子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「her 世界でひとつの彼女」:華麗なる女優陣と最高の音楽が紡ぎ出す究極の草食系恋愛

2014年07月26日 23時35分39秒 | 映画(新作レヴュー)
毎朝,毎晩,スカーレット・ヨハンソンのあのちょっと鼻にかかった艶めかしい声が耳元で「あなたのものよ」と囁き続けたら,誰だって普通ではなくなるだろう。
あの声の艶っぽさだけでも,充分に「PG12」に値するかもしれない。

人間の生と感情の本質とは何かを,人工知能との恋愛という一見特異なシチュエーションで語ったスパイク・ジョーンズ監督作品。所々で,かつて盟友チャーリー・カウフマンが監督し,ジョーンズが制作に廻った「脳内ニューヨーク」の焼き直し,という印象も受けるが,感情的な揺れのリアルな描写という点ではSF仕立てのこちらの方に軍配が上がる。

作品の大半を,主人公セオドア(ホアキン・フェニックス)と劇中ではOS(=AIと同義か)と語られるサマンサ(ヨハンソン)の会話が占めるのだが,画面に映し出されるのはセオドアの姿がほとんどで,時折サマンサが操るモバイルの画面が出てくるだけ。それでも2時間余の尺をダレずに保たせるのは,ヨハンソンのダイアローグの素晴らしさと要所で挟み込まれる女優陣(ルーニー・マーラ,オリヴィア・ワイルド,エイミー・アダムスと並べたキャスティングも完璧)との絡みのおかげだろう。
アカデミー賞のオリジナル脚本賞に輝いているが,アカデミー会員たちが女優の特質を活かした作劇の巧さに票を入れた,ということであれば納得できる戴冠だ。

更にアーケイド・ファイアとオーウェン・パレットが紡ぎ出す電子音を主体とした音楽が,人工的な環境の上で浮遊しているかのような人間の孤独を,見事に描出している。蛍光色に彩られた世界の至る所に開いているであろう落とし穴に怯えながら生きることを宿命付けられた人々も,こんな柔らかな音色が抱き留めてくれるのであれば,それも悪くないと思ってしまうかもしれない。

物語としては,最後は結局「相互理解」よりも「嫉妬心」が重要で,戻るべき場所は元カノ=良き友達なのか,というかなり脱力系のオチである点に正直落胆したのだが,プロダクションのレヴェルは逆にそんな脚本の疵を隠す高さに達している。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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