監督 : 内田けんじ
出演 : 中村靖日、霧島れいか、山中聡、山下規介、板谷由夏
典型的なお人好しの冴えないサラリーマン宮田武は、結婚を前提にマンションを購入した矢先、肝心の恋人あゆみに突然去られてしまう。ある晩彼は、親友で私立探偵の神田に呼び出され、とあるレストランへと向かう。神田はいつまでも前の彼女を忘れられない宮田を叱咤すると、その場で宮田のためにと女の子をナンパしてみせる。一人で食事していたその女、真紀はちょうど婚約者と別れ今夜の泊まる家もなく途方に暮れているところだった。そこで宮田は自分の家に泊まるようすすめ、2人で帰宅する。ところがそこへ、置きっぱなしの荷物を取りに来た、とあゆみが突然現われた…。
「アフタースクール」で観客を騙しまくった内田けんじの長篇デビュー作。“作家のすべてが処女作にある”ように、意地の悪い内田のひっかけが炸裂している。上に載っているのが表側のストーリーで、しかしその裏にはやくざの金をめぐる争奪戦がしこんである。
この二重構造が成功しているのは、表側のボーイ・ミーツ・ガールの物語が上出来だからだ。探偵の神田が、いい人である宮田にハッパをかけるセリフがいい。
「お前はまだ人生に期待しちゃってるんだよ、高校生みたいに。もうクラス替えとか文化祭とかないんだよ?」
“運命じゃない人”である真紀が宮田に返すことばも泣かせる。
「自分のものになりそうなら、誰でもいいんですか?」
これに反論できる独身男はそうはいないはず(^o^)。いないよな。うん、いない。
ラブストーリーがハートウォーミングであればあるほど、宮田の部屋を舞台にした暗闘が効く。やけにカジュアルな格好をした組長役の山下規介が笑わせます(携帯の着メロに注目)。
わずか12時間のできごとでありながら、登場人物たちがひたすら疲弊していくなかで、主人公の宮田くんだけは無垢な存在でありつづける。2度観るとなおうれしい、お得な一作。
画像は板谷由夏。ある意味、もっとも不幸になる人なんだけど……。