はちみつと青い花 No.2

飛び去っていく毎日の記録。

『三島由紀夫の日蝕』②

2020年04月25日 | 三島由紀夫

2020/04/25

 

石原慎太郎著『三島由紀夫の日蝕』(1991年)の感想の続きです。


 

前回の記事はこちら

https://blog.goo.ne.jp/yoshieri/e/2137b6d1ed7b5a5a6c94fc8f52337f5d

 

前回、三島由紀夫が無理をしているように感じられた、という石原氏や深沢七郎氏の感想を書きました。

文章をところどころ抜き書きするのが一番わかりやすいと思います。抜き書きして引用させていただきます。

 

三島氏の没後15年に文芸春秋誌が行った氏への想起の文集で、比較文学者の小堀桂一郎氏の一文。

同人誌「批評」の懇親会で。
〈三島氏はいかにも絢爛とした存在で、氏が入ってくると一座の様子がにわかに華やかに活気づいた。(中略)
しかしその内ふと、彼の愛想のよいもてなしに或る種の息苦しさを感じているということに気づいた。 接待係りの責任感どころではない、氏は、何人といえども自分から退屈・倦怠の印象を抱いて離れていくことだけは我慢ができないのだ、とでもいう意識に取憑かれているのではないかとさえ思えた。だから私の感じた恐縮と或る種の息苦しさの中には、むしろ氏の気負いに対して覚える痛ましさともいうべき感じが混じっていたのだろうと思う。気の毒に、あれでは身体が持たないんではないかーとその会合の帰り途に私の胸にふと老婆じみた感想が浮かんだ。〉(原文は旧仮名遣い)

「そして小堀氏はふと三島氏の案外の短命を予感したという。」 P.14

「三島の無理、気負い、オブセッション(強迫観念)はなぜか。」について石原氏は書いています。

「おおざっぱにいえば、それは氏が自分こそはいかなる他人より秀でていると感じ、自覚し、そう信じるようになっての故に違いない。」p.15

「三島氏がああいう死に方をする少し前、どこかのゴルフコースで大岡昇平氏に、『この頃の三島さんはいったいどういうことですか』と尋ねたら、立ち止まった大岡氏がふとどこかを見つめるような目指しで、『あの人は日ごとに喜劇的になっていくなあ』 慨嘆したのを強い印象で覚えている。」 p.15

「三島氏は文壇仲間の会から段々孤立していった、というか自ら離れていった」のです。

「自己の絶対化を他人に要求する資格は僭王(せんおう)にしかなく、芸術家がそれを求めるとするなら孤立のうちにしかありはしまい。.それを普遍化しようとして国家とか文化を持ち出されれば、他人は、特に芸術仲間は約束が違うじゃないかというよりないだろう。」

「三島氏は今までいた世界で容れられずに結局、無垢といえば無垢、他愛ないといえば他愛ない、小綺麗なお仕着せの理念と制服に感動するたぐいの取り巻きを自分で集める以外になかったのだろう。」p.16

取り巻きとは「楯の会」のことですね。随分皮肉な言いまわしですが、三島を大作家として尊敬する若い学生たちしかついてこなかったのかもしれない。

 

映画に主演、拳闘、剣道、ボディビルで体を鍛え上げ、マスコミにも盛んに取り上げられていた華やかな作家・三島由紀夫は、実は『鏡子の家』の不評、『宴のあと』のプライバシー裁判で敗訴。

書斎派の作家だったらやりそうもないさまざまなことへ挑戦していったが、それが文壇の作家たちには不評で、なんとなく社会から疎外されている感じを抱いて、精神的に病んでいったのではないかしら。

「『楯の会』を主宰しだした頃から三島氏の上に混乱と衰弱の色が濃くなっていったと思う。しきりに何かに向かって焦り、いらいらしていた。今まで見ることのなかった、どこか弱々しい三島氏の印象だった。」P.106

 

若い頃の私には、三島について書かれたものを読んでもこのあたりのことはわからず、今回、この本を読んで初めて知りました。

後半に3つ掲載されている三島と石原氏の対談を読んでいくと、三島の受け答えの的外れな感じが見えてきます。

すごく頭のよかった人と思われているけれど、石原氏の言葉の意図を読みとることができないで、自分の偏った考えに固執して主張している。混乱しているとも思われるけれど、根本から何か間違えてしまったのだ、という感じを受けました。

私は都知事時代の石原さんはあまり好きではなかったが、対談を読む限りでは、石原氏の考えはよく理解できるし、まともだと思えるのです。

 

石原氏は三島の運動神経と『太陽と鉄』を酷評しています。

次回に書きます。

 

 

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