F全集『ドラえもん』第1・2巻感想

 9月23日は藤子・F・不二雄先生のご命日。
 思い返せば、2年前には『オバケのQ太郎』が復刊されない件について、かなり悲観的な文章を書いていたが、それが今や「藤子・F・不二雄大全集」で堂々の復活を果たした。いや、それどころか、もっと復刊が絶望視されていた『ジャングル黒べえ』も来年には全集でお目見えする予定なのだから、今年は本当にガラッと状況が変わってFファンにとって夢のような年となった。


 その大全集ももうすぐ第3回配本が発売となるが、当ブログで未だに全集版の『ドラえもん』については本格的に取り上げていなかった。この機会に、既刊の2巻まで読んだ感想をまとめて書いておく。

 まず、現時点で全集版の『ドラえもん』に対して抱いている印象だが、もっとも強く感じるのは、このシリーズが従来の「てんとう虫コミックス」とは全く別バージョンの単行本なのだと言う事だ。
 これは、単行本初収録作品が入っていたり、連載順に読めるからと言った点からの印象だけではない。全集のセールスポイントとされていた「学年繰り上がり編集」で連載時の発表順を追体験(リアルタイム読者にとっては再体験)できるのは面白い趣向だが、この方針で単純に収録順を並び替えているだけではなく、「タケコプター」のセリフを「ヘリトンボ」に戻したり、単行本としては初めてのび太の誕生年を昭和37年とするなど、本編にも踏み込んで学年誌における雰囲気の再現に努めているからだ。
 セリフで分かりやすいのは第2巻収録の「ツチノコ見つけた!」で、冒頭ののび太のセリフがてんコミの「ぼくは、やがておとなになるだろう」から、初出時の「ぼくはまもなく中学生」(「小学六年生」3月号に掲載)に戻されているところなどが挙げられる。他にも、単行本初収録となった「オーケーマイク」では、最後に「三年生になったら、「小学三年生」でかつやくするよ。読んでね。」とドラとのび太からの読者への挨拶があるが、これも今回の編集方針だからこそ無理なくそのまま収録できたのだろう。

 また、本全集全般について言える事だが、極力F先生の原稿を使用して、トレスを排除しているのも「てんコミ」とは異なる点だ。おかげで、ヘロヘロな線で「とにかくトレスが下手くそな作品」と言う印象が強かった「わすれろ草」や「人間あやつり機」を、ちゃんとF先生が描かれた元原稿で読む事が出来た。これらの作品がカラー収録されていないのは残念だが、てんコミのトレスに比べればよっぽどいい。
 「トレス排除」が徹底しているため原稿紛失作品は印刷物からの復刻となり、1巻の「夜の世界の王さまだ!」は線が粗いが、一部のコマだけ印刷が綺麗なので、原稿紛失でトレスした上にいくつかのコマを描き足したのだろうと推測できて、これはこれで面白い。

 これらの編集方針のおかげで、てんコミで既読の作品であっても新鮮な気分で読む事が出来た。正直なところ、刊行前は「学年繰り上がり編集」を収録順だけのものかと甘く見ていたが、ここまで徹底してくれると今後も楽しみだ。


 他にも、全集版『ドラえもん』について、気付いた点を箇条書きで挙げておこう。


 ・自主規制絡みのセリフの復元(これは1巻と2巻で方針が定まっていない感じ)
 ・セワシの「東京→大阪」理論は「未来の国からはるばると」と「愛妻ジャイ子!?」の両方に登場(後者はFFランドではカットされていた)
 ・「あやうし!ライオン仮面」の雑誌の月も初出に復元
 ・ドラのポケット・タケコプター描き忘れは修正無し(「まんが家」で自力で宙に浮いている)
 ・「通心はん売」も復活


 他にも、まだまだ見逃している箇所はありそうだが、とにかくてんコミとは別バージョンの『ドラえもん』になっている事は間違いない。
 全集が出るからと言ってこれまで集めた単行本を手放す気は初めから全くなかったが、てんコミと全集とでこれだけ違いがあると、両方を手元に置いておく事に大きな意味があるので、その点でも全集が「別バージョン」であるのはありがたい。また、低学年向けのカラー作品も2巻までは全て白黒収録なので、『ドラえもん カラー作品集』も当然手放せない。
 今回の全集では『ドラえもん』に限らず未収録分だけをチェックすればいいかと思っていたが、どうやらそうは行かないようだ。読む楽しみが増えて嬉しいのは確かだが、少なくとも『ドラえもん』に関しては、てんコミ→作者自選による決定版、全集→完全収録&学年繰り上がり編集と、性格の異なる二つの単行本が同じ社から出ているのだから、ちょっと奇妙だとも言える。


 以上、グダグダと書いたが、全集もまだ始まったばかり。これからが本番だ。まずは、明後日発売の『パーマン』第2巻に収録される「スーパー星への道」が楽しみだ。全集の編集方針から推察すると、「スーパー星への道」としての最終形であるホームコミックス版が収録されるのだろうか。
 ちなみに、現在の我が家の本棚の状況は以下の通り。第3回配本は2冊だからまだいいが、第4回で確実にパンクする。そろそろ何とかしなければ。




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『藤子不二雄Aファンはここにいる』発売

 11日に、「藤子不二雄ファンはここにいる/koikesanの日記」のkoikesanさんこと、稲垣高広さんによる藤子A作品評論本『藤子不二雄Aファンはここにいる Book1 座談会編』が、発売された。
 これは、七人の藤子Aファンがメーリングリストを利用して藤子A作品を語り合った座談会を本にまとめたもので、A先生の作品を単独で本格的に論じた本としては、はじめてだろう。以前に米沢嘉博氏が『藤子不二雄論』を出したが、こちらは二人で一人の「藤子不二雄」を論じた本だった。A先生の作品のみを七人もの熱心なファンが論じ合った今回の本は、画期的と言っていい。


 などと、他人事のように書いてはいるが、実は僭越ながらこの私もその七人の中に参加させていただいた。自分の発言が本として出版される事になろうとは、恥ずかしいやら照れくさいやら、不思議な気分だ。




今回は、完全に本名で参加



 思い返せば、稲垣さんからこの座談会へのお誘いがあったのが昨年の9月初頭だから、もう一年が経ってしまった。
 最初にお話を伺った時は、「藤子A作品評論本の中にファンによる座談会を含めたい」と言うだったので気軽に参加したのだが、皆熱心なファンばかりなので、どの作品に対しても白熱した内容のメールが飛び交って、非常に盛り上がった座談会になった。そのため、「本の一部」ではなくて座談会が丸々一冊の本になってしまった。しかも、「Book1」と付いている事から察して頂けるかと思うが、これでもまだ座談会の全ての内容を収録しているわけではない。
 今回は、自己紹介から始まって、『まんが道』『少年時代』、本格的ギャグ漫画(『忍者ハットリくん』『怪物くん』『フータくん』など)、先鋭的ギャグ漫画(『黒ベエ』『仮面太郎』『マボロシ変太夫』など)、ブラックユーモア短編、『劇画 毛沢東伝』を、主に取り上げて論じている。この作品ラインナップでは、まだまだA先生の作品の全てを語り尽くしているとは言えない。なにしろ、代表作の『プロゴルファー猿』や『魔太郎がくる!!』ですら、今回の本ではまだ論じられていないのだから。
 参加者が、あまりに熱心に多くのA作品について愛情たっぷりに語り合ってしまったために、とても一冊の本だけでは収まりきらないほどの分量になってしまったのだ。座談会の期間も当初設定されていたよりかなり延長されて、最終的には3ヶ月半もの間、A作品について徹底的に語り合っていた。私にとって近年で最もA作品漬けになった日々だった。今回、書名に「Book1」と付いてはいるが、「次」があるかどうかは今回の売れ行き次第のようなので、ぜひ多くの方に買って読んでいただきたい。


 それにしても、あらためて一冊の本となった座談会を読んでみると、元のメールのやりとりを知っているだけに、稲垣さんのまとめかたの上手さには舌を巻く。メーリングリスト形式だったので、一通のメールに複数の人が返信を出す場合もしばしばあったが、それらのメールも違和感なく読めるように巧く配置されている。おかげで、自分の文章を含めて、あらためて新鮮な気持ちで読む事が出来た。
 ファンの形や活動は人それぞれ、さまざまだが、今回の本はファン活動の一つの成果として胸を張って多くの藤子Aファンにおすすめしたい、素晴らしい内容になったと思う。それは、前述した稲垣さんの素晴らしい編集と、参加された方々のあふれんばかりの藤子A作品への愛があったからこそだ。そんな座談会に参加させていただいた事を、誇りに思いたい。



 と言うわけで、繰り返しになりますが、『藤子不二雄Aファンはここにいる Book1 座談会編』は、社会評論社より絶賛発売中であります。「濃い」人ばかりが集まっておりますが、稲垣さんが丁寧にA先生ご本人や作品の紹介をされているので、ファンなら誰でも楽しめる本になっていると思います。ぜひ、お読み下さい。
 稲垣さんのブログにこの本を入荷した書店のリストと、ネット書店へのリンクがあるので、興味のある方はそちらをご覧下さい。よろしく、お願いします。
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あるばたいんさんへのご挨拶

 日曜日に、あるばたいんさんのご実家に、たかはたゆうさくさんと一緒にご挨拶に伺ってきた。
 お家では、あるばたいんさんのご両親とお兄様が迎えて下さった。部屋に入ると、あるばたいんさんの遺影が飾られていた。この時までは、まだなお「何かの間違いであって欲しい」と思っていたが、現実を目の当たりにしてしまうと、もうどうしようもない。あるばたいんさんは、やはり亡くなられたのだ。


 日曜日の時点では、あるばたいんさんが亡くなってから一週間も経っておらず、ご家族が一番おつらかったはずだが、それでも我々を気遣って下さったのか、終始明るく振る舞われていた。
 部屋の一角には、あるばたいんさんの遺品となってしまった品々の一部が置かれており、その中には当然ながら「藤子・F・不二雄大全集」もあった。その実物を手にとって気が付いたのだが、『ドラえもん』『パーマン』は読まれた形跡があったものの、『オバケのQ太郎』はビニールの封が巻かれたままだった。また、第2回配本は置かれていなかった。ご両親が「買ってこようか」と尋ねたら、「いや、いい」と言われたそうだ。第2回配本は8月25日発売だった。もうその頃には、死期を悟っておられたのかもしれない。
 長い間待たされた『オバQ』も、藤子作品の中で特にあるばたいんさんが愛されていた『エスパー魔美』のカラー絵も、読む事なく旅立ってしまわれたのだ。どれだけ無念だっただろうか、想像しても余りある。

 この日は、人一人の死がどれだけ重いものであるか、あらためて思い知らされた。特に、あるばたいんさんは年齢も近かったし、藤子作品をはじめとして趣味で共通する部分が多かったので、本当に他人事とは思えない。
 この日は、私とたかはたさんの他にも二人の方が弔問に来られた。私以外は、他県の方ばかりだ。また、藤子ファン仲間からの弔電やお供えの品も届いていた。本当にあるばたいんさんが多くの人から愛されていたのだ。


 正直言って、あるばたいんさんのご実家に伺おうかどうか、最初は迷っていた。あるばたいんさんの「死」を完全な事実として受け容れるのが怖かったのだ。だから、たかはたさんが日曜日に行かれると聞いて、お願いしてご一緒させていただいた。
 今は、お伺いしてよかったと思っている。死の事実自体はやはりつらかったが、10年以上もお付き合いしていた友人に、ちゃんと別れを告げる事が出来たのだから。あるばたいんさんはきっと、天国でF先生に会っている事だろう。そう思いたい。
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あるばたいんさん、ありがとうございました

 藤子アニメの老舗ファンサイト、「藤子アニメだいすき!」の管理人、あるばたいんさんが8月31日の夜に亡くなられた。享年35歳。
 この事は、先ほど「高畑★SAN」の記事で知ったのだが、正直言って驚きと混乱で何を書いていいか、わからないくらいだ。


 あるばたいんさんは、私がネットを始めて最初にお会いした「大人の藤子ファン」だった。藤子不二雄メーリングリストで知り合い、その後に当時名古屋の某映画館で行われていた「ドラえもん映画全作上映」企画で、始めて直接お会いして以来のお付き合いだから、もう10年以上前の事だ。
 もちろん二人とも藤子ファンだったし、それに加えてお互い名古屋育ちで歳も近かったので藤子以外のアニメやテレビ番組の話などでもよく盛り上がった。はじめてお会いした大人の藤子ファンが、あるばたいんさんのようないい方だったのは、私にとって幸運だった。その後、藤子MLのオフ会に参加する気になったのも、あるばたいんさんの好印象があったからなのは間違いない。
 その、あるばたいんさんがもうこの世にいないなんて、にわかには信じられないし、信じたくない。

 いつも穏やかで、落ち着いて話をされる方だったが、ご自分の好きな物には強いこだわりを持っておられることは言葉の端々から感じ取られた。そのこだわりが「藤子アニメだいすき!」や「MAMI WEB」「エスパー魔美DVD化署名運動」へと繋がっていったのだろう。「藤子アニメだいすき!」は、シンエイ動画のサイトが影も形もない前世紀から、藤子アニメの情報が盛りだくさんで公開されていたのだ。
 「エスパー魔美DVD化署名運動」は、間違いなく『エスパー魔美』そして『チンプイ』の全話DVD-BOX化へ向けて、力の一つとなったと思う。あれだけのファンの声が集まったからこそ、DVD発売への道が開けたのだ。

 あるばたいんさんが上京されてからは、昔ほどにはお会いする機会は多くなかったが、それでも夏と冬の「ドラちゃんのおへや」オフ会にはほぼ毎回参加して下さっていたので、この機会にお会いできるのが楽しみだった。
 そして、いつもあるばたいんさんは穏やかで微笑みながら、藤子アニメの話やその時々の好きなアニメ・テレビ番組の話をされていた。目を閉じると、その姿が浮かんでくる。


 今年はとうとう「藤子・F・不二雄大全集」の刊行が開始されたし、秋にはDVD「ドラえもん タイムマシンBOX 1979」も発売される。藤子ファンにとっては待ちに待ったと言っていい、夢のような年だ。夏のオフ会ではお会いできなかったが、またいずれ全集について語り合える日が来るものと思っていたが、もうその日は永遠に来ない。
 謹んで、心からご冥福をお祈りします。あるばたいんさん、今まで本当にありがとうございました。
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