「VOCA展 2009 受賞作家トークVol.1『三瀬夏之介』」 上野の森美術館

上野の森美術館台東区上野公園1-2
「VOCA展 2009 受賞作家トークVol.1『三瀬夏之介』」
3/15 15:00~



本日より春の上野の到来を告げるVOCA展が上野の森美術館で始まりました。私の拙い感想は後回しにするとして、まずは取り急ぎ同日企画された受賞作家トークより、最高賞のVOCA賞を受賞した三瀬夏之介のセッションの様子を再現したいと思います。トークは会場フロア内にて、作品の前に三瀬、樫木、高木の三作家、及び観客とが向き合い、司会と対談する形式で進みました。

[三瀬夏之介(VOCA賞)]

司会 どういう契機で日本画を取り組むことになったのか。

三瀬 そもそも日本画を学べる高校など殆どないが、自分も高校時代は油絵ばかりを描いていた。当然美大への進学も油画を意識することになる。入学後、前期の基礎実習で油絵、もしくは日本画の双方を学んだが、そこで行った水墨の実習が相当に面白かった。具体的には、自分を360度、スクリーン状に囲む紙に様々な風景を描くというものだが、そのイメージに熱中するとともに、水墨に触れることでかつて自身でやっていた水彩の記憶も思い起こすことになった。これで進路は決定。(笑)油は家でやれば良いと日本画を志すことにした。

司会 墨絵が今の制作の原点になったということなのか。

三瀬 日本画の魅力に惹かれたとは言えども、大学の日本画教育には終始、かなり強い疑念を抱いていた。かつて学生時代、作品を批評し合う合評会が存在したが、そこでも出てくる言葉は「生命がない。」などの観念的な言葉ばかりで技術の話がない。また油画では例えばマティスなどの名画を摂取する実習があるのに対し、自分は地面の土を描いたり、それに鶏を描いてばかりで、一種のコンプレックスのようなものも感じていた。また日本画を離れ、いわゆる現代アートの世界へ目が向いたこともある。それに仲間といわゆる日本画ブームの来る前に、日本画とは何かを問うグループ展などを企画しあったこともあった。自分のしていることは何だろうという意識は常に持っているつもりだ。

司会 京都、奈良は日本画制作の牙城のようなイメージもあるが、そこから何か吸収したものはないのか。

三瀬 当時、反骨心ばかりで日本画を問い直そうとしていた私に、教授は色々と文句を付けてきた。(笑)それが色々な意味で今の糧になっている部分もある。

司会 日本画より逸脱しようとする意識を常に持っているのか。具体的に日本画をどうしようと考えているのか。

三瀬 パネルにはめ込めた、また額縁の中にある支持体という部分からもう一度考え直してみる。膠、顔料のちょっとした差異で絵の景色は一変するが、そうした技術的な面も試行錯誤、突き詰めて行く。ともかく大学では技術を全然教えてくれなかったので。(笑)

司会 一般的な日本画というと、画中の余白や間合いなどを通した緊張感を楽しむ面も多いが、三瀬の作品はそれとは正反対でエネルギッシュでかつモノを埋め尽くす圧倒感がある。

三瀬 指摘の意味の日本画という観点からでは決して正統派ではいないつもりだ。

三瀬夏之介「J」

司会 受賞作「J」について。「J」とは神武天皇の頭文字と聞いたが。

三瀬 それを含め、「J」には色々な意味合いをこめている。もともと日本画を描く過程において、日本画とは何か、また日本画を否定しようと様々な迷いや問を発してきた。そしてその根底には日本の意識、また日本人として絵を描くことの問題という問いを持ち続けてきた部分もあった。「J」はJapanのJかもしれない。

司会 三メートルほどの巨大な紙を使っているが。

三瀬 VOCAの規定で縦2メートル50センチというものがあるので、実際は上部を詰めている。

司会 中はコラージュの技法も多く用いられている。

三瀬 4種類ほどの様々な和紙を用いている。もちろんそれは絵を描くための上質な紙であり、また時には襖に使う紙であったりもする。

司会 印刷物もちらほら見受けられるが。

三瀬 連想ゲームの意識で色々な紙を使っているつもり。直感を大切にしたい。例えばJで用いられる大仏の手だが、これも大仏を見ていて手が山のように見えたから組み込んでいる。またUFOや魔人などを出すのも、あえて全体を意識せずに一度、絵の世界を不安定にしてあえて壊したいという願望があるから。無造作にスケッチを貼ることもある。

司会 作品には様々なモチーフが埋め込まれ、それらが組み合わさることで膨大な情報を発信している。三瀬の魅力はそここそあるのではなかろうか。

三瀬 壊す意識と言えども、最終的にはあるべき姿、ようは安定を目指すことはもちろん意識している。良く構図の面で混沌とし過ぎている云々と指摘を受けることがあるが、何とか同じ空間に不安定なモノを馴染ませようとする努力はしているつもりだ。

司会 今回のVOCA展で気になった作家はいるか。

三瀬 今、一緒に並んで座っている奨励賞の樫木さん、また府中市美術館賞の高木さんには共通したものを感じるがどうだろうか。例えば高木さんであれば、形もバラバラな図像が全体の中で永久に動いているかのようなイメージ。また一推しは浅井祐介。ひたすら描き続け、それらが分裂するように増殖していく、ようは描かなくては何も始まらず、ひたすら絵を描き続けたいというような運動を常にしているという姿勢にも多いに引きつけられる。

会場質問 絵の中にハシゴや階段がたくさんあるのは何故か。

三瀬 小さい頃のおまじないから由来している。当時、ノストラダムス云々で世紀末ブームがあったが、未来を知ろうというおまじないが奈良界隈で流行った。(笑)それは砂山に小さなハシゴを一晩刺して、朝そのままなら良い方向が、また倒れていたら死んでしまうという命をかけたもの。(笑)そのイメージを大切にしている。

以上です。

司会の方との呼吸が若干噛み合なかったせいか、いつもの快活な三瀬節とまでいきませんでしたが、それでも随所に笑いありの話で、あっという間に三、四十分が過ぎてしまいました。なおその後、同会場内で引き続き行われた樫木、高木の両氏のトークについては、下のリンク先エントリにまとめています。合わせてご覧下されば幸いです。

「VOCA展 2009 受賞作家トークVol.2『樫木知子・高木こずえ』」

なお受賞作家トークは次回、28日(土)午後3時より、三瀬氏も推薦の浅井祐介、また今津景、櫻井りえこの三名が予定されています。展示入場料の他は申し込みなど一切不要のイベントです。興味のある方はご参加下さい。

*展覧会基本情報
「現代美術の展望 VOCA展2009 -新しい平面の作家たち-」
会場:上野の森美術館
会期:3月15日(日)~3月30日(月)[会期中無休]
時間:10:00~17:00(金曜日のみ19:00閉館、入場は閉館30分前まで。)
料金:一般・大学生:¥500、高校生以下:無料

*関連エントリ(拙ブログ)
「三瀬夏之介 アーティストトーク」 佐藤美術館
「三瀬夏之介 - 冬の夏 - 」 佐藤美術館

*関連リンク(佐藤美術館個展時の対談を掲載)
「Round About 第61回 三瀬夏之介」(アートアクセス)
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