祥泉暦

日常の出来事の記録

決壊 上下 平野啓一郎著

2021-11-11 12:03:00 | 書籍
「マチネの終わりに」を娘に薦められて出会った平野啓一郎、
とても良い小説だったので、
「ある男」を読んで更にこの「決壊」を読むことになった。

率直に言ってかなりハードな内容で、途中で止まってしまおうかと思った。
平穏な家族に突然やってきた悲劇!
事件に巻き込まれた理由が、インターネット上でのブログで
匿名で人生の悩みなどの相談や励ましを綴った仮想日記。

読み進めていくうちに、被害者と加害者のことが出てきた時
私はすっかり忘れていた過去の辛い想いを思い出した。
実母がある日の夕方、交通事故に遭い即死状態で、
私が駆けつけるまでもなく息を引き取った。
本当に突然な出来事。
しかも事故状態を聞いたところ、本当に残忍な状態で
普通に引かれたとは思えない状態だった。
表現を変えるなら、道の端を歩いていた母を
暴走車に殺害されたと言っても過言ではない状況。
その後の警察の対応や
弁護士や保険会社とのやりとり、
被害者の家族としてやるせない経験でした。
そしてもっと辛かったのは、周りの人が慰めと思ってかけてくる言葉です。
「夕方外に出なければ良かったね」
「お母さん黒っぽい服を着ていたんだってね」
「事故ゼロを目指していた矢先のこと」

田舎の夕方県道での事故、目撃者はいなかったということで
何も解決しないまま、事故処理は終わりました。
残された被害者家族の心情に寄り添ってもらえなかったあの辛い経験。

私は決して加害者を「赦し」てはいないけど、
「赦し」ている事となった事実。


どんな時代になっても、残忍な事件は後を絶たず
ニュースを見るたびに胸が痛い。

この小説の中の被害者家族は精神的に病んでしまって更に辛い。
特に兄の崇にはどうにか生きていてほしかった。


読後こんなに辛い気持ちになったのは初めてかもしれない。
そういう意味では良い作品だったのか?!