祥泉暦

日常の出来事の記録

夏物語  川上未映子著

2022-10-23 14:25:00 | 書籍
「世界が絶賛する最高傑作!米TIME誌ベスト10    米ニューヨークタイムズ必読100冊 40カ国以上で刊行決定!」のキャッチコピー。それに村上春樹氏の賞賛コメントが 表紙の帯にあって、夫が思わず手に取った一冊でした。

私は普段、裏表紙にあるあらすじを何故か読む習慣がありません。
今回も大長編ながら、何も知らず読み始めました。

ひと言では著しきれない、なかなか感慨深い長編でした。シリアスな内容なだけに、
暗いイメージになり易いところ、最後はハッピーに終わったので内心ほっとしています。

子どもに恵まれないご夫婦にとって、一つの手段として「精子提供」も肯定すべきものであるけれど、
生まれてくる子供にとってどうなのかは重大な問題です。


小説の中で、精子提供で生まれてきた善百合子が
子供側の意見として、大人、親のエゴであると主張する場面はとても辛く、思わず涙しました。
例えば、生まれつきの難病を背負って生まれてきた子が、苦痛だけを背負わされて死んでいく時も、親への慰めはあっても子供への慰めは薄い。子どもは生を受けて迷惑だったのだと。だから「自分の子どもに会いたい」という理由で産むべきではないと。

妊娠する事は「おめでた」とも言うので、本来は大変祝福すべきものなのに、
ひとりの子供を大人になるまで育て上げる事や無事に出産できるのかどうかの不安は相当なものです。

また、真っ白な赤ちゃんの心に親がどう関わるかで様々な色に染められる事になります。
その覚悟はあるのか?!

様々な問題や課題を含んだこの物語は「たいへん重い」
しかし少子化時代にそれを言ってしまえば、これからの人にますます不安を煽いでしまいます。

主人公の夏子が好きになった精子提供で生まれた逢沢の子供を出産するという選択をした事に心から拍手をしました。

責任は重大だけれども、子供を幸せにしてあげる事を貫けば、親も子供と一緒に成長するストーリーになるはずです。きっと。。

川上映未子の作品は以前「きみは赤ちゃん」を読み、今回は2作目です。娘と息子のところに第一子が誕生するタイミングに、
初めて孫に出会うための心構えみたいなつもりで読みました。
あれから8年以上経ち4人の孫達に出会う事ができとても幸福な気持ちでいます。
しかしながら、現実的に様々な社会問題がある事も知っています。

若い人たちにとって明るい社会、未来を願って止みません。