ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

弁証法の再生(連載第5回)

2024-02-29 | 弁証法の再生

Ⅱ 弁証法の再発見

(4)ヘーゲル弁証法①
 アリストテレスによって弁証法が論理学より下位のいち推論法に格下げされて以来、実に2000年近くにわたって弁証法は事実上忘却されたままであった。それを2000年の眠りから覚まさせたのは、ドイツの哲学者ヘーゲルである。
 ヘーゲルはカントの観念論が隆盛であった近世ドイツで、カント哲学の研究と習得から始めて、その観念論の克服を目指していた。その過程で、彼は後に弁証法をヘーゲル流の仕方で再発見したのだと言える。その概要は彼の主著でもある『精神現象学』に収められている。
 ヘーゲルがアリストテレスによって格下げされた弁証法を再発見したのは、彼がアリストテレス流の形式論理学とその土台となっている形式主義的・概念操作主義的な「体系的知」—それは近代科学への道でもある—とは別に、事物の自然な本質規定の認識に到達するような「学的知」を導く思考過程に関心を向けたからであった。
 このような問題意識はおそらく、カント哲学における認識と「物自体」の不一致という欠点を克服し、宗教的意識にも関連する絶対知への到達を試みようとするところから生じた。大胆に言えば、ヘーゲルはアリストテレスを遡って、プラトンのイデア論を近代哲学的に改めて再解釈しようとしたのである。
 ただし、プラトンがイデアの把握の道を弁証法より以上に幾何学に求めようとしたのに対して、ヘーゲルは改めて弁証法に焦点を当て、弁証法を通じてヘーゲル流のイデア=絶対知へと到達しようとしたのである。そうしたヘーゲルの思考の道程そのものが一冊の書としてまとめられたのが『精神現象学』であるが、様々に研究されてきたこの書の内容をここで逐一紹介することはできない。
 ここで触れておきたいのは、『精神現象学』には二重の含意があるということである。一つは『精神現象学』の実質的な内容である。すなわち、そのタイトルどおり、「精神の現象」について扱った言わば精神の哲学としての内容である。
 もう一つは、この書で適用されている弁証法的思考法そのものである。これはしばしば「弁証法的論理学」とも呼ばれるが、先に述べたとおり、ヘーゲルはアリストテレス流の形式論理学に対抗する形で「学的知」への到達を目指したので、「論理学」を冠するのは妥当と思われない。
 この二つの含意のうち、ヘーゲルが主題的に扱ったのは前者であり、後者の弁証法的思考法は必ずしも主題ではないのであるが、晩年の主著『法の哲学』に至るまで、ヘーゲル哲学を支える思考法として維持されていくものを「ヘーゲル弁証法」と規定することにする。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第14回)

2024-02-19 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

二 汎東方アジア‐オセアニア域圏

(10)オーストラリア

(ア)成立経緯
主権国家オーストラリア連邦を継承する連合領域圏。ただし、インドネシアに近い飛び地(島)のクリスマス島はインドネシアに編入される。

(イ)社会経済状況
オセアニアでは最も発達した資本主義経済国であるが、天然資源の潜在価値による資本流入で補填する資源モノカルチャーの脆弱な経済構造を持っているところ、世界共同体による天然資源管理の体制が整備されると、そうした経済構造にも終止符が打たれる。持続可能的計画経済への移行により、一度は消滅していた自動車生産など、市場規模の限界ゆえに従来低調だった独自の製造業の育成も行われる。また、持続可能的な農牧業計画により、過剰取水や塩害などの生態学的諸問題も解消する。

(ウ)政治制度
主権国家時代の州に、北部準州、離島部の有人島であるココス諸島、ノーフォーク島も州に加えて、それぞれ同等の自治権を持つ準領域圏とする。また先住民も、複数の民族自治体を構成して連合民衆会議に代議員を送る。

(エ)特記
旧版では、クリスマス島を現行どおりオーストラリアに含めていたが、アジア系住民が多いことや、世界共同体の飛び地禁止原則を島嶼部にも適用して、インドネシアに編入する構成とした。

☆別の可能性
ニュージーランドとの中間点に所在し、ニュージーランドとの関係が強いノーフォーク島については、ニュージーランドに編入される可能性もある。また、飛び地に準じるココス諸島についても、より近いインドネシアに編入される可能性がなくはない。

 

(11)ニュージーランド

(ア)成立経緯
主権国家ニュージーランドを継承する統合領域圏。ただし、自治領トケラウと自由連合のクック諸島、ニウエは分離し、新設の遠ポリネシア領域圏(後述)に編入される。

(イ)社会経済状況
畜産を軸とした持続可能的計画経済が実施される。旧酪農生産者協同組合にして、最大企業体でもあるフォンテラを主要な母体とする農業畜産計画機関が主導し、温暖化に悪影響を及ぼす家畜のメタンガスを規制するための計画畜産の先進的取り組みが行なわれる。オーストラリアとは資本主義時代からの緊密な経済関係を継承し、経済協力協定を結ぶ。また、旧自治領や自由連合を含む遠ポリネシア領域圏とも経済協力協定を結ぶ。

(ウ)政治制度
主権国家時代の構成を継承する10を超える地方圏から成る統合領域圏。特別領だった離島チャタム諸島も正式に地方圏となる。先住民マオリは民族自治体を構成し、全土民衆会議に代議員を送る。

(エ)特記
法的には英領ながら、事実上ニュージーランドの保護下にあった辺境離島ピトケアン諸島も遠ポリネシア領域圏に編入される。

☆別の可能性
可能性としては高いと言えないが、オーストラリアとは経済協力協定を超えて共通経済計画を備えた合同領域圏となる可能性もなくはない。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第13回)

2024-02-13 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

二 汎東方アジア‐オセアニア域圏

(7)インドネシア

(ア)成立経緯
主権国家インドネシアを継承する複合領域圏。ただし、ニューギニア島西半部は西パプア領域圏として分離する。また、後述のように、西ティモールのうち、東ティモールとその飛び地を結ぶ回廊地帯は東ティモールに編入される。一方、ジャワ島に近く、オーストラリアの一種の飛び地(島)であるクリスマス島がインドネシアに編入される。

(イ)社会経済状況
農林業を基軸とするが、特に林業分野では森林破壊を歯止める持続可能的林業のモデル的成功例となる。また、インドネシアでは、資本主義の時代から主要産業は戦略的に国有化する混合経済体制を採っていたことから、国有企業を共産主義的な生産事業機構に移行し、これを土台として持続可能的計画経済に比較的スムーズに移行する。

(ウ)政治制度
民族的・宗教的な独自性の強いアチェ州とバリ州は準領域圏として高度な自治が認められる複合領域圏である。東南アジア最大級にして、強い政治経済力を備えていた国軍は、世界共同体憲章の常備軍禁止条項に基づき廃止される。

(エ)特記
長く分離独立運動が継続され、インドネシア最後の紛争地域となっていたニューギニア島西半部(旧イリアンジャヤ)の平和的な独立は、世界共同体革命の主要な成果の一つとなる。それを可能とする要因は、天然資源の管理が世界共同体の直轄に移行し、この地域に豊富な石油や天然ガス資源の潜在的な権益をインドネシアが喪失することにある。

☆別の可能性
インドネシアは長く東南アジアにおける反共の砦となってきただけに、共産主義革命が不発に終わる可能性もある。より望ましくない可能性は、革命が強大な国軍勢力によって流血弾圧される可能性である。

 

(8)東ティモール

(ア)成立経緯
インドネシアから独立した東ティモール共和国を継承する統合領域圏。ただし、世界共同体の飛び地禁止原則により、インドネシアの西ティモール地方のうち、東ティモールとその飛び地オエクシ‐アンベノを結ぶ回廊地帯は東ティモールに編入される。

(イ)社会経済状況
持続可能的農業を主産業とする。独立以来、依存してきた石油採掘は世界共同体の直轄管理に移される。インドネシアとの経済協力協定により、インドネシアとの共通経済計画が適用される。

(ウ)政治制度
インドネシアと合同領域圏は組まないものの、上述の共通経済計画を共有するインドネシアの民衆会議にオブザーバを送る。

(エ)特記
旧版では、東ティモールと次項の両ニューギニアを合わせて「アジア‐太平洋諸島合同領域圏」に含めていたが、補訂版では広汎に過ぎた「アジア‐太平洋諸島合同領域圏」を「南太平洋諸島合同領域圏」に縮減したことに伴い、単立の領域圏とした。

☆別の可能性
可能性としては高くないが、飛び地のオエクシ‐アンベノがインドネシアに再編入される可能性もなくはない。


(9)ニューギニア合同

(ア)成立経緯
ニューギニア島東半部及び周辺小島から成るパプアニューギニア領域圏と、インドネシアから分離して成立する西パプア領域圏が合同して成立する合同領域圏

(イ)構成領域圏

合同を構成する領域圏は、次の2圏である。

パプアニューギニア
主権国家パプアニューギニアを継承する統合領域圏。ただし、紛争地域ブーゲンビル島は分離し、メラネシア連合領域圏に編入される。

西パプア
インドネシアのニューギニア島西半部及びその周辺小島の領土が分離し、単立の領域圏として自立して成立する統合領域圏

(ウ)社会経済状況
持続可能艇的な農業及び食品工業が主産業となる。パプアニューギニア、西パプア両領域圏ともに、山間部では自給自足の原初的共産主義経済が維持される。また、零細の協同労働グループによる手工業が発達する。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、パプアニューギニアの政治代表都市ポートモレスビーと西パプアの政治代表都市ジャヤプラで交互に開催される。

(オ)特記
旧版では、東ティモールとともに、両ニューギニアを「アジア‐太平洋諸島合同領域圏」に含めていたが、補訂版では「アジア‐太平洋諸島合同領域圏」を「南太平洋諸島合同領域圏」に縮減したことに伴い、独立の合同領域圏とした。

☆別の可能性
西パプアが分立する場合、パプアニューギニアとは長く別国だった経緯からも可能性は高くないが、合併して連合領域圏となる可能性もなくはない。他方、望ましくない可能性として、インドネシアが西パプアの分離を容認せず、紛争が継続・激化する可能性もある。

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弁証法の再生(連載第4回)

2024-02-09 | 弁証法の再生

Ⅰ 問答法としての弁証法

(3)弁証法の第一次退潮期
 ソクラテスが真理に到達するための問答法として提起した弁証法は、弟子のプラトンに継受されていくが、プラトンにおいては、より緻密化され、対象を自然の本性に従って総合し、かつ解析していく「分析法」へと発展せられた。
 対象事物を微細に分割しつつ、その本性を解明しようとする分析という所為は、今日では諸科学において当然のごとくに実践されているが、プラトンにとって、こうした分析=弁証法こそが、もう一つの方法である幾何学と並び、事物の本性—イデア—に到達する思考手段であった。
 もっとも、プラトンにとってのイデアとは見られるものとしての幾何学的図形を典型としたから、弁証法より幾何学のほうに優位性が置かれていたと考えられる。このようなプラトンの分析=弁証法は、ソクラテスの問答=弁証法に比べると、問答という対話的要素が後退し、対象の本性を解明するための学術的な方法論へと一歩踏み出していることがわかる。
 このような弁証法のアカデミズム化をさらに大きく推進したのが、プラトンの弟子アリストテレスであった。彼は分析=弁証法という師の概念を弁証法自体にも適用することによって、いくつかの推論法パターンを分類したが、そのうちの一つが蓋然的な通念に基づく弁証法的推論というものであった。
 ここでの弁証法的推論とは、社会において通念となっているために真理としての蓋然性が認められる概念に基づいた推論法ということであるが、その前提的出発概念である社会通念は必ずしも絶対的に真理性のあるものではなく、社会の多数によって共通認識とされていることで蓋然的に真理性が推定されるにすぎないから、推論法の中では第二次的な地位にとどまることとなった。
 アリストテレスの分類上、弁証法的推論法は、より不確かな前提から出発する論争的推論法よりは相対的に確実性の高い推論法ではあるのだが、彼にとっては、絶対的真理である前提から出発する論証的推論法こそが、最も確実な第一次的推論法なのであった。
 このような論証的推論法は、三段論法に象徴される「形式論理学」として定式化され、アリストテレス以降、哲学的思考法の中心に据えられ、西洋中世に至ると、大学における基礎的教養課程を成す自由七科の一つにまで定着した。
 こうして、「万学の祖」を冠されるアリストテレスにより弁証法が論証法(論理学)より劣位の第二次的な思考法に後退させられたことで、弁証法は長い閉塞の時代を迎える。これを、20世紀後半以降の現代における弁証法の退潮期と対比して、「弁証法の第一次退潮期」と呼ぶことができる。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第12回)

2024-02-03 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

二 汎東方アジア‐オセアニア域圏

(5)フィリピン

(ア)成立経緯
主権国家フィリピンを継承する領域圏。後述のように準領域圏を含む複合領域圏

(イ)社会経済状況
積年の構造問題であったスペイン統治時代以来の半封建的な大土地所有制と少数の財閥による寡占的経済支配構造は、共産主義民衆革命により解消される。貨幣経済によらない持続可能的経済計画の導入により、経済を長年下支えしていた海外出稼ぎ労働も不要となる。

(ウ)政治制度
基本的には統合型の領域圏であるが、イスラーム教徒が多数を占めるミンダナオ島西部及びスールー諸島(バンサモロ地方)は高度の自治権を有する準領域圏として、全土民衆会議に固有の代議員議席が割り当てられる。

(エ)特記
大土地所有制が除去された農村の変革により、長年にわたる農村共産主義ゲリラ活動も収束する。

☆別の可能性
地主/財閥勢力の抵抗により民衆革命が不発に終わり、世界共同体に包摂されない可能性もある。一方で、情勢によってはバンサモロ地方が完全に分離・自立する可能性もある。

 

(6)環海峡合同

(ア)成立経緯
主権国家マレーシアとボルネオ島(カリマンタン島)内の絶対君主小国ブルネイが合併して成立する連合領域圏に、シンガポールが加わって成立する合同領域圏。合同名の「海峡」とはマラッカ海峡を指す。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の2圏である。

○マレー‐ブルネイ
マレーシアの13州にブルネイを加えた全14の準領域圏から成る連合領域圏。そのうちブルネイを含む10の準領域圏には独自の君主が存在するが、名目的な存在にとどまる。絶対王政のブルネイでも、民衆革命の結果、国王(スルタン)は名目的存在となり、民衆会議制度が確立される。

○シンガポール
主権国家シンガポールを継承する都市領域圏。長年の議会支配政党・人民行動党は解散する。

(ウ)社会経済状況
東南アジアでも最も高度な発展を見せていたマレーシア、シンガポールの資本主義的工業化を基礎に、持続可能的な計画経済に移行する。商業・金融立国であった都市国家シンガポールは貨幣経済の廃止に伴って経済的な基軸を喪失し、合同の共通経済計画を必要とすることが合同領域圏の成立につながる。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、マレー‐ブルネイ領域圏のブルネイに置かれる。

(オ)特記
東南アジアの中では資本主義的に最も成功を収めていた地域だけに、共産主義化には抵抗もあり、世界共同体連続革命の余波は遅れる可能性があるが、繁栄の陰に隠されていた富の偏在・格差拡大が共産主義民衆革命を後押しする要因となる。

☆別の可能性
独自性の強いブルネイはマレーシアと合併せず、単立の領域圏として合同に参加する可能性もある。また、かつてマレーシアから分離独立した経緯を持つシンガポールが合同に参加しない可能性もなくはない。

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