子供はかまってくれない

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映画「マップ・トゥ・ザ・スターズ」:超能力者も亡霊も凌ぐ人間の業

2015年01月25日 20時22分48秒 | 映画(新作レヴュー)
デヴィッド・クローネンバーグのファンを自認していた私だが,前2作「危険なメソッド」と「コズモポリス」における睡魔との戦いは,本当に厳しいものだった。どちらも物語が何処に向かって進んでいるのかを示す手がかりは極めて限られており,聡明な観客だけ付いて来てくれれば良い,と言わんばかりの展開が,ひたすら観念的な台詞によって彩られた高尚な芸術品。結果,私のような「映画はあくまで大衆娯楽」と考える観客にとっては,まるで「これは『カイエ・デュ・シネマ』愛読者限定作品です」と宣言されたかの如く,敷居の高い作品になってしまっていたのだ。

初期のクローネンバーグ作品は違った。念力によって相手の頭を吹き飛ばす超能力者に予知能力者,ハエ男から双子の産婦人科医まで,異型の人間たちの苦悩をスクリーンに塗り込めるかのような筆圧で語られた物語にはどれも,他に類を見ない禍禍しくも魅力的な空間があった。
もうあんな経験は出来ないのかと諦めかけていたのだが,ハリウッドの内幕を取り上げた新作「マップ・トゥ・ザ・スターズ」には,初期の作品群に登場した内臓感覚たっぷりの異型の人々とは異なるものの,まるで映画館の暗闇から生まれ出たかのような胡散臭い登場人物がわんさか出てきて,観客を釘付けにする。

とにかく善良な人間はひとりも出て来ない。若くして人気を博したことで性格を歪めた青春スターと決して人に明かすことの出来ない秘密を抱えたその両親。母の記憶に苦しめられつつも,ライバル女優の子供の死さえも踏み台にして生き残ろうとする落ち目の女優(ジュリアン・ムーア)。脚本家を目指しながら女優の誘惑に陥落することでチャンスを掴もうとする若者。熟れすぎて腐臭を放つハリウッドのドロドロした人間関係が,青春スターの姉(ミア・ワシコウスカ)の登場によって,底なし沼の中心に向かって一気に渦巻いていく物語は,初期作品に存在したマグマに匹敵する熱量を湛えている。

物語の鍵を握る3人の亡霊も恐ろしいのだが,頭で分かっていても運命に逆らえない人間の業こそが何より恐ろしい。その象徴たる,ライバルの脱落を知ってスキップを踏むシーンのムーアの鼻歌が,耳について離れない。実名で登場するキャリー・フィッシャーの今の姿と共に,夢に出てきたりしませんように。
★★★★
(★★★★★が最高)


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