静 夜 思

挙頭望西峰 傾杯忘憂酒

≪ 社会の安定感:もたらすのは低失業率だけか? ≫  経済成長なくても 穏やかな国で居られる道は?

2016-12-02 08:56:58 | 時評
 【金言】失業と社会の安定=西川恵 http://mainichi.jp/articles/20161202/ddm/003/070/083000c?fm=mnm
・ 西川氏の趣旨をいうと、日本は<巨額の財政赤字と長期債務、低迷する成長と、経済指標では先進国の中で劣等生だが、唯一、
  失業率だけは一貫していい。 パリ特派員だった二十数年前も、欧州各国が10%近い失業率に苦しんでいる中で、日本は2%台だった>ことを引き、
・ <21世紀に入って日本も一時5%台になったが、一貫して先進国では最低の失業率を維持している。最近の数字で比べると、
  日本3・0%、米国5・0%、英国4・8%、ドイツ4・1%、フランス9・7%、イタリア11・7%>。   そして、
・ <ただ日本の低失業率は手放しで喜べない。その中身を見れば、労働人口の減少と裏腹の関係にある。また雇用調整助成金によって中小企業に余剰人員を抱えさせ、解雇を
 抑えている面もある。いうなら低失業率も財政赤字が支えている。非正規雇用の存在も見落とせない。雇用の質を考えた時、単に失業率が低ければいいとはならないからだ>。
 ⇒ ここまでは私も同感だ。企業内失業者を高度成長期は会社が利益の中から養っていたのを、低成長に移ってからは税を使う”社会福祉”という名で肩代わりしている、
  冷たく云えば そういうことだ。 だが、それでいいのか? と西川氏は疑問を投げ、やはり経済成長を遂げ続けねば社会の安定は維持できないだろう、と説く。

 私は、テロの恐怖に荒れる欧米や中東に溢れる殺伐とした世情が高失業率だけでもたらされている、とは思えない。「社会の安定」をどう定義するかだが、仕事につけず生活に不安があるからといって、殺し合いや暴動に直結するのではない。
 こんにちのテロの背景に渦巻くエネルギー源は<一神教世界での宗教間対立><民族・人種差別><経済格差>などであり、全てが憎悪と怨嗟・嫉妬・体制への不満となる現象を形作り、顕れている。 (とりわけ、東洋世界と違い、一神教のもたらす災いは最大だ。)
 そのシンボル的事象が英国のEU離脱国民投票、そして<トランプ現象>なのだ。 皮肉にも、其のアメリカが発したグローバリズム、それと結びついた金融資本主義/IT産業の隆盛が重なり、第二次大戦後の世界秩序が変質しつつある、というのが2016年であろう。

 早々と本年の回顧になってしまい恐縮だが、GDP拡大がなければ、本当に日本の社会は不安定に陥るのだろうか? という根本的な懐疑を私は持っている。東西含めた欧州には日本より遥かに経済規模は小さく、成長も殆どしない国がある。中南米も然り。   それらの諸国は「不安定」か? 心豊かではなく、住むのが厭になる国なのか? 
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 ≪ サルバドール・ダリ展 ≫    国立新美術館@六本木  9/1  ~ 12/12

2016-12-02 06:50:47 | 文芸批評
 会場の混みようは相当なもの。 観客は若い人が多く、また、西洋人の姿が目につき、昨今、暇と金を持て余す中高年で溢れるそこかしこを見慣れた私には新鮮な驚きであった。

 展示はダリの年譜順に構成。美術学校に入学する14歳からの作品は、当然と言えば当然だろうが、デッサンをきちんと勉強したことが直ぐわかり、印象派の影響を受けた構図と色使いが多い。後年、ダリを際立たせる作風とは全くかけ離れたタッチなので、そこだけ見ていると、いったい誰の作品か言えないだろう。

 ダリの生まれ育った街・カダケスはバルセロナの北にあり、フランス国境にも近いことから芸術に親しむ自由な雰囲気が満ちていた、と解説にあった。初期の作品では其の故郷をモチーフにしたものが、様々な試みで描かれている。 20歳あたりまでのそれら作品には、まだ印象派的雰囲気が強いように感じた。 ここらあたりまでは、いま我々が「ダリ」と聞いて思い浮かべるユニークな世界の片鱗もみられないのは興味深いところ。

 さて、キュービズムの影響を強く受けた後、独特の境地に達した作品が出てくるのだが、画集や映像ではなく、ナマで観た私の感想は<此の人はたぶん、時間と空間に対する感じ方がそれまでに現れた画家と決定的に違うのだな>という一言に尽きる。加えて、地中海の光に育った人間でなければ出せない原色に近い色目の組み合わせが、時空に対する特殊な感じ方を鮮烈に訴えかけてくるのだ。
 人物、風景、建物、動植物、人工物:対象が何であれ、どの物体もじっと止まっていない。常に動く時間を感じさせ、然も歪んだ空間の中に物体は置かれている。
 ≪常に動く時間≫と≪歪んだ空間≫の共存、・・・其の感覚は、正に我々が生きている此の世界そのものではないか!

 突然、私は原始仏教哲学に言う「無」「空」或は<色即是空>概念に近い世界観を、ダリは若くして看取したのではあるまいか?と閃いた。それは突飛な連想かもしれないが、
 何故ダリはダリの世界を描き続けられたのか、を解釈するうえで、私には此の直感しかない。

同行した旧友・K君が「これって、今風にいえばCG(Computer Graphic)の先取りみたいだね」と漏らした言葉も捨てがたい。CGでは何でも描けるが、ダリはカンバス上でやっていたのだ。ともかく、生々しく躍る時空の概念が、常人には見えないところで、ダリのインスピレーションとイマジネーションを常に刺激し続けたのだろう。「頭の中が、いつも沸騰してるみたいだね」と私は笑いながらK君と会場を出た。 
 写真で見るダリは痩せた男だが、あの体で多彩な制作活動を続けた。絵画に限らず、舞台装置、ポスター、挿絵、映画製作の補助、詩作、小説、宝飾デザインまで。 
  奇才と呼ばれるが、やはり稀有の才能の持ち主であったろうし、楽しい人生を送ったに違いない。                  < 了 >
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