子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE」:トムが飛び出す先は,果たして何処なのか

2023年07月29日 20時35分29秒 | 映画(新作レヴュー)
予告編やTVスポットで何度も流されたトム・クルーズが断崖絶壁からバイクと共に空中に飛び出すシーンは,本編では長い助走からのジャンプがワンカットで捉えられており,文字通り命がけのアクションで観客を釘付けにする。何度か行われたリハーサルも含めて本人が演じたということだったが,大画面に映し出された身体を張った飛翔は,トム・クルーズがまるでその一部と化しているように見える映画という「見世物」に対する覚悟が,鮮やかに刻まれていたと言える。本シリーズの熱心なファンとは言えない私は,本作が何作目になるのか分からないが,作品のために命を落とすことがあったとしてもそれも運命,と思い定めているようにしか見えない過酷なトライが,その危険度を増していく様子に感服する一方で,クリストファー・マッカリー監督の手になる本作が本来の意味での「娯楽作」としての本道を歩んでいるのかという点に関しては大いなる疑問が残る「超大作」だ。

矢継ぎ早に訪れる数多の危機を捨て身のアクションによって乗り越えていく主人公イーサン・ハントの姿は,ハリウッド最後の大スターと呼んでも過言ではない存在となったトム・クルーズが,配信事業,スマートフォンアプリ,COVID-19といった映画業界を襲う幾つもの危機に立ち向かっていく様子と明らかに重なる。「トップガン マーヴェリック」でその役廻りを完璧にこなしてみせたクルーズが,その勢いのまま本作に突入した空気の残滓は至る所に感じられる。

けれどもブライアン・デ・パルマによる第1作にまで遡及していくシナリオは,長大シリーズとなった「M:I」サーガの陳腐化を避けるべく周到に伏線を張り巡らせて,続編への期待を膨らませる作りになってはいるものの,肝心のメイン・プロットが複数のアクションをつなぐ接着剤の役割すら果たし得ていないのはどういう訳か。ハントのパートナー(ヘイリー・アトウェル)が掏摸の名人という設定故に,登場人物が血眼になって追い求める,人類を滅亡へ追いやる危険性を持つシステムの文字通りキーとなる「鍵」が,持ち主が変わったことを示唆するショットが挟まれないままに,次から次へと移動していく杜撰さ。
更にこのシリーズの特徴とも言えるマスクによる「変装」が乱発されることによって,そもそもハントたちがかわすべき追っ手さえ覚束なくなる展開の混乱。黒澤組で展開されたという,脚本家チームのアイデア攻防合戦からは何光年も後退してしまったとしか言えない。

何よりもネットを使った国際的な大規模犯罪が日常茶飯事となったこの時代にあって,上述した「鍵」という前時代的なマクガフィン(事件が起こるきっかけ,目的となる対象物)を据えたセンス自体が,大いなる疑問だ。サイモン・ペッグの無駄遣い,レベッカ・ファーガソンに比べてしまうと華のなさが顕著なアトウェルの起用等,作品の深みを担うべきパートの劣化も悲しいばかり。劇中で展開される列車の墜落は免れたものの,作品の質は真っ逆さまに深い谷に転落してしまったようだ。続編が二部作を救うことは多分,インポッシブル。
★★
(★★★★★が最高)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。