後藤和弘のブログ

写真付きで趣味の話や国際関係や日本の社会時評を毎日書いています。
中央が甲斐駒岳で山麓に私の小屋があります。

芥川賞の村田沙耶香「コンビニ人間」にまつわる想い

2019年05月02日 | 日記・エッセイ・コラム
日本には現在6万店ほどのコンビニがあります。
日本はコンビニ文化に覆われているのです。このコンビニ文化の特徴は「軽さ」と「快適さ」です。
しかし私はこのコンビニ文化の周囲に集まる人々の「そこはかとない生きづらさ」を感じていました。
そうしたら2016年上半期の芥川賞受賞作の村田沙耶香さんの「コンビニ人間」にこの生きづらさが美しい文章で描いてあったのです。
19年の間、コンビニアルバイトを続けていた主人公の恵子の内面描写を通じて不条理な社会の中の生きづらさを浮き彫りにしているのです。

今日は快適な現代社会にひそむ生きづらさについて書いてみたいと思います。
その前に全国にコンビニがどのように分布しているかを見てみましょう。

1番目の写真は全国にある約6万店の勢力分布図です。
2018年時点でもっとも店数が多いのはセブン-イレブンで2万437店です。次いでファミリーマートの1万5469店、ローソンの1万4289店となっています。
この分布図をみると、
セブンイレブン:南東北、関東、甲信越、山陽、九州
ファミリーマート:東海北陸
ローソン:関西、山陰、四国
と地域別に勢力がきれいに分かれていることがわかります。
北海道は特別でセイコーマートが優勢なのです。

2番目の写真はローソンの店の外観です

3番目の写真はコンビニの店内風景です。
さて村田沙耶香さんの「コンビニ人間」では主人公の恵子が作者自身をモデルにしているようです。
作者の村田さんは現在も生活リズムを整えるためにコンビニバイトを続けているという「異色」の作家なのです。
周囲の人とのコミュニケーションがうまくとれないのです。そのくせコンビニに来るお客とは明るく接客できます。お客とはマニュアル化した言語で喋るので快適に会話が成り立つのです。
文章を書けば分かり易く美しい文が書けるのです。
これは口頭で言葉を話す時の言語障害なのでしょう。
これは軽い発達障害です。この問題については2017年05月09日にこの欄に掲載した『見えない障害のために転職を繰り返す人とその周りの方に贈る書』という記事で脳発達の科学を明快に説明してあります。

私自身、最近はろれつが回らなくなり周囲の人とのコミュニケーションが取れにくくなっています。
そこはかとなく生きづらさも感じています。
しかしこの生きづらさは間単に克服できるのです。
今日の読売新聞の文化欄で記者が「コンビニ人間」に描かれている生きづらさはいつの世にもあると書いています。同感です。
そしてその生きづらさを詠った和歌として山上憶良の貧窮問答に言及しています。
山上憶良が詠ったのは世の中の貧しい人たちの溜息であり、子を思う気持であり、老残の身の苦しさでした。
以下に引用します。
 世間を憂しと恥(やさ)しと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば(893)

ー貧窮問答の歌一首、また短歌
風雑(まじ)り 雨降る夜(よ)の 雨雑り 雪降る夜は
  すべもなく 寒くしあれば 堅塩を 取りつづしろひ
  糟湯酒(かすゆさけ) うち啜(すす)ろひて 咳(しはぶ)かひ 鼻びしびしに
  しかとあらぬ 髭掻き撫でて 吾(あれ)をおきて 人はあらじと
  誇ろへど 寒くしあれば 麻衾(あさふすま) 引き被(かがふ)り
  布肩衣(ぬのかたきぬ) ありのことごと 着襲(そ)へども 寒き夜すらを
  我よりも 貧しき人の 父母は 飢ゑ寒からむの  妻子(めこ)どもは 乞ひて泣く  らむ 
  この時は いかにしつつか 汝が世は渡る

この山上憶良の生きづらさは圧倒的です。人間の本質的な生きづらさなのです。
それは「コンビニ人間」の主人公の恵子の内面のつらさのように軽いものではないのです。
ですからこそ私は冒頭で「そこはかとない生きづらさ」と書いたのです。
しかしよく考えてみると人の不幸には軽重が無いのです。どんな小さな不孝でもその人にとっては大きな悩みなのです。ですから山上憶良の生きづらさは村田沙耶香さんの生きづらさは同列なのでしょう。人間の悲しみに優劣は無いのです。
芥川賞の「コンビニ人間」にまつわる想いを書いてみました。

それはそれとして、
今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。後藤和弘(藤山杜人)