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処遊楽

人生は泣き笑い。山あり谷あり海もある。愛して憎んで会って別れて我が人生。
力一杯生きよう。
衆生所遊楽。

北東アジア市民権構想

2019-01-17 13:56:36 | 

著  者 佐藤優 / 金惠京

出版社  第三文明社

定  価 1400円

初  版 2018年10月15日

221頁

    

                                      

近未来に北東アジアに平和を構築するためには何をなすべきか。そのステップとなる北東アジア市民権を如何に作り上げてゆくか。その語り合いは実に意欲に満ちて刺激的である。進行役の金が自らの思いや構想を語り、佐藤がそれに対してアンサー。同意あり展開有り反論ありと、読者にとって実に有益かつ示唆に富んだ知の構築が進んで行く。読み進むうちに自らの無知を反省すること再三である。

対談は月に一度のペースで5回行われたというが、折しもこの間に2回の南北首脳会談と史上初の米朝首脳会談が開かれたことは、この本の劇的な演出となりシンボリックなエポックとなったと言えなくもない。その時期にこの本を読めたことは、リアルに世界を掴みえたという点において得難い経験であった。

佐藤は幾つかの例証をあげながら言う。「ナショナリズムは国と国とを分断する。そのナショナリズムを超克する価値観が無くてはならない。この点で大きなヒントになるのはSGI(創価学会インターナショナル)である」と。

かつて菅沼正久長野大学名誉教授からこんな話を聞いたことがある。1970年、人民大会堂で周恩来と夕食を挟み7時間半にわたり意見交換をした。周恩来からの質問の一つに、創価学会は国境を越えられるかというのがあったという。その後今日に至るまで約半世紀にわたり同会は中国と友好交流を重ねている。韓国にも台湾にも百万余のメンバーがいるという。イギリスとアルゼンチンの間のフォークランド紛争(1982年)の終息は、両国の前線の兵士の停戦合意があり、その発端は両軍のSGIメンバーだったという稀有な話もある。

今や尻すぼみの感の六者協議だが、日本のイニシアチブで再開へ漕ぎつけるべきだ」と佐藤。

安倍総理が呼びかけて、金正恩、文在寅、トランプ、習近平、プーチンが来日、東京で初の六者協議の開催。このテーブルで朝鮮半島の核の平和問題と経済復興と人道問題を包括的に協議をしたらどうかと。素晴らしい提案である。

二人の根底には楽観主義がある。これがいい。粘り強い努力で必ず解決できるとする信念がある。見習っていきたい。


四人組がいた。

2019-01-13 23:10:29 | 

著者 高村 薫

出版 文春文庫

頁  299

 

 

 

      

この本は何だ。高村薫がホントに書いたのか。であればその意図は那辺にありや。

山深い限界集落の時間の有り余るジジババ4人を主人公に据えたまではいい。彼らに村の過去を語らせるのもいい。間遠に上がってくる町の人がいてもいい。しかし、彼らとの奇妙奇天烈なやり取りや語る内容には何の意味があるのか。

ひょっとして、作者は、「現代社会のありようを告発した」「言いたいことは言えた」と満足しているのではないか。それは独り相撲です。新境地の、新分野への意欲は空回りに終わりました。他の著作のようには私の心には突き刺さりませんでした。

熱烈なファンの一人は鼻白んでいます。何がブラック・ジョークだ。嗚呼。

 

 


任侠書房

2019-01-05 13:50:15 | 

著者 今野 敏

出版 中公文庫

331頁

改版3冊 2015.10.10

 

      

任侠シリーズの第1巻。想像通りの面白さだがそれ以上ではない。箱根駅伝を除けば、時間を持て余し気味の三が日を過ごすにはうってつけ。

警察ものの第一人者が、一転してのコミカルな任侠もの。シリーズはこのあと、「学園」「病院」・・と続いている。とくれば、「博物館」「役場」「新幹線」「農場」・・と任侠ものの視野が無限に広がってくる。ミスマッチであればあるほど読者は喜ぶ。着想の良さと言えるだろう。

裏社会の生態がさりげなく書かれている。 " やくざが四六時中黒のスーツなのは、切った張ったの義理の世界。親分・身内・叔父・兄弟の葬式にいつでも駆け付けられるように " とか " 一人の時に鏡に向かって笑い顔の練習をしている" とか。

思うに、浅田次郎の『きんぴか』や『プリズンホテル』に刺激されての新境地の作品というところか。作者自身が面白がって書いているのが伝わってくる。

 

 


創価学会

2018-12-05 10:10:43 | 

著  者 田原総一朗

出版社 毎日新聞出版

頁    413頁

定価   1,598円(税込み)

 

 

  

ベテラン・ジャーナリスト田原総一朗氏の手になる創価学会本。果たして如何なる内容か興味津々で頁を捲った。結果は予想外、ここに氏の「朝ナマ」イメージは無い。あるのは、3年をかけたという取材の情熱と巧みに構成・配置された正真のルポである。400頁をあっという間に読ませる力量はさすがである。

創価学会には毀誉褒貶が多い。好嫌の感情で両極にイメージが二分されてきた団体が創価学会という言い方もあろう。その磁場に田原氏は自身の目と耳と口と足と手で、真正面から挑んで描いて見せたのが田原創価学会、この本である。

サブ・タイトルを付けるなら "その歴史と運動"あるいは "私の見た創価学会"とでもなろうか。創価学会の現代史がよく判る。

反学会の人々は氏の“変節”に激怒し、学会の人々は“応援”と狂喜することだろう。これまで同時代をセンセーショナルに切り取ってきた氏のこと、喧騒は折り込み済みではなかろうか。

近年は佐藤優氏や森田実氏がフェード・インして創価学会側で論陣を張っている。かつては竹中労氏もいた。加えて田原総一朗氏となるのか。その動機はいかなるものか。心の動きが知りたい。

それにしても、宗教団体創価学会は、もっと研究されていい、政治以外でも。例えば、リーダー論、師弟論、社会運動論、組織力学等々、社会学的考察に恰好の対象とは言えないか。

   


過去を変えた男

2018-11-18 10:49:09 | 

著  者  篠原 勲

出版社  ごま書房新社

定  価  1404円

 

    

著者がこの本で取り上げた人物久米信廣の仕事は、読む限り、“生き方啓蒙家”と呼ぶに相応しい。とても利益を追う経営者とは思えない。生きていく上で最も大事なことは何なのか。目指すべきは何なのか。どうやればいいのか。著者は久米の波乱万丈の半生をたどりながら、この異色の経営者の形成過程を綴っている。普通の人がここまで変われるのか、こうして自分も変わっていけるのかと、読めば安心感と希望とやる気が出てくる。

どうやら久米は、常に思考しているようだ。といっても、哲学者のする思考ではない。立ちはだかる壁をどうするか、正面突破か迂回か二歩後退か、過去の成功と失敗を顧み、考える。そしてそれをメモる。詩あり散文あり決意文あり。いわば久米の時どきの心奥を、著者は恰好の箇所で読者に紹介する。その内容がいい。読者に自分もメモれば変われるかと思わせる。少なくとも私がそう。

著者は、長年にわたり経済専門誌の編集に携わり大学で教えコンサル業も展開するなど経歴が豊富で著作も多い。実業家や経済人との交わりも夥しい数にのぼろう。その百戦錬磨の目と勘が選んだ久米なる経営者。今は中小企業だがやがて大企業に、とはならないのが常人と違うところ。自らの会社を、人間関係業と呼んで憚らない不思議な御仁である。テンから目指すものはそこにはない。一方で昨今はKYS、スルガ銀行、スバル、神戸製鋼所など利益を追う企業の不祥事や不正・腐敗は枚挙に暇がない。松下や土光、稲盛などが堅持してきた高い商道徳は地に堕ちてしまっている。

久米が掲げる高い理想と精神性優先の考え方は、そんなやりきれない今日の経済世界を再構築する手がかりになる。今、日本社会は一日も早くそして強く、久米に感染すべきなのかもしれない。Change for the better である。

 

 

 


警官の掟

2018-10-20 18:03:06 | 

著者 佐々木譲

出版 新潮文庫

 

 

        ※ 画像はgoogle photoから。なので今の新刊ではありません。悪しからず。

 

警察物というと、警察組織に居られなくなった一匹狼の捜査員の権力との格闘や、巨悪に迫った捜査が、巨大な手によって絡めとられてしまう理不尽の告発とか、内通者一味との非情な暴力の応酬などが多いのではないか。

この作品は、それらと趣を異にしている。犯人を追う一線の刑事の生態が細かく描かれている。

警視庁捜査一課と所轄蒲田署の刑事。ともに二人組。どちらもベテランと新人の組み合わせだ。証言集め、アリバイの確認、時系列の調整、捜査報告と情報交換、地道な地どり。

捜査の進展とは、この足で稼ぐ労作業とその蓄積の上に閃く感を辿ることというのがよく分かる。

500頁以降の展開と予想外の犯人には意外だった。佐々木譲らしくないと言ったら失礼か。

 


人生経営論

2018-10-07 21:08:12 | 

著者 久米信廣 / 岡田晴彦

発売 ダイヤモンド社(10月4日発売)

定価 1620円

 

    

異能の実業家とビジネス誌編集長の対談集である。

というより、百戦錬磨の編集長の、まだあまり世に知られていない一中小企業経営者の哲学と生き様とその人物を世に送り出そうとの意欲がストレートに伝わってくる本である。そしてその意図は成功している。

凡百の経営哲学やビジネス指南書とは異なり、一言ひとことの言説が実に素直に入ってくる。世の常識を覆す持論の展開も、納得がいってしまう。それはきっと、失敗も含めて、著者が歩んできた過去に、自分の生き方に圧倒的な自信を持っているからだろう。

行間の語り口から滲み出る ”百人百色でいいんだ” ”自分は自分”という想念は、読む人の肩の力を抜いてくれるに違いない。

空白の20年このかた、何も良いことのない時代を生きて来ざるを得なかった残念を自覚する世代、非正規社員の膨らむ時代だからこそ、読まれるべき本、読むべき本であろう。

サブタイトル「あなたは、あなたの経営者」上手い表現、言い得ている。

頁のレイアウトもよく考えられている。上段に発言者名、下段に語句解説、これが短いながらも適切で正確。対談部分の活字は、明朝とゴシックの2種、より重要な箇所がポイント4倍の太字ゴシックで組まれており、読者へのサービスが行き届いている。

たり前だが、対談なので話し言葉。一気に読める。夜長の秋にお薦めの一冊である。

 こちらもどうぞ。

 

 

 

 


山藤章二・はじめての八十歳

2018-09-16 14:04:57 | 

出版社  岩波書店

定 価  1512円

頁 数  150頁

 

  

『週刊朝日』巻末の 世相風刺漫画 ”ブラック・アングル” で同誌のファンを増やしたのは、もう40年位前になろうか。

暫く健筆を見かけないと思っていたら、膝の手術で長期の入院。その時期に、いつの間にか「わからないことだらけ」になっていた身の回りや世間のものごとについて、好き勝手に書いたという。

あとがきで曰く。「この本、読者はどう思われるか知らないが、書いている私は面白かった、どうやってオチをつけるんだ、と毎日のように頭を痛めた。おかげ様でこうして社会復帰の真似事も出来た(出来てないか)」

著者は言う。「人生は砂時計。砂が落ちはじめたら、もう果てるまでも守るしかないー最近わりと気に入っている私の箴言だ」

去年、『終わった人』を、じじい世代の友達と回し読みをして大いに共鳴・共感・共有したものだった。この本も回そう!著者と出版社には悪いが、年金世代だもの。

 

 


不死身の特攻兵

2018-09-03 21:01:41 | 

著者 鴻上 尚史

出版 講談社現代新書

頁数 292頁

  

この夏、メディアで結構取り上げられていた。本人自身も出たり書いたり。

佐々木友次。9回出撃して9回生還した特攻兵の名である。覚えた。これが著者の意図である。

あの軍律厳しき日本軍隊にあって、一介の兵士にそんなことが出来るのか。本人の最晩年に会えて話が聞けた。その内容を残した。それがこの本の全て。

戦後生まれの我が少年時代、巷には傷痍軍人が辻々で物乞いをする日常。特攻隊や予科練は、最高にかっこいい英雄だった。あれから60年、日本人の太平洋戦争観が変わって来、軍首脳の無能振り、軍隊の惨状などのホントの姿を国民が知っている。

この夏、昭和天皇の自戒らしきツイートの存在が明らかになった。平成天皇が代替わりの時に昭和天皇の戦争責任に言及すべきだとの論も散見する。

著者は後半、「同調圧力」を取り上げる。日本は、一億火の玉となって戦争に突入した。学者もジャーナリズムも政治家も止めることが出来なかった。特攻の誕生も根は同じ。

先頃の日大アメフト問題も同型だろう。戦後72年、日本人の属性、言い換えれば民族の特性は聊かも変わっていないのだ。

朝日新聞(8/23付)のインタビューで著者は「結局、同調圧力を求める人たちは、右にも左にもいます。この状況を何とかしない限り、この国が本当に、健全に一人ひとりが思考することは難しいと分ってもらえる人がいいですね」と語っている。

 

 


堕落論

2018-08-15 08:42:56 | 

著者 坂口安吾

出版 集英社文庫

頁数 257

2009年8月6日第15冊

 

   

3、40年前、時々読んでは元気を貰っていた。久し振りの安吾。

敗戦により日本は天地がひっくり返り、価値観が180度変わってしまった。その混沌の世に、安吾は、『生きよ、堕ちよ』と鼓舞したのだった。彼の心は、人間への限りない愛情に貫かれている。その飾らぬ直截な叫びが、読む者の心に響く。そして希望になる。

「戦争に負けたから堕ちるのではないのだ。人間だから堕ちるのであり、生きているから堕ちるだけだ。だが人間は永遠に堕ちぬくことはできないだろう。なぜなら人間の心は苦難に対して鋼鉄のごとくではあり得ない。人間は可憐であり脆弱であり、それゆえ愚かものであるが、堕ちぬくためには弱すぎる」。ここを立松和平は「『堕落論』の中で最も美しい文章であると指摘している。

『続堕落論』『日本文化私感観』『恋愛論』は、作品として社会評論として一級の仕上がり。骨太、掘り下げ、喚起と申しぶん無い。

反面、小説(だろうと思うが)の類はいまいち。意図は想像できるが、上手く表現出来ていない嫌いがある。しかしそれを差し引いても安吾の評価は変わらない。『堕落論』読むべし。