映画ドラえもん18作を観終えて(前編)

 WOWOWで2月から放映されてきた映画ドラえもんだが、とうとう「のび太のねじ巻き都市冒険記」までの原作大長編ありの作品をすべて観終わってしまった。
 思えば、映画ドラえもんをまとめて集中的に観たのは久々のことだ。もしかしたら、今はなき名古屋の「シバタ劇場」で、当時の全作品(「ねじ巻き都市冒険記」まで)が上映されたとき以来ではなかろうか。もっとも、その時も全作観たわけではなかったが。
 ツイッターで、各作品を観るたびに感想を投稿していたので、ここではその投稿を元にして、全18作の感想をまとめておく。
 なお、ツイッターからのそのままの転載ではなく、ブログ用に加筆訂正と編集を行ったものであることを、おことわりしておく。



・のび太の恐竜

 今観ると、作画などから素朴な味わいを感じるが、そんな中でも決して手は抜かれておらず、恐竜の動きなど今でも見応えがある。今観返すと、原作の名シーンで映画にないのがけっこうある事がどうしても気になってしまうが、原作と映画が同時進行だった上に、本作は後から描き足された場面も特に多いので、仕方のないところだろう。


・のび太の宇宙開拓史

 個人的にいちばん思い入れの強い作品なので、いい画質でじっくりと観られてよかった。もう何度となく観ているのだが、それでも特に別れのシーンは見入ってしまう。「心をゆらして」の流れるタイミングが完璧で、ここだけ何度も観返してしまった。クレムがあやとりを見せるところなど、すばらしい。
 いかにも大河原邦男メカなブルトレインは、下手をしたら作中で浮いてしまうところだろうが、そうはならずにいいアクセントになっていると思う。


・のび太の大魔境

 本編中で挿入歌として流れる「だからみんなで」が、本来のバージョンになっている。DVDではフルコーラス版を1コーラス流しただけだったが、それとは演奏も歌唱も微妙に異なる。これが聴けて、よかった。
 本作で、西牧秀夫監督が降板となった。これは、藤本先生からの申し出によるものだと言うことが、楠部三吉郎氏の「「ドラえもん」への感謝状」で書かれているが、この映画で藤本先生が気に入らなかった点は、なんだったのだろう。あえて想像してみると、クライマックスの戦闘で兵士に犠牲者が多数出ているように見える描写だろうか。原作ではそこまで詳細に戦闘を描いていないが、映画ではどう見ても死んでいるように見える。
 おそらく、藤本先生の考えでは、兵士たちはダブランダーには仕方なく従っており、それをクンタック王子もわかっているから、兵士を殺すような行動には出ないと言うことだったのではなかろうか。あくまで私の想像だし、もう今となっては確かめようのないことではあるが。
 思えば、わさドラのリメイク版「新 のび太の大魔境 ペコと5人の探検隊」では、巨神像が攻撃を加えるときに、いちいち兵士が脱出する描写があったが、このように極力死者が出ない展開の方が、藤本先生の世界に近いと言うことなのかもしれない。あれはあれで、いちいち兵士が逃げるのはくどく感じたが。


・のび太の海底鬼岩城

 芝山努監督になってからの1作目だ。海のキャンプの楽しさが存分に描写されていて、ついついあこがれてしまうが、さすがにこれを真似することは不可能だ。ポセイドン役は富田耕生さん。初代ドラえもんに悪役をオファーしたのは、どういう経緯だったのだろう。富田さんがお元気なうちに、初代ドラえもんの思い出と一緒にインタビューしておくべきではなかろうか。


・のび太の魔界大冒険

 あらためて観ると、劇中でけっこうな頻度で「風のマジカル」アレンジBGMがかかっている。と、なるとやはりエンディングで流れるべきは「風のマジカル」なのだ。このバージョンが普通に観られるようになったのは、喜ばしいことだ。
 この作品だけではないが、プロデューサーの菅野哲夫氏の名前は特に消されずそのまま残っている。一時期、テレ朝チャンネルの再放送や『怪物くん』のDVD-BOXなどで、菅野氏の名前は消されていたものだが。「原作・脚本 藤子不二雄」もそのままだし、スタッフクレジットは基本的にオリジナルのままと考えてよさそうだ。


・のび太の宇宙小戦争

 本作は、ドラコルルの悪役っぷりがいい。屋良有作氏の好演も相まって、憎々しさが増している。また、ドラコルルの部下の声が中尾隆聖氏なので、何か腹に一物ありそうな感じがして、観ていて困る。実際には、単なる部下なので、どうということはないのだが。
 忘れてはいけないのが、しずかちゃんの牛乳風呂シーンだ。この場面、あえて少しぼかしているように見える。


・のび太と鉄人兵団

 説明不要の名作。映画ドラえもんの、一つのピークと言ってもいい。藤本先生ご自身は、フィルムコミックのあとがきで解決にタイムマシンを使ったことを「ちょっとイージーでした」と言っておられるが、それでも、クライマックスの盛り上がりはすばらしい。
 また、主題歌「わたしが不思議」も、すばらしい名曲だ。リルルの揺れ動き変わっていく「心」を見事に歌で描いている。ロボットものだからと言って、単純なヒーローソングにしなかった武田鉄矢氏のセンスが良かったのだろう。
 それにしても、初期の映画ドラえもんでの三ツ矢雄二さんの活躍は特筆すべきものだ。水中バギー、ロコロコ、ミクロスと、作品のマスコット的存在でありながらそれだけではない重要なキャラを続けて演じていて存在感は大きい。特に水中バギーはあのラストがあるのでインパクトは強い。


・のび太と竜の騎士

 本作は、藤本先生の恐竜への愛情がたっぷり詰まった作品。はじめて明確な敵が登場しない作品でもあり、ある意味では映画ドラえもんの転換点とも言える。なお、制作進行に水島努氏がいる。ちょうど『劇場版 SHIROBAKO』を観たばかりだから、タイムリーだった。
 主題歌「友達だから」のアレンジBGMがかなり多用されているが、サウンドトラックヒストリーに収録されていないのは「菊池俊輔作曲」ではないからなんだろうな。一作ごとにサントラが出ていれば主題歌アレンジの曲も当然入っただろうが、あの「組曲」形式では入れられまい。


・のび太のパラレル西遊記

 初の映画オリジナル作品だが、タイムパラドックスとパラレルワールドの組み合わせは、なかなか面白い。本作が他の作品と違うのは、「どれだけ大きな出来事が起こっても、のび太の街には影響を及ぼさない」という映画ドラえもんの原則が破られている点だ。
 本作では、のび太の町に妖怪世界が入り込み、人々は妖怪と化す。先生は、はっきり妖怪への変身を描かれているし、のび太のママにも(ギャグ的表現ではなく)角が生えている。この変貌したのび太の町を見ていると、どうにも居心地の悪い感じがする。スタッフとしてもこの描写は冒険だったのではないか。
 主題歌「君がいるから」もいい曲なのだが、どちらかというと挿入歌向けの感じがする。エンディングで心沸き立つ感じになるのは、ちょっと違う。いっそのこと、「のび太と夢幻三剣士」のように、エンディングは別の曲でもよかったのでは。



 以上、今回はここまで。
 最初は、全18作の感想を一挙に載せようと思ったが、さすがに長くなりすぎるので、半分の9作目までで一区切りとしておく。続きは、また近いうちに更新します。
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