ザ・コミュニスト

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第19回)

2024-03-30 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

三 汎アメリカ‐カリブ域圏

(3)北アメリカ

(ア)成立経緯
アメリカ合衆国における革命の結果、カナダとの連合協議を経て成立する連合領域圏。その領域は、アメリカ合衆国本土48州のうち、メキシコに接する南西部4州(カリフォルニア、アリゾナ、ニューメキシコ、テキサス)がボーダーズアメリカ(後述)として自立化したうえ、アメリカの飛地州だったアラスカ、現デンマーク領グリーンランドとともに極北領域圏として分離するカナダの準州及び単立領域圏として分離するケベック州を除いたカナダの領域を新たに加えて構成される。なお、ハワイ州を含む旧アメリカ合衆国海外領土は、すべて分離される。

(イ)社会経済状況
連合の持続可能的計画経済は、アメリカとカナダの産業基盤をもとに構築される。情報工学や各種学術に関しては、アメリカ及びカナダの先進性を継承し、世界共同体のリーディングな地位を持つ。リベラルなカナダと連合することで、アメリカ合衆国の保守性が緩和され、宿弊であった人種差別問題は解消に向かう。先住民保留地も解体され、先住民の統合も進む。また、カナダと連合することで、旧カナダ領域への人口移動が生じる。

(ウ)政治制度
連合民衆会議は、アメリカ合衆国本土州のうち上掲4州を除いた44州と、ケベックを除いたカナダの9州を継承する準領域圏、さらに準領域圏と同等の地位を付与される先住民族自治体から同数ずつ抽選された代議員で構成される。各準領域圏の代議員団長は連合代表者会議を構成し、連合全体に関わる重要議題の討議及び連合民衆会議が制定した連合共通法の施行を監督する。先住民族自治体を含む準領域圏は、独自の法体系を含む高度の自治権を持つ。連合代表都市はワシントンD.C.とオタワで4年おき交互に入れ替わる。

(エ)特記
革命前、世界最強を誇ったアメリカ合衆国軍隊は、常備軍の廃止を定める世界共同体憲章に基づき解体される。ただし、北アメリカは世界共同体平和維持巡視隊の主要な部隊を提供し、要員訓練センターも設置される。また、アメリカ合衆国の旧弊であった銃器の個人所有慣習は貨幣経済廃止を軸とする共産主義化に伴う治安の劇的な向上により、自然に消滅する。

☆別の可能性
カナダと連合せず、アメリカ合衆国の本土48州がそのまま連合領域圏に移行する可能性(その場合、カナダも別立ての連合領域園となる)、逆に、より確率は低いが、現行50州がすべて個別の領域圏として自立化し、合衆国が完全に解体される可能性もなくはない。

 

(4)ボーダーズアメリカ

(ア)成立経緯
アメリカ合衆国のメキシコに接する南西部4州(カリフォルニア、アリゾナ、ニューメキシコ、テキサス)が分離し、それぞれを準領域圏として成立する連合領域圏

(イ)社会経済状況
ボーダーズアメリカでは中南米にルーツを持つヒスパニック系人口が過半数を占め、準スペイン語圏となる。連合を構成する4つの準領域圏中、最大規模のカリフォルニアを中心に情報産業が集約されるほか、ハリウッドの映画産業も継承される。二番目に大きな準領域圏テキサスの石油産業は共産主義革命後、世界共同体の管理下に移行する一方、環境的に持続可能な集約的農業・牧畜業のモデル地域となる。また、当領域圏は北アメリカとメキシコの両隣接領域圏と経済協力協定を締結し、経済的に両者をつなぐ役割を果たす。

(ウ)政治制度
連合民衆会議の構成は北アメリカ領域圏と類似し、4つの準領域圏及び準領域圏と同等の地位を付与された先住民族自治体から同数ずつ抽選された代議員で構成される。英語とスペイン語の双方を対等な公用語とする。政治代表都市は、4つの準領域圏の主要都市で4年ごとに回り持つ。

(エ)特記
当領域圏のメキシコとの境界線は完全に開放されることはないが、警備は緩和され、原則として往来自由となる。

☆別の可能性
上述のように、4州を含むアメリカ合衆国本土48州がそのまま連合領域圏に移行する可能性もある。一方、より確率は低いが、4州は歴史的にメキシコの旧領土であった経緯から、南で隣接するメキシコと連合して、メキシコ領域圏に包摂される可能性もなくはない。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第18回)

2024-03-26 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

三 汎アメリカ‐カリブ域圏

汎アメリカ‐カリブ域圏は、現在デンマーク領のグリーンランドを含めた北極圏に、今日の南北アメリカ両大陸、さらに中央アメリカ地域、カリブ海域の島嶼を加えた領圏域を包摂する汎域圏。カリブ海域に残存していた西欧諸国領土はすべて独立する。また、メキシコとの国境四州を除いたアメリカ本土と極北地域及びケベック州(ニューブランズウィック州の一部を含む)を除いたカナダが統合されて新たな領域圏を形成する。汎域圏全体の政治代表都市は北アメリカ領域圏のマイアミに置かれる。

包摂領域圏:
極北、ケベック、北アメリカ、ボーダーズアメリカメキシコ、中央アメリカキューバ、ハイチ、ドミニカ・リコ環カリブ合同ベネズエラ、ブラジル、パラグアイ、アンデス合同、チリ、ラプラタの各領域圏から成る。

 

(1)極北

(ア)成立経緯
カナダ北部のノースウェスト、ユーコン、ヌナブートの各準州が準領域圏となり、現アメリカのアラスカ州、現デンマーク領のグリーンランド(カラーリットヌナート)が加わって形成される連合領域圏

(イ)社会経済状況
イヌイットをはじめとする先住民族が主体となる人口構成で、伝統的な生活様式が維持される。持続可的な漁業が主産業となる。他方、アラスカを含む北米極北地域に豊富であった天然資源の管理は世界共同体に移される。温暖化の指標となる北極圏の氷床及び氷河を常時観測するため、世界共同体地球環境観測センターの北極圏観測所が設置される。

(ウ)政治制度
上掲5つの準領域圏から均等に抽選された代議員から成る連合民衆会議が設置される。それ以外に、各先住民族の代表も代議員に加わり、先住民族が主体性を持った政治制度となる。エスペラント語のほか、英語、デンマーク語が公用語となる。政治代表都市は、ノースウェスト州のイエローナイフ。

(エ)特記
旧版では、北米極北地域も北アメリカ領域圏に包摂していたが、北極圏としての特性に加え、長く迫害されてきた先住民族の主体性を回復する目的からも、北アメリカから分離して、独立の領域圏とした。

☆別の可能性
グリーンランドが独立したうえ、汎ヨーロッパ‐シベリア域圏のノルディック‐バルティック合同領域圏に参加する可能性もある。

(2)ケベック

(ア)成立経緯
カナダのケベック州時代からのフランス語圏として、総体的に英語圏に属する連邦国家カナダから分離したうえ、隣接するニューブランズウィック州のフランス語圏地域を編入して成立する統合領域圏

(イ)経済社会状況
カナダ領時代から発達したが、独立領域圏となった後も継承される。一方で、メープルシロップに代表される農業も盛んで、ハイテク産業と農業が組み合わさったユニークな複合経済が継続される。隣接する極北領域圏及び北アメリカ領域圏とは経済協力協定を締結し、緊密な経済関係を保持する。

(ウ)政治制度
民衆会議には、先住民自治体も代議員を送る。政治代表都市は、現州都ケベックシティから最大都市モントリオールに移転。なお、北アメリカとの密接な関わりからも、北アメリカ連合民衆会議に議決権を持たないオブザーバーを送る。

(エ)特記
編入される旧ニューブランズウィック州の地域では、少数派となる英語系住民のため、英語も公用語とされる。

☆別の可能性
かねてからのケベック州の独立運動がやや低調化してきているため、自立化することなく、上掲北アメリカ領域圏に包摂される可能性、あるいは、カナダがアメリカと統合されない場合にはカナダ領域圏に留まる可能性もある。

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弁証法の再生(連載第7回)

2024-03-23 | 弁証法の再生

Ⅱ 弁証法の再発見

(6)ヘーゲル弁証法への反発
 ヘーゲル弁証法は、アリストテレス以降2000年近く忘却されていた弁証法を観念論的に蘇生させたものと言えるが、これに対しては反発も現れた。そうしたアンチテーゼはヘーゲルを継承するヘーゲル学派とヘーゲルを否定する反ヘーゲル学派の双方から出現する。まさに、弁証法的展開である。
 反ヘーゲル学派の代表者は、キェルケゴールである。彼はヘーゲルの抽象的思考に対して反発した。ヘーゲルは現実世界において常に自らの否定性の契機に直面する有限者たる人間は、その否定性を弁証法的論理において止揚する方法で超克し、より真理に近い存在として自らを昇華していくことができるとしたが、キェルケゴールにとって、こうしたとらえ方は量的な抽象論にすぎない。
 彼によれば、有限なる人間存在が直面する否定性とそれに由来する葛藤や矛盾は、ヘーゲル的な抽象論によって解決されるものではない。有限的主体が自らの否定性に直面したとき、それを抽象的に止揚しようとするのではなく、その否定性とあえて向き合い、それを自らの実存的生において真摯に受け止め、対峙していかねばならないのである。
 このような思考をキェルケゴールはヘーゲルの抽象的思考に対立する具体的思考として提示し、「逆説的弁証法」(質的弁証法)と名づけた。言わばヘーゲル弁証法を逆立ちさせたわけであるが、そこから、一般的・抽象的な観念としての人間ではなく、個別的・具体的な事実存在としての人間を哲学の対象とする実存主義の祖となるのであった。
 このような個別的実存と弁証法との関係性については後にサルトルがより洗練された弁証法的解決法を示すことになるが、ここでは踏み込まず、さしあたりキェルケゴールをヘーゲル弁証法への実存主義的アンチテーゼとみなしておく。
 他方、ヘーゲルを継承する立場からも、内在的な批判が現れる。その代表者は、ルートヴィヒ・フォイエルバッハである。彼もまた部分的にはキェルケゴールと共有し、ヘーゲルが抽象的な精神を主体とみなし、そうした観念的主体の自己展開の過程を通して歴史や世界をとらえる方法に疑念を抱いた。
 しかし、彼はキェルケゴールのように、有限的な存在が避けられない「死に至る病」=絶望の超克を自己放棄的な信仰に求めるのではなく、むしろそのように自身の内部の苦悩を疎遠な外部の絶対者たる神に委ね、投影するような所為を自己疎外として退け、現世的な幸福論を対置したのであった。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第17回)

2024-03-19 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

二 汎東方アジア‐オセアニア域圏

(15)統一コリア
 
(ア)成立経緯
主権国家の大韓民国及び朝鮮民主主義人民共和国が並立する南北朝鮮分断を止揚して成立する統合領域圏
 
(イ)社会経済状況
主権国家時代に資本主義的発展を遂げた韓国と社会主義的低開発状態にあった朝鮮の経済格差は通常の主権国家統合がほぼ不可能なまでに開いていたが、世界共同体内の領域圏としての統合と持続可能的計画経済の導入により、両者の止揚的統合が可能となる。
 
(ウ)政治制度
集権性の強い統合領域圏として統一されるが、南北ともに主権国家時代の広域行政区分である「道」を地方圏として継承しつつ、地方自治を推進する。旧北朝鮮領域では、民衆会議体制への移行に伴い、支配政党・朝鮮労働党は解散する。政治代表都市は分断時代の旧軍事境界線周辺を開発して造成される板門店特別市に置かれる。
 
(エ)特記
長年にわたる分断状況からの一挙的な統合は社会経済的な混乱を引き起こす恐れがあるため、さしあたりは南北コリアの両領域圏が単立したうえで暫定的な合同領域圏を形成し、準備期間を経て完全統合化するプロセスを辿る。
 
☆別の可能性
朝鮮側では金氏一族支配が強固に継続し、世界共同体に包摂されない可能性もある。さらに、望ましくない可能性ではあるが、朝鮮では民衆と支配体制の対峙が先鋭化し、民衆革命が流血事態となる可能性もなくはない。また、韓国側でも長年の強固な反共政策の影響から、連続革命の波が及ばず、世界共同体に包摂されない可能性がある。一方で、最終的に両者が完全に統合されることなく、上記の合同領域圏を形成するにとどまる可能性もある。
 
 
 
 
(16)極東ユーラシア
 
(ア)成立経緯
主権国家ロシア連邦内の極東連邦管区が分離して成立する連合領域圏。極東連邦管区サハリン州に含まれるクナシリ、エトロフ、シコタン、ハボマイの四島は日本に返還・編入される。
 
(イ)社会経済状況
ウラジオストックを含む沿海州を中心に、漁業に基盤を置く食品加工や造船のほか、自動車産業もあり、旧ロシア時代から継承した産業基盤を中心に、持続可能的計画経済が導入される。旧ロシア時代は辺境地のため、開発から取り残されがちで、人口流出にも悩まされてきたが、独立の領域圏となり、自立的な計画経済運営の可能性が開かれる。
 
(ウ)政治制度
ロシア極東連邦管区時代の連邦構成主体をすべて「州」に統一したうえ、それらを準領域圏とする連合領域圏である。連合民衆会議は、各準領域圏から人口比に応じて配分された定数抽選された代議員で構成される。政治代表都市はウラジオストック。
 
(エ)特記
当領域圏がロシアから分離されることで、ロシアは極東領土を放棄し、汎ヨーロッパ‐シベリア域圏の一員として純化されることになる。一方、旧ソ連→ロシアと日本の間での歴史的な懸案問題となっていたいわゆる北方領土問題は、係争地域がロシアから分離されることで、汎東方アジア‐オセアニア域圏内での協商による平和的な解決を見る。
 
☆別の可能性
ロシア側では極東領土の喪失につながる極東連邦管区分離への反対が強く、極東連邦管区がロシアにとどまる可能性もある。また、可能性としてはかなり低いものの、モンゴルが極東ユーラシア領域圏に加入する可能性もなくはない。
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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第16回)

2024-03-14 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

二 汎東方アジア‐オセアニア域圏

(13)沖縄諸島

(ア)成立経緯
日本の沖縄県が分離し、独立を回復して成立する統合領域圏

(イ)社会経済状況
世界共同体憲章の軍備廃止規定に基づき米軍基地が完全撤去されることにより、基地依存経済から脱却し、独自の経済計画に基づく工業が発展する。基地の撤去により農地も拡大され、独自の農業も発展する。日本領域圏とは経済協力協定を締結し、経済的な相互関係が維持される。

(ウ)政治制度
広域自治体である数個の地方圏及び単独で地方圏相当の地位を持つ政治代表都市・那覇市に区分される。南太平洋合同領域圏の招聘領域圏としても、オブザーバを送る。

(エ)特記
旧版では沖縄諸島領域圏をアジア‐太平洋諸島合同領域圏の中に包摂していたが、広汎にすぎるアジア‐太平洋諸島合同領域圏を南太平洋諸島合同領域圏に変更したことに伴い、沖縄諸島を単立の領域圏とした。

☆別の可能性
日本領域圏から分離せず、日本領域圏内の地方圏(「道」:下記参照)または高度な自治権を持つ特別地方圏(特別道)にとどまる可能性もある。

 

(14)日本

(ア)成立経緯
主権国家日本国をおおむね継承する統合領域圏。ただし、沖縄が分離する一方、北方四島が返還・編入される。

(イ)社会経済状況
主権国家時代の資本主義経済体制下で確立された工業を基盤に、持続可能的計画経済が構築される。担い手不足から縮退を続けていた農漁業も、計画経済の導入により再興され、食糧自給率が回復する。

(ウ)政治制度
主権国家時代の都道府県を整理統合した広域自治体である10数個の「道」に区分された統合領域圏として再編される。主権国家時代は連邦国家ではないにもかかわらず、二院制であったが、革命後は全土民衆会議の一院制に転換する。なお、天皇は一般公民化され、称号のみの存在となる。北方四島は北海道とは別途、ロシア系住民を含む北方特別行政区として、日本語とロシア語の双方が公用語に指定される。

(エ)特記
地震災害が繰り返される地質条件のため、全土レベルの民衆会議(全日本民衆会議)が置かれる政治代表都市は直下型地震が想定される東京ではなく、津波を含めた災害リスクが相対的に少ない内陸部に設置される。一方、東京都は現行23区部の東京特別市と市町村部に分割され、後者は神奈川県と統合された新たな「道」に編入される。

☆別の可能性
旧制固守的な政治風土ゆえ、日本には連続革命が及ばず、旧来の主権国家体制が残存する可能性もある。その場合、沖縄だけが先行的な革命により分離する可能性がある。一方で革命により日本領域圏が成立しても、沖縄が分離しない可能性は上述した。また、北方四島の返還は後述する極東ユーラシア領域圏のロシアからの分離いかんにかかる可能性が高い。

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弁証法の再生(連載第6回)

2024-03-10 | 弁証法の再生

Ⅱ 弁証法の再発見

(5)ヘーゲル弁証法②
 ヘーゲル哲学を支える思考法としての「ヘーゲル弁証法」は、必ずしも主著『精神現象学』の主題ではないが、そこにおける思考の方法として大展開されているため、同書はヘーゲル弁証法の樹立書と目されている。その特徴をひとことで言うならば、二元論の超克ということに尽きる。
 ただし、対立する二項を妥協的に接合する折衷主義でも、二項の最大公約数を抽出する平均主義でもなく、かといって第三項を単純に追加するのでもない、対立する二項から内在的に新たな項を導出するような高次の思考法である。
 ある命題(定立)とその反対命題(反定立)を俗に言う「良い所取り」によって折衷するという思考法は一時的な対立の緩和には役立つが、まさに対立の一時的休戦にすぎない。そこで、より進んで対立命題の最大公約数を抽出するという平均主義は、命題が数学的に割り切れる性質のものであるならば、いちおうの解決をもたらすかもしれないが、そうでなければ、割り切れない結論として対立は未解決である。
 そこで、二項対立を超克するべく、新たな第三項を導入しようとするのは自然な思考の流れであろうが、その際に、定立/反定立命題とは異なる第三項を外部から追加するなら、最初の二項対立が三項鼎立に転化する。これで最初の二項対立は相対化されたとしても、新たに三つ巴の戦いとなりかねない。
 これらの思考法は対立命題を基本的に固定したまま対立の緩和・解消を目指す点では、「悟性的」であるが、「総合」というプロセスを欠いている点で思考法としては不全であるから、根本的な対立の解消にはつながらない。
 その点、ヘーゲルは対立する命題が互いを批判吟味する中で相互媒介によって交差しつつ、最終的に対立を止揚するという思考法を提唱する。止揚によって立ち現れるものは第三項ではあるが、最初の二項と無関係に創出された第三項ではなく、最初の二項が内部的に保存されているような第三項である。
 このような思考法は折衷主義や平均主義のように対立回避的な妥協ではなく、対立を通じて相互に結びつき、対立の最終的な止揚に至るという点では対話的であり、2000年前のソクラテス式問答法を再発見したものとも言えるかもしれない。ただ、ヘーゲルは実際に他者と問答するのではなく、自己の脳裏でこうした問答法的な思考を実践しようとする点で近代的な弁証法ではある。
 ヘーゲルは、こうした思考法を思考法そのもの、あるいは新たな「論理学」の体系として提示したのではなく、彼の言うところの「絶対知」を導出するための思考過程として実践したのである。簡単に言えば、弁証法的思考の反復継続を通じて最終的に到達する最高次の学的知こそが、哲学的な絶対知だというのである。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第15回)

2024-03-01 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

二 汎東方アジア‐オセアニア域圏

(12)南太平洋諸島合同領域圏

(ア)成立経緯
南太平洋地域に広く散在する独立国家及び独立国家の海外領土であった島嶼が独立して成立した8個の領域圏が合同して形成される合同領域圏

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の8圏である。

○メラネシア領域圏
メラネシアに属する島嶼のうち、主権国家のソロモン諸島、バヌアツ、さらにパプアニューギニアから分離するブーゲンビル、フランスから独立するニューカレドニアが合併して成立する連合領域圏。政治代表都市は、ニューカレドニアのヌメア。

○フィジー諸島領域圏
主権国家フィジーを継承する統合領域圏

ウォリス‐フツナ領域圏
フランス海外準県ウォリス‐フツナが独立のうえ成立する統合領域圏

○トンガ領域圏
主権国家トンガを継承する統合領域圏。王制は廃止されるが、王は称号のみの存在として存続。

○統一サモア領域圏
サモア諸島西側のサモア独立国と東側のアメリカ領サモアが独立のうえ統一されて成立する連合領域圏。政治代表都市は、旧サモア独立国のアピア。

○遠ポリネシア領域圏
ポリネシア地域のうち、フランス領ポリネシア、イギリス領ピトケアン諸島、チリ領の旧イースター島ラパ・ヌイが独立、さらにニュージーランドの自治領トケラウと自由連合のクック諸島、ニウエがすべて完全独立したうえで合併し、成立する連合領域圏。政治代表都市は、タヒチ島のパペーテ。

○ハワイ諸島領域圏
アメリカのハワイ州が独立を回復して成立する統合領域圏

○拡大ミクロネシア領域圏
主権国家パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島にアメリカ領の北マリアナ諸島、グアムが独立したうえで合併し、成立する連合領域圏。政治代表都市は、グアムのハガニア。

(ウ)社会経済状況
合同を構成する領域圏は各個単独では漁業依存型の狭小な島嶼領域圏であるが、合同の共通経済計画を通じて社会経済の発達が促進される。海面上昇の危機に直面する領域圏も多いことからも、共通経済計画では環境的持続可能性を最大限に追求する。また合同共通の農業計画も、持続可能的な自給農業の発展に貢献する。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、ハワイのホノルルに置かれる。最も広域に展開する海洋型合同領域圏であるため、合同海上保安センターを共同運用する。

(オ)特記
旧版では、日本から分離する沖縄諸島や東ティモールまで包括するアジア‐太平洋合同領域圏を提示していたは、合同するには広大な領域に及びすぎることから、沖縄と東ティモールは除外し、改めて南太平洋合同領域圏として提示した。

☆別の可能性
可能性は高くないが、パプアニューギニアと西パプアがニューギニアが連合領域圏として再編された場合、当合同領域圏に包摂される可能性もあり得る。また、独立気風の強いブーゲンビルはメラネシア連合領域圏に参加せず、単立の領域圏となる可能性もある。最悪の可能性として、当合同領域圏に包摂されるはずの少なからぬ島嶼が海面上昇の進行により居住困難または不能となり、独立した領域圏として成立しない可能性もある。その場合は、南太平洋直轄自治圏(後述)として世界共同体の直轄下に置かれる。

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