祥泉暦

日常の出来事の記録

美しき愚かものたちのタブロー 原田マハ著

2019-06-26 14:19:14 | 書籍
国立西洋美術館は、ル・コルビジエの建築物で有名で数年前世界文化遺産に登録されている。
企画展もさることながら、常設展が見応えがあり、昨年常設展だけを観に行きまた。

今年は開館60周年ということで
今月11日から松方コレクションが開催中です。
松方幸次郎は、日本の青年教育のために
西洋画を豊富に所蔵する美術館を作りたいという思いで、私財を投じて膨大な美術品を集め、時代に翻弄されて実現を見ないで他界しました。
ほとんどの美術品はフランスに残したまま。

しかし時間を超えて、沢山の人の努力により60年前、松方コレクションが「寄贈返還」され、西洋美術館が開館しました。
この誕生に隠された様々なドキュメントを
西洋美術品にかなり詳しい 原田マハ さんが書いてくれました。
著者の作品は、特に美術を題材にした作品は、どこまでがフィクションでどこからがノンフィクションなのかが謎めいていて、それが読者を惹きつけるポイントです。
美術館のキュレーターとして活躍した経歴があるので、ほぼ史実とみても大きな違いはないのではないかと私は思っています。

それにしても松方幸治郎という人は、
かなりの偉人である。
事業に大成功して、美術品を集められた人はたくさんいると思うが、松方は、これからの日本人が世界に出て世界の人と対等になるには、文化的センスが不可欠である。そのために美術館を作りたい、そのために
美術品を買い集める事になります。
もともとビジネスの才が秀でていて、
本人は「さっぱりわからない」と豪語して、信頼できる美術商や美術史家の薦めるものを買い漁っていた場面がある。
しかし本文中私が最も感動したのは、
日本を代表する美術史家で、松方と美術品を一緒に捜す機会があった田代雄一が「松方さんは心で絵を見ている!」と驚き、
美術史から見たこの絵の価値や絵画手法による評価の観点から絵を鑑賞していた自分を反省する。
実際、松方はクロードモネの自宅に伺い、初めて見たモネの絵に感動して「私はこの絵が好きだ」と言ったそうで、そんなことを言ったのは松方一人だけだったと。

舞台はほとんどパリなので、情景描写をリアルに想像できる。
コンコルド広場を通ってオランジェリー美術館で見たモネの巨大絵画、
凱旋門の上から眺めたシャンゼリゼ通り、
夜空に見えるエッフェル塔、
田代が宿にしていた場所はマドレーヌ寺院の近くって、私が最初にパリに行った時のホテルの近くだわ、、などなど。
憧れのパリに行った時のワクワク感がよみがえりました。

最後に登場する 日置釭三郎の功績は壮絶です。
松方への忠誠心は、日本人ならではながら、この忠誠心なくては松方コレクションは消えていたかもしれません。

そして松方が最初に出会った「一枚のタブロー」
田代が松方に頼んで買わせた「一枚のタブロー」
日置の妻に元気を与えた「一枚のタブロー」
全ては人の心に大きな衝撃と言うほどの感動を与え、
それが奇跡的に日本に寄贈返還され、
今私達がいつでも観ることができるという事実。

すばらしい!