富田耕生さん、死去

 富田耕生さんが、亡くなられた。

 非常にキャリアが長く、演じた役は多岐にわたるため、いろいろなキャラが頭に浮かぶが、藤子不二雄ファンとしては、一番に思いついたのは『プロゴルファー猿』の「おっちゃん」だった。
 アニメのおっちゃんは猿とは非常にいいコンビで、アニメオリジナルの展開として原作では猿一人だけだったゴルフ特訓道場にまで、おっちゃんがついてくるくらいなのだ。基本的に猿とおっちゃんは「凸凹コンビ」という感じなのだが、時には猿の父親代わりといった感じの立ち位置になることもあり、そんなときのおっちゃんの優しい演技も印象的だった。
 シンエイ藤子アニメでは、他に「ドラえもん のび太の海底鬼岩城」のポセイドンや、『怪物くん』の保険怪物モンストロと言った役で出演している。また、最近ではインド版『忍者ハットリくん』でもゲスト出演していた。

 シンエイ以外の「藤子アニメ」となると、日本テレビ動画の制作した日本テレビ版『ドラえもん』の初代ドラえもん役のことは、避けて通れない。
 富田さんが亡くなったニュースの見出しで「初代ドラえもん役」との記述が多く目に付いたが、富田さんのキャリアを振り返るならば、妥当な選択とは思えない。
 富田さんには珍しい主演であり、かつ「ドラえもん」という有名キャラクターだから取り上げられたのだと思うが、日テレ版『ドラえもん』は、視聴した人が限られるため、どちらかというと知る人ぞ知るアニメといった方が正しい。少なくとも、「初代ドラえもんの人」と言われて富田さんを連想する人は、ほとんどいまい。どう考えても、裏番組だった『マジンガーZ』のDr.ヘルの方が有名だろう。

 私自身は、『ドラえもん』に関してはシンエイ版大山のぶ代直撃世代なので、小原乃梨子さんの「テレビ・アニメ最前線」を読むまでは、日本テレビ版の存在すら知らなかったし、読んでからも知識として知るだけだった。
 その後、ある方のご厚意で富田さんの歌う「あいしゅうのドラえもん」を聴く機会があり、さらに当時のスタッフだった真佐美ジュンさんと知り合い、ネオ・ユートピアの上映会などで本編を観る機会に恵まれたが、いずれも富田さん演じるドラえもんの声には、大いに衝撃を受けたのだった。
 なにしろ、絵は「ドラえもん」なのに、しょぼくれた感じの(失礼だが)おっさんの声でしゃべっているのだから、その違和感たるや並大抵のものではない。もちろん、このドラえもんに最初に触れた人にとっては感じ方は違うのだろうが、私は大山世代なので、どうしても観ていて笑いをこらえられなかった。
 そんな日テレ版『ドラえもん』だが、現在では真佐美ジュンさんによる上映会も開催されなくなったため、一般的には視聴困難な作品だ。それだけに、富田さんによる初代ドラえもんはイメージがしにくいキャラクターだと思う。

 それでは、富田さんの代表作は、なんだろう。
 先ほど挙げたDr.ヘルのような悪役も含めて、富田さんと言えば博士役が非常に多いことで知られる。個人的に好きなのは、熱血漢で気のいい四ッ谷博士(『超電磁ロボ コン・バトラーV』)だが、子供を亡くすなどして徐々に精神を病んでいって、最終的には敵に寝返った『宇宙大帝ゴッドシグマ』の風見博士も忘れられない。あの怪演は、実にすばらしかった。
 また、富田さんと言えば、多くの手塚アニメでヒゲオヤジ(伴俊作)役を演じたことでも知られる。キャラクターの知名度から言えば、これも代表作の一つと言ってもいいだろう。
 特に、近年の手塚アニメではほぼ全ての作品でヒゲオヤジを演じているが、意外にも『鉄腕アトム』に関しては、担当したのは第3作の『ASTRO BOY 鉄腕アトム』だけで、白黒の第1作と1980年の第2作では、ヒゲオヤジ役は別の方が演じている。
 ただ、白黒版『鉄腕アトム』では、富田さんはゲストで様々な役を担当されており、特筆すべきは最終話「地球最大の冒険の巻」で、アトムのパパ役を担当されていることだろう。アトムのパパは準レギュラーキャラだが、声優はあまり一定しておらず、富田さん以外の方があてている回も多いのだが、最終話に関しては富田さんなのだ。それだけに、特に印象に残っている。
 ちなみに、個人的に富田さんが演じたヒゲオヤジで一番印象的なのは「マリン・エクスプレス」で、これが私が最初に観たヒゲオヤジ登場アニメ作品だったせいなのだろう。他には、『ジェッターマルス』などもよかった。『ジェッターマルス』や「マリン・エクスプレス」でヒゲオヤジを富田さんが担当した流れで、1980年版『鉄腕アトム』では富田さんではなく熊倉一雄さんになったのは、ちょっとふしぎだ。

 他にも、富田さんの主演作と言えそうな作品に『平成天才バカボン』や『まんが 花の係長』などがある。
 前者は、キャラの知名度から言っても代表作の一つに挙げて差し支えないだろう。『平成天才バカボン』だけでなく、雨森雅司さん亡き後はバカボンのパパは富田さんの持ち役の一つになっていた。後者は、主役であることは間違いないが、作品自体がマイナーなので、代表作とするにはやや苦しいか。幸いなことに、全話がBD化されているので、視聴はきわめて容易ではあるが。
 富田さんは洋画吹き替えでも多くの役を担当されているが、この分野は詳しくないので、ここでは触れないことにする。多分、私が無理に触れなくても、詳しい人がどこかで振り返ってくれているのではないだろうか。

 富田さんの出演作で印象に残るものとしては『ゲゲゲの鬼太郎』もある。白黒の第1作と続く第2作では、ほぼ番組レギュラーとして様々な役を担当していたのだ。
 なかでも、「おぼろぐるま」では、なんと水木しげる先生の役を担当しており、これが非常にはまり役だった。他にも、第2作では「やまたのおろち」の呼子や、「妖怪反物」のチー妖怪と言ったところが印象深い。

 この調子で、印象的な役を挙げていくときりがないので、このあたりにしておこう。
 本当に長い間、様々な作品のいろいろなキャラクターで楽しませていただいた。ありがとうございました。心より、ご冥福をお祈りします。
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