「映画ドラえもん のび太と 空の理想郷(ユートピア)」感想

 今年は延期することなく、予定通りにドラえもん映画が公開された。
 いつものごとく、名古屋の藤子ファン仲間と昨日観てきたので、感想をここに書いておく。例によっておもいっきり内容に触れているので、その点はご注意いただきたい。



 今回の映画の感想をまとめると、「いいことを言ってはいるのだが、つっこみどころも多い」といった感じだ。
 「みんな違って、みんないい」と言うのは、それは素晴らしい考え方なのだが、そっちに極端に寄りすぎてもちょっと怖いよね、と思ってしまった。もちろん、画一的な人間が生産されるのは非常におそるべきことで、そこの怖さは描けていたとは思う。
 最後にいつもの街に戻ったのび太が、街のことを「素晴らしいんだ!」と言う場面なども含めて、どっちにしても考え方が極端なので、ちょっと宗教が入っているように見えてしまうが、これは狙ってやったんだろうか。

 と、最初に全体的に感じたことを書いてしまったので、あとは順を追ってみておこう。
 今回最初に思ったのは、伏線の張り方が露骨だなあと言うこと。天気雨はいかにも何かありそうだし、「四次元ゴミ袋」はぜったいにキーになる道具なんだろうなと思ったらやはりそうだし、少々わかりやすすぎるきらいはある。
 「四次元ゴミ袋」にパラダピアをまるごと入れてしまうという展開は、以前の映画「ひみつ道具博物館」のクライマックスにも似ているが、今回は「入れられる量には制限がある」として結局は犠牲を伴う展開となった点が異なる。別に四次元ゴミ袋に入れてしまっておしまい、でも話としては成立するところだが、あえて泣かせを入れたかったんだろうなあ。

 メインのゲストキャラクター・ソーニャは感じのいい奴だったが、三賢人とレイ博士の関係など、どこまでわかってやっていたのかがちょっとわかりにくかった。「三賢人に修理してもらった」と言っていたからレイ博士の存在は知らないのかと思いきや、レイ博士が出てきたら、特に驚かずに「もうやめましょう」とか説得しているし。
 三賢人はレイ博士の操るロボットだったのだろうが、これもちょっと描写がわかりにくかった気はする。最後の崩壊の時には完全放置されてしまっていて、ちょっと可哀想ではあった。

 今回のゲストキャラでいちばんの「当たり」は、マリンバだろう。
 賞金稼ぎとしてプロに徹する姿は格好良かったし、半分虫のようになった姿も可愛らしかった。ただ、ハンナとの関係性はちょっと疑問が残る。ハンナはパラダピアに連れてこられて心を操られかけていたのに、どうやってそれが解けたのか、そして、バリアがあるために外と通信できないはずのパラダピアからどうやってマリンバに依頼をしたのかなど、全く不明だ。尺の都合でカットしたのだろうか。

 そして、黒幕だったレイ博士。中尾隆聖さんの演技がよかった。狂気的な科学者と言うから、最初は魔土災炎が登場するのかと思ってしまったが。
 しかし、のび太は昔の自分によく似ていると言っていたが、レイ博士は科学の才能があったのだから、のび太とは違う気はした。三賢人がしゃべるときは、いちいちレイ博士が声をあてていたのかと思うと、ちょっと笑える。

 個人的に、どうしても気になってしまったのは、ジャイアン・スネ夫・しずかの洗脳が解ける場面で、のび太の説得だけで正気にもどってしまうのは、どうも弱い。あそこは、ちゃんと理屈に則った展開でロジカルに見せて欲しかった。感想会である方が言っていたが、それこそ「ジャイアンの歌で正気にもどる」でもいいのだ。「STAND BY ME ドラえもん2」の入れかえロープの場面でも思ったが、根性で何とかしてしまうのは藤子・F・不二雄作品らしくないと思う。

 クライマックスはソーニャが四次元ゴミ袋を一人で抱えて爆死してしまったが、なんだか白黒アニメ版『鉄腕アトム』の最終回を連想してしまった。一人で犠牲になる当たりが似ていると言えなくもない。
 そして、最後に落ちてきたメインメモリ。あれはやはり「バギーちゃんのかけら」を意識しているのだろうか。だとしても、新たな体を作ってしまう点は全く異なる。メインメモリだからこそとは言えるのだが、やはり重要キャラが死んだままというのも後味が悪いから、これでいいのかな。

 芸能人ゲストの声の演技についても触れておこう。永瀬廉のソーニャは、まあまあちゃんと演じてはいたが、何度か「ドラえもん」が「ノラえもん」と聞こえてしまうのが気になった。スネ夫じゃないんだから、ノラえもんはないだろう。
 山里亮太の配達ロボットは非常に上手くて、専業声優と遜色ない演技だった。本来、わざわざ専業でない人を配するならば、皆このくらいのレベルであるべきだろう。
 先生役の藤本美貴は、まあこんなものか。元々、感情があまりないパラダピア住人だから、違和感はなかった。

 と、ここまでいろいろと突っ込んできたが、全体としては楽しく観ることができた。楽しかったからこそ、余計に上で挙げた点が気になったというのはあるが。
 このレベルならば、ドラえもん映画としては合格点だと思う(何を偉そうな)。

 おまけ映像を見る限りでは、来年に映画もオリジナルストーリーになりそうな予感。監督は、今井一暁氏か。今井監督の過去作はちょっと合わなかったので不安ではあるが、おまけ映像で見せたように音楽を扱うのならば、今までにない作品が観られるのかもしれない。その点は、楽しみだ。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )