子供はかまってくれない

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映画「ゴジラVS.コング」:「カイジュー」の存在が当たり前の世界におけるレスリング

2021年07月23日 11時15分41秒 | 映画(新作レヴュー)
東宝製のオリジナル「ゴジラ」と同一のモンスターとは思えない頭部の小さなハリウッド製の「ゴッズイラー」が「移籍」してきた「モンスター・ヴァース」シリーズは,これまでメガヒットとまでは行かないまでも,シリーズを継続させ得る程度の興収は着実に挙げてきたようだ。しかしCOVID-19禍において大作の劇場公開が見送られる間隙を縫ってリリースされた本作「ゴジラVS.コング」は,派手な絵を劇場で観たいという潜在的な観客のニーズを巧みに掬い取ったのか,全世界の興収が「テネット」を超える4億ドルという大ヒットとなった。そんな勲章を引っ提げての「凱旋上陸」となった日本でも,公開週の週末興収は上位10作の半分を占めるアニメーション作品を押しのけて,堂々の第1位に輝いた。ヒットに伴って「オリジナル・キャラクター」の著作権を所有する東宝にどのくらいの配分があるのかは分からないが,芹沢博士も草葉の陰で喜んでいることだろう。

ゴジラとコングは生まれながらの敵同士。お互いの存在を察知するや否や,嬉々として駆け付けては殴り合う。言ってみればそれだけの物語。
コングの故郷が実は南洋に浮かぶ文明から隔絶された島ではなく,地球のコアに存在する反重力の領域だった,という設定が,SF的な深掘りをされる訳では勿論なく,ましてや格闘場のひとつに香港が選ばれ,ニューヨークもかくやという高層ビル群がめったやたらに破壊される描写に,現在の中国政府の姿勢に対するアメリカの意志を込めた,という風情もない。
最後にはメカゴジラという,これまた東宝ゴジラシリーズが生み出したキャラクターをアップデートした共通の敵を,ゴジラとコングが手を組んでやっつけるというお決まりの展開が最新の映像技術によって延々と繰り広げられるのを,ポップコーン片手に楽しむ,というのが正しい鑑賞方法のようだ。

だが1954年版のオリジナル「ゴジラ」が,21世紀バージョンとして見事にアップデートされた「シン・ゴジラ」に快哉を叫んだ私のような観客は,存在が当たり前となった「カイジュー」ではなく,その出自も特徴も分からない「怪獣」がどんな行動に出るのか,それに対して右往左往する人間の姿を観るために劇場の椅子に座るのだ。その存在に対して多様な意見が存在する自衛隊であっても,得体の知れない「怪獣」に対してだけは誰もが卓越した防衛力を発揮して欲しいと願い,伊福部昭が生み出した旋律に心躍らされるために。
そうした要素が全て排除され,グラウンドレベルではなくカイジュー目線で,ひたすらカイジュー同士のバトルを見守る時間は,退屈以外の何物でもなかった。
刺身のつまのような扱いをされた小栗旬が,もう一度チャレンジしたいと言っているインタビューだけが,唯一の救い。
★★
(★★★★★が最高)


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