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『手塚治虫漫画全集』第3期の迷走?

2009-12-13 23:40:46 | 手塚治虫
 『手塚治虫漫画全集』については何度か当ブログで取り上げてきた。今回は、これまで触れられなかった部分の補遺のためのエントリとお考えいただきたい。


 まずは、以前に「『手塚治虫漫画全集』第4期の思い出」を書いた時に本文中で触れた『MW』の第3期での刊行予告をようやく発見したので、ここに載せておく。





 これは『人間昆虫記』第2巻の巻末に載ったもので、この時刊行された4冊のうち次回配本予告が載ったのはこの1冊だけだった。これを探し出すのには随分と手間がかかった。ともかく、これをご覧いただければ、発売一ヶ月前の段階まで第3期で『MW』が出る予定だった事はおわかりになるだろう。
 それが、実際に翌月になってみると『MW』ではなく『ブッダ』の第1巻になっていた。これが1983年4月14日発売だが、驚くべき事にこの時点ではまだ『ブッダ』の連載は完結していない。連載終了はこの年の『コミックトム』12月号であり、もちろん終わらせる目途は付いていたのだろうが、それでもかなり思い切った措置だ。

 では、なぜそこまで無理に(と言っていいだろう)、ギリギリのタイミングで『ブッダ』全14巻をねじ込んだのだろう。それを考察する前に、これをご覧頂きたい。





 これは、全集第2期完結時に『すっぽん物語』の巻末に載った第3期100巻の内容予告だが、実際に刊行された第3期の内容とはかなり異なっている。
 まず、『大空魔王』や『拳銃天使』をはじめとする初期単行本の多くは刊行されないままに終わった。他にも、『MW』『大地の顔役バギ』『流星王子』『とんから谷物語』などは未刊だし、『ブラック・ジャック』は当初の予定から4冊減らされている。『魔神ガロン』は全3巻予定となっているので、おそらく単行本未収録の代筆部分を描き直して収録する予定があったと思われるが、結局第3期では従来のサンデー・コミックスに入っている部分までしか収録されなかった。

 『魔神ガロン』の件はともかくとして、他の多くのタイトルが出なかったのは『ブッダ』に取って代わられたからなのだろう。
 全集最終巻の『手塚治虫講演集』巻末に掲載されている森晴路・手塚プロ資料室長の言葉によると、全集のラインナップは半年ごとに手塚先生ご自身が決めていたそうなので、第3期後半のこの変更も、手塚先生の意向である可能性が高い。
 全集の最後をちょうど完結しそうな大長編で締めくくりたかったのか、それともよほど初期の作品群を出したくなかったのか(『森の四剣士』のトレスなんてひどいからなあ。あれは誰が見ても素人レベル)、真意は今となっては分からないが、第3期では未刊に終わったこれらの作品群に手塚先生ご自身によるカバー絵と「あとがき」が付されなかった点は非常にもったいないと思う。もちろん、代わりに『ブッダ』のあとがきは書き下ろされたが、『ブッダ』一作よりはもっとたくさんの作品の裏話を書いて欲しかった。ほとんどの作品は第4期で刊行されたが、そこに書き下ろしの「あとがき」は無い。まあ、これはファンの勝手なわがままなのだが。

 『ブッダ』の件は極端な例だが、この全集は第2期まではほぼ前月の予告通りに出ていたのに、第3期は予告と微妙に違う本が出る事が他にも何度かあった。たとえば『鉄腕アトム 別巻』全2巻は当初一冊で『鉄腕アトム』第19巻として予告が出ていたし、『SFアラベスク』は『ショート・アラベスク』に取って代わられて、あとから改めて『時計仕掛けのりんご』として刊行された。
 2期までとは違って、第3期は当初の予定だった全300巻を完結させなければいけないために、細かい調整が色々と必要だったのだろう。『鉄腕アトム 別巻』の件などは、単に「小学二年生」版の存在を忘れていただけのような気もするが。

 ともかく、手塚先生と編集部の苦労の跡がうかがえて、第3期の次回配本予告を追っていくと非常に面白い。以前に「初版本へのこだわりと悩み」のエントリで、「初版にこだわる「きっかけ」があった」と書いたが、これが実はこの全集の次回配本予告の有無だったのだ。
 手塚作品を読み進めていき、自分でも書店で新刊本を買うようにもなったが、手塚全集の増刷分では次回配本予告は削除されている。それを知った時、何としても手塚全集は全部初版で集めようと思い、いつしかそれが他の本にも波及してしまったと言うわけだ。
 なお、手塚全集は現在いよいよ完集まで残り2冊となった。全巻揃ったら並べてこのブログに晒すとするか。



 他にも以前のエントリの補遺として、「『手塚治虫漫画全集』の「言葉狩り」」を書いた時に気になっていた点について触れておこう。
 それは、作者死後の言葉の改竄の具体例を挙げられなかった事だ。一応、死後に全集入りした作品として『ブラック・ジャック』の「木の芽」を挙げておいたが、これはおそらく秋田書店の少年チャンピオン・コミックスの方で先に改竄されており、はっきりとした時期が分からない。

 できれば、第4期で初単行本化された作品での「言葉狩り」を紹介しておきたいと思っていたのだが、ようやく一例見つかった。
 それは『ピロンの秘密』で、この作品は手塚治虫ファンクラブ京都の出した「ヒョウタンツギタイムス」に再録されており、そちらでは初出そのままの状態で読める。全集版の85ページでブーメランの説明をするコマがあるが、全集では「武器さ」なのに対して、初出版では「土人の武器さ」となっている。やはり、手塚作品であっても「土人」などの単語はタブーであり、作者不在であっても改竄されてしまうのだ。迂闊にも、この「ヒョウタンツギタイムス」は前から持っていたのに見落としていた。
 第4期では他にも『地球大戦』あたりは、いかにも改竄されていそうな箇所が散見されるので、機会があれば調べてみたい。



 こんな感じで、今回は『手塚治虫漫画全集』について、またまたダラダラと書いてしまった。
 手塚作品については、私などよりもっと詳しい人がたくさんおられるだろうから、今までのエントリも含めて何かおかしな事を書いていたら、ぜひご教授願います。

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