、人権理事会なる政治的な機関が加盟各国の人権査察を定期的に実施する体制が採られている反面、人権裁判所のような当事者救済型の司法機関が欠けているため、国際的な人権保障体制は政治化する一方、強制力を伴う人権救済がなされない。それに対して、世界共同体の人権査察院は常設司法機関であり、当事者からの直接的な審査請求を受けて、個別事案の救済を図る点に特長がある。

〈構成等〉

【第90条】

1.人権査察院は、世界共同体を構成する領域圏及び直轄自治圏の中から抽選された15の構成主体が各一名ずつ同時に選任する判事及び補欠判事によって構成される。

2.判事及び補欠判事の任期は五年とし、再任されることはできない。判事が任期途中で退任し、または執務不能により停職した場合、補欠判事は当該判事の残任期のみを務めることができる。

3.審査事案のいずれかの当事者が属する世界共同体構成主体に属する判事及び補欠判事は、審理及び審決に参加することができない。この場合は改めて抽選を行い、本項第一文の構成主体以外に属する臨時の判事及び補欠判事を選任しなければならない。臨時の判事及び補欠判事は、審決後に退任する。

4.判事は人権査察院の所在地に常駐しなければならない。

5.任期満了により退任した判事及び補欠判事が属する構成主体は、以後、二期を経なければ判事及び補欠判事の抽選に参加することはできない。

[注釈]
 人権査察院は、抽選された15の世界共同体構成主体から選任された15人の判事(及び同数の補欠判事)によって構成される

〈手続き〉

1.人権査察院は、世界共同体籍を有する個人または世界共同体構成主体のいずれか一つに籍を置く団体が、その所属する構成主体内の司法機関による適切な救済を得られなかった場合に、当該当事者の審査請求に基づいて審査を開始する。

2.前項の規定にもかかわらず、緊急性が高い場合は、当事者は直接に人権査察院の審査を請求することができる。

3.前二項の審査請求を受けた人権査察院は、公開の予備審査を開始する。予備審査では、必要に応じ、当事者または証人を召喚することができる。

4.予備審査の結果、本審査の必要があると認めるときは、事案を本審査に送致する。本審査の必要がないと認めるときは、請求を却下する。

[注釈]
 人権査察院の審査は、世界共同体の各構成主体内の司法機関による審理を受けることを前提とする二段階主義を採るが、緊急性が高い場合は各構成主体内の司法機関を飛び越えた跳躍審査を認める。

〈審決及び執行〉

1.人権査察院の審決は、15人の判事の多数決でこれを行う。ただし、多数意見に反対する判事は、個別に少数意見を示すことができる。

2.人権侵害の加害者に対する人権侵害行為の差し止めを命ずる審決は、強制的に執行される。その目的のため、人権査察院は審決執行者を派遣する。

[注釈]
 人権査察院の審決は、基本的に人権侵害行為の即時または将来の差し止め命令である。命令は、審決執行者を通じて加害当事者に強制執行される。加害者が構成主体の公的機関であっても、同様である。

〈特別人道法廷の設置決定〉

【第91条】

人権査察院は、審査の結果、当該事案が人道に対する罪に該当すると判断するときは、審決をもって、特別人道法廷の設置を決定することができる。

[注釈]
 審査事案が、単なる人権侵害にとどまらず、反人道犯罪に該当するときは、弾劾裁判の性格を有する特別人道法廷の設置を決定する。

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