
一般的には大谷翔平の二刀流がメジャーリーグを驚かせた年という印象の強い2021年だが,映画の世界では濱口竜介が昨年のベネチアと合わせて世界三大映画祭を制覇した年として記憶されるに違いない。膨大な量の棒読み会話と演劇的な場面構成の映画的再構築によって世界を魅了した若き才人の成功は,日本の映画人に大きな刺激を与えたはずだ。
演劇との関連という点で言うと,10本に選んだ作品のうち3と4と6は演劇の映画化だった。更に4,7,9と3本が並んだドキュメンタリー作品の充実も特筆すべき成果だった。
一方,まるでピエール・ルメートルの傑作スリラー「その女アレックス」を想起させるような展開が光った5は,物語の力を再認識させる脚本によって優れたドキュメンタリーに拮抗する力を獲得していた。こうした肌合いの異なる作品がぎしぎしと並んだリストを眺めると,充実した1年だったという感慨を抱くが,中でも最も大きな驚きは代表作として8を選んだケリー・ライカートの作品群との出会いだった。終わりの見えない馬車の行進が,ディゾルブによって突如宙に浮かぶシーンが現出した時の新鮮な感覚は忘れがたい。何気ない日常の観察と物語の幸福な出逢いという点で,どれも旧作ながら2021年を記憶するに相応しい作品ばかりだった。以下,ベスト10本は鑑賞順。
1 天国にちがいない エリア・スレイマン
2 ノマドランド クロエ・ジャオ
3 ファーザー フロリアン・ゼレール
4 アメリカン・ユートピア スパイク・リー
5 プロミシング・ヤング・ウーマン エメラルド・フェネル
6 イン・ザ・ハイツ ジョン・M・チュウ
7 サマー・オブ・ソウル クエストラヴ
8 ミークス・カットオフ ケリー・ライカート
9 ボストン市庁舎 フレデリック・ワイズマン
10 ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男 トッド・ヘインズ
劇場公開作品に限って選んだが,配信作ではジェーン・カンピオンの復帰作「パワー・オブ・ドッグ」が湛える不穏な空気が,圧倒的な磁力を放っていた。ジョニー・グリーンウッドが紡ぐ音楽とロング・ショットの画力は,液晶画面を通じてでも観客を完全に金縛りにした。またアダム・マッケイによるコメディ「ドント・ルック・アップ」は,使い古された彗星衝突もののフレームを借りて,アメリカ政府の気候変動対策を真っ正面から批判する作品となっており,超豪華な出演陣のパワーを充分に活かした充実作だった。
濱口竜介の2作品に引っ張られた邦画も優れた作品が多かった。途切れなく制作を続ける石井裕也の意欲作「茜色に焼かれる」,津軽三味線が炸裂した「いとみち」,新鮮な発想が物語の豊かさに繋がっていた「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」,勝新好きの女子高校生という設定がラストで決まった「サマーフィルムにのって」など,閉塞した時代の空気を打ち破るパワーを内包した作品に数多く出会えた。
今年もお付き合いいただいた皆さんに心からの感謝を。
演劇との関連という点で言うと,10本に選んだ作品のうち3と4と6は演劇の映画化だった。更に4,7,9と3本が並んだドキュメンタリー作品の充実も特筆すべき成果だった。
一方,まるでピエール・ルメートルの傑作スリラー「その女アレックス」を想起させるような展開が光った5は,物語の力を再認識させる脚本によって優れたドキュメンタリーに拮抗する力を獲得していた。こうした肌合いの異なる作品がぎしぎしと並んだリストを眺めると,充実した1年だったという感慨を抱くが,中でも最も大きな驚きは代表作として8を選んだケリー・ライカートの作品群との出会いだった。終わりの見えない馬車の行進が,ディゾルブによって突如宙に浮かぶシーンが現出した時の新鮮な感覚は忘れがたい。何気ない日常の観察と物語の幸福な出逢いという点で,どれも旧作ながら2021年を記憶するに相応しい作品ばかりだった。以下,ベスト10本は鑑賞順。
1 天国にちがいない エリア・スレイマン
2 ノマドランド クロエ・ジャオ
3 ファーザー フロリアン・ゼレール
4 アメリカン・ユートピア スパイク・リー
5 プロミシング・ヤング・ウーマン エメラルド・フェネル
6 イン・ザ・ハイツ ジョン・M・チュウ
7 サマー・オブ・ソウル クエストラヴ
8 ミークス・カットオフ ケリー・ライカート
9 ボストン市庁舎 フレデリック・ワイズマン
10 ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男 トッド・ヘインズ
劇場公開作品に限って選んだが,配信作ではジェーン・カンピオンの復帰作「パワー・オブ・ドッグ」が湛える不穏な空気が,圧倒的な磁力を放っていた。ジョニー・グリーンウッドが紡ぐ音楽とロング・ショットの画力は,液晶画面を通じてでも観客を完全に金縛りにした。またアダム・マッケイによるコメディ「ドント・ルック・アップ」は,使い古された彗星衝突もののフレームを借りて,アメリカ政府の気候変動対策を真っ正面から批判する作品となっており,超豪華な出演陣のパワーを充分に活かした充実作だった。
濱口竜介の2作品に引っ張られた邦画も優れた作品が多かった。途切れなく制作を続ける石井裕也の意欲作「茜色に焼かれる」,津軽三味線が炸裂した「いとみち」,新鮮な発想が物語の豊かさに繋がっていた「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」,勝新好きの女子高校生という設定がラストで決まった「サマーフィルムにのって」など,閉塞した時代の空気を打ち破るパワーを内包した作品に数多く出会えた。
今年もお付き合いいただいた皆さんに心からの感謝を。