祥泉暦

日常の出来事の記録

ある男 平野啓一郎著

2021-04-12 21:17:00 | 書籍

これまで「過去は変えられないけれど、未来は自分の努力でどうにでもなる」と言われて来た。ものごとをポジティブにとらえるべき指針として。

しかし変えられない過去に影響されて、なかなか思い通りに行かないのなら、過去にとらわれない環境の中で生きようとするのは自然の行為ではないだろうか。


作者の作品を読んだのは今回で3作目で「私とは何か」は当然ながら最初に読んだ「マチネの終わりに」にも、「過去を変えたら未来が変わる」観が随所にある。


実際私も、幼い頃からの性格と向き合う成長過程において、自分を変えたいと痛切に思った。


先天性の心疾患のために当時としては大手術をしたので、その後何十年も「あなたがあの大手術をした人なのね?!」と言われる事がよくあって、私の事を誰も知らないところで生きたいと思った。

幸い私は健康となり、普通に社会人となり2人の母親にもなれたので、この本に出会うまではすっかり忘れていた過去の思い出である。


この本の主人公となる女性は、本当に気の毒な過去を背負いながらも出会った最愛の人が戸籍を変えていて、その人を亡くしてからそれが発覚する。「愛したはずの夫はまったくの別人だった」幸せになるべき主人公のなんともやるせない事実。


小説は、その女性の弁護士がもう1人の主人公であるが、随所で内なる自分との葛藤の場面では、前回読んだ「私とは何か」と重なる。


最後の数ページは、涙で文字が見えなくて困りました。

心美しい息子との会話に号泣しました。

しばらくこの作者の作品に浸ります。